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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十八章 ステーション

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千二百二十七話 ステーション2

 ヨシュアを出発しておよそ20分。


 変わることのない景色・乗り心地・メンツ・時間を、物珍しさという最強の心情によって楽しめていた乗客達も徐々に飽き始めた。


 しかしそれこそが俺達の狙い。


 生まれてからずっと平和な生活を送ってきた者に戦争の辛さが理解出来ないように、賞味期限切れで廃棄している食糧が無人島や貧困に喘ぐ異世界なら金塊より価値があるように、実際に体験してもらうことで付加価値がつく。


「本当だ! 流れてる広告が車両ごとに違う!」


「何故だ……何故こんなにも楽しく思えてしまう……俺は字を読むのが苦手だったはずなのに……」


 手始めに、座席前方に入っている企業パンフレットの閲覧および広告スクロールを解禁すると、案の定、乗客達は干ばつで苦しんでいたところに恵みの雨が降ってきたかのように歓喜。


 それ等の熟読はもちろんのこと、書かれている内容について話し合ったり、おそらく車内を歩き回っている子供かトイレか何かで別車両に行った者が気付いたのだろうが車両ごとで広告会社やバージョンが違うことを知り、慌ただしく暇潰しを始めた。


 子供は言うまでもなく大人だって暇は嫌いだ。


 ルールはこちらが勝手に定めたもので、ケータイをはじめとした魔道具が使えると伝えた上で説明もなく使用禁止にしていたのだが、乗客達は不満を表に出すこともなく苦痛を受け入れてくれた。有難いことだ。


 100人も居れば誰かしらは禁止事項を破るのではないかと思っていたが。


 ……誰だ、今「事前説明会で『まぁ守れない人がいたら窓から放り出しますけどね。見て見ぬフリをした人も同罪です。ははっ』って脅したせいだろ」って言ったヤツ。


 あんなのただのジョークだろ。本当にやるわけないだろ。やったとしてもフィーネが居るから大丈夫だよ。数日洞窟の中を歩く羽目になるだけだよ。


「これ! これなににつかうの!?」


「さぁ、何かしらねぇ。ママにもわからないわ。でも大事にしておいた方が良いと思うわよ」


「わかった!」


 パンフレットの1つに、意味ありげ……というか今後のイベントで使う謎のカードが混じっていることに気付いて、さらにボルテージを上げる。


 特に子供。大事にするあまり破りそうな勢いだ。もし無くしたら号泣するかもしれない。まぁまた配れば良いけどさ。


 もしこの反応が作られたものだったら俺は人間不信になる。




「『ステーション』はリニアや地下鉄の停車駅のことだけではありません。そこに関わるすべての施設や空間を指す言葉です」


 文句が出ない程度に娯楽を提供してその重要性を知らしめ、時間稼ぎにも成功した俺は、再び飽きられる前に記者達に語りかけた。


 切れるカードはまだまだ残っているのでその点においては焦る必要はないが、物事には順序というものがある。今説明すべきことは今やらなければ。


 明日やろうはバカ野郎。次に持ち越そうは無計画野郎だ。


「事前説明会でも疑問の声があがっていましたね。何故町ではなく外界の地下なのかと。権力者にとって不都合なことがあるからではないかと。

 理由は簡単です。世界が人間のものではないからです。町の地下にはドワーフだったり魔獣だったり様々な生物が暮らしています。中には権力者のための施設もあるでしょうが、ほとんどは表に出せないものを実験したり大切なものを守るための施設です。地下駅はそれ等を潰してまで作りたくはなかったんです。

 もちろんそれは町の外だって同じです。ただこの乗り心地の良さ、料金、速度、安全性を知った皆さんならわかるでしょう? もしこれを町の中に作ったら人々が地上を離れて地下で生活してしまうことが。

 そうなったら今あるものはどうなるんですか? 商店街は? ギルドは? 家は? どれだけ便利にしても『地下の方が良い』と見向きもしなくなりますよ。領主達も町の声を無視するわけにもいかず力を入れざるを得ない。線路はそのうち蜘蛛の巣みたいになって、どこへでも行けるようになるでしょうね」


「だから駅は町の外、しかも駅同士を繋げないようにしたと?」


「はい」


 記者の言葉を肯定すべく俺は大きく頷く。


 近隣の町までの移動を便利にする地下鉄は、町の規模にもよるが基本的に2ヶ所停車駅を作る予定で、ヨシュアなら北部と南部に建設している。


 ちなみに北部が町の外。リニアは全部外。洞窟が上手いことそうなっていた。というかしてもらっていた。


 そしてそれ等は、先程述べた理由から、地上を経由しなければ移動出来なくしている。


 俺達の勝手な都合で、町の人々の生活を変えたり、馬車や竜車の活躍の場を奪ってはならないのだ。ワイバーン便や飛行船の楽しさもな。


 説明会では「商店街のように繋げた方が便利では?」という不満の声も出たが、リニアの快適さや便利さを経験した今ならばわかってもらえるはず。


 地盤強度やら龍脈問題やらの建前もある。


「なので地下鉄の売りから『楽しさ』や『便利さ』はなくしました。今後も譲るつもりはありません。便も多くて1時間に1本だと思います。リニアや地下鉄はあくまでも長距離の移動手段。暮らしを一変させる画期的な移動方法ではないので」


「なるほど……」


「その代わりと言ってはなんですが、リニアが発着する駅は発展させるつもりです。危険な外界にしたのも一から作れるのが理由ですし。まぁ出入口が作りやすかっただけなんですけどね」


「ようやくステーションの話ですか」


 誤解されやすいタイプの記者が、いつも通り(?)俺の和やかなムードづくりを台無しにし、それどころか「遅いんだよ!」と怒られていると誤解してしまいそうな言葉遣いで興味を示した。


 内容はともかく、その前のめりの姿勢はもっと前からでも出来たんじゃないか? 本当に誤解か? ただの本性じゃないのか?



「駅前には町おこしの一環として利用するための田んぼを配置します」


「田んぼで町おこし?」


「田んぼをキャンバスに見立て、色の異なる稲を使って巨大な絵や文字を作り出すんです。通称『田んぼアート』。

 近隣の地下洞窟を調べたところ、これまで何故利用していなかったんだと思ってしまうほど農業に最適な土地であることが判明しまして、農作とお客さんの目を楽しませる一挙両得の策です。田植えや稲刈りで農業体験も出来るので一石三鳥。収穫時期以外でも焼いたり、凍らせたり、土柱を立てたり、色々な方法で広大な土地で遊ぶことが出来ます。

 水が豊かな場所ならダムですね。下を浄水施設、上を下水施設にして、水が施設間を移動する際にタービンを回し、そこで発生したエネルギーを併設してある発電所……じゃなくて魔力変換所で地下鉄を動かすエネルギーに変換。余ったエネルギーはステーションのために使います」


 リニアと違って地下鉄は自給自足が出来ない。どこかからエネルギーを補充する必要がある。


 募金ならぬ募魔力で乗客や町の住民からいただくか、料金を上げて専属の魔術師を雇うか、はたまたリニアに近い仕組みを作るか悩みに悩んだ末、導き出された結論は『全部の良いとこ取り』だった。


 いただくのは魔力ではなく土地。


 エネルギー源は人間ではなく自然。


 使う仕組みはなく自給自足ではなくレールの1本化、そしてエネルギーの流し方。


 これで動力と水の問題は解決だ。


 さらにダムの形状にすることで見た目も純利も美味しい『ダムカレー』を売り出す。米の量が同じでも批判は出ない。水を販売しても良い。


 ……え? 似たようなことをもうやってる? それはアルディアじゃないでしょ。俺が言ってるのはこっちの世界の話だから。


「滝やダム目当ての観光客も訪れることでしょう。リニアという移動手段&運搬手段&観光施設があるんですから、そりゃあもう沢山。

 今もそうですけど人間は地下で過ごせば過ごすほど大自然や人工物が恋しくなるものです。そんな状態ですぐ傍にあると言われたら、目的地でなくても立ち寄りたくなるはずです。

 現地の人達もこれまで見向きもされなかった自然が注目されて、役に立てて嬉しいはず。農林業をはじめとした職場の近くに老人ホームや児童福祉施設を建てれば彼等の運動・コミュニケーションにも活躍することでしょう。

 もちろんダメと言われた別の土地を探します」


「す、隙がない……」


 だから何故引く。素直に褒めろ。喜べ。お前はライバル企業の人間か何かか?

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