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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十七章 プロジェクトZ~研究者達~Ⅳ

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千二百二十一話 リニアお披露目1

 会場には300人以上の人間が集まっていた。


 獣人、ドワーフ、ハーフエルフ、魔族(と魔獣)など、多種多様な生物が老若男女、貴族も平民も関係なく簡素なパイプ椅子に座り、席がない者は立っている。


『以上でリニアモーターカーの説明を終わります』


『それではチケットをお持ちの方、係員に提示した後、乗車してください』


 ガタタッ――。


 俺の話を退屈そうに聞いていた一同は、フィーネの凛とした声で息を吹き返し、待ってましたとばかりの表情でぞろぞろと立ち上がる。


 言い訳しておくと、みんな最初はちゃんと聞いてくれていた。他の乗り物や生物との速度比較の図なんかメチャ盛り上がった。ただ報道機関向けに仕組みなんかを話し始めた辺りで8割が脱落。残った者達も次々に理解を諦めていき、最終的にこのような惨状になってしまっただけだ。


 正直、取材陣も俺の喋ったことをそのまま記事にして、正しいかどうかの確認は知り合いの研究者に丸投げするだろう。何なら確認せずに誤字脱字、説明不足、間違った解釈のまま世に出す可能性すらある。


 まぁそれはそれで今後の付き合い方を見極める良い機会にはなるのだが、兎にも角にも幸運にも初回体験乗車に選ばれた100人は、見送りに来た家族や友人に別れを告げて同じ方向に歩き出した。


 その先には超電導磁気浮上式鉄道。別名『リニアモーターカー』。


 全長303m、車体幅2.9m、車体高3.2mの黒と銀を基調としたマグナタイト合金製の車体はどっしりと大地に張り付き、浮上の時を今か今かと待っている。




「本当に大丈夫なんでしょうね?」


 取り合えず駅の中心に出来そうな広さを確保しただけの、ステーションの『ス』の字もない土塗れの洞窟の片隅でリニアモーターカーに乗り込む人々を見守っていると、自然界に相応しくない、ドレスと呼んでも差し支えのない恰好をした女性が小声で話し掛けてきた。


 セイルーン王国第2王女、マリー=オラトリオ=セイルーン様だ。


 王家を代表して国家プロジェクトの完成の祝いに駆け付けた……わけではなく、バカ貴族とバカ国家が「才気溢れる王女を巻き込んだこの計画はどの程度形になってるんです? 埋め立てや建築など外側ばかり進んでいますけど、肝心の移動手段の進展具合はどうなっているんです? 情報が一向に上がって来ませんよ。まさかこれだけの予算を使っておいて進んでいないなんてことありませんよね?」と喚き散らし、未完成ながらお披露目することになったので見に来ただけ。


「わ、悪かったわよ……でもまさか失敗続きの中でようやく成功した1回を見て『これで完成だ!』とか言い出すなんて思わないじゃない。しかも無許可で宣伝まで」


 まぁそういうわけだ。


 権力者万歳。好奇心万歳。疑心暗鬼の社会万歳。


「いっそこれまでみたいに勢い余って激突させれば良かったですね。それなら速さは実現出来たけど課題は山積みと思わせられたかもしれませんね。それはそれで叩かれたでしょうけど。どうせロア商会とか俺とかセイルーン王家への嫌がらせでしょうし」


 流石に人命を利用して評判を落とそうとは思っていないだろうが、そちらは噂の最強会長のフィーネや俺(王女争奪戦で活躍し過ぎた)に任せて、失敗したら嘲笑った挙句責任を擦り付け、成功したら自分の手柄にする計画のはず。


 普段ならフィーネやユキが事前に潰すようなものだが、如何せんこちらの作業に掛かりきりだったので、手が回らなかったという。


 ……たぶん。わざとではないと思う。慎重になり過ぎている節があるので発破をかけた可能性も微レ存。


「そういう連中に限って根回しや隠れるのが上手いのよねぇ~。罰しようにもあの手この手で逃げられて結局お咎めなしなのよ。ホント、あのグレーゾーンの使い方だけは勉強になるわ。あの法の穴を突く腕。狙撃手にでもなった方が良いわね」


「…………」


「だからそんな目をしないで。謝ってるじゃない。場を和ませようとしただけじゃない。ほら、スマイル、スマ~イル♪」


 イブの実姉なので容姿で似ている部分は多いが、陰キャと言っても過言ではない彼女には不可能な屈託のない笑顔を見せられるのはマリーさんだけ。2人の母親も陽キャなことを考えるとイブが異例とも言える。


 とにかく魅力溢れる彼女の空気に俺もメロメロ。


「そうですね! スマ~イル♪ これが終わったら文句言う側に回りますからね♪ ステーション内部とかその周りとか色々指摘したい部分あるので♪ なんですかアレ? 公共事業舐めてます? 資金と利権目当ての落札制度ばかり。このまま利用者第一主義でいかないなら手を引いてもらいますよ♪ というか引かせますよ♪」


「お……お手柔らかに……」


 マリーさんだけが悪いわけではない。ステーション建設に関わる皆のせいだ。まぁ彼女の責任が大きいのは間違いないが。


 知り合いだとニコとかもそうだ。家業が石材関係の彼女は3バカとして化学反応の国家試験も受け持っているが、地下鉄でもこれ以上ない適任者なので、こちらでも活躍してもらっている。


 喋ったら絡まれると思っているのが、今もマリーさんの隣に立っているが、一向に会話に参加する気配を見せない。それどころか気配を完全に殺している。


 彼女達はこれからが本番なのだがイマイチやる気が見られない。


 なんとかした方が良いかもしれない。


「ユキを派遣してやるから頑張れ」


「「それだけはやめて(ください)」」


 なら権力者の圧力に負けずに頑張れ。


 応援しているぞ。面倒臭いから絶対関わらないぞ。フラグじゃないぞ。レオ兄までなら出せるぞ。



「おやおや~? 太古の昔からドワーフ族が鉄道に使用していた物質『マグナタイト』を、この車体のために改良・生成した天才鍛冶師かつ地上に舞い降りた天使、ノミドちゃんのことを無視して盛り上がる悪い子は誰ですか~?」


「お前だけじゃないだろ。あれはドワーフ族みんなの手柄だ。あとここは地上じゃねえ。地下だ。お前等のホームグラウンドだ」


 と、調子に乗らないように留めたものの、彼女はリニアモーターカー完成の立役者と言っても過言ではない。


 俺達がやったのは動力部分の調整。車体製造やら洞窟整備やらはドワーフ達がやってくれた。中でも活躍したのは『マグナタイト合金』なるものを作ったノミド。


 ミスリルよりも手軽で軽いスンバラシイ金属だ。


「ええっ、愛らしいなんて! ぼくが可愛いのは当たり前じゃないですかぁ!」


「お前の耳は全てが都合よく聞こえるフィルターでも掛かってんのか!?」


「いくらぼくが可愛いからってお持ち帰りはだめですよ。ふふ~ん♪」


 よかろう戦争だ。


 俺はマリーさんに負けず劣らずの満面の笑みを浮かべるロリドワーフを睨みつけ、どうしたらこの人目を掻い潜って罰を与えられるか、頭を悩ませ始めた。


「――と、まぁ冗談はこのぐらいにしておいて」


「お? どうした、真面目な顔して? 謝りたいことでもあるのか? これまでのおこないのすべてか?」


「すいません、ルークさん。ウチの若いもんが」


「……は?」


 急に真顔になったノミドが普段からは考えられない真剣かつ姉御肌な口調で謝罪をおこなった。あまりのことに俺の方が動揺してしまう。当然思考もまとまらない。


「今回の強行。どうもルークさんの力のお披露目、さらにはその後の作業に関わったドワーフの1人が他国に情報を売ったことが発端らしいんです」


「あ~。なるほど。マリーさん達でも止められなかったのはそういう理由か」


 そして告げられる真実。


 セイルーン王国に蔓延るバカ貴族だけならまだしも、研究者魂と他国の利権まで絡んだらもうどうしようもない。


 それでも本人達は自分の力不足を痛感して辛そうな顔をしているが、それもまた良し。むしろ好感が持てる。


「でも他国もよく信じたな。映像は全部消したし、持ち出せるもんも限られてるだろ?」


 それがどのように影響するか知りたいので、洞窟内で加工・変化・出し入れしたものはすべてチェックしている。それは自然と機密保持にも繋がる。


 そんな虫食い状態の情報を本物だと言っても信じる者は少ないだろう。


「お披露目の様子は小型化した魔道具で撮影していました。用品は同じ物を作って渡していました。プラズマ以外はほぼ再現されていたと思います」


「な、なるほど……」


 無駄に頑張っていた。そして無駄に凄い。


 その力を別の方向に活かそうとは思わなかったのだろうか?


「まぁ構わないさ。やりたいようにやれって言ったのは俺だ。情報を渡した方が有益だと思っただけの話だろ。お前等にとっちゃいつものことじゃないか」


 映像付きというのがちょっとアレだが、小型化してまで撮影した根性は認めるべきだ。だからこそフィーネ達も消さなかったはず。


「ですよね~。ルークさんならそう言ってくれると信じていましたよ。なにせ相手がこのぼくですからね。この機会を利用してあ~んなことやこ~んなことをさせるのではないかとハラハラしましたけど、ロリペド変態野郎扱いしなくて済んで何より何より♪ 

 あ、にーちゃんねるの書き込みとご友人の皆さんに送った手紙はそちらで何とかしてくださいね♪」


 俺達の戦いはこれからだ!

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