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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十七章 プロジェクトZ~研究者達~Ⅳ

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閑話 一方その頃現世では2

 地平線の彼方から太陽が顔を出しているか出していないか、人によって意見が分かれるであろう時間帯。朝と夜の狭間のような午前6時32分。


 ヨシュア近くの草原を1人の少女が歩いていた。


「んー……こっち!」


 6歳という年相応の見た目をしているその少女は、親の代理者達から禁止されるまでもなく22時には意識を手放してしまう児童生活時間に加え、やりたいことがあれば太陽が昇るより早く活動を開始する典型的な子供。


 寝起きなのは間違いないだろうが、深緑の瞳に眠気は一切なく、その行動にも一切の迷いがない。迷っているのは進む方向だけだ。目的を達成する意志は揺らがない。


 その名はイヨ。



「ぜ~ったい、おかしいわ。ルナマリアさんが約束をすっぽかすなんて。夜話『ここが変だよセイルーン 爆笑編』をしてくれるって言ってたのに、れんらくもしないでいなくなるなんて、わたしにナイショでルークたちと面白いことしてるにきまってるわ!」


 誰もいない大地でイヨが声高らかに宣言する。


 ちなみに、ツッコミ気質のルナマリアが芸人も裸足で逃げ出すハードルの上げ方をするわけもなく、人間界に来て日が浅い彼女のために色々教えてやっているだけ。


 一応毎回テーマが設けられており、前回人類の失敗談でひと笑い起きた後に続きは次回と言われたので、彼女の中では完全に爆笑編になっているのだ。


 まぁそれが叶うかどうかはさて置き、『これまで非協力的だったルナマリアが自分との約束をすっぽかしてルーク達の作業に付き合う(これまた彼女の中では決定事項)のは、自分としていた難しい話が実を結んだに違いない』というのが彼女の言い分である。


 ただでさえ面白いイベントに誘ってもらえないことを嫌う彼女が、退屈なところだけ巻き込まれて美味しいところは蚊帳の外などという事態を許すはずもなく、こうして学校が始まるまでの時間を利用して様子見に来たというわけだ。


 学校は彼女の中で今一番と言っていいほど熱い場所。


 こちらの内容次第ではサボりも十分あり得るが、同じぐらい面白かった場合、取捨選択を迫られてしまうので今回はあくまでも様子見だ。



「まぁ場所がわからないのでその時間を無駄にしてるんですけどネ~」


 まだまだ発展途上の彼女では、結界で覆われた秘密の作業場(?)を見つけることは出来ず、家を出てから20分近く彷徨い続けていたりする。


 そんな彼女の様子を上空から眺めていた……もとい偶然通り掛かったハーピーが、ちょっかいを掛けに来るのは当然と言えた。


 眺めることに飽きたとも言う。


「ハーピー、アンタ知ってるんでしょ! おしえなさいよ!」


 ベルダンの連中が突然現れるのはいつものこと。別に自分の力で見つけようなどと思っていないイヨは、驚くことも、躊躇することもなく、他力本願を行使した。


 目的のためには手段を選ばない。


 実に子供らしい行動理念である。


「ワタシも知りまセン。取り合えず空とか調べれば良いんじゃないですカ」


「エルフのわたしにそれ言う!? まっさきにしらべたわよ!!」


 釈迦に説法。河童に水練。


 如何に幼女と言えど世界トップクラスの風精霊の使い手であることに変わりはなく、上空であれば1km先でも300m上でも余裕で見つけられる力を持っている。


 リニア計画のことを知っている彼女は、空より地面の方が可能性は高いと思いつつも探しやすさから真っ先に手を出し、ガックリと肩を落としたのは少し前のこと。


 その一部始終を見ていたハーピーはからかっただけなのだが、ルナマリアと同じくツッコミ気質な上に今来たと思っているイヨは見事トラップに引っ掛かった。


「では町中」


「ニンゲン嫌いのルナマリアさんが行くわけないでしょ! わたしも気付くし!」


「地下」


「ドワーフにセンリョーされてる!」


「一周まわって農場」


「地面でいいじゃない!! すなおに町の外の地下って言いなさいよ!!」


「まぁイヨさんの感知能力では全然届かない地下洞窟なので見つけられないんですけどネ。今週だけで何度通り過ぎたかわかりまセ~ン。プププ~」


「うがああああああああああッ!!」


 自分より遥かに優れた感知能力と情報を持ちながら、肝心な部分を教えない害鳥への苛立ちが止まらないイヨだが、自分の未熟さが招いたことなのであまり強くは言え……ないわけではなさそうだが、とにかく見つけられない。



 そんなこんなと実質健康的な朝の散歩(友人との雑談付き)をしていたイヨが、何の変哲もない草場を通り過ぎた瞬間、


「あ……」


「そこかああああああッ!!!」


 ハーピーが意味深な呟きを聞き逃さなかったイヨは、急転換して全力で殴り掛かった。


 ガンッ、と固い音と共に少女の拳に激痛が走る。


「~~~っ!!」


「当たり前でショ。貴方程度の実力で破壊できるほど柔い結界なわけないじゃないですカ。普通に乗り込んでくだサイ。弄ぶの飽きましシタ。もっと多彩なリアクションプリーズ」


「~~~っ!!」


 文字にすれば同じだが、意味合いはまったく違う言葉(?)を発したイヨは、持てる力のすべてを使って焼き鳥にしようと奮闘し、無駄に終わり、諦めて隠されていたエレベーターを起動した。


「ワタシはここでお別れデス。その下には洞窟が広がっていますけど、真っ直ぐ左へ進んでくだサイ。そうしたら皆さんと合流出来マス」


「わかったわ。ありがとう。まっすぐ右ね」


 ただの嘘つきよりも天邪鬼の方がわかりやすいものだ。


 ちなみに意気揚々と進んだ先には何もなく、出口が見つからずに引き返したせいで学校にも遅刻しかけたのだが、悪いのは信じなかったイヨであって、正しいルートを教えてくれたハーピーは悪くない……かもしれない。


 例え仲間達と共にその様子を見て爆笑していたとしてもバレなければセーフだ。




「……なにやってんの?」


 楽しい学生生活も終わり、今度こそフィーネ達と合流したイヨが見たものは、道の真ん中で首を傾げる友人2人の姿と、洞窟の壁に張り付く知人2人の姿と、それを苦笑しながら見守る強者達の姿。


「これはこれは、イヨさん、いらっしゃ~い。これは世界一盛大なジェスチャーゲームに失敗した者達の成れの果て。意思疎通が出来そうで出来ないもどかしさを痛感しているところです~」


「つまりどういうこと? ルークは? おもしろイベントは?」


「あえて言うならこれがそうですね~。諸事情で現実を離れているルークさんと彼等が巻き起こす超常現象を見て楽しむも良し、勘と頭脳に自信があるなら意思疎通を試みるも良し、ルナマリアさんと一緒にフォローに回るも良し。選び放題やりたい放題ですよ~」


「ふ~ん」


 思っていたものとは違うが、取り合えず目的は達成されたことを喜び、関わり方は一旦様子を見てから決めることに。



「くそっ……もう一度だ!」


 鼻筋のすっきりした端正な顔立ちをしているが、いつもどこか他者と距離を置いていて感情というものが薄く女性からは好かれても子供からは苦手とされるタイプのコーネルが、ボコッ、と壁から体を引き剥がして熱血漢の台詞を吐く。


 土埃で汚れた全身も、普段からは想像もできないほど乱れた金髪も気にした様子はなく、ただ人生の目標に向かって邁進するやる気だけが感じられる。


『こーほー』


 おそらくその対策ではなく作業のためだが、防塵スーツ纏ったパスカルも震源地であるプラズマタイトの下へ向かい、掛かって来いとばかりに両足を広げて踏ん張る。


 視線はプラズマタイトだけでなくその周りにも注がれる。雰囲気はさながらホラーゲーム。僅かな異変でも見逃せば死あるのみといった感じだ。


「……難しい」


 そんな彼等と少し違った反応を示したのは、被害を免れたイブ。


「やっぱりそう上手くは行かないわね」


「ん。これまで培ってきた経験が邪魔する」


 精霊術をはじめとした精霊に関する知識や技術が豊富な彼女は、3人の中で最もルナマリアと話が合い、今取り掛かっている作業においても筆頭となる人材。


「なにがむずかしいの?」


 イヨが来る前はコーネルとパスカル側だったのか、絹のようにきめ細やかなハチミツ色の髪が汚れているが、とにかく今一番活躍しているのは彼女だ。


 貢献度的にも親密度的にも声を掛けるならここだと事情を尋ねると、


「考えたことを手に出すこと」


「……?」


「あ~、例えばドワーフって頭脳より技術じゃない? それって歌と演奏みたいなものなのよ。人間は知ってる歌をなんとなく歌えるけど演奏は出来ない。それって頭で考えたことを手から出すのが苦手なわけ。ドワーフは逆。頭で考えたことを口から出すのが苦手で、代わりに手を動かせる。

 アタシ達は今それに近いことをやってるのよ。流れを読むことは出来ないけど掴むことは出来るんじゃないかって。まぁアタシは見るだけで実際にやるのはイブ達だけど」


 ルナマリアのフォローが光る。


「その流れを作り出してるのがルーク君。掴めなかったり掴んでも変換する前に流れが変わったら失敗。吹き飛ぶ」


「よーするにじつりょくぶそくってことね!」


 シンプルイズベストは時として人を最も傷つける。


「そう。ただ結構理不尽。2属性の精霊術を混ぜて戻してをコンマ3秒の間にするようなもの。少しでも混ざればアウト」


 人知れずうな垂れるコーネルとパスカルを他所にイブは例え話を始めた。


「かんたんじゃない!」


 が、イヨはこれを一蹴。知識さえあれば自分がやっていたのにと自信満々に胸を張る。


「全力で火精霊を引き出しながら算数の宿題。何かが燃えたり手を抜いたら失敗」


「かんたんじゃない!?」


 ただ彼女&エルフの生態に詳しいルナマリアの例え話で事態は一遍。それは無理だと申し訳なさそうにイブ達に謝罪した。



 その後、超常現象に巻き込まれるのが楽しいと感じた彼女が、大人しく魔力補給係となったのは言うまでもない。


「ねえ、これって――」


「「「やってみる価値はある」」」


 途中から参戦したニーナと共に、子供ならではの発想で勝利に導いたりもしたが、それはまた別の話。

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