表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十七章 プロジェクトZ~研究者達~Ⅳ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1472/1659

千二百十五話 一歩進んで二歩下がる

「なぁ……アンタなら何とか出来ないか? この状況」


 大地の血行促進、しかも力の流れを感じ取ったりマッサージする側ではなく肌に貼り付けられるパッド役という、ただ立っているだけの存在と化して早3日。


 朝から晩まで……もとい晩から朝まで楽しそうに作業する仲間達を眺める日々に嫌気が差した俺は、ご都合主義の権化、ベーさんに相談してみることに。


 彼女ならチョチョイのパッパで龍脈を揉み解してプラズマタイトを使えるように出来るはず。やらないだけで可不可で言えば『可』なはず。


 プラズマを引き出す時だけ仲間に入れてもらえる日々はもう嫌だ。ゲームボーヤの通信ケーブルを持ってる便利な友達扱いはもう嫌だ。


「退屈とか、与えられた仕事に満足してないとか、貴重な時間を無駄にしたくないなんて贅沢を言うつもりはない。でも俺も何かしたいんだ」


「わざわざ苦労したいなんて…変わってますねぇ…」


 黙って器になっていろ、と高圧的な態度で強要してくる仲間達とは別の意味で要求を断りそうな雰囲気だが、理由が『理解出来ない感覚』ならまだ何とかなる。


 もちろん努力って素晴らしいなどと高尚なことを言うつもりはない。


 彼女は根っからの苦労アンチ。そんなことをしても無駄だ。苦労せずとも何でも手に入る相手を納得させられるほど俺は賢くはない。これが創作物に登場する金持ちなら、友達が居ないだの金持ちなりの苦労があるだの、何かしら欠点があって庶民のプライドは保たれるが、リアルだとそんなことはなく負け犬の遠吠えになる。


「作業を終わらせてくれとは言わない。手伝うことすら禁止されている現状を変えてくれないか。出来ることもやりたいことも山ほどあるのにフィーネが作業に影響が出るからダメって言うんだ。

 理由を聞いても『何もしないことが大事』の一点張り。おかしいじゃないか。集中しろとかならわかるけどボーっと立ってるだけなんて。例え理解出来なくても取り合えず説明してみるべきだろ? 実際これまではそうしてきたわけだしさ。頭を悩ませる難しい話から一遍、他人任せの放置モードってどういうことよ。皆もそれに何の疑問も抱かないし、ホント、わけわかんねえよ」


「あ~」


「……なにその反応? なんか知ってんの?」


 ベーさんの何かを納得した様子に真相を垣間見た俺はすかさず尋ねる。


「私…プラズマタイトの説明で一杯頑張ったので…」


「待て待て。謝る。ゴメンって。その説明はしなくていい。ベーさんはもう十分やってくれた。ありがとう」


 いつも以上にダルそうな顔で生き埋めになろうとするベーさんをなんとか引き留め、説得を続ける。目なんてほとんど閉じてしまっている。言わざる、聞かざる、になる時も近い。そうなったら終わりだ。


 もしこれが口の悪い社会人だったら、「時間外労働を強要する雇い主はくたばれ」と暴言を吐いていたに違いない。そして捻くれてまともに働かなくなるのだ。


「のぅ…」


「まだ何も言ってないが!?」


「労働したがる人も…時間外労働を強要する人も…嫌いです…」


 くっ……読まれている。「仕方ない。ただこれだけは教えてくれ。今の俺に出来ることって何かないか」からの融合レールの謎に迫る計画が読まれている。


 一挙両得、あわよくばフィーネがしている作業内容を教えてもらったり、龍脈マッサージの実行を含めた四得作戦であることが、完全にバレている。


 が、諦めるのはまだ早い。


 出来ないのか、したくないのか、はたまたどちらでもないのか、俺にはわからない。わからないが彼女のやる気を出させる方法なら知っている。


 アイスだ。


「自由になった時間の半分をベーさんのためのアイスづくりに使おう。言っちゃなんだが本場雪国で学んだ技術は中々のものだぞ。特殊五行こそ手に入らなかったけど真理に近づいて得たものは大きい。それ等から繰り出されるオリジナル&アレンジアイスを食べてみたくはないか?」


「のぉ…」


 ちょっと変わった。


 前進したと思って良いのだろうか? いや思って良い。畳みかけるなら今しかない。行け、ルーク。


「しかも今なら龍脈アイス付き! 大地とミルクと糖分の三重奏に酔いしれろ!」


「というのは嘘で…終わってたりして…」


「マジで!?」


 予想以上に早く、鋭く、安心感のある手のひらくるーに、歓喜と驚きの声が漏れる。サプライズあるある。『例え相手に寂しい思いをさせようとも初志貫徹』だ。


 ただ言いたい。


 あれって意味あんの? プラマイマイナスじゃね? 18禁モノならネトラレまっしぐらだし、一般向けでも成功して嬉し涙を流したところでじゃない? サプライズって実はそんなに強くないよ? ハイリスクローリターンなんよ。現状に不満を抱かれたらバラして感情の揺さぶりも好感度の上下もなくハッピーエンドで良くない? 


 少なくとも今の俺の気持ちとしてはそうしてくれた方が嬉しい。


「まさかここまで読んでたなんて流石だわぁ~」


 まぁ褒めるけどね。ベーさんは何も悪くないし。


「…? 読んでませんが?」


「は? どういうことだ? 作業終わってるんだろ? もう置物生活しなくて良いんだろ?」


「私は…添えるだけ…」


「あ~……つまりベーさんが手を出すまでもなく終わってたってことか? それとも実はもっと前から終わっててリニアとは別の作業してるとか? もしくはフィーネ達にもわからないことがある?」


「ノー、アイム、ベー」


 全身を岩で覆うという完全な拒絶を示したベーさんは、意味深な台詞を残して地中に潜っていった。しばらく協力は得られないだろう。


 一応当初の目的は達成出来たから良いんだけどさ。


 これでやっと置物から解放される。




「――ってわけで、プロの方からマッサージ終了のお知らせをいただくことに成功した。今日からは俺もお前等の作業を手伝うことになる。シクヨロ☆」


 その日の夕方。


 すっかり慣れ親しんだ地下洞窟で仲間達と合流した俺は、目元横ピースをしながらこの吉報を伝え、2m近くまで伸びた8の字とその間にある3つの雪の結晶に手を伸ばし、これまでの遅れを取り戻すように作業を開始。


 ビシッ――。


「あうち! な、なにすんだよ!?」


 しようとした直後、イブのチョップで弾かれた。


「間に合ってる。インフィー増設もレールづくりも車体との接着も、私達だけで出来る。私達がしないとダメ。他の人の手を借りるべきじゃない」


「ダウト! 絵みたいに完全な個ならともかくリニアは違うだろ! 色んな部材が合わさって大きな流れになるもんだ! そこに個性が介入することはないし、誰かが作った部材を混ぜても仕組みが違わない限り問題なく使える!」


 個々で独立しているように見えてこれ等はすべて1つの物。


 しかし組み合わせることは出来る。


「そう思ってるのはルーク君だけ。私達は作業していく中でオリジナリティの重要性に気付いた。これは例えるなら特殊五行。他の属性が介入出来るものじゃない」


 で、出たー。異論を完全に封じる最強最悪の手段『やったことのない人間にはわからない』出たー。説得を完全に放棄した死の宣告だー。


 特殊五行未習得と合わせたダブルパンチにルーク選手のライフは0よ~。


「わかっただろう。一度描き始めた絵は最後まで自らの手で描くべきだ」


「悩む段階はとうの昔に過ぎました。ルークさんは大人しく見ていてください。それが一番役に立つ方法です」


 さらに畳みかけるように拒絶の嵐が舞う。



「ひ、酷い……酷過ぎる……あんまりだ……今まで皆で頑張って来たのに、なんで今になってそんなこと言うんだよ!」


「では聞くが、ルークならこの状況で他者の介入を許すのか?」


「許さないが?」


「…………」


「睨むなよ。ジョークじゃないか。お前等の言いたいことはわかってるよ。俺に龍脈を調べろって言ってんだろ。プラズマタイトだけの力で龍脈からエネルギーを引き出せるようになったからって、いつまた固まるかわからないし、この仕組みが安定するかもわからないから、置物の次は計測器になれってことだろ。フィーネと協力してさ」


 時々勘違いしそうになるがフィーネ達は全知全能ではない。


 知っていることを知っているだけ。


 プラズマの原理やプラズマを使う仕組みについては詳しくても、人間が生み出した技術でそれを利用した場合のことまではわからない。何が起こるかは経験と知識から予想することしか出来ない。


 しかしそれでは困る。


 ましてやこれは俺達が勝手に始めたこと。やむを得ない部分を除いて強者の協力はなしで進めてきた。なら不安要素の調査も自分達でやるべきだ。


「まぁ自力で深層に行ったこともある俺には最適な仕事だわな」


 それしか出来ないとも言う。所詮俺は時代の敗北者じゃけぇ。器にしかなれんきに。


「なんだ、わかってるじゃないか」


「その上から目線やめろ。お前等だって自分で気付いたわけじゃないクセに。閃きに見せかけた強者の助言で気付いただけのクセに」


「む……やはりそうか。道理でいくら考えても何故その思考に至ったか思い出せないはずだ。もしかしたらこれまでも自身の閃きと思っているものの中にもそういった事例が混じっているかもしれないな。今となっては気付きようもないが」


「まぁ夢と同じでこれまでの経験の総括ってだけの可能性もあるし、真実は闇の中だな。自分のことだからってなんでもかんでもわかると思ったら大間違いだよ。答えが見つからないことなんて腐るほどある」


 と、一矢報いたところで改めまして、


「調べる方法は……あ~……」


「龍脈に入ってみましょう」


「……俺1人で?」


 チラリとフィーネに視線を向けると、期待通りに予想外の答えを得ることが出来た。


 寂しがりの子供みたいな声が出たが仕方ない。夏休みに海に行きたいと言ったら、ライセンス所持者でないと潜れない深さまでダイビングすると言われたようなものだ。しかもインストラクター無しで。


 あ、1人って聞いた瞬間に頷かれました。


「ご安心ください。訓練課程はすべて終了しています」


 いつだ、いつそんなことをされた? 心当たりしかないぞ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ