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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十七章 プロジェクトZ~研究者達~Ⅳ

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千二百十四話 満足出来る仕事なんて滅多にない

 軌道に乗ったというか乗せられたというか、ユキをはじめとした仲間達に流されている気がしないでもないが、兎にも角にも俺の助言を切っ掛けに事態は動き始めた。


「ルナマリアさん。お願い」


「はいはい、っと」


「……ん。龍脈を反重力化させる仕組みはこれで大丈夫そう。インフィー完成」


 知らない間に変換器の増設を試みていたイブは、中断していた(断じて俺が止めたわけではない。あれは指摘せざるを得なかった)作業を進めて、真プラズマタイトのシステムを作り上げた。


 ルナマリアが引き出した龍脈での実験も成功したようだ。


 しかしそれは1つでは意味がないもの。鉄の箱を浮かせるほどのエネルギーを得るべく引き続きインフィーの延長作業に入った。見た目は完全に編み物だ。


「プラズマタイトは与えられたプラズマエネルギーをそのまま反射する物質。範囲外のプラズマエネルギーには一切干渉しない。対してインフィーはその性質を利用して、浮力や推進力を得るためのエネルギーを引力から作り出す存在。

 余剰エネルギー・不足エネルギー・使用エネルギーがすべて車体か大地に向くのであれば、真プラズマタイトを設置する車体裏に使うべき素材は強度よりも――」


「それならたしかに接続部の劣化は防げますが、そうなるとエネルギー補給から生成、還元、さらには部材の自動修復まですべてをおこなうレールの方が……」


「なるほど。浮力が無駄になるか。微調整も難しいかもしれない」


「ならいっそ、自然治癒と人口魔術を混ぜたものではなく、自然の中で両方を生み出すように――」


 コーネルとパスカルは部材の連結作業に頭を悩ませている。


(((ワイワイ……ガヤガヤ……)))


 そんな擬音が聞こえてきそうだ。


 大事なのは結果。


 過程の楽しみを奪われたからって不機嫌になるほど俺は子供じゃないし、自分がするつもりだったことの上位互換を見せつけられても全然スゲーって言えるし、そういうって見てるだけで楽しいし、タメになるし、むしろ皆が楽しんでくれることが幸せみたいなところが――。


(((コネコネ……ドタバタ……ズゴゴゴ……)))


「ねえ! なんで俺ハブるの!? 一緒にやれば良いじゃん!!」


「「「……(チラッ)」」」


 仲間意識はどこへやら。こちらに背を向けて真プラズマタイトの完成を急いでいたイブ達に批難と友情を求めて叫ぶも、全員が一瞬顔をあげてすぐに元の位置に戻した。


 完全に仲良しの輪から外れている。外されている。5人で飲食店を訪れた時に3:2ではなく4:1で別れるぐらいあり得ない状況だ。しかも隣ではなく離れた席。


 友達がたくさん居た俺は経験ないが、まったくないが、これは噂に聞く修学旅行の班決めであぶれた生徒ではないだろうか。周りが楽しそうに役割分担やら行き先を決める中、1人寂しくウロウロ、もしくは部屋の片隅でポツンと佇む生徒だ。


 課外学習のように班を席順や出席番号順で強制的に割り振るなら良いが、生徒の自主性やら親睦値を試す時、必ずと言っていいほど惨めな思いをする者が出てくる。友達がたくさん居て盛り上がる側だった俺が気付かなかっただけで、クラスに居たかもしれない。


 まぁそれはそいつの普段のおこないのせいなので同情の余地などありはしないのだが、俺の場合はいくら声を掛けても、いくら実力をアピールしても無視される、どうしようもないイジメ。


 分担? 大いに結構。


 人数制限があるから無理? なら仕方ない。


 しかしこれは違う。共同作業という大前提を忘れてはならない。


 練度の差こそあるが出来ないわけではないし、議論をスムーズに進めるために発言権を与えない場合もあるにはあるが今ではない。むしろ人海戦術を必要としているのだからあちらが頭を下げて協力を求めるべきだ。


 足手まといにならないのはわかっているだろうに……。


「「「…………」」」


「な、なんだよ、そんな目されても屈しないぞ。ちゃんと説明しろよ」


 ギャーギャー喚き散らす俺を鬱陶しく思ったのか、研究メンバー3人とルナマリアから無言の圧を掛けられ動揺するも、負けじと睨み返して主張を続ける。


 ジト目が許されるのは幼女と美女・美少女と獣っ娘のみというのは世界の常識だが、例えその対象であるイブであっても時と場合によっては許されない。今がそうだ。わけを言え。


「はぁ……ホント、アンタって人生楽しそうね……」


 ルナマリアがようやくまともに反応した。


 ちなみに彼女も美女ではあるが、ツンデレはジト目が標準装備なので許すも許さないもない。危険だからと獣の牙を抜くようなものだ。


 それにしても説明を求めて呆れられるとはこれ如何に……。


「アンタにはアンタの仕事があるからでしょ。フィーネと協力して凝り固まった龍脈をほぐすって大仕事が」


 ですよねー。




 はい。というわけで試練クリアということなのか、真プラズマタイトの完成に乗り出した直後、現れたフィーネから楽しみを奪わない程度に今後の作業内容を告げられた俺達は、各々に与えられた役割を全うしていると。


 俺の仕事は『ろ過』。


 プラズマタイトだけではどうにもならないらしく、リニア運行予定の大地を作り変えて(ってほどでもないけど)、龍脈を引き出しやすくする作業中なんですわ。


 でも神降ろしの時と同じで、フィーネが引き出してくれた龍脈エネルギーを体内に取り込んで、吐き出して、また取り込んでっていう単純作業……どころか棒立ちで見てるだけだから暇で暇で。


「なぁフィーネ。これ本当に俺じゃなきゃダメなのか? プラズマを引き出せる人間ってあいつ等もそうじゃん。俺に向いてる作業がないorあいつ等が向いてるから俺を指名しただけで、実は誰でも良かったりしない?」


「ダメです。プラズマを引き出せるというのは大前提の話。属性相性が均等で大地や引力の知識を持つ者であればあるほど効率と成功率が上がるのです。私の長年の研究結果でそう出ています」


 役には立っているのだろうが実感がない現状に不満と悲しみを覚え、無理だろうと思いつつも念のために尋ねるも、一蹴されてしまう。


 これがフィーネにしか出来ない作業で相方は俺じゃなきゃイヤ、という彼女の我がままの可能性もまだ残っているが、どちらも根拠がない以上成果を出している現状を受け入れるしかない。


 長年も何も世界初のことなのに、というツッコミはしてはいけないんだろうな。たぶん。彼女が大地とか引力とかに詳しいのは確か……かどうかは知らんけど。


「フィーネってホント何でも知ってるな」


 各々の仕事があるからと言って相手にしないのは違うと思うが、作業で忙しいのだろうと引き下がることにして、唯一暇つぶし相手になってくれるフィーネと楽しくお喋りすることに。


 相手を褒めるのはコミュニケーションの初歩。そこから会話を広げれば盛り上がれるし、前々から気にもなっていたので触れていこう。


「引力の正体がプラズマで、昔からあるものだったとしても、その使い方を俺達の技術に合わせて教えるとか完全に理解してないと出来ないだろ」


 よく『IQに差があり過ぎると会話が成立しない』と言うが、あれは高い方が合わせれば良いだけの話で、それが出来るかどうかもまたIQだ。


 難しいことを言うだけなら誰にでも出来る。大事なのはそれを他者に伝えられるかどうか。子供にもインテリ社長にも老人にも分け隔てなく説明出来てこそ本物。


 さらにその上の意識高い連中は類義語や対義語、例文なんかを書き連ねて自己満足を目指す。


 彼女は間違いなくここ。しかも全科目。技術指導なんてそこまでしなければ出来ない高等テクニックだ。いつか役に立つかもしれないと思って磨いた力を発揮している。


「そもそも精霊達ですら存在を知らないものをどうやって知ったんだよ」


「ルーク様と同じですよ。周りが当然と思っている物事に違和感を抱いて研究する。実力が足りなければ努力する。手に入れた力が役に立たないこともありますが、別のところで必ず使えます。そしてそこで手に入れた力はまた別のところで活躍します。そうやって私は成長してきました。言わば努力の五行ですね」


 自慢するどころか感謝の念を前面に押し出して答えるフィーネ。流石だ。


「にしたって限度があるだろ……」


「フフッ。仕方ありませんよ。強者と呼ばれる者達は『一を聞いて十を知る』ではなく『一を聞くまでもなく百を知っている』ですからね。その知識と経験と力から繰り出されるものは時として世界の常識すら覆します」


 二次関数みたいなもんか。スタート地点が違う上に効率も桁違いとかホントどうしようもないよな。人類の尺度では測れない高みにいるんだろう。


 しかも下等生物を見下すでも操るでもなく高みの見物をするだけ。時々手を貸すだけ。実に知的じゃないか。人間だったらこうはいかない。す~ぐ自慢する。


「そうでもありませんよ。実は強者になりたての者や近づきつつある者にはそういったマウント勢が多いのです」


 が、そんな俺の考えはフィーネによって秒で否定された。


「マジで? クソじゃん。ネタバレ全開ってことだろ? 力ひけらかして王とか神とか名乗っちゃうんだろ?」


「い、いえ……流石にそこまで大っぴらなことは少ないですよ。強者達から睨まれるデメリットしかありませんからね。やり過ぎると粛清されますし」


 たぶんこの人もする側なんだろうなぁ。


 何ならユキに代っておしおきしてるんだろうなぁ。


(フィーネのセーラー服……ちょっとキツイか……)


(なにか?)


(ナンデモアリマセン)


 ふと頭をよぎった妄想および幻聴を振り払い、話を続ける。


「じゃあ何なんだ?」


「同等の力を持つ者同士ではよくあるのですよ。武力に限らず知力や技術力を競うことが。もしルーク様が我々の居ない地域でプラズマの研究をされていたら、そういった者達によって指導とも呼べない答えを押し付けるだけの授業をされていたかもしれませんね」


 電磁と反重力斥力場を上手く重ね合わせるみたいな面白実験は出来なかったと。ワクワクもなくいきなり正解教えられて、ズーン……と沈んでたと。


 フィーネ様様だな。


「アリシア様のように答えではなく敵を求める人にとっては良いのでしょうが」


 そして最後に気にあることを呟いた。


 あの人またなんかやったの? こんなに冷静に言うってことは解決済みなんだろうけど。

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