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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十七章 プロジェクトZ~研究者達~Ⅳ

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千二百十二話 すべてはフラグだったのさ

「それではユキ検定8段のそれがしから一連の事件の解説をいたしましょう。何故拙者はユキ氏の妨害工作に歓喜したのか。その理由は彼女のおこなったことには、すべて意味があったからですな。いえ『そう考えるべき』と言っておきましょうか」


 俺達の計画に異議を唱えたユキは、場を荒らすだけ荒らして、手掛かりのようなものを残して去っていた。


 ――というのが状況が把握出来ていない仲間達の意見だが、俺は違う。完全にゴールまでの道筋が見えている。


「その口調嫌い。やめて」


 情報をもたらすのはオタクメガネという偏見に満ちた考えにより、伊達メガネを錬成してクイクイしながら話し始めると、イブが待ったを掛けた。


 有益情報より自身の感情を優先するのはおそらく人生初。どうやら彼女はオタクが苦手のようだ。憎んでいるまである。意味もなくやったからという可能性も微レ存。


「後々脱線することがわかっているからだろう。頭にも入って来づらい。良いところで脱線されるぐらいなら今すべきだ」


「ちょっとアンタ。構うんじゃないわよ。わからないフリをして相手を乗らせるのはいつもの手よ。無視しなさい」


「わかっています。しかしそうなったらコイツは絶対に自分語りを始めます。早いか遅いかの違いならイブさんがしたように早めに処理するべきです。主導権も握れます」


「それも無視すれば良いでしょ。今の説明で大体理解出来たはずよ。コイツはボケながらでもするべきことはするから、そこから察して、自分達で話を進めれば相手にする必要は無くなるのよ。大抵の場合はね」


「拗ねてもすぐ何事もなかったように復帰するので問題ありませんが、ダークサイドに落ちて邪魔してくる可能性があります」


「その時は殴って大人しくさせなさい。アンタ達の拳はそのためにあるのよ。証拠が残らない腹か魔術、一撃で落とせる首なんかが狙い目ね」


「タメになります」


 会話に割り込む隙もないほど怒涛のラッシュ。コーネルとルナマリアの話し合いはロクでもないところに落ち着いた。


 明日から腹に鉄板を入れておこう。腹筋を鍛えるための振動機能も加えて。


「ではユキさんの言動を最初から振り返っていきましょうか」


「ん」


 ここで、俺達(俺の立ち位置は微妙なところだが)を無視して話を先に進めようとする勢力が現れた。パスカルとイブだ。


「おい、コラ、何やってんだよ。俺が説明するって言っただろ。イブに指摘された時点で更生してたんだ。それなのに2人が邪魔して説明させてくれなかったんだ。こいつ等が働き場所を奪ったんだ。俺は哀れな被害者。お前まで俺から仕事取ろうと言うのならもう容赦しないぞ。アッサリ乗ったイブも同罪だ」


 当然説教待ったなし。


 俺は罪を憎んで人を憎まずの精神で、罪だけを排除するべく、ファイティングポーズを取――。


「それ以上脱線するならあたし達はこのまま議論を続けますよ」


「脱線? 何を言ってるんだ? 説明しようとしてたじゃないか」


「その拳は何?」


「これか? これはうるさいハエがいたから追い払おうとしてたんだ。脆い洞窟だからな。手で払ったら風で大変なことになる。拳で確殺よ。断じてファイティングポーズじゃない。逃げられちまったけどな。いや~惜しかった」


 早とちりガールズの失敗を笑い飛ばした俺は、仮説の検証を兼ねた準備運動を終了し、改めて情報の共有を始めた。


 冷ややかな視線が突き刺さるが言い訳なんてしない。時間の無駄だ。こういう時は行動で示すべきだ。彼女達ならきっとわかってくれる。




 ユキがしたこと・言ったことを全部逆にしろとの指示を受けた一同は、一挙手一投足までは覚えていないと保険を掛け、彼女の言動を思い返していく。


「最初は姿を消してプラズマタイトを動かしたな」


 登場シーンのような印象的な部分は覚えているらしく、空気読み大会の結果、コーネルが発言。


「ああ。これはプラズマタイトが反応することを悟られたくなかったからだ。つまり龍脈はここにある」


 すべて覚えている俺は、正解であることを告げる代わりに頷き、ユキが去ったのとは反対、俺達が進む予定だった地面を足でコツコツと叩きながら持論を述べる。


「破損したプラズマタイトでは確かめようがないな」


「それは違うぞ。俺は『反応した』じゃなくて『反応する』って言ったんだ。龍脈はたしかにここにある。でも今のままじゃ反応しない」


 このダウジングは根拠もないままやっていただけ。反応したらラッキー程度のものだ。


「大体、反応するならプラズマタイトを量産してるドワーフ達が、自分達でもプラズマを見つけようと地下世界を駆けまわって俺達より先に龍脈を見つけてるだろ。

 龍脈も。パワースポットがそう呼ばれることがあるってだけで、本来はどこにでも存在する力ってユキが言ってただろ。ここにあるのはそっち……というか中間。何の変哲もない場所だけど頑張れば俺達の力でも引き出せるタイプの龍脈」


「ヌンチャクを振り回して落下、破損に繋がるというわけか」


「そゆこと。俺達でも修復出来る範囲だろ。この地面を素材にしろ&手を加えろってことだよ」


「ちょっと待ってください。ユキさんは龍脈から力を引き出すなと言っていませんでしたか?」


「自在に引き出すのはアウトって言ったんだ。引き出すこと自体は否定してない。プラズマを使うなってのも裏を返せば他のものならOKってことだ」


「な、なるほど……」


 20へぇ~確定の唸り声をあげるパスカル。他の面々も15へぇ~は固い。


「壊した後の会話覚えてるか?」


「あの茶番のことか? 悪役や主人公についてどうこう言っていたことしか覚えていないが……」


 全員が、そんなどうでも良いことに脳の容量を割くわけがないと言わんばかりに、そしてコーネルの意見に同意するように肩を竦める。


「ったく……肩を竦めたいのはこっちだわ。やれやれだわ。人生に無駄なことなんて1つもないと知れ。これに懲りたら今度から茶番に付き合えよ。わかったな」


「断る。これは特例中の特例だ。お前の茶番が役立つことは二度とない。覚えているならさっさと話せ。それ以上は脱線と見なすぞ」


 どうして教えられる側が上から目線なんだ……もっと先生を敬えよ。そんなんだから学級崩壊するんだぞ。リーダーって必要なんだぞ。尊敬し合える関係って素晴らしいんだぞ。


 まぁやろうと思ってたから全然やりますけどね。俺は皆みたいに心狭くないし。ゴチャゴチャ言う前に率先してやって手本になるし。お前等は俺の背中を追い掛ければ良いよ。安全でつまらない道を進めば良いよ。


「まず最初は『大事ならしっかり守れ』。これは現状維持を示す。プラズマタイトの壊れているところ以外は弄るなってことだ。

 次に『肉体と精神を蝕む』。これは生成方法を示す」


「使用方法という可能性もあるだろう?」


「だとしたら言う順番を変える。これは間違いなく生成方法だ。この後のワードもそれを物語っている」


 取り付く島もなく主張を退けられたコーネルは、若干不愉快そうな顔をしながらも、話を続けるよう視線で促す。任セロリ。


「『騙されている』は当然のものとして捉えている部分を変えろという指示で、『ずっと傍にいた』はそこで使う仕組みが身近なものであることを示す。『損な性格』は不利益。『フィーナに逃げられる』はフィーネの協力が必要。『ベーさんに言われたことを理解していない』はわからん。直接言われた俺1人でどうにかしろってことだと思うけど、役立つのは真プラズマタイトを作った後だろうな」


「地下に広がってる空間に影響を出さずに力を引き出すのは不可能。でも臨機応変に。ルールは破るためにあるとも言ってた。つまり変えても良い環境もある」


「秩序を乱さない程度にな」


 最後は未来の夫婦でフィニッシュ。


 拍手や歓声はない。それどころか得られたのは思案の表情。


 実に研究者らしいじゃないか。わからなかった点や納得出来ない点を尋ねてこないことを喜んでおこう。仮説が認められたってことだからな。




「さて……『進め方はわかったけど肝心な部分はトライ&エラーしかないか?』と悩み苦しんでいる皆さんに朗報です。やるべきことは決まっています。俺の考えが正しければそれでリニアモーターカーは完成します」


(((チッ……)))


 この時、俺には確かに研究者3人の舌打ちが聞こえた。


「チッ……」


 ルナマリアは普通にした。もっと役に立つつもりだったのだろう。これからちょっとずつ情報を出していこうと思っていたのかもしれない。ただ単に俺の活躍が気に入らない可能性もある。アンチってやつだ。


「一応聞きましょう。ルークさんのアイディアを」


 突然風邪でも引いたのか、パスカルは普段のフルフェイスより数段薄いマスクを装着しながら、詳細説明を求めた。


 一瞬見えた彼女の顔はかつてないほど歪んでいたような気がした。まるで楽しみを奪われて思わず舌打ちした直後の表情だった。


「一応ってなんだ、一応って。自分なら改善出来るってか。失敗するから大丈夫ってか」


「…………」


 からかうように言うも無反応。


 まぁ研究熱心な人だからね。ちょっと前に脱線やめろって言ってたし。仕方ないね。心なしか視線が微妙にズレてる気がするけどコミュ障にはよくあることだよね。ハハハ。


「僕は普段先駆者を尊敬するんだが今回ばかりは憎ませていただこう。これほど失敗しろと願うことも無い」


「何故だ!? 俺が優秀過ぎるから!?」


「ああ。プラズマの行使に制限がなく、お前以外にも生成可能な状態なら、チームから追放していたところだ」


「人を恨むよりその時間や労力を別のところに活かした方が生産的だぞ。そこの龍脈モドキを調べるとか、自分なりに真プラズマタイトを考えるとか、出来ることなんて山ほどあるだろ」


「そうだな。だから早く話せ。これ以上の時間の浪費は僕達を苛立たせるだけだ」


 この負け犬。正論パンチを回避する唯一の手段を使いやがった。しかも文句を言ったらこっちが悪になる。やってくれるぜ。


「ところで……イブさん、貴方さっきから何やってんの?」


 まだイブとルナマリアに触れていないので説明しながら弄ろうと思っていたのだが、2人は先程からヒソヒソ話でもするように身を寄せ合って何かをしていた。


「プラズマタイトの加工」


「でしょうね」


 地面を掘って修復に使用すべき素材を集め、行使対象である龍脈の上に立ち、破損したプラズマタイトをいじくり回す理由なんて他にない。


 俺が聞いてるのはその内容と理由だ。


「リニアにはプラズマエネルギーが必要。でも龍脈から力を引き出すのは良くて、プラズマを付与するのはダメ。なら引き出したエネルギーをプラズマの力を使った何かで分解して動力にするしかない。そのための仕組みを作ってみた」


 作ってみたってアンタ……。


 それ、まんま俺が言おうとしてた『海水を蒸留して電気分解することで燃料になるように、大地の下を流れる力の流れを変換する』ですやん……。


 形もバッチリインフィニティですやん……。

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