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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十七章 プロジェクトZ~研究者達~Ⅳ

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千二百八話 動力会議

 予想とは違ったが、それ以上に有益な情報を手に入れた俺は、ベルダンを後に……しなかった。


「ヒカリが作ったっていう物質はどうしたんだ? 叙述トリックのためだけに利用したのか?」


 解消出来ていない疑問がいくつか残っている。ヒントは得られなくても大地で溶けているベーさんとの対話は続行だ。


 一応言っておくと比喩だ。彼女なら出来そうな気もするが、今はダラーンと両手両足を投げ出しているだけ。リバースカードをオープンしたままなのでうつ伏せで。ややこしい。


「御想像にお任せします…」


「出たな。世界一便利なはぐらかし方法」


 が、明言を避けられてしまった。地面を凝視していて視線を合わせることもない。社会人としては失格だが常識なんてクソ喰らえな強者はそうでなくっちゃ。


「便利とは怠惰…楽とは手を抜くこと…そこに楽しみを見出せた人こそ勝ち組…努力や苦労はそれが出来ない人達が感情を引き出すためにすることです…」


 あ、新しい……。


 ここまで努力を否定し、楽を肯定した人間を俺は知らない。


 たしかに、楽している者達への注意の大半は、「そんなんじゃ面白くないだろ」「そんな方法で勝って嬉しいのか?」という感情論。全然オッケーと言われた後が続かない。せいぜい「将来苦労するぞ」や「いつか後悔するぞ」という負け惜しみ。


 理想を具現化した二次元でも近年は天才による努力しない勝利がウケているし、結局人は楽がしたいのだ。周りの目が厳しかったり、失敗した時の言い訳が欲しかったり、本当は楽しくないので仕方なく努力しているだけ。


 それ等がすべてなかったとしたら。


 楽しているだけでなんとかなって、必死に努力しなくても喜べて、怒れて、泣けて、楽しめて、みんな幸せになれるとしたら、きっと彼女のような考え方になるのだろう。


「まぁ今のアンタは説明するのが面倒なだけだけどな。『楽しい』は良いけど『面倒』は言い訳にしちゃダメだぞ。それは後で絶対後悔する」


「ですよねぇ…」


 あ、そこは認めるんだ……。


「じゃあレールの融合ってどうやったんだ?」


「御想像にお任せします…」


 珍しく前向きになってくれたので新たな質問を投げかえてみるも、先程と同じ答えが返ってきた。認めるけど直しはしないらしい。


 こういう人だ。気にしたら負けだ。


「このレール。ベルダンに通い続けたらドンドン巨大化していって、俺達が性質をなんとかしたら鉄道レールとして使えるなんてことない?」


「創刊号から何十冊と買って作る…物凄く高級な付録みたいに…ですか?」


 おいやめろ。あんまり地球をバカにすんな。頑張ってんだよ。みんな頑張ってボッタクリを悟られないようにしてんだよ。最初安く売って、ここまで来てやめるのもなぁ~って勿体ない精神を巧みに利用した商売なんだよ。ギャンブルと一緒。もう引き返せないんだよ。


 眠そうな目の中に僅かな輝きを宿し、うつ伏せのまま顔だけをこちらに向けるベーさん。彼女以外がやったら顎が地面に擦れてエライことになっていただろう。


 それはそれとして、手からはみ出るほど大きくなったこの模型……リニア事業とか関係なくどうなるか気になる。動力に関わるすべてにプラズマを利用する予定のリニアは無理だとしても、地下鉄には使えそうだし、個人的に育てて(?)みたい。


「どうなんだ? 御想像に任せないなら正解と受け取るぞ?」


「御想像にお任せします…」


 クソが。絶妙な例え話をしたかっただけか。どこまでも惑わしてくれる野郎だぜ。


「あと30回融合すると………ぐ~」


「言えよっ! 完成させるとどうなるんだよ! てか結局巨大化はするんかい!」


 その後、平然と会話をぶった切って意識を手放した怠惰を起こそうと5分ほど頑張ってみたものの、彼女の眠りを妨げることは出来なかった。


 役立ちそうな情報は手に入ったから良いけどさ。


 道中の感じからして俺じゃないとダメっぽいし、取り合えず毎日顔を出してみようと思う。通った回数じゃなくて融合回数ってのが怖いところだけどさ。




「――てなわけで、俺達の欠点は物事をなんでもハッキリさせようとしすぎること。宇宙も地底も海底も心も境目なんてない。全部自分や過去の連中が勝手に決めてるだけ。テキトーなぐらいが丁度良い。世界って、人生って、そういうもんだ」


 ベルダンからの帰り道。


 地下の調査がひと段落したイブ達と農場で合流した俺は、宿舎の一室を借りて、情報の共有および今後の方針を決めていた。


「研究者にあるまじき発言だな」


 農林業の聖地なだけあって部屋のものはすべて木材で作られている。コーネルの様子からは普段とは違う固い椅子に違和感を覚えているのが見て取れるが、それとは別に仕事を貶されたような不快感が発言に滲み出ていた。


「でも真理。答えが見つかるまで立ち止まってるよりは良い」


「それは……そうですが……」


 基本的にイブにへりくだりがちのコーネルは、今日も今日とてアッサリと自分の考えをねじ曲げて肯定する意向を示す。


 王女の圧というより、よく考えて主張するので間違うことが少ないからだろう。だから高確率で言い負ける。俺を罵倒したいだけで後先考えていないのかも。


 不快感も弱かった。本気でないのは一目瞭然だ。もちろん俺の批難も。まぁ元々そんなつもりもなかったが。そういう時も必要だって話だし。


「しかし具体的にはどうするつもりだ? 物事を曖昧のままにしろと言われても、ただでさえ僕達に出来ることは限られているんだ。さらに情報を制限してリニアが完成するのか?」


「だ~か~ら~。ややこしく考えすぎなんだよ。プラズマだけに頼らずに、風の力で浮遊させて、土の力で移動させて、火の力で加速させたって良いだろ。プラズマ自体には干渉出来なくてもプラズマタイトには出来るんだからさ」


「な、なるほど……たしかにあれは普通の物質。精霊達による力の付与は可能だな。プラズマで操るよりも楽に調整出来る」


 俺と同じく視野が狭くなっていたコーネルは、目から鱗が落ちたように理解し、納得し、進展した。


「しかしそれは操作に限った話だ。プラズマはどうする? リニアモーターカーの大前提はあれを動力にすることだろう」


 そう。魔術や精霊術はあくまでも補助。巨大な鉄の箱を高速で動かすためにはプラズマの力が必要不可欠だ。それも恒久的かつやり過ぎない程度の供給が。


「そこで自然エネルギーだ!」


「……? プラズマに干渉出来る属性や現象は無いと結論付けたはずですが? 重力もプラズマタイトに干渉するものですし」


「まさか創り出すつもりか?」


「ノンノン。もっと視野を広くしようぜ。俺達が享受してるものの中にプラズマに干渉出来る現象はあったんだよ。当たり前すぎて気付いてなかっただけだ」


 チッチッチッ、と挑発するように右手の人差し指を振る。


 イヤな顔をされたりへし折られそうになるかと思ったが、一同は冗談に付き合っている暇などないと言わんばかりの真剣な顔で考え込む。寂しい……。


 ヒントでも出して気を紛らわせよう。


「ヒントその1。プラズマは世界から隔絶した存在。使用者は世界に割り込む形で顕現させています」


「「「…………」」」


「ヒントその2。そのため引き出されたプラズマは揺らぎません。火なら風圧や外部からの干渉で揺らぎますが、プラズマは自身の増減でのみ形を変えます」


「「「………………」」」


「ヒントその3。プラズマは魔力と同様に使用者の体に纏わりつきます」


「「「……………………」」」


 まだわからないか。


 仕方ない。最後にして最大のヒントを出そう。


「ヒントその4。俺達が立っていられるのは世界が回っているからです。アルディアの法則はそれを前提として作られています。だから止まったらほとんどの法則が変わります。でもプラズマは変わりません」


「それは何故? 理の外の力だから?」


「ん~、外というか内というか……」


「わかった」


 イブからの問いかけに曖昧に答えると、彼女は突然目を輝かせていつも以上に張りのある声で言った。自力で導き出せた喜びと内容の驚きで興奮しているようだ。


 期待を込めつつ視線で説明を促す。


「プラズマは世界の動きに影響されてる。引き出す時は私達の力が割り込ませてるけど、その後は世界に合わせて自分で変化してる。揺らがないように移動してる。私達に宿ってるからだと思ったけど違った。プラズマは地軸の周りを回転する力に適応してる」


「惑星の回転……宇宙を目指すつもりか?」


「違う。ルーク君の説明がなかったら私もそう思ってた。たぶんプラズマは宇宙にもある力だから。でもそれだと私達が享受してる自然エネルギーって条件に合わない。私達が目指すのは下。世界を流れる力の本流」


「龍脈か……」


「その通り!」


 神様は世界がプラズマを受け入れるための準備期間が必要だと言った。


 もしその作業が同時進行ではなく順番にやってたとしたら、もう終わってるところがあるとしたら、そこに溢れるプラズマを使えば無限のエネルギーが手に入る。


 問題は厳重に覆われているであろう膜をどうやって薄くするか、そしてプラズマと龍脈をどうやって繋げるか、さらにそれをリニアに活かす方法だ。

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