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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十七章 プロジェクトZ~研究者達~Ⅳ

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千二百七話 怠惰からの助言

「なぁ、頼むって。もうヒントとかじゃなくて良いから、このレールにどんな意味があったか教えてくれよ。物理法則が何なんだよ。気になって夜しか眠れないよ」


 謎に抜群のタイミングでこれしかないという見た目の物体を渡され、謎に融合し、謎に意味深な台詞を吐かれた俺は、なんてことのない失敗で拗ねて説明を投げ出したベーさんの説得を開始。


 が、いくら言ってもNOの一点張り。


 仕方なく強硬手段に出るも、


「あ~、そこそこ…」


「マッサージ扱い!? アンタにとってグータラを妨害されることは苦痛ではないというのか!? 家族サービスより疲労回復を優先する父親なら絶対に悲鳴をあげる、この『ねぇパパ~。休みなんだからどこか連れてって』が!?」


 結構強めに全身を揺さぶっても、その刺激を待っていたと言わんばかりに安らぎの表情を浮かべられてしまった。やめた方が効果的まである。


「私にとって大地とは男の人にとってのおっぱいです」


「なん……だと……!」


 それは言うまでもなく擦り付けられれば擦り付けられるほど喜ぶもの。


 予想通りの……いや予想以上の逆効果に、驚愕も相まって俺は彼女から手を離し、詳しい説明を求めた。世界を変える大発見かもしれない。ビバおっぱい。


「…………」


「ざっけんなよ! レールの件は許せるがそれはダメだ! 言え! さあ言うんだ! どう同じなんだ!? どうやったらその感覚が手に入るんだ!?」


 突然だんまりを決め込んだベーさんを再びシェイク。地面に擦ると喜ばれることはわかったので顔を掴んで空中ブンブン丸の刑に処す。


「うああ…ね、熱量が…桁違いです…」


 効果あり。ベーさんは苦しそうに停止を求めた。


 あとそれは言い過ぎだ。せいぜい同等だ。


 彼女に引かれたからというわけではないが、暴力では何も生まないと自分を見つめ直した俺は、もしかしたら気弱な子供なら号泣するかもしれない剣幕を収めてジッと待つ。ひたすら待つ。根競べだ。絶対負けない。


「やっぱり熱意が…違います…」


 だっておっぱいだし。空気圧やクッションでしか味わえない感触を、いつでもどこでもいくらでも楽しめるとか、全男性が発起する事象じゃないか。


「ぼっき?」


「ほっき。良いからさっさと話せ。その後でレールのことも話せ」


「めんどうくさいです…どちらか1つで…」


「じゃあおっぱい。レールは自分達で考えれば良いけど、今の一言しかヒントのない大地おっぱい理論は無理だ。これは言い訳じゃない。最高を目指すための合理的な取捨選択だ。迷わなかった理由も、この一瞬で何十という可能性を脳内で検討して選んだから。最初から決めてたわけじゃない」


「聞いてもいないのに自分から説明するのは…言い訳では…?」


 違うよ? 反論は出来ないけど違うよ? そうでないことを証明しろとか悪魔の証明じゃん。そんな酷いことさせるなんてベーさんは悪魔だ。悪魔の言葉に耳を貸すな。自分の信じる方の言うことを信じろ。


 というわけでLet's おっぱい。


「要は愛です。男性がおっぱいを愛するのと同じぐらい私は大地を愛しています。そして世の中というのは愛された分だけ愛してくれるもの。男性がパートナーを得るように、私は精霊の祝福を得ただけのこと」


「な、なるほど! ずっこけた時や横になった時に痛みを感じる俺は、まだその領域に達していないと!」


「そうです。私ぐらいになると相手の揺さぶり方次第で感触は如何様にも変化します。まさに無限おっぱい。世界中の女性の胸を自由に触る権利を得たのと同じことですよ。ちなみに今のルークさんの揺さぶり方は第二次性徴期の敏感おっぱいを彷彿とさせます。痛いけど嬉しい。これまで無かった柔らかさが増える喜び。将来への期待。エッチな目では見られたくないけど相手にされないのも嫌。友達にはドヤりたい。そんな複雑な感情が地面に擦れる度にヒシヒシと伝わり、そして湧き上がって来ます」


「いつになく饒舌に語りますね!? その力を少しでもこちらに向けていただけませんか!?」


 凄いし羨ましいが、『精霊の気分次第』というどうしようもない結論に落ち着いたこの雑談は、ベーさんの新たな一面を発見して幕を閉じた。


 有意義と言えば有意義だがなんか違う気がする。このままでは仲間達に怒られかねないので、流れで行けないかとワンチャン狙いで話を元に戻してみる。


「こちら…とは?」


「この鉄道模型が融合する説明と、そんなものを渡した理由だよッ! 物理法則がどうとか言いかけてただろ!!」


 当社比2倍になったレールを眼前に突きつける。


 しかしベーさんは先程までの熱意を完全に失っていた。


「もう良いと言ったんですけど…」


「いやだからいつまでも噛んだことを拗ねてないでさ。誰も笑ったりしてないだろ。大丈夫だって。ゆっくり言えば出来るって。俺も理解する努力するから一緒に語らおうぜ」


「………?」


 不思議そうな顔で地面にいくつものハテナを描くベーさん。言うまでもなく精霊達による自動書記。彼女はピクリとも動いていない。


 いつも以上に話が噛み合っていない気がする。


「私は…与えられた仕事をちゃんとこなしました…よ」


「…………あっ。もしかしてベーさんが言った『もう良い』ってのは、拒否や諦めの『もういい』じゃなくて、終了のお知らせの『もう良い』だったってことか!? これ以上伝えることがないから話は終わりだってことか!?」


「そうですが?」


「oh……」


 何を今更、と先程と同じぐらい不思議そうな顔で答えたベーさんから目を逸らし、天を仰いだ。


 そして、荒んだ心を洗い流すようにどこまでも広がっている青い空に感動し、思った通りにならない世の中に落胆し、希望を覚えた。


 それでこそ史上最大最高のクソゲーだ。やり込みたくなってしまうじゃないか。絶対無理なのにクリアとか目指しちゃうじゃないか。


「そしてまた…すれ違いを引き起こした自分の力の無さに落胆するんですね…」


「また? お前今またっつったか? 今回のはベーさんの責任の方が大きいからな? あのタイミングと言い方で勘違いするなって言う方が無理あるからな?

 そうならそうと最初からそう言えよ。なんで拗ねて投げ出した空気醸し出してんだよ。その後の発言も完全にそうだったじゃねーか。なんだよ、嫌になったらやめるとか。あんなの100人中100人が今がそうなんだなって思うぞ」


「他人の心を自分の都合の良いように解釈する人は嫌いです…」


 むしろ都合の悪いように解釈したんだけどな。まぁ極論は同じだけど。


「てかベーさんこそ自分の都合の良いように解釈してんじゃん。俺はまだ何も理解してないぞ。勝手にやり切った気になって話を終わらせるな」


「さっき言ったじゃないですか…嫌なことはしないって」


「自分だけは良いだとォ!?」


 流石だ。他人に厳しく自分に甘い人間はよく居るが、他人は絶対ダメなのに自分はOKという不平等条約を平然と締結するのは彼女達ぐらいだろう。


 すべては世界に甘やかされているからこそ出来ること。


 力こそ正義を体現している。


「まぁそれでも俺はやらせるけどな」


「リバースカードオープン…プラズマタイトのお礼」


 ベーさんの体がうつ伏せになる。天空を表とする人間的にはクローズだが、大地こそが表とする彼女的にはオープンだ。知らんけど。


(にしても……クソが。どんだけ説明したくないんだよ。感謝の気持ちを利用するなんて最低で卑怯なおこないだよ)


 しかしこれでは手が出せない。どうしよう。


「あれは素晴らしい物質です。レールはそのお礼です。フィーネさんやユキさんには止められているんですけど今回は特別にアドバイスしてあげましょう」


「そっち!?」


 奪う方ではなく与える方だった……。


 次のフェイズに進めそうだからオールオッケー。



「…え? ダメ? あ、そうですか」


「諦めんなよ! 一度決めたことだろ! 最後まで頑張れよ! 他人の意見に流されんなよ! てか誰だよそんなこと言ったヤツ! 出て来い!」


 うつ伏せのまま地面という名の糸電話を使って誰かと会話したかと思うと、ベーさんは次の瞬間、恐ろしい結論を導き出した。


 堪らず叫ぶ。


「最初のだけなら良いと…皆さんの総意らしいので私もたまには数の暴力に屈しようかと…怒られたくないですし…」


「そ、そうか……」


 自由民は自由民なりの苦労があるようだ。


「ちなみに却下されたのはどんな助力だったんだ?」


「リニア開発に必要な素材や機材を…全部」


「それは流石にアウトよ!?」


 あわよくばヒントを貰おうと思ったが、ベーさんはそんな俺の想いを吹き飛ばす一言をくれやがった。情緒も苦労もへったくれもない。あやうく一連の物語が全部無意味になるところだ。フィーネかユキか知らないがグッジョブ。




「レールもですけど…ルークさん達、理解出来ないことだらけで困ってるじゃないですか。でもその中でわかることもあります…レールの成分とかサイズとか…」


 ようやく関係のあることを話し始めたベーさん。しかし内容はイマイチ理解出来ない。実力不足を責められているのだろうか?


「本当に…わからないことを知る努力を…してますか?」


「どういうことだ? 意欲が足りないとかそういうことか?」


「あ~…実はそのレールはヒカリさんが作ったものではありません。ベルダンの人達が暇つぶしに土をコネコネして出来たものです。それを私にお願いされた精霊さん達が融合しただけ。特別な機能もありません」


「マジで!?」


「でも皆さんは千里眼の融合スキルという未知を経験してしまった。だからレールには自分達の知らない機能があると考えた。普通のオモチャを『未知』にした」


「た、たしかに、スノーバースで大活躍だったヒカリの力が再び使われたこれには、全員が何かあると思った。国宝みたいに扱ってたから調べ尽くせなかったし、気持ちの問題だから何年あってもあれ以上は調べなかったと思う」


「そう…今の皆さんは失敗を恐れて本来の力が出せていないんです…」


 なんということだ……気が付いたら実力が出せない状況に居たなんてバトル作品だけの展開かと思っていたが、まさかこんなスローライフでも起きるとは……。


 しかしそこまでわかれば解決は容易い。


「つまりプラズマタイトも壊れることを恐れずに全力で、それこそ壊す勢いでやれってことだな!」


「あ、いえ、あれは大事にしてください。1つ作るだけでも大変ですから」


 どっちやねん……というか何が言いたいねん……。



「物理法則を超えた力を手に入れたのに他で超えないのは何故なんですか? わからないことは全部理の外なんですから、越えて理解すれば良いじゃないですか」


「それは……」


 なんでだろ? やり過ぎると世界のバランスが崩れるから? 他の人が理解出来ないと意味ないから? 


 その答えは見つけるより早く彼女は話を再開した。


「レールという未知を理解してるんですから出来てはいるんです。やろうとしないだけなんです。理解しているのにわからないフリをしているだけなんです」


 たしかに融合した物体をレールと瞬時に判断出来た。その成分やサイズがどうなったかも理解出来た。ヒカリの力で生み出された未知の物質だったというのに。


 俺達は目に入るものを信じずに、自分達の思い描くものを信じていたのだ。


 勝手に難しくしていただけ。ややこしくしていただけ。


 こんがらがった糸を解いて、改めて世界と向き合えば、きっと未来は拓ける。

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