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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十七章 プロジェクトZ~研究者達~Ⅳ

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千二百五話 プラズマタイト

「これは……完全に丸投げされてるな、俺達に……」


 俺は、数秒前までパスカルの手の中で浮遊していた物質を凝視しながら、コーネルとパスカル、2人のお陰で得られた情報を一言でまとめた。


 普通の物質なら、状態や形状を維持しようとするのでエネルギーは受け流されるし、何かしらの形で干渉したなら集めたり寄ったりする。しかしプラズマタイトは与えられたまま跳ね返す。こんなスカスカで縁も無いのに筒のように注入された分だけ吐き出す。他には一切干渉しないし、させない。例えば反射したビーム(?)をニーナに当ててもモフモフにはならなかった。逆も然り。


 プラズマ限定で反応する謎物質だ。


「斜めから当てても運動エネルギーは一切逸れずに垂直反射し、端に当てると範囲内か外かでエネルギーが切断されたように0か100の反応。浮いたり動くだけの力があればそうなるし、なければ無視される。当然ひっくり返ったりもしない……無茶苦茶だ。物理法則を完全に無視している」


 物質のプロフェッショナルにして第一犠牲者……ではなく第一の功労者、コーネルが、常識破りのプラズマタイトに批難に近い感想を述べる。


 仕方あるまい。これまでに培った知識が一切役に立たないと言われたようなものだ。やり甲斐もあるが、こんなものが存在して良いのかという不満もあるだろう。


「俺達使用者の力を試してるよな。『好きにさせてやるから使いこなせるもんなら使いこなしてみろ』的な。世界か神か自分自身かは知らないけどさ」


「随分と他人事だな、製作者」


「あたるなよ。本当のこと言っただけだろ。製作に関しても意図しない言動がヒントになっただけで俺は何もしてない。コーネルに嫌がらせをするためにこんな性能にしたわけでもない。これは最善を尽くした結果。オンリーワンは受け入れろ」


「そんなことはわかっている。どれだけ理不尽だろうと存在している以上は認めるしかない。しかし未知のまま受け入れることは出来ない」


「そりゃそうだ。それまで受け入れたら研究者じゃなくなる」


 今のままでもリニアの移動力として十分使えそうだが、このプラズマタイトを調べることは、関連品を探す上でも必要なこと。是非とも調べてもらいたい。


「……? ルーク君は調べないの?」


「調べるよ。ただちょっと面白いこと思いついたから別方向からアプローチしてみようかなって。具体的にはプラズマタイトの相方を作る」


 久しぶりに転生者っぽいところ見せてやりますかね。ニヤニヤ。


「奇遇。私も同じことを思ってた」


「ほほぉ~。ではどちらのアイディアがより良い結果を生むか試してみようじゃないか。イブのプラズマで」


「わかった」


 使い方を一歩誤ればクズ男だがこれは大丈夫のはず。誰も損していない。お前の力は俺のもの。俺の力はお前のもの。そんな譲り合い精神がここにはある。


 どうせ説明するしな。




 本日最後にして総括となるイブのプラズマ利用は、まず本人のアイディアから始まった。


 これまでと同様に、非常に持ちやすい形をした青色鉱石を掴み、プラズマを付与し、プラズマタイトはその特性によって浮遊。彼女はそこにとある力を与えた。


「じゅ、重力だとぉぉ!?」


「なんだ? まさかルークも同じことをやろうとしていたのか?」


 俺の驚きようから何かを察したコーネルがすかさず尋ねて来る。俺は肯定の意として大きくコクリと頷き、そのまま説明に入った。


「プラズマタイトは電子を弾く存在。これは地球……じゃなくてニッポンにおけるニュートリノに近いものだ。

 中性微子とも言って、電磁相互作用がなく、重力相互作用でしか反応しない物質で、正確には相互作用の強弱もあるけどそれは質量を0とする場合で、電荷を持たない粒子『反粒子』だらけのアルディアでは粒子と衝突しても対消滅を起きず、質量がエネルギーに変換されることもない。こっちではエネルギーは生物や精霊の想いによって生まれるもんだからな。

 そしてもう1つ違うのは、その仕組みが物理法則ではなく物質の形状によって生まれるってこと。人工的に生み出したものでしか起きない事象。ぶっちゃけ鍛冶だな。ノミド達は重力じゃなくて土と腕力だったけど、突き詰めれば同じようなもんだし、重力魔術を使えば何か出来るんじゃないかな~と思ったわけよ」


 ひとしきり話し終えた俺は、次はそちらのターンと主張するようにイブを見つめる。


「大体一緒。私はルーク君みたいに異世界の知識を持ってないから、特殊五行習得の時に学んだ引力と斥力でその考えに辿り着いた」


「おおっ、パスカルのアレか! 力は神降ろし専用でもそこで得た知識や経験は他でも役に立つ! 素晴らしい発見と着眼点ですぞぉ!」


 ニーナなら間違いなく『むふーっ』と鼻の穴を大きくしていたところだが、イブは沈着冷静だった。何故そんなテンションなのか尋ねたそうにしている。


 が、それも一瞬のこと。


 彼女はさらに話を続けた。


「あと『時』と『無』の力で見た別世界の波とか、コーネル君達の錬金とか、現実世界と精霊界を繋げる特異点の力場とか、プラズマタイトを形成する力と関係ありそうなものが目白押しだから」


「あ、あのぉ……もしかしてですけど、イブさん、この物質の解析もう終わってたりします?」


「さっきまでとテンションの差が凄い」


「ね~」


 だまらっしゃい。話について来れなくて暇だからってここぞとばかりに弄りに徹するんじゃありません。


 心も体も子供の2人を視線と意識の外に置き、今度こそ回答を求めると、


「全然。プラズマを拒絶する世界の仕組みから逆算しただけ」


「あ~、なるほど~。俺達はわからないものを片っ端から足し算してたけど、イブは知り尽くしたものを引き算したわけか~。それなら異物だけが残るもんね。発想の転換だね……って凄くない? ねぇ?」


「あ、ああ……」


「そう……ですね……」


 同意を求めるとコーネルとパスカルがぽかんとした顔のまま頷いた。


 わかりやすいように言っただけで実際そんな簡単なものではないのだ。普通はそれが出来ないので足し算をしている。それしか仕組みを調べる方法がないから。


 むしろ俺のせいでニーナとイヨに伝わってなくてゴメン。後でよ~く言っておく。無駄だろうけど。




「で、俺達の予想通りプラズマタイトには重力相互作用があって、さらなる浮力と推進力を得ることが出来たわけだけど……未知が増えたな」


 イブが下からプラズマを放出するだけの、急ごしらえ過ぎて線路とも呼べない木の枠の中を行ったり来たりするプラズマタイトを眺めながら、俺は溜息をついた。


 何もわからないのに順調に進み過ぎている。怖い。


「え~っと、俺は明日から重力魔術でどのぐらいのエネルギーを得られるのか調べて行こうと思うけど、コーネル達はどうする? 出来れば解析を後回しにして協力してもらいたいけど」


「仕方ないな。僕もここでノーと言うほど自分勝手な人間ではない。手掛かりになればと思ったが、今は使えるであろう技術の調査が先だ。さらに出力を上げ、動力が確保することが出来れば、リニアモーターカーは完成したと言っても過言ではない」


「あたしもです」


 が、それでも進むしかない。どこかに落とし穴がないことを祈りつつ、見つけた時に塞いだり避けたりする手段を探すことが、試行錯誤というものだ。


 次々に増える課題に嬉しい悲鳴をあげ、一致団結していると、コンコンと部屋の扉が叩かれた。


「どうしたヒカリ。珍しいじゃないか」


 ニーナの代わりにウェイトレス業に励んでいるはずの彼女が、何故こんな時間に、こんなところへ?


 例え強者並みに気配を消していても相手が獣人なら察知することは容易いが、目的まではわからないので尋ねる。本気を出せば余裕だけどね。知らない方が楽しいし。やり過ぎると引かれるし。


「なんでわかるかなぁ……」


 ヒカリは呆れ顔で何かを差し出してきた。


「これ、ベルちゃんから」


 ベルちゃん。本名ベルフェゴール。


 あの怠惰のことをそう呼ぶのは、ごく一部のコミュ力高めの気さくな少女だけだが、それはともかく動かざることベーの如しと名高いグータラからの贈り物とは一体……。


 茶色い字で『ベ』と書かれた分厚い茶色の袋(見づらいのはこの際置いておこう)を開けると、


「……袋だな」


「ベタなボケだね」


 1枚目より手抜き感の強い無地の茶色の袋が現れた。厚みが軽減されて形状が若干わかるようになった。硬い。そして手のひらサイズだ。


「そういうってことはヒカリも中身知らないのか?」


 無駄に硬く縛られた袋に四苦八苦しながら時間稼ぎ。


 あまりプライドの高い方ではないが何故か知られるのは恥ずかしい。しょーもないことだから余計なのかも。こんなことすら出来ないのかみたいな自己嫌悪とか。


「途中までは知ってるって感じかな。指示された通りに作って預けて、3日後に完成したって呼ばれてその袋を受け取って、今だから」


「預けたってベーさんに?」


「ううん。ゴーレムちゃんに。指示もベルダンの人達が多かったかな。『あー』とか『んー』とかチョッカイに近い指示はあったけど」


 十分過ぎる。


 何故ならそれが怠惰という存在だから。


 しかも渡したのはベーさん……つまりわざわざ受け取っている。これは臭いますな。


「その時は何を作ってたんだ?」


「わかんない。属性も成分も魔力の流れもバラバラで全然理解出来なかった」


 ふむ……まるでプラズマタイトのようだ。


 そしてようやく結びを解けた。


「これでリニアに関係なかったらキレるけど良いよな?」


「渡したのがフィーネちゃんだったら良いと思うけど、ベルちゃんだよ? ユキベルを信じるなんて自殺行為と一緒だよ?」


 たしかに。入っているのがその辺で拾った石ころでもおかしくない。皆の顔もそう言っている。コーネルやパスカルは会ったことがないはずだが、ヒカリがユキと同列で扱った瞬間に、何かを理解したようだった。


 というわけで俺は何一つ期待せずに袋を開けた。


 むしろ役立つアイテムだったら驚くね。

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