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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十六章 プロジェクトZ~研究者達~Ⅲ

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千二百四話 調査開始

「お前等ッ、待たせたなぁぁーー!!」


 ドワーフ達と協力して作り出したプラズマを弾く物質『プラズマタイト』および数点の失敗作を研究所に持ち帰った俺は、仲間達が待つ成分分析室に飛び込んだ。


「見てくれよ、これ! なんと1日で成功しちゃったぜ!」


 そのままのテンションで机の上に研究素材を並べていく。


 綺麗に整頓されていた机はあっという間に散らかった。本人にとっては配置でも他者にとってはそう受け取られることが多々ある。理不尽な世の中だ。


 俺ほどのハイテンションにはなるのは難しいらしく、勢いの欠片もないニーナは少し遅れて入室。俺を標準とした場合『トボトボ』と表現するべき足取りである。


 そして彼女はポツリと呟いた。


「……誰も居ない」


 そう、この部屋には今俺達しか居ない。


 俺達というのは、俺とニーナとイヨの3人。全員プラズマタイトの誕生の瞬間に立ち会っている。説明する意味はない。待たせてもいない。


「まぁ戻る前に連絡するって言ってあったしな。そして驚かせようと思って連絡はしてない。各自の研究室にいるだろうな」


「何故?」


「バカなの?」


 質問は良いけど批判はいけません。ニーナの疑問とイヨの蛮行を一挙解決するべく、俺は配置する手を止めて2人を見つめた。


「バカはお前だ、バカめ。感情を表に出すことに意味なんて求めるな。自分自身のためにもなるし、世界に『俺は今メチャクチャ楽しいです』って伝えることは素晴らしいことだ。例えお前等がいなかったとしても俺は1人でやってたぞ」


「だとしてもれんらくはしなさいよ。どうせ今からあつめるんでしょ。時間のムダじゃない」


「ふっ、甘いな! お前よくそれでエルフ名乗れてるな! 今の呼びかけがイブ達への連絡になってたんだよ! 皆すぐ来るぞ!」


「いや、だから、わざわざそんなことしなくてもケータイがあるんだから移動中にれんらくしておけば良かったじゃないって。あと種族は名乗るものじゃないから。誰になんと言われようとわたしはエルフよ」


 …………プラズマタイト誕生の瞬間、そしてプラズマ付与の実験に立ち会ったというのに、何一つ意見を述べなかった彼女達にも一応同席していただくつもりだ。


 まぁこちらから頼んだわけではなく、どうするか尋ねたところ「暇だから」という研究メンバーとは思えない発言が飛び出し、何かあっても自力で対処も出来る上に邪魔になるわけでもないので断らなかっただけなのだが。


 難しい話は右から左へ聞き流して(というかシャットアウトして)、視覚的・感覚的に不思議を楽しみつもりなのだろう。科学館と一緒だ。


「無視した」


「むししたわね」


 うるせぇ、うるせぇ、人生には非効率が必要な時もあるんだよ。


 今がそうだ。


 ノリ以外の理由なんて思いつかないけどたぶんそうだ。




「これ以上は時間の無駄だな。この物質……いや、加工品に特別な部分はない。何がプラズマに作用しているのかは実際に付与してみなければわからないだろう」


 事後報告がいけなかったらしく、ぜぇぜぇと肩で息をしながら現れた仲間達は、ちょっとしたお茶目に全力で苦言を呈し(コーネルだけだが)、しかし目の前の成功例を蔑ろにすることは出来なかったようで一言二言で終わり、早速調査に乗り出した。もちろん説明はさせられた。


 ただ、世界最新の設備と最高の頭脳をもってしても、やはりプラズマタイトを解析することは出来なかった。


「だと思ったよ。俺やドワーフ達でもわからないのに魔道具ごときで調べてわかるはずないんだよ。そんなんでわかったら苦労しねえよ」


「…………そうだな」


 研究者&魔道具開発者として色々言いたいことはあるようだが、コーネルはそれ等をすべて飲み込み、雪の結晶を模した青色鉱石に手を伸ばした。


 わたくし、こう見えても世界最高の能力者なんですわ。研究限定の。もう一度言う。研究限定の。知るための力に秀でています。物質の加工なんかも得意です。


 そんな保身はさて置き、実際に付与とはそのままの意味。


 俺もまさか1日で完成するとは思っていなかったが、念のために彼等にはプラズマの使用を控えてもらっている。完成しなかったとしても研究は出来るし、完成したらしたで俺だけでは試しきれなかったあれやそれやを調べられるからな。


 ――の前に。


「あ~、これの扱いなんだけどな。ドワーフ達と話し合った結果、今後『物質』で行こうってことになった。たしかに加工してこの形にしないとプラズマに作用しないけど、自然界に存在しない化学物質で、他の使い道も見つかってないから、全部ひっくるめてプラズマタイトっていう『物質』ってことで落ち着いたんだ」


「プラズマタイトの他の使い道、あるいはプラズマを弾く他の方法が見つかったらどうするつもりだ?」


「見つかった時に考えれば良いだろ。ロア商会の技術の粋を集めたすんばらしい魔道具で調べて解析出来なかったものを、他の連中にどうにか出来るとは思えないけどな」


「………………そうだな」


 身の回りの序列と、俺の言い方と、世界に対して不満のあるような顔をしているコーネルは後で相談に乗ってやることにして、彼の心配しているようなことは少なくとも俺が生きている間はないだろう。


 プラズマを弾く物質も同じ。俺達があれだけ試してダメだったものをアッサリ生み出せるわけないだろ。いい加減にしろ。強者じゃあるまいし。


 ………………。


 …………。


 強者じゃあるまいし(チラッ)。




「まずは僕達でも機能するかだな」


 意気込みながらコーネルは手の平にプラズマを宿した。


 プラズマは未知の力。


 個々に特色があったとしても不思議ではない。不思議ではないが……影響をもろに受けるニーナの体毛は誰の力でも同じようにモフモフになり、同じ方法で対策出来ている。今のところ差と呼べるものは存在していない。大丈夫なはずだ。


 ……え? 純水? あれは影響じゃないぞ。関わらないことを決めた精霊達の抗議が水面の波紋となって表れているだけ。やり過ぎると怒られる。前にも言ったがプラズマとは百合の間に割って入る男のような存在なのだ。


「それってよーするに精霊がプラズマのこと認識できてるんじゃないの?」


「まぁ嫌悪感を認識って呼ぶならそうなんだろうな。でも『なんか嫌』を説明しろって言われても出来ないだろ? その時の心や体の変化を他人に伝えるなんて誰にも説明出来ないだろ? ニオイとかと違って数字や例え話に出来るもんでもないしさ」


「たしかに!」


 認識はしていないが拒絶反応が起きる。しかも本人が拒絶反応が起きていることに気付かないレベルで。


 そもそも精神体の精霊や無意識の集合体である微精霊が、何をどう感じているかなんて誰にもわかりはしないのだ。どうしろと?


(精霊王以外なぁ~……)


(くっ……殺せっ!)


 とか言いながら現れないのは卑怯じゃな~い?


「ふむ……たしかに弾いているな」


「なっ!?」


 声に反応して振り向くと、こちらを無視して作業を進めていたコーネルの手の中で、プラズマタイトがバチバチと激しい音を立てて浮遊していた。


「言えよー。やるならやるって言ってからにしろよー。俺を置いて始めるなよー」


 仲間意識の欠片もない自己中心的な同僚を批難するのは当然と言えた。


 ハブられた気分だよ! まったく! スルーされたり自分抜きで話を進められるのは慣れっこだけど、それは日常で、大事な場面では初めてだよ! おこだよ!


「この状況で集中していない方が悪い。それよりどうなんだ? これはルークの時と同じ反応なのか?」


「あー、はいはい、そうですねー、時間ギリギリだったから1回しか試せてませんけど同じ感じがしますねー。その原理が車体を浮かせる仕組みに使えそうなので、持続時間とエネルギー減少率および変化率、プラズマ同時使用した際のエネルギー反射量なんかも調べて、車体とレールのどっちに採用するか知りたいですねー」


 はい、これが有能な人がやることですよ。拗ねながらも意見を落とす。参考になりそうな情報を提供する。自分の精神状態より仕事を優先することが大事。


 やるべきことを箇条書きにして全員にわかりやすい形で共有したり、実験結果や数値を資料として残すのも忘れてはいけない。ペンとノート必須。


「そもそもこの程度のことで拗ねるな。自業自得だろう」


 ですよねー。


 正当化ついでに説明も入れてみたけど逆効果だったみたいです。皆さんは気を付けましょう。ぼくは出来たらやります。

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