表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十六章 プロジェクトZ~研究者達~Ⅲ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1459/1659

外伝40 冒険者の心得

「まぁまぁ、そう落ち込まないでください。良いじゃないですか、貴重な体験をしたことに変わりはないんです。ポジティブに考えましょう。力は誰かに与えられるものではなく自分自身で磨くもの。努力のし甲斐があるじゃないですか」


「アンタが期待させるようなこと言うからでしょ!!」


 アッシュとの決戦予定地、中級者向けダンジョンの最下層、カエル系魔獣ケロミットの群生地、精霊が作り出した大自然、事件現場。


 表現の仕方は様々だが、世界一周旅行から帰還したアリシア一行は、自分達の体の異常を調べるついでに、本当にダンジョンが修繕されているか確かめるべく、そこへ潜っていた。


 今はその帰り道。


 ピンキーとアリシアの発言からもわかるように、道中の戦闘はもちろん、強度確認のためにおこなったアリシアvsアッシュの手加減無しの決戦でも能力の向上は見られなかった。


 本人は慰めているつもりのようだが、何の根拠もなく期待させた上、反省よりも自己正当化に励んでいる(少なくともアリシアはそう感じている)ので、煽りにしかなっていない。


「他人の言葉に踊らされるなんて、いつからアリシアはそんなダメ人間になったんですか! ガッカリですよ! そういう自分で決定権を持たない人って、失敗は他人のせいにして、成功は自分の手柄にするんですよ!? 決めたのは自分でしょう!? あの最下層がどうなっているのか確認すると決めたのも、特別なことをしたから特別な力を得たと思ったのも、アッシュさんに勝てなかったのも、ぜ~んぶ自分です!! 自分のせいなんです!! 自分へのご褒美も罰も公平に与えるべきなんです!! 楽しようとしないでください!!」


 そんなアリシアの気持ちを察したのだろう。ピンキーが突然声を荒げた。さらに早口でまくし立てる。


 たしかに、異常を調べるなら病院に行くなり知り合いの強者を頼るなりすれば良いし、実践するにしても初心者向けダンジョンや誰かに立ち会ってもらうべきだ。


 それを「人が少なくてやりたい放題のあそこなら実力確認にうってつけですよ。アッシュさんとの決戦も有耶無耶になっていましたし、ボスもまだ倒していません。土地の確認も出来て二度おいしいです。さらにさらに、ここはレギオン洞窟より魔獣の復活が早いので、勇者様御一考に討伐され尽くしているかもしれないあちらと違って、確実に戦闘が出来ます。これって一石何鳥でしょうね」というピンキーの進言に従うと決めたのは間違いなく彼女自身。


 代案や検査方法を考えるのが面倒臭かったにしても、欲求に従って進むべき道を決めたのは、アリシア=オルブライトなのだ。


「さあっ、わかったら謝ってください! 進言しただけの私に謝ってください!」


「地上に戻るまでず~っと『絶対凄い力授かってますって』『今なら古龍も倒せるかもしれませんよ』って言い続けるアレのどこが進言よ。ほとんど洗脳じゃない」


 そちらがその気ならと、アリシアは別件(というか前段階)で迷惑を掛けられたことに対する謝罪を要求した。責任転嫁の謝罪をして欲しいならまず誠意を見せろと言っているのだ。


「それこそ責任転嫁では?」


「ふざけんじゃないわよ。立派な正当防衛でしょ。迷惑を掛けられたの私だけじゃないし」


 眉をひそめるピンキーを睨みつけたアリシアは、そのまま周りに視線を向ける。


「グルルル」

(最深部なら僕とパックさんで調べてきますって進言も無視しましたよね)


「しばらく戦闘は控えて様子を見ようって僕の安全策にもダメ出ししたよね。まぁこれはアッシュとアリシアもだけど」


「動けなくなってた俺に、治療とか言いながら調査目的の淫術掛けたことも忘れてねぇからな」


 それを合図に一同は次々にピンキーへの不満を口にする。さらにトドメとばかりにアリシアは「ほらね」と肩を竦めてみせる。


 どっちもどっちだった。


「ふっ……少数派にとって民主主義が意見を聞き入れない悪であるように、私も自分の正義のためにそうせざるを得なかったんですよ……。信念を貫くためには時には悪も必要なんです。わかって、くれますね?」


「「「黙れ」」」




 お互いが納得するまで話し合った結果、『信念をねじ曲げられた方が悪い』という謎の結論に至った一同は、どちらも謝罪することなく話題を終えた。


 社会でよくある『平行線』とはおそらく別の結末だが、具体的にどこがどう違うのかと聞かれれば「き、気持ち……?」としか言いようがない。


「ところでアッシュさん達は本当にレギオン洞窟に潜るつもりはないんですか?」


 とにかく一同の中では一件落着した直後、再びピンキーが話の主導権を握った。


「初対面の時に言ってましたよね。実力が足りていないから様子見もしない、と。

 結果、安全志向とアリシアさんに罵られて図星であるが故に激怒し、何の意味もなく対象を世界最難関ダンジョンからアリシアに変えて決戦するに至ったわけですが、それは方向性の違いによって起きたことであって踏破する実力がないことは認めていました。

 ではもし実力があれば挑む気はあるのか、またそれはどの程度の実力なのか、皆さんの冒険者としての考えをお聞きしたいんですけど……」


「よし、わかった。お前嫌いだ」


 淡々と喧嘩を売り続ける上、演技感たっぷりに申し出という名の挑発をおこなうピンキーに対し、アッシュは背負っている盾よりも頑丈な心の壁を構築する。


「好みの問題ではありませんよ。私が聞いているのでやるかやらないかです。まさか、本当はいつか挑むつもりだったけど妖精1人の発言によってその想いは消え失せた、などということはありませんよね?」


「ピンキー、アンタどうしたのよ? なんでそんなにアッシュ達の動向に興味持ってるわけ?」


「え? だって気になりません? アリシアと引き分ける実力者ですよ? 片方は将来のための下見をするのに、もう片方は展望すら語ろうとしないなんて、彼等は何のためにそれだけの力を身につけ、今後その力で何を成したいのか、聞いてみたいじゃないですか」


 出会って半日。


 時間にすれば大したことはないが、一生忘れられないほど濃厚な時間を過ごしている。にもかかわらずピンキーには未だに彼等の本心が見えなかった。


 そして、彼女がおこなったこの質問こそ、アッシュ達の行動理念をハッキリさせるものだった。


「それは……まぁ……」


「ちなみに私は『守るため』だと思っています。それが最も顕著だったのはアッシュさん。ダメージ軽減の結界があれば危険を冒してでも勝利を取りに来ますが、なければ保守的な立ち回りになり、龍脈に流されるような勝利も敗北もない状況では打開よりも防御に徹していました。様子見ではなく仲間達と結界内に閉じこもっていました。安全第一。それがあなた方の行動理念であるように感じました」


「おかしいかな? 普通だと思うんだけど?」


 アッシュではいつまで経っても話が進まないと、チーム一の頭脳派レインが対応に出た。彼女の考えを肯定した上で質問を返す。


 アッシュも譲る気満々だったらしく一切口を挟まない。ピンキーの説明で納得したアリシアも、他の面々も、傍観を選んだ。2人だけの会話が始まった。


「『普通』なら冒険者にはなりませんし、それほどの力も身につけませんよ。安泰が欲しければ兵士にでもなれば良いでしょう。世界を見て回りたければ護衛や旅人に。衣食住に困らない程度に戦うだけで良いはずです。それなのにあなた方は金と力と栄誉を求めてダンジョンに潜っている。色々と矛盾していますよ」


「…………はぁ」


 何かを吐き出すように大きく息を吐いたレインは、仲間達に視線を向け、アッシュには首を傾げられたがマールには頷いてもらえたので頷き返し、改めて空中に留まっているピンキーを直視。


「わかったよ。一緒に潜れば良いんでしょ、レギオン洞窟に。ただし今回だけだよ」


「助かります」


 そして交わされる握手。


「どういうこと!? 今の一瞬で何があったの!?」


「本当にアリシアは話の展開を読むのが苦手ですね……ってアッシュさんもですか。良いでしょう。説明してあげますよ。レインさんが」


「え? 僕? まぁ良いけど……どうせアッシュのために後で説明するつもりだったし」


 突然丸投げされたレインだが、すぐに気を取り直して説明を始めた。


「えっと、アッシュとマールは知ってるけど、僕達のモットーはピンキーの言うように守ること。力をつけた理由は困ってる人を助けるため。これはフィーネさんとユキさんとの約束以上に僕達がしたいからそうしてる。大切な人のために懸ける命はあるけど、記録のために懸ける命はない。誰も救えないなら戦う必要はないと思ってるんだ」


「当然ね。私もそうだし」


「「「え?」」」


 全員から、近くを漂っている精霊や遥か彼方で様子を窺っていた強者も含め全員からツッコミが入る。


 が、アリシアは気にしない。


「それがなんで一緒にダンジョンに挑戦するなんてことになるのよ?」


「僕達が知り合いだからだよ。アリシアやクロとは前から知り合いだったし、フィーネさん達への恩もある。つまり守るべき大切な人だ。助けを求められたら手伝わざるを得ない。もちろん無茶しない範囲でね」


「じゃあなに? 私達が弱いから保護しようってこと? そんなのお断りよ!」


「俺もだ! お断りだ!」


 説明を終えると同時に、契約内容を理解した2人から不満の声があがる。


「私達の目的は下見よ! 他のヤツの力なんか借りても意味ないでしょ! だからこそカイザー達の後を追わなかったわけだし!」


「アリシア。下見とは今の実力でどこまで通用するか調べるだけではありません。必要となる戦力の把握も重要なのですよ。アッシュさん達の力を借りれば1歩も2歩も先の景色を見れるんです。戦い方を学べるんです。戦略を増やせるんです」


「うっ……で、でも……」


「金で雇ったわけでも、圧倒的実力者の力を借りるわけでもありません。あくまでも主役は私達です。ずっとではなく今だけです。手に入れるべき力を知るためにも必要なことなんです。それに一緒に過ごすことで顕現する力もあるかもしれませんよ。龍脈の時のように。楽しみを増やすためと思っておきましょう」


「……し、仕方ないわね」


 アリシア撃沈。



「ハッ、なっさけねーなぁ! 信念の欠片もありゃしねえ! 俺はそんな戯言には動かされないぜ! 俺達は俺達のやりたいようにやる! テメェらは勝手に――」


 アッシュは、言葉巧み(?)に説得されて裏切る道を選んだ元同志を鼻で笑いながら自身の強さを主張し、説得しに来るであろうピンキーとレインを睨みつける。


 が、攻撃は予期せぬ方向から放たれた。


「やる」


「マ、マール……?」


「やる」


「い、いや、あいつ等の身勝手に付き合う義理なんて――」


「やる」


「……今回だけだからな」


 アッシュ撃沈。


 双剣士マール。チーム一の突破力を持つ紅一点だが、その力は戦闘以外にも発揮されるらしい。端的に言えば頑固で抗議や弁論を一切受け付けないことがある。


 こうして世界最難関ダンジョンの下見に挑む、世界最高かもしれないチームは、一時的に結成されたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ