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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十六章 プロジェクトZ~研究者達~Ⅲ

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外伝39 突然の再会

 セイルーン王国から遠く離れたレギオン連合国で冒険していたアリシアは、ひょんなことから宿敵とダンジョンに潜ることになり、度重なる不幸に見舞われ、一部仲間を残して下へ下へと落ちていく。


 中級者向けダンジョンの下には窮屈な洞窟があり、洞窟の下には地底に生息する魔獣の棲み家があり、棲み家の下には未開のダンジョンがあり、そのダンジョンの下には深層と呼ばれる猛者のみが存在することを許された空間があった。


 あった。過去形だ。


 そしてアリシア達を表す言葉は『落ちていく』。現在進行形。


「「「うわああああああああああ!!」」」


 いともたやすく人類最強の攻撃手段を跳ね返す古龍を別の古龍とぶつけて注意を逸らしたまでは良かったが、逃げている最中に突然地面が輝き出し、一行はさらに下へと落ちていた。


 実際は落ちているかすら定かではないが、ここで重要なのは当人達がどう感じているか。


 これまでのように地面が割けて重力で惑星の中心へと引き寄せられているのであれば『落下』だろうが、今回の原因は不自然な力によるもので、向かっているのは引力の働いていない場所。


 しかしそれを伝えたところでどうにかなるわけではない。


 周囲の空間が歪んでいるせいで重力の感覚はなくなり、時間の感覚は狂い、自分がどこに居るのかもわからない状況だ。急上昇や旋回だったとしてもおかしくはない。浮遊や静止の可能性すらある。


 ならば結果がわかるまで彼等の意思を尊重しようではないか。



「うっ、ここは……」


 そんな時間がどのくらい続いただろう。


 目の前が閃光に包まれたかと思うと、アリシア達の体にありとあらゆる感覚が戻ってくる。どこかに辿り着いたようだ。


「ア、アリシア様……?」


「え? フィーネ? なんでここに?」


 声のする方を振り向くと、そこには幼少期から世話になっている有能メイドが、珍しく、本当に珍しく狼狽した表情で立っていた。


 用事があって他国を訪れたのだろうと、偶然の再会に驚いたアリシアとは比べものにならない驚きようだ。何でも知っていて戸惑うことがほとんどないフィーネの様子の方が、アリシアにとっては驚愕に値した。


 彼女の後ろ……というかアリシア達が立っている場所は、最近何かと接点のある洞窟。特別な力が宿っている感じはしないのでダンジョンではないはず。自然発生した穴であればアリシアが知る中で最も広大だ。


 そんな場所で彼女は何をしていたのか。


 そして何が彼女をそこまで動揺させているのか。


 尋ねようにもフィーネはまるで間合いを探るようにこちらを観察している。下手に動けば死ぬかもしれない。アリシアの冒険者としての勘がそう言っていた。


 だからこそ迂闊に動けない。


「よっ。久しぶりだな。こんなところで何してんだよ。つーかどこだよ、ここ」


 そんな2人を他所に、アッシュがいつも通り気楽に、そして生意気な口調で尋ねた。恩人だろうと関係ないらしい。


「え、ええ……お久しぶりですね。6年前に王都でアリシア様を襲撃されて以来でしょうか。3人とも見違えるほど強くなりましたね。努力を怠っていないようで何よりです」


 一瞬で気持ちを切り替えたフィーネは、今日まで成長し続けた生徒達に再会の喜びと称賛を送り、優しく微笑む。


「アナタとユキさんのお陰です。あの時、生きる術を教えていただかなければ、今の僕達はなかった。本当にありがとうございます」


「感謝」


 レインは、もはや義務になりつつあるかつての礼と現状報告をおこない、マールと共に深々と頭を下げる。こればかりはとアッシュも2人にならってきちんとした姿勢で礼儀正しく頭を下げる。


「私は切っ掛けを与えたに過ぎません。努力されたのは皆さんです。どうか誇ってください」


 と、社交辞令に近い挨拶もそこそこに本題へ。



「私の勘が正しければアリシア様は少し前までレギオン連合国で修行されていたはずですが、どのようにして一瞬でセイルーン王国へ?」


 勘と呼ぶにはあまりにも正確な情報で、正しいも何もないのだが、本人がしらばくれている以上何を言っても無駄だろうと全員がスルー。


 注目対象を別に移した。


「ここってセイルーン王国なの? 私達そんなところまで落ちてきたの?」


「正確にはヨシュアと王都の中間地点の地下ですね。ルーク様達が取り掛かられている計画の件で少々」


 これまた誰も気にしない。いつものことだ。


「それよりも、落ちた……ですか」


「ええ。ダンジョンに潜ってたら崩落とか爆発とか閃光とか色んな理由や方法で下に落ち続けたのよ。最後は古龍から逃げてたら地面がブワーって光り出して、永遠に落ち続ける感覚があって、気が付いたらここに立ってたってわけ」


「…………」


「……? どうしたのよ、そんな顔して?」


「あ、いえ、ではクロとはその時にはぐれたのですね」


 求められた説明をおこなったはずなのに、フィーネはかつてないほど真剣な様子で自分を凝視してきた。不審に思い理由を尋ねるも、彼女は何でもないと言わんばかりに首を横に振り、次なる話題へ。


「もう1人の仲間ともね」


 自分にはわからない次元で原因を調査していたのかもしれないと、その提案を受け入れたアリシアは、既に知っていそうだが一応の気持ちでパーティメンバーが増えたことを伝えた。


「ど~も~。役立たずの妖精パックと違って最後までアリシアの傍に居続けたピンキーと申します。優秀です。以後お見知りおきを」


 ここしかないとアリシアの肩から飛び出して自己紹介をおこなうピンキー。ひと目でフィーネのヤバ……オッホン! 実力に気付いたのようだ。


 当然、からかったり淫術を掛けるような真似もしない。


「フィーネは何か知ってる? 帰る方法とか、原因とか、対処法とか、オススメの修行方法とか。あんまり待たせるのも悪いから急いで帰りたいんだけど。もし無理なら『急いで帰るから』ってクロに伝えておいてもらえると助かるわ。心配してるだろうし、そのせいで修行時間が無くなるのは許せないから」


 アリシアは2人の挨拶が終わるのを待ち、改めて状況確認に入る。普段なら確信をもって尋ねるが、今回は最初のリアクションのお陰で疑問形にならざるを得ない。


「原因と対処法はわかりかねますが、レギオン連合国へ戻る方法なら……行けそうですね」


 地面を見つめること数秒。フィーネは自身の案が使えることを確信し、進言した。


「どうやら皆さんは龍脈に飲み込まれて世界を巡ってしまったようです。そして穴はまだ閉じていません。私の力で皆さんを元居た場所まで流します。お元気で」


「ちょ、ちょっと待ってくれ! 話について行けないんだが!?」


 ロクな説明もないままよくわからない空間に放り込まれようとしている。アッシュでなくとも叫びたくもなるだろう。


「急がなければ閉じてしまいますよ。今は大人しく受け入れてください。そして忘れてください。1000年に一度も起こらないような不幸な事故が重なっただけです」


「そんな貴重な体験してたの!?」


「そうですよ、アリシア様。もしかしたら人類初かもしれません。そしてこれだけは忠告しておきます。流されている間は絶対に力を使わないでください。良いですか。絶対に使ってはいけませんよ。強くなりたいと願うこともダメです」


「うっ……も、もうやっちゃってたとしたら……?」


 考えるよりまずやってみようの精神のアリシアが、落下に抗うために魔力を発動したり、あの古龍に勝つためには不思議空間で修行したら効果良いかもと考えるのは、当然と言えた。


「ではすべて絞り出していただきます。皆さんもですよ」


 気まずそうな顔をしているのがアリシアだけでないことからすべてを察したフィーネは、唯一平然としていたピンキー以外の全員に命じる。


 彼女は余計なことをしていなかったらしい。


「フィーネと戦うってこと!?」


「違います。今から私が大地に魔法陣を刻むので、発動するまで魔力を籠め続けるんですよ。発動しなくても構いません。大切なのは皆さんの体に宿っているかもしれない未知を使い果たすことです」


 嬉々として尋ねてくるアリシアを一蹴。空間すべてを包み込むほどの膨大な魔力を垂れ流しつつ、スラスラと大地に謎言語を刻んでいく。


「穴は大丈夫なんですか?」


「すぐに済みますよ」


 彼女の言う通り、再会から全員がぶっ倒れるまで、5分も掛からなかった。




「――ってことがあったのよ。訳わかんないでしょ」


 目が覚めるとそこは窮屈な洞窟。


 身動きの取れないボロボロの体で状況を確認していたアリシア達の前に、得意の感知でなんとかそこへ繋がる道を掘り当てたクロとパックが現れたことで、一行はレギオン連合国に戻ってきたことを確信した。


 事の顛末を話し終えたアリシアは、改めて何もかもが不明瞭な出来事に首を捻る。


「気にしても仕方ありませんって。私達弱者が強者のすることなんて理解出来るはずないんですから。もしかしたらあの時のあれが……と後から感謝したり責めば良いんですよ。私達は私達の好きなように生きるだけです」


「それはそうだけど……」


「でしょう? これまでのアリシアさんの話から察するに、しれっと力を授けてくれてるかもしれませんよ。何か別のことをさせておいて実は、みたいなこと多いんでしょう? 今から確かめてみません? その方が有意義で前向きでしょ?」


 一番何もしていないが、それ故に部外者となっているピンキーの言葉に、異議を唱える者はいなかった。

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