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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十六章 プロジェクトZ~研究者達~Ⅲ

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千二百三話 鍛冶職人

「……出来た」


 ニーナは自身の生み出した『チョコ雪』とでも呼ぶべき代物を、普段からそうしているであろう手際の良さ……はなかったが、持っている知識を活かして作ったパフェらしき何かを場外の大地に置いた。


 雪と氷と水とお菓子で作られたデザートだ。


「あれと同じの」


 当然のように、ベチャッ、と崩れるもニーナは気にすることなくノミドが使用中のノーマル鍛冶台を指差し、主語もなければ想いも籠っていない言葉を発する。


 事情を知らない者が見ればただの奇行。


 知っていてもその目で確認するまでは半信半疑にならざるを得ない。


 物資調達を終えて戻ってきたドワーフや、鍛冶をするために食材が必要になったと突然指示を変更されたドワーフ、所持していた飲食物を訳もわからないまま差し出したドワーフがそれだ。


 そんな者達の視線を独り占めにする中、それは起きた。


「は、生えてきた! 大地から鍛冶台が生えてきたぞ!?」


「なに、これ……?」


 パフェ(?)が大地に吸い込まれると、そこからお世辞にもソックリとは言えない、だが何かと聞かれれば全員が『鍛冶台』と答える物質が現れ、ドワーフ達を驚愕させた。


「やるじゃないか」


「むふーっ」


 それを『超常現象』ではなく『日常の一部』として捉える俺達は、拒否されなかったことを喜び、生み出した物質の品評会を開始。


「いや褒めてない。やっぱりお前はコミュニケーション能力が低くて説明が出来ない残念ニャンコだなって呆れてるんだ。精霊に丸投げしたからこんな出来になったんだぞ。もっとちゃんと指示してやれよ。聞き入れるかどうかはともかく、説明はしておいて損はないんだから」


「わかってないのはルークの方。これはわざと。一番手が最高得点を出したら他の参加者がやる気を失う。不出来だと自分を責める。でも下がいればそんなことはない。わたしは自己犠牲の精神で、このギリギリ作業が出来る、出来損ないの鍛冶台を作り出した」


「じゃあ後で最高傑作を作れよ」


「…………頑張る。食材の合成で疲労するから出来るかどうかわからないけど」


 よし、俺は『完成度は同じ』にオールインだ。他のヤツなら完成度を低くする可能性を考慮して分けるが、コイツに意図的に劣化させるような実力や知識はない。



「あ、あのぉ……この現象に対する説明はないんスか?」


 と、ここでヤンチャ少年風少女ドロテが、申し訳なさそうに話に割り込んできた。


 これまではあーちゃんの仕事だった。役割分担を変えたのだろうかと様子を窺うと、彼女はイヨと共に大人達と何やら議論……というか大人達からの質問に答えていた。指示を仰いでいると言っても良いかもしれない。


 理解を求める者達がこちらに注目していて、そんなことより鍛冶だという者達があちらに集中しているようだ。


 が、今はそんなことよりこちらの用件を片付けるとしよう。


「ドロテ、ワーナー、キミ達はどうしてここに来た?」


「えっと……お披露目があるからッス」


「おもしろそうだったので」


 口々に答える。


「そう。気になるからこれだけのドワーフ達が会場に集まったんだ。わざわざ遠方から来たってヤツも多いらしいな。でもそういう気持ちを抱くのは生き物だけじゃない。精霊だって興味があれば顔を出す」


「土精霊は氷を使ったお菓子が好きってことッスか? だから鍛冶台を作り出してくれたと?」


「ちょっと違うな。誰でも出来るわけじゃない。これは俺やニーナみたいに精霊と仲が良いヤツが頼んだから出来たことだ。みんなだって他人からの頼みと親友からの頼みなら後者を叶えるだろ? それと同じだよ。

 ただ他人からの頼みが同時に叶えられるものだとしたら、それを叶えるのも面白いと思えるようなものだとしたら、どうだ? 目に入ってるそれを無視するか? しないだろ?

 俺達がその流れを作る。精霊を集める。だからお前達は自分の想いをぶつけろ。叶うかどうかなんて気にするな。とにかくやってみろ。ニーナやイヨが生み出した雪菓子で捧げ物を作ってみろ。自分なりの品で精霊達を喜ばせてみろ。大切なのは想い。パッションだ。それさえあれば混ぜる必要すらない。雪玉の上にイチゴを乗せても成功する時はする。こんな風にな!」


 有言実行。降り積もった雪を寿司でも作るように右手で握り、その上にこれまた寿司のように左手に握ったイチゴを乗せる。そしてそのまま地面にセット。


 吸い込まれると同時に、ニーナのものとは比べものにならない立派な鍛冶台が、大地から生えてくる。


 その直前、魔法陣が発動する時のようなぼんやりとした光が発生したが、おそらく俺にだけそれが文字に見えた。


(雪と氷以外はNGね……)


 アイス……ではなく大地の化身からのメッセージだ。


 まぁベーさんが協力しないってだけで他の連中は大丈夫だろうけどさ。鍛冶台って言っても原産地が大地じゃなきゃダメなんてこともないはずだし。炎の力に特化した鍛冶台とかでも全然OKだし、むしろそっちの方が良いまである。


 未知の力を扱うためにはこちらも未知でなければならない、とかありそうじゃん。知らんけど。色々試すのって良いことよ。




「なんかカッコいいの!」


 イヨがドドグリを握った拳を雪原に叩き込む。


 大地から神々しい鍛冶台が生えてくる。


 土パワーはそこまでではないが風パワーが凄まじかったようだ。過保護なだけとも言う。流石エルフ、ズルい。欠陥工事でもここまでの出来にするなんて。


「俺は使い慣れた家の鍛冶台だァァ!!」


 ニーナが生み出したブドウと雪の混合品を燃やしながら髭モジャが叫ぶ。赤黒い石の鍛冶台が生えてきた。


「オイラは……って危な!?」


 男が氷の上に酒を掛け、想いを口にする……前に天井から鉄の塊が降ってきた。


「いや、たしかにどんな鍛冶台より硬くて丈夫なやつって言おうとしたけど……流石にこれはちょっと……」


 と、文句を言いつつも、一緒に降ってきた小槌を振るう。火入れもしていなければ魔力も付与していない素の物質だ。いくら叩いても俺の用意したそれは変化しない。


 が、硬い物を打つ喜びに目覚めたのか、男は振るう度に「おおっ」と感動し、鍛冶そっちのけでひたすらカンカン打ち続ける。まるでシンバルを初めて持った子供。


 余談だが、その製法と作られた素材は、プラズマとは関係のないところで役に立ったらしい。



 俺達は鍛冶が出来る環境を整えていった。


 俺の担当は素材づくり。唯一プラズマ付与に成功したオッサンが使用した素材と同じものをひたすらに作り続けるのだ。


 単純作業のようだが実は『均一』が一番難しい。似ているではダメだ。宿っている微生物の数まで一緒とは言わないが、100回やって100回とも同じ結果になる物質である必要がある。


 そしてそれが出来るのは化学反応と精霊に精通した俺だけ。


 少し前にイヨを候補に挙げたのは変化球要員として。俺がフォーシームファストボール(直球)なら、彼女はムービングファストボール(癖球)。小さな変化が発見を生み出すことがあるからだ。


 実際、現地調達班から届くようになってからは、俺はプラズマ付与に専念させていただき、素材生成は彼女に任せている。


 それが出来ない不器用ニーナさんは再度鍛冶チャレンジ。


 雪の結晶などという複雑なものなど当然作れないが、似たような何かは作れる。素材と違ってこちらは同じではないことが大事。何がプラズマと関係性を持つのか確かめるためには、彼女のような存在が必要不可欠なのだ。


 そして、それをおこなうのは効率度外視で我先に生み出していった、乱雑極まりない鍛冶場。直角が大好きで隙間が嫌いなA型が発狂する現場である。


 普通なら、動力の確保や物資の搬送などの観点から計画性を持って配置した方が効率が良いのだが、如何せん用具は一式セットで提供され、物資はそこら中から持ち寄られる。しかも交代制。1回作ったら他者に譲り、現地調達に向かわなければならない。


 もうゴッチャゴチャだ。


(ま、だからこそ学園祭気分で作業出来るんだけどな)


 ここに指導者はいない。


 何が向いていて、何が向いていないのかは、やってみてから決める。正しさは成功。それ以外はすべて過程でしかない。皆やりたいと思ったことをやるだけだ。




「ふふーん、やっぱりぼくなんですよねぇ。可愛いすぎるだけでも罪なのに、その上優秀なんて……ああっ、一体どれだけの人を虜にしてしまうのでしょう!」


 時間的におそらくラスト。3度目のプラズマ付与に挑戦したノミドは、最古と最新の技術を融合して作り出したアダマンタイトの亜種を誇らしげに眺め、戯言をほざいた。


 バチチッ!


 雪の結晶を模した青色の鉱石(過剰装飾付き)は、俺の手の中で帯電していることを証明するようにバチバチと激しい音を立てて、浮遊している。


 正確にはプラズマを弾いている。


 対消滅を起こさない反物質とでも言えば良いのだろうか。磁力による反発より強いが自身が生み出すわけではなく、無効化も減少もない、決して交わることのない水と油のような不思議な関係性を形成していた。


「まぁ今だけは許そう。ノミド。お前は可愛くて優秀な鍛冶師だ。お前が居なかったらこの結末は迎えられなかった。ありがとう。そして今後もよろしく。作ってもらいたいものはいくらでもあるからな」


 タイムリミットを迎えて俺の手からプラズマが消えた。それと同時にどっしりとした重さが両手にのしかかる。


 俺はそれを大事に脇に抱えて、余った方の手を製作者に差し出した。唯一の成功例だ。持ち帰って調べなければ。


「ぼくは現在過去未来すべてにおいて可愛くて優秀ですよっ」


 からかうような上目遣いでぶりっ子アピールした後、ノミドは「こちらこそ良い仕事させてもらいましたよ」と職人らしい顔と台詞で握手に応じる。


 どっちが本当の顔なのやら……。


 ま、何にしても一歩前進だ。


「これの名前はどうする?」


「ぼくが決めて良いんですか?」


「ああ。作ったのはお前だ」


「じゃあ『可愛いノミドちゃん』で」


「わかった。『プラズマタイト』だな」


「あれぇ!?」



 こうしてリニアモーターカーのパーツ『プラズマタイト』を手に入れた俺達は、余った素材で何か出来ないかと鍛冶に励むドワーフ達に見送られることなく、エレベーターで地上へと向かうのだった。


 残るはプラズマを宿す物質と制御する仕組みだ!

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