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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十六章 プロジェクトZ~研究者達~Ⅲ

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千百九十七話 お披露目4

 神力とは世界を動かす力。


 自然には起きない、あるいは起こりづらい現象を、知識と想いと経験で無理矢理に引き出す、有から有を作る力のことだ。


 その力を宿した鍛冶台で何かが起こることを期待していたノミド達には悪いが、この世ならざるプラズマをこの世の物質に付与する……言ってみれば無から有を生み出すことは出来るとは思っていなかったし、実際出来なかった。


 例えるなら百合の間に野郎が入るようなもの。よほど上手くやらないと当人達も視聴者も納得しないだろう。つまり拒絶されて当然。失敗するのが当たり前。


 が、しかし、今それを伝えたところでどうにもならない。狂喜乱舞するドワーフ達の楽しみを奪うだけだ。


 プラズマ的には失敗でも超凄い鍛冶台や神獣の力で生成した実質未知の物質ではあるので、失敗作だと知っても盛り上がってくれるだろうが(半分ぐらい理解しているような気もするが)、俺の理解を超えているだけで成功している可能性もあるし、一流鍛冶師から有難いアドバイスをいただけるかもしれないので、しばらく放置させていただこう。


 取り合えず、万博で月の石を見に来た連中を彷彿とさせる大行列がなくなるまでは、イヨ達の頼みを聞いて時間を潰した方が良さそうだ。


 量こそ少ないが眺める時間は比較にならない。


 要するに全然動かない。


 というわけでLet's ロリータ。



「雪を作れって、そんなの俺じゃなくてユキに言えよ。アイツ以上の適任居ないぞ。俺みたいな偽者じゃなくて本物の雪作れるぞ」


 人工雪を作れることは再会した時に言ったような気がする。しかしまさかプロを差し置いて生成を依頼されるとは思わず、俺はイヨに俺である理由を尋ねた。


 拒否というほどではないが、見せびらかすようなものでもないので消極的な姿勢にはなる。


 気分は同級生を連れてきた甥っ子に「にいちゃん凄いカード持ってるんだろ。アイツ等に見せてやってくれよ」と言われた時のよう。折ったりスリーブから抜き出したり、大枚を叩いて手に入れたカードの価値を落とされる可能性を考えたら、いくら甥っ子の頼みでも断りたくなる。自慢に付き合う必要性を教えてくれ。


「ルナマリアさんにそーだんしたら地下がうめつくされるからやめた方がいいって」


「……たしかに」


 ヤツの蛮行は天地が存在し循環可能な広大な空間だから許されているだけ。防音のない狭い室内でやまびこ感覚で叫んだり、放屁したり、動き回ったら、追い出されても文句は言えない。アリの巣を水攻めするようなものだ。最悪戦争になる。


「呼んだかね?」


「帰れ」


 完璧なタイミングで虚空から現れ、白々しく尋ねてくる精霊王を秒で追い返し、質疑応答を続ける。


 こんな時だけ普通の恰好で現れやがって。いつもみたいに雪ダルマに埋まったり吹雪の中から登場したら話早かったのに。腹立たしいわぁ。埋め尽くすことを否定しない部分も含めて。


「そのルナマリアは? フィーネでも良い。手加減出来る適任は他にも居るだろ」


「みんな『ルークでいいじゃない』って」


 堂々巡りか……。


 まぁ今以上に最適な状況はないのだが。



「じゃあ次。雪なんて外に出ればいくらでもあっただろ。いくら地下暮らしだからって顔を出すことすら禁止されてるわけじゃないあるまいし。そっちの……あーちゃんは見たことあるんだろ? そんなに見たいんなら今年の冬にでも一緒に外に出れば良かったじゃないか」


 6月に入ろうとしているので流石に溶けてなくなっているが、ヨシュアでも2月下旬、山頂なら3月中旬ぐらいまでは残っていた。それも毎年だ。


 この1、2ヶ月で突然見たいと思ったのだろうか?


「禁止されてたッス」


「……です」


 あーちゃん以外の2人が口々に言った。


 短い黒髪でランニングシャツという実に男の子らしい恰好をした女子と、目元が隠れるほどボサボサの茶髪のぽっちゃり男子だ。


「どういうことだ? 俺が知らないだけでドワーフってそんな排他的な種族だったのか? 地上に出ると太陽光で焼けるとか思われてんのか?」


「その前に自己紹介した方が良い。わたしニーナ。こっちはルーク」


 ニーナに……ニーナにお姉さん面された……。


 これ以上の屈辱はない。ただ単に話に興味がないだけのクセに。まぁ乗るけどね。言ってることは正しいし。


「自分は≪ドロテ≫ッス」


「≪ワーナー≫、です」


「あーちゃんです」


 流れるように入るあーちゃん。


 ねぇこれツッコんだ方が良いの? 初対面の年上の異性相手にここまでボケられる逸材と仲良くなるべき? そういう名前の可能性ない? もしアーチャンさんとかアーさんだったら失礼極まりないよ。本名が嫌いでそう呼ばれたいのかもしれないし。


「本名はフロンです」


「『あー』要素どこ!?」


 堪らずツッコむ。


「納得した時の声や叫び声、欠伸、困った時など、事あるごとに『あー』と言うのであーちゃんと呼ばれるようになりました」


「あー、あるな。名前じゃなくて言動や見た目があだ名になるやつ。俺も結構あーちゃんだな。≪ていうか≫さんでもある」


 取り合えずこのトリオの名前は『ドワァフ』かな。今後使う機会があるかどうかは知らんけど。言うてメインは大人達だし。


「ていうかさん」


「なんだ?」


「2人が雪を見たことがないのは、住んでいた場所が外出禁止……といいますか地上禁止の文化が根付いていたせいなんです。2人とも今回のお披露目を機に越してきたのですが、ドロテは最近雪の降らない土地から引っ越して来たので見たことがなく、ワーナーは雪こそ降る土地でしたが周りに反対されて見ることが叶わなかったそうです」


 普通に続けやがった。


 このままでは今後もそう呼ばれかねないので訂正しておくとして、ついでに彼女もていうかさんであることを指摘しておくとして、


「禁止文化って何か事情でもあるのか?」


「5歳になって魔力を授かるまでは地上に出たら病気になりやすいって教えられてたッス。ちなみに自分のところでも禁止だったッス」


「文明開化の足音はいずこへ!?」


 たしかに、今でこそ医療技術や環境改善されて大丈夫になったが、少し前までは子供は魔力を授かる5歳まで外に出さないのが常識だった。


 死ぬことを前提に育てられていたのだ。死ななければラッキー程度の感覚なので、知り合いへの紹介や将来の話などは魔力を授かるまでお預け。治癒術が便利過ぎる故に人体への理解が疎かになり、さらには魔力関係の病気も多かったため、地球と比べて医学というものが発達していなかった。


 病原菌という概念がなかったのだ。


 治癒術には理解が必要で、ごく稀にいる精霊術師の医者も自然のものだから原因がわからない。人間にとって害悪でも世界にとってはあるべきもの。菌とはそういうものだ。精霊達が悪と判断するわけがない。


 ただ、汚れや栄養が関係していると広まった(俺が広めた)お陰で最近はそんなこともなくなり、『鍛えればなんとかなる!』『慣れれば大丈夫!』な脳筋以外でも外に出すようになった。


 しかしドワーフ族にはそんな風習が未だに残っていると。


 学生時代に普通(地上暮らし)のドワーフ数名と知り合いになっていた俺からしたら、まさかの事実だ。全員がそのぐらいの認識だと思っていた。


「それは人間だけでドワーフは違うんじゃないんスか?」


 oh……。


 それ等をすべて否定するようにキョトンとした顔をするドロテ。俺は心の中で頭を抱えた。


「必要……もないから……」


「あ~、それもあるのか。難しいな」


「「???」」


 続くワーナーの一言ですべてを理解。首を傾げているおバカ2人にもわかるようかみ砕いて説明することに。


「いつになく優しい」


「もしかして中身ちがう?」


「説明やめるぞ。俺だって正解かどうか知りたいんだ」


 チラチラこっちを見てるノミドとかオッサンが答えてくれるだろ。たぶん。


「つまり地上に出る気のないドワーフ達にとって、地上が危ないかどうかなんてどうでも良いってことだよ。雑菌とか言われても知らん。学者達でも答えを見つけられないような問題を自分達みたいな脳筋に理解出来るわけない。そんなことするぐらいなら地下に籠って鍛冶の勉強をしてた方が良いってこと」


 たしかにわざわざ危険を冒す必要はない。文化を変える必要もない。


 俺の元クラスメイトやあーちゃんのように安全だと知っているドワーフも居るが、インドア……もとい伝統派の考えを尊重して誘わなかったのだろう。


 誰も悪くないのだから改善しろというのは違うし、それを理解してもらうのも難しい。それこそこの2人のように「雪が見たい」「危ないからダメ」で終わりだ。



「つまりどういうこと? 雪を作ってくれるの? くれないの?」


「作るよ。あそこのドワーフ達に演説してからな」


「……?」


 再び首を傾げるイヨを放置して群衆に視線を向け、


「そのプラズマ。雨や雪と同じで地上でしか自然発生しない現象だからなー。これから作る人工雪もその力を引き出す切っ掛けになったもんだからなー」


「「「地上スゲェ!!!」」」


 はい。というわけで、幼少期の過ごし方に革命を起こしたところで、人工雪の製作に取り掛かりますかね。


 ドワーフのお偉いさんが何も言わないし、きっと問題ないんだろう。


 何かあったらその時はその時で。俺は出ろなんて一言も言ってないし。未知との遭遇があるかもよ、って好奇心を刺激しただけだし。基本的には自己責任で。

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