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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
七章 商店街編
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閑話 フィーネ無双 ドワーフ編

 ロア商店をさらに良くするため「店内BGMを用意できないか」と、ノルン達からの要望を受けたフィーネは以前ルークから聞いた話を思い出していた。


(オルゴール・・・・構造は複雑ですが、BGMにうってつけですね)


 話を聞いた当時は、流石のフィーネにも精密なオルゴールを作り出すことは出来なかった。


 しかし今なら手先の器用なドワーフ族が身近に居るので「彼らならばあるいは」と思い、相談してみることにした。



「本日もお疲れ様でした。

 シュバルツさんには私用でご相談があるので残ってください」


 石鹸・冷蔵庫工場での終礼をするフィーネは、最後に従業員のドワーフ族を呼んだ。


(((・・・・シュバルツって誰だ?)))


 もはや家族とも言えるメンバーだが、聞き覚えの無い名前に全員が辺りを見渡して誰なのかを確認している。


「おう」


 そんな中で返事をする1人の男性。


「「「オッサン!?」」」


 従業員からは『オッサン』の愛称で慕われるガタイが良くて髭モジャのオヤジこそ、今フィーネからシュバルツと呼ばれた人物だった。


 違和感しかないその名前に当然周囲からはクレームの嵐だ。


「なんだその名前!?」

「シュ、シュバルツ・・・・っぷぷ」

「ちょっと止めてよ! 私の脳内彼氏の名前と同じじゃないの!」

「どこがシュバルツだ! どう見ても『ガッツ』とか『ドドンガ』とかだろ」


 鳴りやまない罵声。そして怒号。


「やかましいわっ! ワシだって気に入っとらん!!」


 その後もしばらく名前を弄り倒した従業員はいつも通りに解散した。


 フィーネの私用についても気になるようだが、全員命が惜しかったので詳しく聞こうとはしない。自分達に関係があればこの場で言うはずなのだ。




 そしてフィーネとオッサン(シュバルツ)だけになった室内から、今回の話は始まる。


「で、ワシに何の用じゃい」


「こちらを見ていただきたいのです」


 フィーネが取り出したのはユキが氷で作った『オルゴールもどき』だった。


 音が出たり回転したりはしないが、腕の良い職人が見れば本物のオルゴールを生み出せるであろう出来の一品。


「・・・・これは・・・・・・ふむ、随分複雑な仕掛けだな」


 シュバルツは一発でどのような仕組みか理解できたようだ。流石のドワーフ族である。


「本来は音を奏でる道具なのですが、これを完成させられる職人に心当たりはありませんか? もちろんシュバルツさんが出来ればお願いします」


 フィーネにとって一番手っ取り早いのは従業員のシュバルツが作る事だが、自分には無理だと言う。


 代わりに腕の良い知り合いの職人を紹介すると言った。




 別の日。

 やって来たのはヨシュア東側にある職人町。その中でも細い裏路地を抜けた先にある、人目に付かないひっそりとした建物だった。


「おぉーい! バカ共、生きとるかぁー!」


 しかしボロボロの見た目とは裏腹に、仕事に支障が出ないよう室内は清潔でキッチリ整理整頓されていて使いやすそうだ。


「「「やかましいわっ!」」」


 シュバルツの呼びかけに大声で応えながら、奥の方から3人のドワーフが現れる。


 全員シュバルツ、いやオッサンと似た容姿のむさ苦しいオヤジ達である。


「相変わらず仕事を選んで嫌われとるそうだな」


 腕の良い職人がこんなに貧相な場所に居る原因はそれらしい。気に入らない仕事はいくら金を積まれても絶対にやらないんだとか。


「うるっさいの~。お前も同じようなもんじゃろ、シュバルツ」

「そうじゃ、そうじゃっ! スラムで野垂れ死んどると思っとったわ、シュバルツ」

「なんじゃい。仕事が無くて泣きつくために来たのか、シュバルツ」


「その名で呼ぶなっ! まったく・・・・これだから昔馴染みはイカン」


 どうやらこれが昔からの一連の挨拶らしい。



「シュバルツさん、彼らが紹介したいと言っていた方々ですか?」


 未だに『シュバルツ』と言う名前を弄り続けていて騒がしいが、このままではいつまでも本題に入れないと思ったフィーネが声を掛ける。


「誰じゃい、このエルフは?」


「ウチの会長だ。例のドラゴンスレイヤーで、今回の依頼主だからセクハラするなよ」


「「おう」」


 オッサンの注意がなければ何かしらのセクハラで被害に遭っていたのかもしれない。


 被害者はドワーフ達。


 セクハラ『の』被害に遭うのではなく、セクハラ『が原因で』被害に遭うという意味である。


 フィーネへのセクハラなど成功するはずもない。ボディタッチはもちろん、下ネタも口にした瞬間に意識を手放すことになるだろう。



 なんとか本題に入れたので、フィーネは『オルゴールもどき』を取り出してオッサンにしたのと同じ説明をする。


「・・・・ほほぉ、素晴らしい技術だな」

「ふむ、オルゴールと言うのか。これを氷で作った魔術師も凄い」

「久しぶりに楽しそうな仕事じゃな」


 どうやら交渉の必要なくオルゴールを作ってくれるらしい。


「ではよろしくお願いします。必要な素材やお金は用意しますので」



 そう言って立ち去ろうとしたフィーネに3人から『待った』が掛かる。


「いやワシらは依頼を受けるとは一言も言っておらん」

「そうじゃそうじゃ。技術だけ盗んでさよならじゃ」

「作りたい物を、作りたい時に、作るだけじゃ」



「おいっ!」


 彼らの性格をわかっていたとは言え、予想通りだったことにオッサンが怒鳴る。こう言う連中だからこそ腕は良いのに有名になっていないのだ。


 知り合いの雇い主であり、ヨシュア最強と名高いフィーネの前でも普段通りのノリで口々に「仕事は絶対受けない」と言いながら妙な踊りでこちらを煽ってきている。


「いえ、シュバルツさん大丈夫ですよ」


 なんとか仕事を受けさせようとするシュバルツを黙らせる。



「では交渉を始めましょうか」


 そしてここからフィーネによる一方的な交渉が始まった。



「まず技術ですが、こちらは広めるつもりなので盗んでいただいて結構です。むしろ広めてください」


「む?」


 普段の客なら『怒る』か『傭兵を差し向ける』かのどちらかなのだが、全く問題ないと言うフィーネに意表を突かれたドワーフの1人が思わず声を出した。


 職人肌の彼らからすれば、新技術を広めると言うのは何よりの喜びなのだ。



「次に報酬ですが、皆さんお酒好きと聞いていましたので、ロア商会特製の『お酒』を用意しました。

 今後も出回る予定のない最高級品です」


「「むむむ?」」


 オッサンから「ドワーフは例外なく酒好き」と言う情報を得ていたフィーネは、リュックの中から事前に用意していた酒樽を出す。


 これは量産体制が整っていない売り上げ度外視で造り出した試作品の酒であり、『最高級品』と言う名に恥じない出来栄えの美酒だ。


 世間から隔絶された生活を送るドワーフ達だが「ロア商会に美味い酒を出す店がある」と言う噂は知っていたので、そこでも手に入らないほど最高級品を飲んでみたくない訳が無い。


 当然ドワーフ達は自然と唸り声をあげる。



「さらに大人気の飲食店に無理を言ってお酒に合う『おツマミ』も持ってきています。早く食べないと劣化していきますね」


「「「むむむむむ?」」」


 フィーネが酒と同じくリュックから多くの料理を取り出しつつ1つ1つ説明していく。


 さきほどから食欲をそそる匂いが漂ってきている理由はそれだった。


 どんなに美味い酒でも、それに合うツマミがなければ魅力は半減する。しかも自分たちの食べたことのない料理の数々で、オッサンも絶賛するツマミらしい。


 これは喉から手が出るほど欲しい組み合わせだ。



「職人として常に新しい事に挑戦したい方々のようですので、我がロア商会の外部技術者として今後も親しくなれればと思います。

 手始めに高ランク魔獣を使用した『ソーラーパネル』を作っていただきたく。もちろん素材も道具も場所も家も全て用意します。ご家族を呼んでいただいても構いません」


「「「・・・・」」」


 しかも配下に入れと言うわけでも無く、今まで通りの生活を送っていいらしい。


 ドラゴンスレイヤーなら自分達では手に入らない高ランク魔獣の素材も楽々集められるだろうし、『ソーラーパネル』と言う謎の魔道具にも興味が惹かれる。


 さらに知り合いを呼んで大規模な仕事をしても良いと言う。いや、きっと大規模にならざるを得ないから家を用意すると言っているのだろう。


 『家族や親族が一丸となって1つの仕事をやり遂げる』。


 彼らにとって夢のような生活だ。



「ちなみにこちらは食堂で使用しているアダマンタイトを加工した包丁です。一部の方々からは伝説の素材のようですが、我々は日用雑貨として使用していますね」


「「「・・・・・・」」」


 いくら職人のドワーフと言えど全世界の素材を把握しているわけではないが、アダマンタイトと言う伝説の素材は聞いた事があった。


 フィーネの取り出した包丁を見る限り、凄まじい強度で自分達では加工することは出来ないだろう。きっと特別な道具が必要になってくる。


 当然ここで逃せば一生手に入らないだろうし、加工技術も教えてもらえないだろう。


 何より自分達の手で伝説の包丁を生み出せるかもしれない。


 それに挑戦する権利が目の前にぶら下がっていた。



「いかがでしょう? 今後も成長し続けるロア商会に協力していただけませんか?」


「「「し、仕方ないな・・・・べ、別に嬢ちゃんのためじゃないんだからな!」」」


 当然その権利に飛びつかない訳が無い。


 むさ苦しいオヤジのツンデレに需要があるのかはさて置き、フィーネに説得された職人達が仲間になった。


 ちなみにフィーネの方が間違いなく年上なのだが、今後も自分の事は「嬢ちゃん」と呼ぶように指示していた。若く見られたいらしい。




 具体的にドワーフ達にはどのぐらいの技術力があるのか色々と掘り下げた応答をしていく。


 聞けばオルブライト家や食堂の便器も彼らが作ったらしい。


「あぁ~、あのS字管。面白い構造だった」

「うむうむ、あれが広まればトイレ革命じゃな」

「しかも下水施設を計画中・・・・つまりヨシュアが世界の最先端を担うわけじゃな!」


 実は彼らは既にロア商会と深く関わっていたのだ。



「はい。さらに言えば今後数百年続く計画の第一歩ですので、皆さんの名前は後世に語り継がれるでしょう」



「「「な、何ぃいいぃぃーっ!?」」」


 後世に名が残ると聞いて今までで1番の反応があった。


「つ、つまりワシらの仕事を孫、そのさらに孫が引き継ぐわけか!?」

「し、ししし死ぬ瞬間まで技術を教え続ける事が出来るわけか!?」

「けっ、け、けけ怪我で動けなくなっても最高の治療で復活して、また怪我が出来るというわけか!? いくらでも無茶が出来ると!?」


 3人はヨダレを垂らしながらニヤけている。


 どうやらドワーフと言う生き物は根っからの職人気質らしい。




 こうしてソーラーパネルと連動したオルゴールは店内BGMとしてロア商店を活気づけることになる。


 これ以外にも一般的な手回し式のオルゴールや、自分で作れる簡易オルゴールなども作成してオモチャコーナーを賑やかせていた。



 今日もフィーネはロア商会の発展のため無双し続ける。

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