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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十六章 プロジェクトZ~研究者達~Ⅲ

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千百九十話 告知

 オッサンとノミド、2人の優秀なドワーフの協力を得ることに成功したものの、リニア計画を実現するためにはさらなる人材とアイディアと理解が必要だ。


 個人的には、ここ等で現物を見せて信憑性を得ると同時に協力者の気持ちを盛り上げたいところではあるが、生憎と時刻は14時過ぎ。プラズマを引き出すには2時間ほど待ってもらう必要がある。


 そんな力を俺が使えることがバレたら大変なことになるのは確実だが、誰かが犠牲にならなければ話が進みそうにないので、研究者チームの4人(ニーナは添えるだけ)で話し合った結果、代表者は満場一致で俺に決定。


 それ自体に不満はない。


 何故なら話というのは土地の譲渡だけではないから。


 研究・開発はもちろんのこと、リニア以外の移動手段は現在彼等が使用している地下道を使わせてもらう可能性が非常に高く、将来的にはドワーフ一族を巻き込んだ一大事業になりそうだった。リニア用の洞窟も、ヨシュア-セイルーン間は問題なかっただけで、他のところでは被っているかもしれない。


 今後の付き合いを考えれば仕方のない犠牲だろう。


 が、それはそれとして、ただ待つだけでは時間が勿体ないし、他のドワーフ達に協力を求めるなら一足先に2人にだけ披露するのは不公平な気がする。とか言ってヨシュア全域に展開する地下帝国中から2時間足らずで人を集めるのは難しい。


 相手はただでさえ自分至上主義のドワーフ族。大事な話があるといきなり呼び掛けても作業を中断してまで来るとは思えないし、来るにしても時間が掛かる。


 そんなわけで、プラズマお披露目はまたの機会に大々的におこなうことにして、今日のところは告知だけしておくことに。


 その内容を考えながらでも出来る作業……ズバリ、ドワーフ達の力を見せてもらう! 具体的には彼等の移動手段である地下鉄見学だ!


「どうですか! これがぼく達の血と汗と涙の結晶です!」


「ほほぅ……これはこれは……良い仕事してますねぇ」


 道中で見かけてしまった、刑務所から脱出する時に使うような腹ばい専用レールとは打って変わって、そこにあるのは原始的だが魔力を動力にした立派な列車。


 成人男性が10人は乗れる巨大な鉄(とは微妙に違うようだが。おそらくドワーフならではの技術が使われている)の箱に、思わず称賛の声が漏れる。


「参考になりそうか?」


「ん~、どうだろうな。どちらかと言えば、運行システムとか壁や地面の補強とか、インフラ面の方が使えそうだけど……あ、もちろん車体やレールにプラズマ適性があったら話は別だぞ。そればっかりはやってみないとわからないし」


 オッサンからの質問に俺は難しい顔で答える。


 正直、技術全振りのドワーフが感覚で生み出す非科学的なそれ等は、時代遅れの代物でとてもではないが参考になるとは思えなかった。流石は理論的に考えることが苦手な脳筋タイプといったところか。


「ハッキリ言うのぉ」


「こんなところでお世辞言っても仕方ないからな。お前等だって嘘つかれても嬉しくないだろ」


「まぁ手が出るな」


 やめろ。現代では悪と言われる行為だぞ。てかそこまで嫌か。プライド高けェなオイ。



「そりゃ試してみないとわからないとは言ったけど……本当に貰っていいのか? 血と汗と涙の結晶なんだろ?」


 受け取った原石・加工済みの板・滑車の3点セットを弄びながら、2人の顔色を窺う。


 車体やレールの一部を持ち帰ればプラズマ適性があるかどうかわかる。しかし実験をおこなうのは研究所。まだまだ未知な部分が多いので2人を連れて行くわけにもいかず、少し前に見せろとせがまれたがそれも断っている。


 危険なのもそうだが、過程で荷電粒子砲みたいな兵器が生まれる可能性が高いからな。そしてこいつ等は禁止されても絶対に作る。そういう種族だ。


 虫の良いお願いに心苦しくなりながらも勇気を振り絞って頼むと、アッサリOKを出された。しかも貸出しではなくプレゼント。壊そうが何しようが自由とのこと。


 彼ならば絶対にドワーフ族の秘伝を言いふらさないし広めないという信頼の表れなのだろうが、滅多にあることではないだろうし、一族の秘密を握るというのは若干気後れする。


「構わん。それはこやつのいつもの誇張表現。実際はお前さんが魔道具を作るのと変わらん程度の手間暇じゃ」


「それならまぁ……」


 俺が気を遣わなかったのと同じように、オッサンも本当のことを言ってくれているはず。これぞ信頼関係。間違っていたら許さん。孫の代まで恨む。


「それより、どうして原始的なものを採用しているぼく達に、リニアモーターカーの製作を依頼しようと思ったんですか? あ、これは皮肉ではないですよ。純粋な疑問です」


「わかってるよ。自分大好きのお前が自分を卑下するわけないからな」


 そんなわけないじゃないですか~、と卑下している自分を可愛いと思っているであろう反応はスルーすることにして、


「理由はお前等は無知なだけで技術はあるって知ってるから。電子ピアノの件でよくわかったよ。お前等に足りないのは頭。それはこっちで補うから好きにやってくれってこと。むしろバカでありがとうって感じだ」


「バカな子ほど可愛いと?」


「寝言は寝て言え。余計なことしないって話。その知識を悪用しようとか、傷付いたら困るから間違いを指摘しないでおこうとか、逆に自分の利得のために嘘でも指摘しておこうとか、そんなこと絶対考えないだろ。鍛冶が上手くいくか否か。良くも悪くも真っ直ぐじゃん、お前等って」


 前々から思っていたが、精霊術が使えるようになって確信した。


 目の前の鉄道もそうだし、受け取った部品や、何なら地下施設すべてが、彼等が純粋であることを証明している。信じるに値するだけの実力と想いが籠っている。


「まぁだからこそ地上の迷惑考えずにあれこれやってるんだけどな。どんだけフリーダムな種族なんだよ」


「褒め言葉として受け取っておきます。あとルークさんに言われたくないです。お宅のユキさん、彼女も相当ですよ。もちろん貴方も」


 あの精霊王はともかく俺はかなり遠慮している。


 一瞬そう主張しようかとも思ったが、余計ランクが上がりそう(下がりそう?)な気がしたのでやめておいた。


 手加減してそれって……とか言われたら目の当てられない。




『ロア商会の発見した未知の力を活用していただける優秀な鍛冶師を募集します。力のお披露目は開催は明後日の16時頃、お披露目は明後日16時頃を予定しております。採用されなくても見ておいて絶対損はしないので皆様奮ってご参加ください』


『可愛いぼくの撮影会もやりますよ~。これは来るしかないですね~』


『名乗れや! いくら台本がないからってそれぐらい融通利かせろ!』


『そんなことしなくても皆さんわかってますって。あと他人の心配をしてる余裕はないですよ。ルークさんの方こそ名乗っておかないと』


『……ロア商会の幹部のルーク=オルブライトです。撮影会をやるのは自称ドワーフ界の人気者ノミドです。繰り返しお伝えします。ロア商会の発見した――』


 地下帝国に俺とノミドの声が響き渡る。


 鉄道は原始的なのにこういうところは科学的なのは、伝統を大切にしているからなのか、ただ単にあのやり方でないと出来ないからなのか。


 ともかく立派な魔道具だ。


 ちなみに言うまでもなく後者はノミドのアイディア。反対こそしなかったものの、俺もオッサンも『どこまで効果があるかは甚だ疑問だ』という顔で彼女の提案を受け入れた。プラスに働くことはあってもマイナスになることはおそらくない。ならば問題ない。


「……っし、完璧」


 3度繰り返し、その度にノミドにボケられたものの、なんとか告知を成功させた俺は、放送を切ると同時に安堵の溜息を漏らしながら自画自賛。


「ですね」


「ザケんな」


 ぼくもです、と口に出される前にツッコむ。


 もし言われたら手が出ていた。ロリだろうと女だろうと関係ない。ここはわからせておく必要がある。暴力万歳。恐怖政治万歳。


「え~? 面白みのない告知に華やかさを出してあげたんじゃないですか~。皆さんぼくの可愛さにメロメロですよ~。つまり大成功。完璧なアナウンスです」


「俺はむしろそのせいで情報が錯そうしたと思っている」


「違いますね。例えそうだとしても『ノミドちゃんの撮影会何時からだっけ?』『明後日の16時ですぞ』となります。つまりぼくのお陰でお披露目は大盛況!」


 もしニーナが口が上手かったらこんな感じなのかもしれない。


 自己評価が高くて、周りはそれを原動力にしていて、失敗したら本人のせいだけど成功したら自分のお陰。まぁ女神の加護があるから失敗するわけがないけど。


 とんでもないクソ野郎が生まれてしまう。


 しかもなんだかんだ上手くいくから反省しない。凄いとは思うけど褒めたいとは思わない。そんな人間がここに居る。というか某精霊王そのものだった。


「諦めることじゃな。ワシはもう諦めた」


「オッサン……」


 成功者を妬む人間の真理はこういうところから来るのかもしれない。


 そんなことを思う今日この頃。




「それじゃあ世話になったな。てかこれから世話になる」


「はい。良いものにしましょう」


 当初の目的以上の結果を得られた。俺は大満足のまま地下帝国を後にすることに。


 これ以上ここに居たら危険だ。アナウンスを聞いたドワーフが舌なめずりをしながらこちらを見ている。オッサン達が居なければ、犯罪を犯したわけでも記者達に取り囲まれる有名人のようになってしまうだろう。


「あ、そのエレベーターは使えませんよ」


「は? もしかして壊れてんの?」


 別れの挨拶もそこそこに、以前もお世話になった地上への直通エレベーターに近づこうとすると、ノミドから待ったが掛かった。


 久しぶりなので来る時は検問を受けてからにしようと思い利用しなかったが、再びフレンド申請をおこなった今は薄暗い坂道や階段で時間と体力を浪費する必要はない。


「ドワーフ専用に改良しましたから」


「……なんで?」


「悪戯が多かったので。不法侵入の心配もありましたし。ゼファールの知り合いに依頼して作ってもらいました」


 しかも自分達でやったわけではないと言う。自分達で思いつかないからといって海外に依頼を出してまで実現するのは相当な手間のはず。確固たる決意の表れだ。そこまでして俺の利用禁止したかったのだろうか。


「なんでそんなところに? ウチに言えば良くない?」


 実は歓迎されていないのではないかと不安になりながら、さらに言及していく。曖昧なままにする方が傷付くこともある。今がそれ。嫌なら嫌とハッキリ言ってもらいたい。


「お忙しそうだったので」


「俺はな。ロア研究所はそこまでドタバタしてなかったぞ。化学反応とかでも世界最先端だったし真っ先に頼るべきだろ」


「知り合いを増やしたかったので」


「それさっきも言ってたけど、再会した時に他種族と関わるの面倒とか言ってたじゃん」


「『他種族とは』ですよ。あの魔道都市にはドワーフも大勢住んでいます。彼等を通じて技術提供を依頼したので。その分こちらからも提供しています。つまりwin-winの関係というやつです」


「まぁそれなら……」


 俺は、珍しく真顔で素っ気なく答えるノミドと、知らん顔でソッポを向くオッサンに気遣いや嘘の気配をヒシヒシ感じつつ、地下帝国を後にした。


 大丈夫? 本当に俺邪魔じゃない? 他のヤツ来させようか?

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