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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十六章 プロジェクトZ~研究者達~Ⅲ

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千百八十九話 土地交渉

「あ、新しい物質状態!? なんですかッ、その心躍るワードはッ! ぼく達ドワーフにとって人生の最終目標と言っても過言ではありませんよ!?」


 半年足らずでさらに進化&拡張された地下施設を横目に、ノミドとオッサンに交渉材料を提示すると、思った通りの反応が返ってきた。


 これなら快く協力者になってもらえそうだ。


「ええ、ええ! やりますとも! 協力させていただきますとも!!」


「ワシもじゃ。工場の方は……まぁ何とかなるじゃろ。忙しい時期でもないし、画期的なアイディアを出しそうな人間が別件に掛かり切りになるしのぉ」


 確認するまでもなく、ノミドは鬼気迫る勢いで、オッサンはイヤらしい笑みを浮かべて、参加を表明してくれた。


 オッサンの言うアイディアを出す人間とはおそらく俺のこと。


 しかし俺は悪くない。客と商会員と自分自身の笑顔のために頑張っているだけ。技術を一から理解する必要があるのでちょ~っとだけ忙しくなるだけだ。そもそも出来ないなら断れば良い。強要したことは一度もない。他のところに任せると言っているだけだ。その際に多少評価が下がったり給料が減ったり人事異動があったり休日返上で勉強会が開かれるのは仕方のないこと。悪いのは努力不足の自分達だ。


「文句など言っておらん。それよりどうした。そんな顔をして。ワシ等が断るとでも思っておったのか?」


 俺が喜びよりも戸惑いの感情を大きくしていることに疑問と信頼感の欠如を感じたのか、オッサンは顔をしかめながら尋ねてきた。


「そうじゃないけど……そんなアッサリ決めていいのか? いくら夢と希望の詰まったドリーム計画だからって、いくらドワーフ族の中でもそれなりの地位にいるからって、人によっては引っ越しが必要になるレベルの大ごとだぞ?」


 他者を巻き込む大事業で、正式な契約を結ぶ前に挨拶に訪れたら、今すぐやろうと言われたようなものだ。


 契約書はおろか実際にどのような力なのか見せてすらいない。すべて口約束。訝しむなと言う方が無理がある。


「……? 何を言っているんですか? 協力するのはぼく達だけですよ? 他の人は関係ありません。大ごとは大ごとですけど、それは規模ではなく、ぼくの中での大ごとです」


「俺の話聞いてた!? まさか、俺達の力を利用するだけ利用して、地下鉄開通は却下とかそういうこと!? プラズマで小物作って終わり!?」


 話が噛み合っていない。


 もしや交渉材料と交換条件の提示を交互におこなったのが悪かったのだろうか。未知の技術に気を取られて話を聞いていなかったとか。


 ダイジェストとは言え、結構な時間を掛けた説明をもう一度しなければならないのかと気怠さを感じ始めた矢先。ノミドが虚空にキメ顔(右手親指と人差し指だけ立てて顎に添えるハハーン顔)を向けて言った。


「どうも価値観に差があるようですね」


「と言うと?」


 面倒臭いのでツッコまない。


 どうせ、世界がぼくを見ているとか、この角度良くないですかとか、いつカメラで抜かれても良いようにとか、そんなんだ。アイドル(笑)の言動なんてイチイチ気にしてられるか。俺もよくやるし。


「良いですか? ぼく達ドワーフは他の人なんてどうでも良いんです。自分良ければすべて良し。誰かに協力するのはそれが自分のためになる時。ここだってそうです。他者の作品や意欲に刺激されるからこそ集落として成り立っているんです。やる気のない者や実力不足の者は即刻追放ですよ。限りある作業スペースを無駄にする上に悪影響ですからね」


 ノミドの視線の先には、以前電子ピアノ製造でお世話になった近未来のメカメカしい鍛冶場。


 その時もたしか限られた人間しか使えないようなことを言っていた。


「お主等人間も同じようなことをしておるじゃろ。学び舎を分けたりクラスを分けたりグループを分けたり。そうする理由は実力や志が同じ者同士の方が何かと都合がよいからじゃろ?」


「まぁ……」


 2人の言っていることは正しい。


 だからこそ困った。


「つまり俺達しか引き出すことの出来ないプラズマは自分達が独占する。他のドワーフに教える気も譲る気はない。そういうことだろ?」


「そういうことです」


 良く出来ましたと言わんばかりに満面の笑みで頷くノミド。


 しかし手放しで喜ぶわけにはいかない。本題はここからなのだ。



「列車予定地がお前等の施設と被ってるのは何とかならないか? お前等はリニアさえ動けば良いかもしれないけど、こっちは他の移動手段としても使いたいんだよ」


「それはそちらで解決してください」


「いや、だからその交渉材料としてプラズマを用意してるっつってんだろうが。別に良いんだぞ。競売性にしても。計画実現に向けて動いてくれたドワーフ達の中から優秀なヤツを選んでも」


 口に出した瞬間、ノミドは呆れと挑発を含んだ目になって『やれるものならやってみろ』と無言の圧を掛けてきた。


 まぁ冗談だ。それがどれだけ無謀なことかは理解している。


 自己鍛錬のみでここまで上り詰めた連中が、仕事欲しさに信念を捨てて、ホイホイ従うわけがない。喜んでやるようなヤツは実力がないヤツだ。他人を取引の材料にするなんて二流のすること。本物はそんなことをしなくても任せてもらえる。


 俺が協力してもらいたいのはそういう連中なのだ。


(他人に干渉しないって時点で絶望的だしな……)


 直前に族長の話が出たので希望を見出してしまったが、最低限の秩序を守るだけで実際は個の集まりでしかない。


「ところで、プラズマ自体は無理でも付与する魔道具やら素材やらを作るのは、全員で出来ると思うんだけど……」


「それを早く言ってください。要するに『他人に干渉した者』ではなく『プラズマ製品を作った腕自慢』が勝ちということでしょう。正当な対価と報酬ではないですか。それならばよろこんでお譲りしますよ、土地」


「やっぱりアッサリ決まった!?」


「当然じゃな。何度も言うがワシ等に決定権はない。しかしおそらく誰も断らん。この地下施設を拡大した目的は他者から学びを得るため。そしてここが作業に適した土地だったからじゃ」


「その根本にあるのは技術の向上。それがみんなで出来るというなら反対する理由はありませんし、反対する人も居ません。それどころか素材や作業効率を求めて別の地域に移り住むかもしれませんね」


 まぁお陰でこんなに人が増えたんですけど、と周囲を見渡して笑うノミド。



「それな。この短期間でどんだけ増えてんだよ。どんだけ拡大してんだよ。もう施設じゃねえよ、地下帝国だよ」


 立ち退きは立ち退きなのでこれ以上内々で話を進めるわけにもいかず、その辺りの交渉というか説明は2人に任せるか、この後集会を開いてもらうことにして、俺は一応の任務達成に安堵しつつ気楽な雑談タイムに突入した。

 

「ドワーフ族の技術の賜物ですよ」


「おっ、なんか参考になりそうな話じゃん。それってどんな物流方法?」


「同族以外には他言無用の代物なんですけど……まぁルークさんなら構わないでしょう」


 彼女の言い方から、人間界には広まっていない技術ではないかと推察したが、どうやら正解だったようだ。


 続きを早く話すよう促す。


「滑車ってあるじゃないですか。テコの原理を利用して重い物を楽々運ぶ。井戸から水を汲み上げたりが有名ですね。ベルトコンベアや車輪も原理は一緒です」


「いやそんな詳細に説明されなくても知ってるから。結構使ってるわ。エレベーターとか作ったの俺だし」


「そう言えばそうでしたね。最近若者に一から教えることが多かったのでつい」


「他人に干渉しないって言ってたよな!? バリバリしてんじゃねえか! どうしたんだよ!? 背中で語るタイプだったはずだろ!?」


「最低限のことは教えますよ。ドワーフのほとんどが学校に行きません。自分達で教えるので通う必要がないんです。他種族の生き方や他業種で必要になる知識ではなく、鍛冶師として、ドワーフ族として必要だったことのみを教えるんです」


 将来を広げるのではなく深める。


 人によって意見が分かれるところだろうが俺は立派だと思う。交流はした方が良いと思うけどな。どうしても閉鎖的になるし。


「脱線して悪かった。それで? その滑車がどうしたって?」


「実は滑車を生み出したのはドワーフ族なんです。そしてご存知の通りドワーフ族の得意分野は鍛冶。得意属性は土。その技術をどうにか発展させられないものかと試行錯誤した結果、生まれたのが『地下を走る車』なのです!」


「……は?」


「馬車や竜車は大地を走るが、滑車の原理を使って進むべき道を1本に絞り、その道や車に土属性を付与すれば大量に物資を移動させられると考えたわけじゃな」


「…………はぁ」


「移動力重視のところもありますね。元々土を掘るのは得意ですし、掘った土で何かするのが生き甲斐にしてますし、狭さ暗さは苦になりません。大人1人分のサイズの洞窟で1週間過ごして遠方に行くなんてこともあります。

 ぼく達はそれを『急行』と呼んでいます。『急』に『行う』ので急行です。例えばヨシュアから王都までだと双方から掘れば6日で作れますね。ちなみにオッサンさんの言う物資移動用の大型車両は『貨物便』です。名前と言い役割と言い、ワイバーン便にお株を奪われた時は、それはそれは悲しんだものです。でも言うわけにはいきません。なにせドワーフ族の秘密ですから。

 どちらも速度は遅いですけど重量には自信がありますよぉ。頑丈さも中々のものです。慣れない人が作って地崩れが起きても結構生きてますし。結構ということはもちろん死ぬこともあるんですけどね。そこはまぁ自己責任ということで。不安なら他人の作った物を使うなです」


「かと言って自分専用を作るには時間と土地が足りんがな。あまり掘り過ぎると地上にも影響が出てしまう。ダンジョンとぶつかるなど日常茶飯事じゃ」


「そう言えばこの間も、貨物便の路線とダンジョンが繋がって大惨事、なんて事件ありましたね。死亡者こそ出ませんでしたけど物資が全部パーになってしまったんでしたっけ? 地盤の関係で途中分岐も無理で、路線そのものを閉鎖したとか聞いた気が……」


 それもう地下鉄じゃね? 地下ボロボロじゃね? ドワーフ好き勝手やり過ぎじゃね? その技術使えるんじゃね?


 俺は饒舌に喋る2人を眺めながら色々なことを考えていた。

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