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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十六章 プロジェクトZ~研究者達~Ⅲ

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千百八十七話 シフト

「ハァアアアア!!」


 ちょっとした理科室ほどもある広い室内に、雄々しい叫び声が鳴り響く。


 同時に声の主の周りに金色のオーラが発生。この世ならざる力に世界の理である精霊達が動揺する。


 OPをアレンジした勝確BGMの流れる熱いバトルが始まりそうなシチュエーションだが、残念ながら俺がやろうとしているのはのんびり……とは行かないが、ただの調査。なにせ使用量に制限がある中でどれだけ効率よく動けるかがカギだからな。


 まぁとにかく、こんなことをしなくても引き出せるが、本気を出したらどうなるかを調べるために叫んでみただけ。


 その証拠に周りの連中は全員白けている。興奮しているとしてもそれはプラズマに対してであって、俺の咆哮や金色のオーラの行く末とは無関係だ。


 ちなみに叫んだ結果は特に変わらず。語りに思考能力を割いてるせいかもしれないけどさ。


「……やっぱこのタイミングか」


 先程も述べたように、プラズマを引き出すのは回数&使用量制限があるので、効率よく調べるためには1人1人順番におこなう必要がある。


 トップバッターに名乗りを上げた俺の今の気持ちを表すなら『予想通り』。


 そんな俺の呟きに応えるように、コーネルが壁に掛かった時計と手元の資料と俺の間で忙しなく視線を動かしながら、言った。


「スノーバースとの時差が約6時間。現在時刻から逆算して丁度0時だな」


 研究者チーム、そして手伝いというか被験体というか実験材料のニーナとイヨが俺の放つオーラを興味深そうに眺める中、彼だけは仕様の理解に勤めていたようだ。


 って、俺がそういう役割分担にしたんだけどさ。じゃないと全員がプラズマそっちのけで時間調べたり推理したりしそうだし。それって本末転倒じゃん。


「3分前に挑戦した時は誰もプラズマを引き出せなかった。しかし今は出来た。変わったのは向こうの日付。神降ろしをした土地なのか、精霊王が生まれた土地なのか、はたまた別の理由なのか、正解はわからないがセイルーン王国での切り替えは18時頃と思って良いだろう」


 コーネルは資料にまとめながら話を続ける。


 俺自身は2回目、全員合わせても5回目という、試行回数の『し』の字しかない状況なので、時間を空けたり場所を変えたり色々試すつもりだが、おそらくそれが唯一無二の条件だ。


 逆に違っていたら何故そんなことをしたのか神を問いただすレベル。


「まぁそれはこの後、昼間に引き出した順番とは別の順番でやって判断するとして……どうだ? 2人は何か意見とかあるか?」


 力の行使から1分。


 プラズマ(というか静電気)の影響を受けずに済む術を身につけたニーナも、初見のイヨも、見た目や顔色が一切変わらない。


 しかし2人とも神獣だったりエルフだったり力に特化した種族。俺達のような雑魚とは違った感覚があるに違いないと感想を求めると、


「別に」


「ないわよ」


 2人は悪びれた様子もなくあっけらかんと言い放った。


(や、役に立たねぇ……)


 口に出しそうになったが今後の活躍に期待しているのでグッと堪える。


 俺は大人だ。この程度のことで怒ったりはしない。発見が無いなら無いなりに努力しろよとか、ニーナはその結界だが除去魔術だかを停止して昼間みたいなモコモコになって実験材料として役に立てとか、逆にイヨはそのやり方を教わって精霊術に昇華させてみろとか、色々言いたいけど自然体に任せた方が良いこともある。


 意識しないことで開かれる扉はあって、たぶん今がそれ。きっとそう。


「4回も見たのに今更気付くことなんてあるわけがない」


「わたしに何をきたいしてるのよ。エルフがとくいなのは精霊とのタイワ。その精霊にりかいできない力のことなんてわかるわけないじゃない」


「成果はいいけどせめてやる気は出せ!? この世界では気持ちが大事ってわかってんだろ!? わかってないとしたら二度と強者名乗るな!」


 流石にね……。




「ったく……これならヒカリの方がマシだったよ……」


 プラズマを引き出して10分。


 1回目が全員20分前後だったので同じだとすれば半分が経過したわけだが、ニーナとイヨは接触しても何の変化もなく、これといった意見も出さない(なんか凄いわね、調子に乗ってる、わたしも出来ないかな的なお喋りはしている)。


 ただただ貴重な時間を浪費していく2人に、思わず本音が漏れる。


「な、なんですって!? このわたしがヒカリにおとってる!? どこが!?」


 両手でドヒャーと驚きを、両足でズザザと衝撃による後退りを、顔面と声で不当な評価を下した俺への不満を表現したイヨは、すぐさま訂正を求めてきた。


「意欲・眼力・経験値・理解力。劣ってるところしかねえよ。てかそんな言葉どこで覚えた」


 イブ達と一緒にプラズマを調べたいのは山々だが、スルーすることも出来なかったので、俺は仕事を一旦放棄してイヨとのコメディパートに身を置いた。


 一応手伝ってもらってるわけだしな。エルフにも理解出来ないってことがわかったし。イヨの頭や力が足りないだけの可能性もあるけど。


「え? ルークだけど?」


「ふざけんな。そんな他人と比べてのネガティブ発言したことねえよ。身の程弁えてるよ。俺は劣ってばっかだよ。何度存在価値がないと思ったか覚えてないぐらい、強者に頼りっぱなしの手柄もらいっぱなしだよ」


「これ以上ないくらいネガティブだけど!?」


「ただの事実だ。それに俺は何とか主人公としての尊厳を守ろうと努力してる。劣ってることを認めて自分なりに活躍出来る場を探してる。毎回強者が先回りしてて未だに見つかってないだけだ」


「いっしょー見つからなそうよね」


 言うな……俺も薄々そうじゃないかなぁって思ってんだよ。チーターには何やっても勝てないんだよ。しかも金で手に入れた力じゃなくて相応の努力をしてるから責めるに責められないし。俺はこのやり場のない怒りを抱えたまま生きていくんだ。一生追いつけない影を追い続けるんだ。でもそれが楽しかったりするんだ。


 一生挑戦者。


 若い内の苦労は買ってでもしろ? 地位も年齢も関係ないだろ。『苦労は買ってでもしろ』だ。その先にある成長を楽しめ。


「てか話を逸らすな。なんで劣ってる発言の元が俺なんだよ」


「精霊達にそう言われた」


「又聞きした情報を真に受けるなっ! どんなに信頼してる相手でも冗談くらい言うだろ! むしろ仲が良ければ良いほど冗談言うだろ! 真実は自分の目と耳と感覚で捉えるもんだぞ!」


「え、うん、だからホントかなって」


 ……日々の積み重ねって大事だね。もうちょっとネタ抑えめにしようと思ったけど生肉を目の前にしたライオンぐらい抑えられそうにないからやめておいたよ。つまり現状維持だよ。別に良いよ。相手にどう思われようと楽しめれば。




「――で、今回も手掛かりすら見つからなかったわけだけど、お前等明日からどうするよ? てかこの後どうするよ?」


 1回20分行使で40分議論して、4人で4時間。


 3人目となるイブがプラズマを顕現させた辺りでうとうとし始めたイヨに、悪戯……もとい寝落ちしないようあれこれ手を打ちつつ、日付変更。完全にスリープモードになる前に今後の予定を確認することに。


「まず“これ”だけど……」


 首の座っていない赤子と見紛うばかりに、俺の隣で頭を上下左右にカクンカクンさせる幼女の頬を突く。


「う……?」


 まどろんだ声で鳴く。開きっぱなしの口からは涎がポタポタ。今ここでフカフカの布団を提供したら絶対朝まで目を覚まさない。提供しなくても時間の問題だ。


「ぶっちゃけどうだったよ? 役に立ってないけど次回以降も手伝い頼む?」


 聞こえていれば起きるし、聞こえていなければ問題ないと、遠慮なく本人の耳元で話題に出す。


 彼女の学校のことを考えたら18時というは丁度良い時間ではある。ニーナもこちらをメインにするとは言ってくれたが、チココ不在の昼間は食堂に居たいはず。


 イブ達も、リセット時刻丁度に行使する必要はないとは言え、丸1日じっくり考えたことを早く試したいに違いない。


「でもそうなると毎回こうなる」


 送って行くのは構わないし、やる気さえあれば今は役立たずでもその内どうにかなりそうだが、意識を手放されるのは困る。


 保護者ルナマリアの許可を得て、寝てる状況で何回か調べるってのは良いと思う。それも貴重なサンプルだ。しかし流石に毎回というのは……。


「そもそも寝落ちした幼女の体をまさぐるのは流石に体裁が悪い。何かあったら一発で死ぬ。社会的にも物理的にも。男も女も関係なくな」


「「……え?」」


 時間経過で何か変化が起きていないか、9割方操り人形と化しているイヨの体を調べようと手を伸ばしているイブとパスカルに釘をさすと、2人は驚いたような顔でこちらを振り返った。


 同性なら問題ないと思っているらしい。


 怖いエルフが現れない内に手を引いておけ。正直今の俺の状態もかなり危ない。このまま倒れて顔が俺の股間に密着したらきっとフィーネかルナマリアが……怒髪天で……ブルブル。


「遊びたい盛りの6歳児を毎日こんな時間まで付き合わせるのも悪いしな。かと言って議論時間を短くするのも無理」


「つまり彼女に協力してもらうのは2人目、遅くても3人目までということだな?」


「そゆこと。だから研究者にとって一番我慢ならない『トライ&エラーの抜け落ち』を覚悟でイヨの勘を頼るかどうか。決を取りたいと思う」


 成功していたかもしれない事象をすっ飛ばしてまで続けるぐらいなら最初からやらない方がマシ、というヤツも多い。それほどに片っ端から試すの『片っ端』が出来てないことはモヤモヤするのだ。


 100本のクジを最初から最後まで全部引いて当たりがなかった時の失望感の万倍辛い、と言えば少しはこの気持ちが伝わるだろうか。誰が悪いわけでもないのだから当然訴えることも出来ない。徒労だけが残る。


「ルーク君はどう思うの?」


「俺か? 俺は参加してもらいたい側だな。何なら来たい時に来てくれれば良いと思ってる。毎回じゃなくてな」


 イヨはニーナと違って明確な手掛かりではない。『エルフだから何とかなるかも~』という勝手な期待感だ。そういった相手は好きにさせるのが一番ではないだろうか。


「じゃあ私もそれで」


「僕もだ。そもそもドワーフの件で十分役に立っているからな」


「ですね」


 結果は満場一致で可決。


「わたしの意見は?」


「いや、何もしてないお前が反対するのは違うじゃん。実質部外者じゃん。というかどうせ賛成だろ」


 どちらにも投票出来ていないニーナが苦言を呈すも、質的な意味でも量的な意味でもやる必要がないと一蹴。


「……出社時間は? 昼から深夜まで? 夕方から朝まで?」


 話を逸らしやがった。しかも的確に。


 俺も今から話そうと思ってたんだ。本当なんだ。「まったく同じことを思ってました」って言うだけの無能と一緒にしないでくれ。


 ちなみに議論の結果、俺達は基本15時、ニーナは18時、ドワーフ達と合わせる必要があれば応相談となった。

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