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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十六章 プロジェクトZ~研究者達~Ⅲ

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千百八十六話 イヨパニック

 猫の手食堂を追い出され……いや、後にして数十秒。


 特に用事がないからと本日のみ実験体になることを承認したエルフっ娘は、俺・イブ・コーネル・パスカル、そして新たに仲間に加わったニーナのプラズマ研究チームに混じって、夕焼けに染まる町中を歩いていた。


 実験体と言ってもプラズマを引き出す力が戻っていたらの話。


 事と次第によっては連日召喚させていただくが、まぁそれはさて置き、まずは1日1回の使用制限の『1日』がどこからカウントされるのか調べるのが先だ。


「え? しょくどーに立ち寄ったりゆう? 帰り道だからだけど?」


 どうせ長くなるので、こちらの話をする前に気になっていたことを尋ねると、イヨは何故そんなことを聞くのかわからないといった様子で、首を傾げた。


「なんだ、人脈やエルフの力で俺達が帰ってきたことを把握してたわけじゃないのか。ただの偶然かよ」


「ええ。気付いたのはお店に入る前……って、もしかしてルーク、今わたしのことバカにした?」


「そんなわけないだろ。俺より気付くのが遅かったんだなって思っただけだよ」


「ならよし!」


 バカで良かった。


 どうせ最初の否定がすべてに掛かってるとかそんな感じだ。発言を部分でしかとらえないヤツは扱いやすくて助かる。心配にもなるが。



「運命は古代語で書くとデスティニー」


「「「???」」」


 イヨとの偶然の再会から今後の方針を決めた俺は、力強く、意味深な台詞を吐いた。全員が先程のイヨより激しめに首を傾げる。


 コーネルとニーナに至っては可哀想な者を見るような目をしている。可哀想なのは察しの悪いお前達だ。今からそれを思い知らせてやる。


「良いか? イヨが食堂に立ち寄った理由は帰り道だったから。でも実際は若干の寄り道をしている。ここは農場と学校の最短ルートではないからな。

 つまり彼女は食堂の客や知り合いが働いている店ではなく『チココの付き添い』として立ち寄ることがあるだけ。毎日立ち寄ってるわけじゃない。そうだな?」


「え? う、うん……」


 疑問を頭の上に浮かべたままだったイヨは、突然話を振られて戸惑いながらも、俺の推理を肯定するようにコクリと頷く。


「で、その要因となっているココとチコが手伝うのは暇な時」


 これはリリから聞いた話だが、事前に友達と遊ぶことが決まっていたり他にやりたいことがあると来ないし、当日に出来た場合は家族や知り合い(主に商店街の連中)を代役として派遣するらしい。


 イヨが食堂に立ち寄るのと同じく、彼女もまたチココが休む用事の要因になり得るのだ。一蓮托生。運命共同体である。


「断言する。プラズマは引き出せるし、イヨもニーナみたいに何かしらの反応がある。要するにそういう運命だって話」


「なんだ。いつもの誰にも伝わらないボケではなかったのか」


「頭がおかしくなったわけでもなかった」


「何故残念そうな顔をする!? 俺が真面目なこと言ったらダメなのか!? 話の切り出しは必ずボケなきゃダメなのか!?」


 哀れむような顔をしていた者達から辛辣極まりない言葉が飛び出し、俺は刃に近いそれ等に圧倒されぬよう、人混みを気にせず叫んだ。


 たしかにそういうことは多い。しかし義務ではない。あくまでも俺がやりたいからやっているだけ。空気を和ませたり考える時間を稼いだり気遣いからやっている場合もあるが、基本的に上手に対処してくれるという信頼でやっているのだ。


「イヨもわたしと同じプラズマ適性者ってこと?」


「きゅ、急に話戻しますね、ニーナさん……もうちょっとこのくだりやっても良いんですよ?」


「わたし達は終わらせてた。ルークが無理矢理続けただけ」


 ウワォ、被害者だったはずがいつの間にやら加害者になっていましたよ。彼女の中ではずっと加害者だったみたいだけどさ。でもツッコむのって悪いことじゃないよね。ボケをスルーする方が悪いことだよね。


 いやまぁボケてないって言われたらそれまでなんだけどさ。


「ボケてない」


 はーい、おしまいでーす。


 そして戦争の始まりでーす。



「イヨちゃんはニーナさんと同じプラズマ適性者ってこと?」


「さぁ。そこまではわからないけど、このメンバー構成には何かしら意味があると思ってるよ。ヒカリと違って俺は運命信者だし。そう仕向ける強者達が昔から周りに居たせいってのもあるけどイヨも重要なカギになってるはずだ」


 子供の目の前で他者を暴行するのは教育上よろしくないので、言葉の暴力で痛めつけようとしていた矢先。イブから実に興味深い質問が投げ掛けられた。


 当然のように俺は心の拳を仕舞って対応する。


「わたしとイブの待遇に差を感じる。改善を求める」


「うるせぇ! ここぞという時にしか発言しない陰キャ王女と、日頃からどうでも良い情報を垂れ流し続けるどころか肝心な情報を遮断する厄介者が、同じ待遇になると思うな! 身の程を弁えろ!」


 口先だけのヤツは嫌いだ。自分では何もしないのに良い思いをしたがる。周りからの評価に文句を言う前に努力しろ。もちろん比較対象を下げるんじゃなくて自分を上げる方向でな。具体的にはネタキャラ脱却。


 まぁそんなことは俺が許さないのでニーナは一生このままで居てもらうが。


「むしろ私の方がニーナさんより下な気が……」


「じゃあもっと発言しろ。面白おかしい弄られキャラになれ」


「やっぱりわたしの待遇がおかしい」


「私も。昔よりはちゃんとコミュニケーション取れてる……はず」


「ねぇ、これってどっちの勝ち? どっちの方がたいぐーの方が良いの? そもそもたいぐーってなに?」


 初対面だから遠慮したのか、親しい上に発言者だからなのか、イヨは手隙のコーネルやパスカルではなく俺に尋ねてきた。


 学校生活で少しは対人関係スキルが向上したかと思いきや、相変わらず人間との距離感を測りかねているようだ。おそらく俺とニーナが居なくなればたちどころに無口になるだろう。最悪逃走する。


「待遇とは、給与・勤務時間など雇用者の勤労者に対する取り扱い、またはある地位に準じた取り扱いを受けること。ニーナさんは自分を適当に扱い過ぎではないかと文句を言っているんだ」


「へぇ~」


 と思ったらそんなこともなかったぜ。エルフであることを特別扱いしないのが好印象だったのかもな。ルークが認めたヤツだから大丈夫的な信頼感の表れかも。


 それはともかく、


「問題となっているのは人の価値だから勝ち負けはない。どっちが良いかはその人次第。今回は許すけど今度から言葉の意味は自分で調べなさい。人から教えてもらったことを鵜呑みにするような大人になるんじゃありません」


「え、え、え?」


 その辺りのことをじっくりたっぷり時間を掛けて理解させたいところだが、残念ながらおバカ幼女の頭脳ではそれも難しく、知恵熱でぶっ倒れる前に話を締めるしかなかった。


 周りの評価と自分の評価が違うという、彼女自身にも当てはまることを議論したのが悪かったのかもしれない。


 まぁちゃんとこちらの話に耳を傾けており、『なんでこんなに評価が低いんだ!』とブチギレる若者にはなりそうにないので、そこは喜んでおこう。


 そういう連中は理解しないヤツより質が悪いからな。足手まといと言っても良い。俺やコーネルなんかは、別の考え方をするためにあえてそうすることもあるが、それはあくまでも大成功を目指してのこと。基礎が出来るまではしない方が良い。トラブルの元だ。




 精霊が気を利かせたのか、リアルに頭から湯気が立ち上り始めたイヨのリフレッシュも兼ねて、難しい話は一切抜きにしたリニア計画を語っていると、


「ふふーん、わたしドワーフと知り合いよ! ココやチコ、ルイーズほどじゃないけど仲良し! こーぼーにも何度もあそびにいったわ!」


 知っている場所だからなのだろう。彼女は無い胸を張ってクラスメイトに1人ドワーフが居ることを発表。地下の工房についても知っていると宣言した。


 子供って遠慮ないね。この様子だと本人の前でも「貴方より仲良しだから」とか言って約束断ったりしてるんだろうな。友情の順位付けとか大人になったら絶対に出来ないよ。それを成長と呼ぶかは知らないけど本心で付き合えるのって良いことだと思うよ。


「工房ってどんくらいの規模だった? 前にチラッとだけ見たことあるけどそんな知らなくてさ」


「おっきかった!」


 ……うん、まぁわかってた。この子から最新情報を得ようとした俺が馬鹿だった。反省。


「しかしクラスに1人か……増えたって言ってもあんま人間と交流しようって感じじゃないのかもな」


 ドワーフは生まれながらの鍛冶職人。


 どこぞの商人娘のように『学校に通うより家族の下で修業する方が人生の役に立つ』の精神で生きているので、人間社会で生きる術を学ぶ以外の理由で通学することは少ない。


 相手はヨシュアの地下を占領しかねない勢いで増えている者達。それなりに子供も居るはずなのにそれをしないというのは、鍛冶に便利だから集まっているだけで、同じヨシュアで暮らす者同士仲良くしていこうという気がない可能性が高い。


 それはつまり地下鉄用の土地を譲ってくれる可能性が低いということ。


 何なら地上げ屋としてボッタクリ価格で売りつけてくるかもしれない。素材や魔道具を寄こせ、自分達にもプラズマを使わせろ、などと言い出すかも……。


「別に困ることではないな。彼等に素材を提供することこそが僕達の望みとも言える」


「程度によるけどな。無関係なことに使って足りなくなったらアウトだし。かと言って好奇心を制限しろってのも難しい。結局ドワーフ達の人柄次第なんだよ」


「だからこそルークは名乗り出たのだろう。自分の知り合いならそれが可能だと」


「買いかぶるな。その時はたまたまそうだっただけで、今回も思い通りになる保障なんてどこにもない。そんな長い付き合いじゃないしな」


 ここでコーネルが一瞬でもイヨの方を見ていたら2人の内どちらかをメンバーから外していたが、幸い彼女を交渉材料にするという思考には至らなかったようだ。


 もちろん俺もするつもりはない。


「彼女、交渉材料に使えそうですね」


「ん。実験体にもなって一石二鳥」


「わたしより役立つ人材は要らない。上が居なくなれば必然的にわたしがナンバーワン」


 女性陣ッ!!

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