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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十六章 プロジェクトZ~研究者達~Ⅲ

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千百八十三話 隣人トラブル

 久しぶりに再会した兄から告げられたのは、こっちはこっちで頑張っていたという、当たり前のことだった。


 ただ、どうやらその作業は俺達のリニア計画に関係しているらしく、手が空いたら手伝え、手伝わなくても良いけど困るのはお前等だと言わんばかりの様子で、レオ兄は詳細を語り始めた。


 あくまでも俺の主観である。


「ルーク達が作ろうとしてる地下を高速で走る船は、ヨシュアと王都を繋ぐんだよね?」


「まぁ後々は世界中の拠点を繋ぐ予定だけど、まずはそこだな」


 地下迷宮が使えるかどうかは実際に歩いて確かめた。


 プラズマやプラズマを付与した用品との相性によっては使用しない可能性もあるが、おそらく大丈夫。少なくとも地下と使うという軸が変わることはない。


 あとは国だか企業だかが他の地域の調査している間にリニアを形にして、同国、同大陸、そして海を隔てた別大陸に広げていく予定である。


「って俺そのことレオ兄に言ったっけ?」


「おおよその概要はね。でも僕達はそんな私的な用件で商店街を調べてたわけじゃない。セイルーン王国から正式な依頼があったんだ。『ヨシュア周辺の地下を調べてもらいたい』って」


 まさか家族のために裏であれこれ頑張ってくれていたのか、と有難いような有難迷惑のような複雑な気持ちを抱いていると、レオ兄はそれ等を根底から覆した。


 やるなら一言いってからにしてくれ。じゃないと邪魔になる場合があるし、そうなったら全員が悲しむことになる。誰も悪くないけど誰も得しない。そんなのは嫌だ。妻へのプレゼント(髪飾り)を買うために祖父の形見の懐中時計を売る夫と、その懐中時計を吊るすチェーンを買うために綺麗な長い髪をバッサリ切って売る妻ような、すれ違い話は好きじゃない。


「なるほどね。腐っても北部を治める貴族の1人ってわけか」


「腐ってもは余計だよ。北部で土地関係を生業にしてる4つの貴族の中で、オルブライト家が適任と言ってもらえたんだ。国に実力を認められたんだよ」


「ただ単に俺やイブと関係が深いから何かと便利だっただけじゃね? 困ったらユキとかフィーネとかルナマリアとかが何とかしてくれそうだし」


「ルーク……世の中にはね、例え事実でも言って良いことと悪いことがあるんだよ……」


 幸いレオ兄はすべて自分の実力と自惚れるほど愚かではなかった。


 しかし、自分で言っておいてなんだが、実力というのはその辺りを含めてのもの。努力しない方が悪い。国や強者に認めてもらえない方が悪い。仮に俺達の協力が得られなかったとしてもオルブライト家は依頼者の望む以上の成果を出す。


 だから誇っていい。


 これは父さんやレオ兄の実力だ。


「そんな実力者様や、実力者様を見込んだ偉大なるセイルーン王国様が、俺達みたいな底辺研究者の報告内容を信じないのは当然だけど、一体全体どのような調査をされていたので?」


「……もしかしてだけど怒ってる? もしくは喧嘩売ってる?」


「そんなバナナ」


 再確認の是非は意見の分かれるところだろう。念には念を入れることを素晴らしいと言う者も居れば、信用していないのかと批難する者も居る。


 正直言って俺も絶対にこっちという考えは持っていない。


 ただ今回は非だ。茶化してはいるが内心歯ぎしり中。


 たしかに調べろとは言ったが同じ個所を、しかも内密に調べる必要はないと思う。他にやるべきことがあるはずだ。レオ兄や父さんも国から指名されたからってホイホイ従うのはどうかと思う。言い返さないまでも、俺達とは別の方法で調べられるようになってからで良いじゃないか。俺やイブの精霊術越えられんのか、おォ?


 と、二度手間というかサボりというか、先程までの好印象を自らの手でひっくり返すようなレオ兄の言動にイライラしていた俺の脳内に、突然声が響いた。


(タピオカうめぇ~)


 おいやめろ。俺を敗北者にするな。負けてねえよ。バナナジュースはタピオカに負けてねえよ。ちゃんと次世代の流行品になれてたよ。そもそもバナナが凄いよ。太古の昔から君臨する勝者だよ。人生勝ち組だよ。


(てか何の用だ、神)


 脳内に、ジュゾゾ、と何かを啜る音が聞こえ続ける中、俺はその犯人して喧嘩を売ってきた相手を問いただした。


(え? 休憩がてらタピオカ飲んでただけですけど? あ、あとプラズマがちゃんと引き出せたか様子を見に来たのもありますね。問題なさそうで何よりです~)


(お陰様で……ところであの1日1回って制限なんとかなりません?)


(無理で~す。なにせ世界に存在しない力ですからね~。あまり大量に引き出すと色々問題があるんですよ~。良いじゃないですか、仕事とプライベートを両立出来るんですから。私も仕事ばかりしてるルーク君なんて見たくないですし)


(それはそうですけど……)


(納得してもらえたようで何よりです~。ではでは、私は引き続き全世界のアクションゲーム連続ノーダメクリアを目指して頑張りますので、しーゆー♪)


 神様が満面の笑みで両手を振っている姿が脳内を駆け巡ると同時に、念話(神託?)は途絶えた。


 たしかに何の休憩とは言ってなかったけど……言ってなかったけど……! 普通プラズマの件だと思うじゃん! 愛する我が子の頼みを叶えようと頑張ってくれてると思うじゃん!


「……? どうしかした?」


「い、いや、なんでもない。勝手にそうだと決めつけていた自分への嫌悪と、理不尽な世の中にキレそうになっただけだ。ちなみにレオ兄達のことじゃないから」


「そ、そう……なら良かった」


 この怒りをどこにぶつけるのが正解かはわからないが、ここに居るメンバーではないことは確かなので、申し訳なさそうな顔をする家族を安心させ、改めて仕事内容に触れることに。



「別にルーク達のことを信用してないわけじゃないよ。ルークも道中で見たはずだよ。洞窟が枝分かれしてるのを。僕達はその分岐した先を調べてたんだ」


 促されたレオ兄は本日三度目の根底からの覆しを図った。


「いや……ヨシュア近辺の空洞なら俺達がもう報告してるけど……」


 が、しかし、そんなことはとっくの昔にやっている。


 流石に何百mも離れた個所は無理だが、20m程度なら壁や地面を貫通して空洞があるかどうか調べることは出来る。


 結果は、ヨシュアの周りには俺達の通った道の少し上に、ヨシュアを横断するように1本あるだけ。そして北部には掛かっていない。


 道幅や曲がり具合からリニアで走るのは前者の方が向いているという判断も下している。そちらはリニアより気軽に使える急行電車用のレールとして利用するか、埋めるかだが、どちらにしてもわざわざ調べ直すようなものではない。


「道はね。ちょっと聞きたいんだけど、ルークって『洞窟としての道』以外の空洞はスルーしてたんじゃない? 何かの施設とか魔獣の通り道とか、あまりにも大規模だったり逆に小規模だったりするものは、安全性や強度に問題がなければ報告対象外にしてるよね?」


「まぁキリがないっていうか、フィーネやルナマリアのお墨付きだったし、精霊達も賛成してたし……」


 世界は誰のものでもない。人類が好き勝手に開拓することもあれば動植物が棲み家にすることもある。道中で出会ったミミズのように穴をつくりまくる存在もいる。


 常に移り変わるそれ等をすべて報告するのは不可能に近い。意味もない。自然のあるべき姿を否定しているだけだ。


 しかしおそらくレオ兄の言いたいことはそれ。


「つまり俺が見逃したものの中にトラブルが潜んでたってことか?」


「どちらとも言えないなぁ」


 しかし予想に反してレオ兄は曖昧に返答した。


「ほら、ヨシュアってドワーフが集まるでしょ? 素材とか魔道具とか色々あって便利だからって。ルークが言ってたもう1本の道が、彼等の地下施設にぶつかっててね。町へのクレームとしてあがってきたから調べてみたら、それがヨシュアの町を網羅するように広がっていたんだ」


 以前、チココへのプレゼントを作るために訪れた時に見たのは、ほんの一部だったらしい。


「何やってんだよ、あいつ等……」


「ホント、いつの間にって感じだよ……」


 レオ兄も俺とほぼ同じ感情に支配された。土地に携わる者として色々思うところがあるらしい。


「ともかく繋がってる以上は何とかしなくちゃいけない。でも邪魔になるから埋めろと言うことも出来ない。許可こそ取ってないものの法律には違反してないからね。それじゃただの略奪だ」


「流石にな」


 一方的な立ち退き勧告は争いを生む。ましてやリニア関係で世話になるつもりの連中とその件で仲違いするのは、なにがなんでも避けたいところだ。


「でしょ? そこでどういうわけかほとんど手を出されていない商店街の地下を代わりの土地として提供出来ないかなと思って、方々駆け回ってるところなんだよ。もちろん両方の空洞を調べながらね。地質とか色々あるだろうし」


 見事なまでの中間管理職だった。板挟みと言った方が良いか。


「ロア商会が怖いだけじゃね? そして横じゃなくて縦に広げてもらえば良くね? 何なら俺から言おうか? ドワーフの中でもトップっぽい連中と知り合いだし。交渉材料に何か寄こせ、作れ、協力しろって言われても大体出来るし」


「そうしてもらえると助かるよ……」


 こうして俺の研究は脱線していくのであった。


 仕方ないよな。一応計画自体は進んでるし。

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