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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十五章 プロジェクトZ~研究者達~Ⅱ

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千百八十話 プラズマ適性

 セイルーン王国の遥か南にある島国【サウィス】と、その中でも特に自然豊かな町【スノーバース】に別れを告げて、早7日。


「おお……ビリビリしてる……ビリビリしてるぞぉぉ!!」


 行きのゴタゴタが嘘のように何事もなくヨシュアへ戻ってきた俺達は、飛行船から降りるなり、確信をもって第四の物質状態『プラズマ』を別次元から引き出した。


 虚空に手を伸ばし、握り、引っ張り、開くと、そこにはぼんやりと輝く黄色いエネルギー体が。


 右手にはじんわりと痺れる感覚がある。ただの熱量な気もする。わからない。だからこそわかる。今の俺達に理解出来ない力はプラズマだ。


 道中でも何度か試してはいた。しかし顕現させるどころかプラズマの『プ』の字すら感じることが出来なかった。だが誰も気にしなかった。


 行使可能になるのはヨシュアに到着した後。


 全員がそう思っていたからだ。


 神様が変革に手間取っているとか、俺達の実力が足りていないとか、誰かが邪魔しているとか、そんなことは微塵も考えていない。


 運命とは“そういうもの”なのだ。


 ご都合主義が嫌いなヒカリですらこれには異論を唱えなかった。如何にリアリストでも……いや、リアリストだからこそ世界の決定を素直に受け入れた。期待するのではなく必然なら良いらしい。


 そんなわけで世界初の電気の生成に成功したわけだが――。


「力を無駄遣いするな。ここで引き出す意味はないだろう。引き出すにしても相談してからにしろ。後々足りなくなって困るのは自分なんだぞ」


「帰宅するまで待てないとか子供ですか」


「めっ」


「どうして責められてるんですかね!?」


 見たいだろう、知りたいだろう、触れたいだろうという気遣いから率先して力を行使したところ、まさかの批難轟轟。


「計画性を持てって1週間タップリ話し合いましたよね!? 1回や2回の浪費は誤差ですよ!? お遊びも立派な研究ですよ!? 一言入れなかったり帰宅するまで待てなかったのはスイマセン! でもサプライズってそういうものですよね!? 抑えきれない感情が道を切り開くことってありますよね!?」


 俺の持っている知識はあくまでも異世界のもの。


 原理や性能がまったく同じとは限らないのだから一度見ておいた方が良い。調査どうこうはそれからだ。安全な場所でおこなう必要もあった。


「つまりこれは浪費ではなく消費! 必要なこと!」


 右手に宿った光を勢いよく突きつける。


「ふむ……感情が昂ると引き出す力も増えるのか。一応聞いておくが意図的にやっているわけではないんだな?」


「……はい」


 それはそれ、これはこれ。


 引き出してしまったものは仕方ないと、早々に気持ちを切り替えてプラズマの調査に入ったコーネル達は、消耗具合や出力調整のやり方を尋ねてきた。


 もしかしたら最初からずっと、俺の言動はテキトーに流して、プラズマだけに注目していたのかもしれない。こいつ等が目を合わせないなんて日常茶飯事だし。よほど重要な話じゃないと作業しながらだし。何なら内容覚えてないし。


「どうやらあたし達の力は……いえ、今はまだルークさんだけとしておきましょうか。ルークさんの力は魔力に近いもののようですね」


 パスカルが、危険を承知で火に一瞬手をかざしてみたり熱湯に指を突っ込んでみたり階段の上からジャンプしたりする子供のように、目を輝かせながらプラズマに触れる。


 そんなに興味があるなら自分で発動させろ、とツッコミを入れたかったが、よくよく考えたら困るどころか助かっているので放っておくことに。情報共有大事。


「どのくらい自由に操れるの?」


「ん~……化学反応に近いな。こっちの意志を無視して世界の法則に従ってる感じ。この分だと車体やレールも、力押しじゃなくて、プラズマ中心の仕組みにした方が良さそうだな。伝導率や安定性優先でさ」


 イブからの質問に答えながらヒカリの方を見る。


「うん。強制転移は使えない」


「ま、そうだろうな。物質じゃないし」


 そちらは想定内。出来たらやって程度の気持ちだったので不満も失望もない。むしろここまでよくやってくれた。これは彼女が居なければ得られなかった力だ。


「一応努力してみるけど期待しないでね」


「おう。ほどほどにな。本職は別にあるんだから」


 出来ないことを当たり前のように壁と捉えて乗り超えようとするニャンコに、感謝と尊敬の念を送る。


 おそらく無理だ。


 何故ならもし成功したら俺達の存在意義がなくなるから。これまでの苦労もこれからの仕事も全部ヒカリに持っていかれるから。特殊五行なんだったんだよって話じゃん。それはもはや強者ではない。絶対者だ。略奪者だ。というか神だ。


 彼女はソフト面よりハード面の方が活躍出来るのだから、研究は俺達に任せていただいて、車体やレールといったプラズマを利用する物質や器材を作ってもらうつもり。


 それも帰路で決めたことだ。




「……うん、大丈夫。大丈夫だから。わたしはちゃんとやるよ。素材集めたり融合させたり自分に与えられた仕事をこなすよ」


 ヒカリが死んだような目でブツブツ呟く。誰に向けられたものかわからない上、自己解決しているので返答はない。ただ空気はよろしくない。


 円満解決したはずなのに何故こんなことになっているのか。


 ズバリ、彼女の姉、ニーナのせいだ。


『な、なんだ、お前それどうした? めっちゃモフモフじゃん』


 引き出したは良いものの仕舞い方がわからず、魔力を納める時と同じ感覚でなんとなくプラズマを消した後、研究所へ向かうと、そこにニーナが立っていた。


 ……全身の毛という毛を増毛して。


『20分くらい前に突然こうなった。ルーク達のせい。飛行場で変な力使ったから』


 尋ねると、彼女は迷惑そうにしながらも何かを期待するようなドヤ顔で、俺達を……いや俺を責めた。


 腐っても神獣なので帰還したことを知っていてもおかしくはないし、ユキやベーさんや他の強者が伝える可能性もあるのでそこは良い。全身が突然膨張したので仕事を放り出すのもまぁ当然だ。体調不良程度のことならともかく、それで出来ない企業はブラックと言わざるを得ない。


 プラズマを顕現させたことを感じ取っていたのもギリギリわかる。何度も言うが神獣なのだ。知らない力を『変』と言うのは実に無知な彼女らしい。


 しかし影響が出るのは想定外で計算外で異常事態だ。


 俺達なりに片付けたつもりだし、失敗していたとしても何故近場のヒカリやヨシュアという魔境に居る他の強者ではなくニーナなのか。


 劣等感とまでは行かずともニーナのことを妙にライバル視しているヒカリが、特別感の漂うこの状態に不満を感じないはずもなく、しかし自らの役割に納得した手前文句を言うことも出来ず、このような空気になってしまったと。


「……これ静電気じゃね?」


 ニーナの毛は数や体積が増えたわけではなく逆立っているだけ。何かに引っ張られているのではなくフワフワと自然に漂うだけ。


 触りたくても触れない初心コーネル以外の3人。俺・イブ・パスカルが無遠慮に調査すること数秒。俺は彼女の身に起きている異変の正体がそうだと断定した。


「せいでんき?」


「世界の法則としてプラズマが定着した後に起こると想定される現象の1つ。摩擦によって熱以外のエネルギーが生まれて、それが反発しあうことで今のニーナさんみたいな状態になる……らしい」


 この中で唯一プラズマに関する情報を持っていないニーナが当然のように首を傾げ、俺の代わりにイブがその質問に答える。


 地球にそういう現象が存在することは報告済みよ。


 しかしおかしい。


「いくら電気の基になるプラズマが生まれたからって、俺が少し引き出しただけで、この世にはまだ存在してないエネルギーのはずだぞ?」


「――っ」


 ヒカリの耳がピクリと動く。


 仕方ない。特別感が増したからな。俺達と特殊五行の関係と同じで、ニーナがプラズマの適性者みたいなもんだし。まだ不確定だけどたぶんそう。


「前に神様に会ったのが関係してるかも。にーちゃんねるを開設する時にお世話になった人の可能性もある。電脳世界の神になれって言われた」


 やーめーろーよー。これ以上特別感出すなよー。ポンコツダメダメ神獣で良いじゃん。お前そういう立場じゃん。弄られてナンボのキャラじゃん。


 言いたいが、言えば巡り巡ってヒカリを傷つけることになるので、表に出すわけにはいかなかった。今の彼女はニーナより下。ニーナを罵ればそれ以上にヒカリが罵られてしまう。


 ヒカリにはまだまだ頑張ってもらわなければならない。こんなことで不機嫌になられても困る。選ぶべきは沈黙。そしてスルー。


「あ、少しコントロール出来るようになった。これでもうモフモフにならずに済む」


 しかも誰に教えられるでもなく制御可能な天才型。


「……え? 今のはプラズマエネルギーが宿らないようにするだけ? 制御とは別? 引き出したり制御したりは出来ないけど感じることは出来る? なるほど」


 と思ったら防御特化だった。拒絶の力と言っても良いかもしれない。


 誰に教えられたかは俺しか認識出来ていない時点で大体察することが出来るが、それはそうと今後の彼女の活躍に期待せざるを得ない。


 具体的にはセンサーとして研究所に常駐してもらう感じ。


 あと理解してないのに『なるほど』って言うのやめた方がいいよ。賢ぶってるんだろうけど余計バカっぽいから。追及された時にバカが露呈するだけだから。

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