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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十五章 プロジェクトZ~研究者達~Ⅱ

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外伝38 レギオン連合国6

 その空間を一言で表すとしたら『植物園』。


 ひんやりとした空気に満ちる緑のニオイ。何故共存出来ているのか未だに解明されていない魔獣と虫のセッションや木の葉のざわめきが聞こえる一方、歩道があったり植物達が綺麗に棲み分けしていたり、各エリアまで迷わず辿り着けるよう配慮しているとしか思えない箇所も見受けられる。


 フロアの出入り口……階層の移動で利用した階段から真っ直ぐ伸びる歩道を進むと、見えてくるのは空間を支えるようにそそり立つ大樹。


 拓けた空間にポツンと佇む大樹の周りには、水場と、芝生と、魔獣の群れ。


「あいつ等がこのダンジョンのボスだ。≪ケロミット≫。1匹1匹の強さは大したことないが、数は多いし連携も抜群。吐き出す粘液はゴムより伸縮性がある上に魔力を通しにくいから、早めに切って落とさないと身動きを封じられるぞ」


 全力で戦える頑丈な空間を求めてダンジョン最深部にやってきたアリシア一行。


 ダンジョンと言うからには当然魔獣が蔓延っており、目の前の敵を排除しなければ目的のブツは手に入らないので、まずは実力行使で場所を明け渡してもらうことに。


 仲間達と共に森の中で身を潜めていたアッシュは、大樹を取り囲むように生息している、何十というカエルのような魔獣の対策を伝授していく。


「そんなことわざわざ教えてもらわなくても知ってるわよ。それよりなんか2匹変なのいるけどアレは?」


 が、しかし、アリシアは先輩面で注意点を語るアッシュに不服を唱え、群れの中でもひときわ巨大な2匹のケロミットを指差した。


「親だ。周りのはあいつ等が生み出した分身みたいなもんだな。てかわかってねえじゃねーか。ケロミットの生態を知ってたらそんな疑問出るわけないだろ」


 先輩のアドバイスを聞こうとしないダメな後輩として咎められたアリシアだが、彼女は詫びるでも怒るでもなく、ただただ呆れた。


「……言っておくけど他の土地じゃ違うわよ。色んな場所で戦ったことあるけど、あそこまで大きくなかったし、あんな闇のオーラは纏ってなかったわ」


「マジで!?」


「まぁまぁ、魔獣の生態に地域差が出る可能性を考えなかったアリシアもアッシュもどっちも悪いということで……それより来るよ。今のアッシュの声でバレた」


 後衛として常に敵の動向に気を配っていたレインの合図により、一同とカエル達との戦いは、奇襲も秘策もないまま平等な立場で幕を開けた。




「だ! か! ら! なんっっ……なのよ!! いい加減にしなさいよ!! この国は私に恨みでもあるわけ!?」


 人生二度目となる、ボス戦時に地盤が崩落してダンジョンの外に放り出される現象に見舞われたアリシアは、十数時間前にも目にした土壁を殴りつけた。早めの再放送である。


 見ようによっては、何が起きたのか理解出来ず呆然としているアッシュ達より、冷静と言えるのかもしれない。


「しかも今回は仲間とはぐれるし! 落ちたのもやたら深いところだし!」


 彼女の周りに立っているのは、近くで戦闘していたアッシュ・マール・レインの先輩チームと、肩に乗っていたピンキーのみ。


 クロとパックは最下層に取り残されていた。


「おっかしいなぁ……前に来た時はあんな地盤柔くなかったんだけどなぁ……」


 レインが塞がって間もない天井を見上げながら首を傾げる。


 彼は、ここならば激しい戦いにも耐えられると判断したからこそ、このダンジョンを利用することを提案した。しかし違った。もしこれが戦場なら致命的な判断ミス。知将としてあってはならない状況だ。


「それだけ私の火力が凄かったってことでしょ!」


「感情を混ぜるな。怒るのか自慢するのかどっちかにしろ。てかお前の魔法、大樹に吸収されてただろ。原因にするには無理があるぞ」


「だね。それならまだケロミット達が落とし穴を仕掛けていた方が納得出来るよ」


「吸収限界を超えたことで根っこが悪さしたのかもしれないでしょ!」


「はいはい。そこまでです。今は原因の究明よりここから脱出する方法を考える方が先ですよ。まさか忘れたわけではないですよね? ここが食材の存在しない場所ということを。そして私達の手持ちがゼロということを」


 パンパン、と二度手を叩いて空気を一新したピンキーは、一同を諭すように現状報告をおこなった。


 前回の経験もそうだが、カイザー達から聞いた話で、ここが外敵の存在しない洞窟であることはわかっている。元々数時間の探索予定だったので支度は不十分。道中で軽食を取ったとは言え、早くしないと飢え死にしてしまう。


「一番可能性が高いのはアンタが大樹に何かしたってことなんだけどね」


「ああ。ドデカイ木の実が落ちれば一網打尽とか言って何かしてたな」


「しかも無理そうですとか言って途中で放棄してたよね」


「やれやれ……人の話聞いていましたか? 今は原因の究明よりここから脱出する方法を考えるのが先だと何度も言っているでしょう。犯人探しは後回しにしてください。頭悪いんですか? 常識無いんですか? 温厚な私もいい加減キレますよ?」


 ピンキー以外の者達の心の中に『理不尽』の3文字が浮かび上がる。


「間違ったことは言ってない」


「マール……」


 1人が寝返ったことで戦況は大きく変わった。



「ところでここって本当にお前等達が落ちた洞窟なのか? 何の関係もない空洞って可能性もあるっちゃあるだろ?」


「ここに至るまでの経緯や雰囲気が同じことを考えたら低そうだけどね」


 経験者としてアッシュの案を一蹴するアリシア。


 ただ、悲観的になっているわけではないようで、奇妙な体験談として飛ばし飛ばしにおこなっていた話を、『必要な情報』として改めて丁寧に話し始めた。




「結局行き当たりばったりじゃねえか……」


 落ちた時の状況や落ちてからの対応、どうやって出たのか、進む方向の決め手、掛かった時間、などなど詳細に語るアリシアとピンキー。


 そして導き出された結論は『わからない』と『やるしかない』の2つだった。


「仕方ないでしょ。カイザー達は出口わかってるみたいにスイスイ進むし、その理由を聞いても理解出来ないし、2時間も居なかったんだから。流石って感じよ」


「まぁあれは実力というよりハーフエルフや魔族としての特性でしたけどね。もしもここにクロさんが居れば勘を頼らなくても済んだでしょうね」


 急がば回れ。走れば躓く。急いてはことを仕損じる。


 慎重に行動することを推奨する言葉は多いが、今のアリシア達はそんなことをしている暇もなければ動かないと解決しない状況なので、情報共有は多数決で決めた道を進みながら。


 歩き始めて20分。説明が終わってから数秒。当然というか何というか出口の『で』の字も見えていない。


「……なんかドンドン奥に来てる感じしない?」


 そんな中、おそらくこのメンバーで最も地理や物質に詳しいレインが、徐々に広がっていく洞窟と移り変わる地層に怯えながら皆に問いかけた。


 最初の二択を外したのだとしたら今すぐ引き返す必要があるし、途中に4回あった分岐点だとしたら手分けして探した方が良いかもしれない。


 心配性と慎重を行ったり来たりする青年の悩みは尽きない。


「どうかしらね。言ったでしょ。理解出来なかったって。上へ行かないといけないはずなのに何故か下に向かったり、テキトーに壁や天井をぶち抜いたり、正直カイザー達はやりたい放題やってたわよ」


 気にするだけ無駄だと言わんばかりに口を開くアリシア。


 それによって事態が好転するわけでも、レインの思考が止まるわけでもないが、次なる話題の切っ掛けにはなった。


「むしろ生き埋めになる覚悟でやるってのが正解なんじゃね?」


「それはやめた方が良いね。万が一ダンジョンにぶつかったら何が起きるかわからない。地盤やその先に何があるか理解してる人達だからこそとれた手法だよ。やるとしても確実に地上に繋がっているとわかってからだ」


「わぁってるよ。死ぬよりは良いだろって話だ。最終手段としてだ」


「……え?」


「「「え?」」」


 背後から驚きと戸惑いが入り混じった声。


 一同が何事か振り向くと、そこにはアッシュ達のパーティの中で唯一にして最大の天然キャラのマールが、怪しい靄を出す鉱石を握っていた。


「この間レインに教えてもらったから……この石に魔法陣刻んで魔力籠めると爆発するって。簡単だからマールにも出来るって。あそこに埋まってる緑の石と一緒に使えば火力倍増だって」


 鉱石内部のエネルギーが臨界点に達するまで、残り0秒――。

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