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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十五章 プロジェクトZ~研究者達~Ⅱ

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千百七十九話 さらばスノーバース

(ルーク君)


(……え? あ、もう良い感じ?)


 自身の肉体に神を宿すこと数分。


 脱力して膝から崩れ落ちたり目の焦点が合わなくなるといった、わかりやすい特徴がなかったので気付かなかったが、いつの間にやら神様は肉体を明け渡してくれていたらしい。


 まぁ用件が済んだのにいつまでも居座られても困るのだが、それはともかく、俺はイーさんに促されるまま自らの体に手を伸ばした。


 何の抵抗もなく接触。と同時に視界が霞み、体に力が漲る。


 ただいま俺。


 そしてみんなお疲れ様。



「まさか自らの手で神を降臨させることになるとは……」


「降臨どころか願いを叶えてもらいましたよ」


「どう見ても普通の人体」


 目を開けて最初に飛び込んで来たのはこちらを凝視する皆の顔。


 次に、一度は離した手を再び貼り付けて、俺の全身をまさぐる研究者の姿。力を放出した時よりジックリタップリ舐るように。まるでマリオネットを弄る子供だ。


「って、誰がマリオネットやねん! くすぐったいわ!」


 その手を乱暴に振り払う。


「何か異常はあるか?」


「霊体になった時どんな感覚でした? 意識はあったようですけど感覚はありました? 世界はどう見えていました? 自分自身は? あたし達は?」


「キミ達『労い』って言葉知ってる!?」


 待っていたのは感想と質問の嵐。オリンピックで金メダルを取った選手でもこうはいかない……は流石に言い過ぎか。相手5人だし。というか2人だし。


 ラットとシェリーは実感も理解も出来ずに戸惑っていて、ヒカリは俺よりフィーネとイブに興味津々。どうやら俺の気配をいち早く感知した2人に嫉妬しているようだ。


 ちなみにコーネルだが、心配しているように見えるかもしれないが体の変化を知りたいだけだ。目はモルモットを見る時の研究者のそれだ。イチ物質として扱っている。この疑問を解決するためなら解剖も辞さないだろう。


「特に何も。戻った時に生を実感した以外変わらなかったな」


「「そう(です)か……」」


 そしてコーネルとパスカルも調べ甲斐のない発言に一瞬で俺への興味を失った。


 そもそも調べてわからないから挑戦したわけだしな。神が降りようとその事実は変わらない。万能だからなんだって話。むしろ調べるなら自分達だ。


 力の使用には回数だか量だかに制限があるっぽいからやらないだろうけどさ。



「フィーネとイブはなんで俺の存在に気付いたんだ? いつだ?」


 万能超人のフィーネはともかく、イブはこれまで千里眼より優れた感覚を持っている様子はなかった。最近手に入れたのだろうがその辺も含めて調べよう。


 タイミングとしては、神様が降りた直後、その後のコメディタイム、正体を明かした時、そして神様が俺の霊体を指差した時の4つ。


 最後は確定だが問題はその前。


 反応が無かったのでわからないだけで、実は気付いていた可能性はある。ホント厄介な存在だよ、無表情ヒロインって。それを探るのが楽しかったりするけどね。


「私は神アルディアに言われてですね。肉体に宿っている存在がルーク様でないことは気付いていましたが、ルーク様自身がどこで何をしているのかは、言われるまで気付きませんでした」


「ちょっと待て……てことは何か? 言われてからはどこで何をしてるのか理解出来たと?」


「おおよそですが。何者かと会話している様子は感じ取れましたね」


 スゲェ……別のことに力や注意を割いていたとは言え、イーさんの存在を感知してる。人間で言うなら空気を視認するようなもんだぞ、たぶん。


 フィーネの天井知らずの成長にただただ感服。


(ふふふ……甘いね。私はまだ本気を出していない。あと20回次元を超えられる。この意味がわかるかい?)


 インフレも大概にしろよ。もしかしたらフィーネなら捉えきれるかも、で良いじゃないか。夢も希望も打ち砕くな。それをやって良いのは宇宙の帝王だけだ。


 フィーネの背後に現れた予言者を睨みつけてマウント禁止令を出す。


(あ~、彼ね。私の100万を超える教え子の中で最弱の存在だよ。恥さらしと言っても良い。あまりに低レベル過ぎて手を出そうか迷ったほどさ)


 そりゃたしかに最後の方と比べたら雑魚同然だけど! あれでもシリーズ屈指の人気者だからやめてあげて! 手を出さなくて正解だよ! 名場面が台無しになる!


(では私はこの辺で失礼するよ。やりたいことはすべてやった。またどこかで会おう)


 そう言ってイーさんは姿を消した。


 最後にやりたかったことがドラゴントークという、疑問に思わずにはいられない状態ではあるが、強者のやることをイチイチ気にしていたらきりがないので、俺はその想いごと忘れることにした。


「んじゃあイブは?」


「……私は言われて気付いた」


 間があったことに若干違和感を感じたが、脊髄反射で会話するのが苦手というか出来ない子なので、一度自分の中で発言内容をまとめたのだろうと、誰も触れなかった。


(それがまさかあのような事態になろうとは、この時の俺達は知る由もなかった……)


 二度と出てくるな、クソ予言者が!


 一応この後確認したが、フラグ発言はなかったし、彼女しか足を踏み入れてない『無』と『時』の力と言われたら納得するしかないじゃないか。




「しかしプラズマか……生成すると言われても実感がわかないな。居心地が悪いまである」


「仕方ないよ。ただの口約束だもん。実際に力を引き出すまでその気持ちは消えないよ」


「……ああ、なるほど。だからこんなに嫌な気持ちになるのか」


 ヒカリに言われてコーネルが何やら自覚している。


 先程の仕返しに、久しぶりに賭け事嫌いな同僚をからかってやろうと口を開こうとしたが、それよりも早くパスカルから質問が飛び出した。


「ルークさんはどうするんですか? 特殊五行を修めたあたし達ですら力を消費して引き出すんです。中途半端に身につけている貴方には無理なのでは?」


「それは――」


 歯に衣着せぬ物言いだが実にパスカルらしい。


 しかし困った。神力と引き換えで可能という事実は伝え方が難しい。


「私がお手伝いますよ」


 いっそ、その点においては万能タイプの方が有利ということにするか迷ってると、フィーネからフォローが入った。その間1秒。流石だ。


「え? そんなこと出来るの? ならフィーネが全部やれば良いんじゃない? 言い方からして消費しないでしょ?」


「シェリーさん……彼等はそれを望まないからこそ力を得たのですよ」


「わ、わかってるわよ……ちょっとしたジョークよ。力を貸そうと思っても本人じゃないとダメとかそういう感じでしょ? なにせ私達は未熟者らしいし」


 と、シャリーが肩を竦めたことで、神降ろし……いや、プラズマ獲得に向けた俺達の研究&修行の旅は幕を閉じた。




 町の人々に挨拶したり使用させたもらった土地を元に戻したり器材を飛行船に積み込んだり、なんやかんやともう一晩泊まることになり、翌朝。


 もし既にプラズマが実装されていればリニアモーターカーを差し置いて力のことを調べていたかもしれないが、幸か不幸かまだだったので、海を隔てたこの土地でおこなう作業は残っていない。


 ヨシュアへ帰還する準備を整えた俺達は、特に関わりのあったラットとシェリー一家との最後の挨拶を交わしていた。


「長い間世話になったな。力のことで困ったことがあればいつでも連絡してくれ。飛んでくるから」


 イブは世話になったカルラさんに、パスカルは山の空気に、ヒカリは土地に挨拶しているので、彼等の相手は俺とコーネルだ。フィーネは添えるだけ。


 どちらかと言えばリフォームや魔獣討伐を手伝った(というかやった)俺達の方が世話しているし、プラスして対価も払っているのだが、寝床を利用させたもらったことには変わりない。


 最後ぐらい損得勘定抜きで感謝を述べておこう。


「ああ。家のことで困ったことがあったら連絡するわ」


 ホント、最後までコイツは……。


「心配無用よ。神様も言ってたでしょ。使い道はプラズマを引き出す以外ないって。残ってても意味ないわ」


「いやいや、わかんないぞ。お前達の間に生まれた子供がトンデモナイ何かを発現させるかもしれないし、色々手掛かりをくれたカルラの子供が力を得るかもしれないじゃないか」


「何度言えばわかるのよ。私とコイツはそんな仲じゃないわ」


 と、シェリーが隣でヘラヘラ笑っていた幼馴染の肩を軽く叩くと、


「フガッ!?」


 ダイナマイトが爆発でもしたような凄まじい音と共に、ラットが勢いよく吹き飛んでいった。もはや懐かさすらある力の暴走だ。


「いや、だからさぁ……」


「あっれぇ~、おかしいわねぇ?」


「首を捻るな。犯人はお前だ。しかもたぶん今のでも力を消費したぞ」


 攻撃したシェリーもだが、無事だったラットも防御で使っていそうだ。


 でなければ、トラックに跳ね飛ばされてもそこまでは飛ばないだろうというほど遥か彼方で、体のバネを利用して腹筋と背筋の力だけで起き上がれるわけがない。


「もしあっちが先に使い切った場合死ぬぞ。アイツが」


「だ、大丈夫よ……雪って精霊以外の生き死になんでしょ。なら残った力でラットの魂を呼び寄せれば良いだけじゃない」


「倫理観ッ!!」


 この人、とうとう行くところまで行きましたよ。どこぞの主人公のようなことを言い出しましたよ。


 それが許されるのは成功事例がある時のみと教わらなかったのか? ちなみに俺は教わっていない。死者を蘇らせるとか現実ではあり得ないし。


(アリシア姉がこんな風になってたら嫌だなぁ……)


 どこか似た雰囲気を持つシェリーの様子に一抹の不安を感じつつ、改めて1ヶ月近い雪山暮らしを振り返るも、寂しい気持ちが一切湧かないことに驚く。


 それは全員が同じだったらしい。


 イブ達は別れの挨拶というにはあまりにも簡素に済ませていた。


 涙も感動もない。俺が一番遅かったぐらいだ。ほぼラットが戻って来るまでの時間なので『俺』と言うべきかどうかは微妙だが。


「そりゃそうだろ。別に永遠の別れってわけじゃないんだ。その気になればいつでも会える。生前や死後の世界を知った俺達にとって距離なんて無いようなもんだろ」


「……だな」


 ラットの野郎、最後の最後に美味しいとこ持っていきやがった。


 ……え? ああ、別に感慨深くて溜めたわけじゃないよ。テメェやってくれたなって感情だよ。今のを上書き出来る台詞探しただけだよ。


 なかったけどな!


 次はぜってぇ負けねえ! 俺が綺麗に締めてやる! 覚悟しておけ!

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