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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
七章 商店街編
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八十七話 休憩所2

 ところ変わって売店エリア。


 当然そこに居たのは残るメンバー、サイとノルンだ。


「よぉバカップル、ヨシュア名産の『ロア饅頭』1つどうだい?」


 売店で商品を見ていた2人を露店のオッチャン風にからかってみた。


「バカ言ってないで饅頭ってのを説明しろ」

「ってか、いつから名産になったの?」


「なんだよノリ悪いな。カップルだからオマケして、とか言えないのか!」


 もちろんそんなこと言ったら公認カップルとして数時間で全従業員に広めてやるけどな。


 名産とか特産なんて言ったもん勝ちだろ? 俺だって知らん。


「「いいから説明」」


 はいはい。


 言われるまでも無い。俺はこの説明をするためにここに来たのだ。



 『饅頭』は、砂糖・塩・小豆が手に入ったので餡子を作ってみた所、和風なお菓子にも関わらずオルブライト家で大ブレイクした。


 なんとなくイメージで洋菓子の方が好きかと思ったんだけどそんな事は無く、甘ければ何でもいいらしい。


 で、想像以上の人気だったため売れると思ってフィーネとユキに確認したら、世界中を旅してる2人が口を揃えて「見たことも無い」と言うので、ロア商会のオリジナル商品として試しに売り出してみた。


 他にも色々と作って販売してるけど、数ある中でサイ達の目に留まったのは『饅頭』だったと言うわけ。


 折角だし食べてもらうか。



「あ、ネネ。試食くれる? ロア商会の中でも流行らせるから」


「りょ~か~い。どうぞぉ~」


 俺の指示を受けて売店をやっているネネが、一口サイズにした饅頭をのんびりした口調と動作で手渡してくれた。


 1日数量限定で試食できるようにしているので、それをこいつ等に食べさせて餡子中毒者にしようという試みだ。


「お、食べていいのか? なら遠慮なく」

「フッフ~ン。食堂で鍛えられたアタシの舌を満足させられるかしら~ん?」


 俺の言った通りにハマる事なんて絶対ない、とでも言うように余裕しゃくしゃくに饅頭を口へと放り込んだ2人。



 さぁ新世界を体感するがいい!



「「・・・・モグ・・・・モグ」」


 どう? どう? アルディア初の和菓子だと思うんだけど。


 『つぶあん』と『こしあん』のどっちが売れるか悩んで一応両方作ってみたんだけど、どう?


 さっぱりした餡の口当たりで思わず熱いお茶が飲みたくなる一品に仕上がってると思うけど、どう?


「「・・・・・・」」


 エルがこのレシピと引き換えに嬉し恥ずかしのサービスしてくれた極上な饅頭で、温泉マーク(これも世界初だと思う)を付けてるからお土産としても是非オススメなんだけど、どう?


 そんな特製の饅頭にマヨネーズをぶっ掛けて味をグチャグチャにした結果、エルから本気で怒られてシュンとしてたバカが居たけど、どう?



 ・・・・反応無いな。やっぱり好みは人によるのかな?



「「う・・・・美味いぃぃーーーーーーーっ!!」」


「っ!」


 ビ、ビックリした~。


 俺が別の商品を勧めようと思ってたら、饅頭を一口食べてからずっと黙り込んでいた2人が声を揃えて叫んだ。


「なんだこれ!? 砂糖の絶妙な甘さが舌の上でまろやかに溶けて今までに無い風味を生み出してるぞ! くどくなく、それでいて何度でも繰り返し味わいたくなる菓子だ!」


 お・・・・おぅ。チョイ悪なクールキャラのサイでも解説役に徹するほどの美味しさなんだな。


「ウマ~。美味すぎる~。これに合う飲み物をアタシは知らない! でも間違いなく存在すると断言できる! アタシはもっと甘くてもいいけど、万人受けするためにワザと甘さ控えめにしているんだよね!?

 ふっくらな生地とフワッと溶ける餡子が絶妙にマッチしてる~。あぁ・・・・なんで一瞬でなくなってしまうの?」


 まるで一夜限りの饅頭との出会い、そして永遠の別れを経験したような恋する乙女の表情になったノルン。


 大丈夫だよ。銀貨1枚でいくらでも再会できるから。


 飲み物を欲する、そんな貴方にアツアツな緑茶をどうぞ。


「「ずずず~・・・・はぁ~」」


 饅頭でテンションを上げた2人は手渡された緑茶を一飲み。



 よし落ち着いたかな。


 お茶って渋みがあるんだけど、普通に飲んでるところを見ると抹茶とかも大丈夫そうだな。


「で、どうよ? 餡子の実力は」


「やるじゃねぇか」

「うん、これは名物だ」


 うむ、この調子なら和食文化が根付くのも時間の問題かな。




「あぁーっ! 2人が良いもの食べてる!」


 俺が振り向くと、そこにはゲームエリアで遊んでいたはずのアリシア姉が居て、饅頭を食べた2人を羨ましそうに見ていた。


 人を指差すんじゃありません!


 私にも寄こせってことだろうけど、アンタは家で散々食べただろ。


 煮込んでいる最中の小豆すら我慢できずに飲み込んだせいで火傷して母さんからバカにされてた。かく言う母さんも、もちろん火傷を経験済み。本当に似たもの親子だ。


 とは言え何か食べない限りアリシア姉が落ち着くとは思えない。


「饅頭はもう無いからカステラ食べてな」


 カステラって和菓子として扱って良いのかな? 良いよな? 良いにしよう。俺が法律だ。


「カステラ!? 私これ好き!」


 これも一気食いして喉に詰まらせた経験のあるお姉様だけど、それに懲りることなくあればあるだけバグバグ食べるのだ。


 試しに「どっちが好き?」って聞いたら「優劣を決めるなんてお菓子に失礼だわ!」と殴られた。美味しいお菓子は皆、平等なんだとか・・・・。



 そんな俺達の会話を聞いていたネネから饅頭と同じく一口サイズの試食用カステラを受け取り、アリシア姉は黙って食べ始めた。


 しかし一口サイズなので一瞬で無くなり、ノルンが飲みかけの緑茶を奪い飲み干す。


 一息ついたところで静かになって他の試食品を求めて店内を散策し始めた。


 この売店、饅頭やカステラ等の食べ物関係が充実しており、何となく銭湯って『和』なイメージがあるからお土産は全部和菓子にしている。


 その内パティシエとか育成して商店街の一角に菓子専門店を作りたい。


 絶対人気出ると思うんだ。



「「「じー・・・・」」」



 まぁ・・・・アリシア姉が来たんだから一緒にいた子供達も居るよな。


 ジッと俺に何かを訴えかけてくる3人にもカステラを渡した。


 ってかこれ以上食べるなら金払えよ。




「ところでサイとノルンは何か買うのか? 友達へのプレゼントとか」


 じゃなきゃ土産コーナーなんて見ないよな。


「いや、この土産を下手に渡すと戦争になる」

「だね。買うなら知り合い全員、でもそんなお金はないから誰にも渡さない」


 それはそれは、2人ともお優しい事で。


 今やロア商会の人数はヨシュアだけでも100人を超えるから、いくら高給取りとは言え全員分は厳しい。


 ここには元々珍しい物が売ってないか見に来たらしいけど、購入する気はあったようだ。


 しかし予想以上の商品だったらしく、2人は試食してないけど、ここには饅頭クラスのお菓子が並んでいるのだ。買うとしても商品選択をミスすれば不平不満が爆発して『死』が待っている。


「「もちろんくれると言うなら貰う!」」


 誰がタダでやるか!


 経済を回せ!




「そう言えばユキが大人しいんだけど、何やってるんだ?」


 ここに入ってから全然目立ってない気がする。


「あ、ユキ様なら水風呂で寝てたよ。なんか落ち着くんだって」


 ノルンの説明を聞いた女性陣が同意するように頷く。


 なるほど、女湯から出てきてなかったのか。そりゃ目立たないはずだな。


「毎日のように海中に行ってるけど、やっぱり真水だとなんか違うのか? その辺を詳しく言ってた?」


 水関係にはうるさいユキがそこまで気に入るなんて、何か理由があるんだろうか?


 なんとなく気になった。


「川のように流れるわけでも無く、海の様に声が聞こえるわけでも無い。まるで冷蔵庫の中のような穏やかな場所です~って言ってたと思う」


「そうそう! 私が結界壊すの協力してってお願いした時も、ずっと潜ってて顔出さなかったし。でも完璧な仕事はしてくれたから相変わらず凄いわよね」


 ユチが訳の分からないことを言い出したかと思ったらユキのセリフだったのかよ。


 そしてアリシア姉達による面白そうな結界破壊イベントも無視して夢中で水中に居た、と。


「ちなみに魔術で生み出した水の中とは違うらしいよ。魔力ゼロの場所はまた格別だって言ってた」


 魔力を感知することにかけてはトップクラスのヒカリが水風呂に魔力は無かったと補足説明してくれる。便利だな千里眼。


 その後も目撃者は口々にユキの様子を語ってくれた。


 どんだけ気に入ってるんだよ・・・・。



「まぁ居なければ静かだし、帰る前に回収すればいいか」


「「「そうだね」」」


 銭湯の楽しみ方は自由だからな。




 売店を堪能した俺達は、おそらくマッサージチェアから一歩も動いていないであろう母さん達が居るのんびりエリアにやってきた。


 そろそろ帰る時間だから迎えに来たのだ。


 何故かソーマが居なくなっていたけど、年増コンビは予想通りマッサージチェアで寝ていた。これ気が付くと寝てるよな。


「お~い、起きろ~。ソーマはどこ行った?

 ・・・・おーい!」


 俺が呼びかけてもなかなか起きなかったので、仕方なく肩を揺すると2人が飛び起きた。


「んあ!? あ、あぁ、寝てたのね。あんまり気持ち良かったから、つい」

「至福の時間だったにゃ。でも隣から聞こえるエリーナさんの声がエロかったにゃ」


 いやアンタもね。あと若奥様がエロとか言わない。


 でも2人なりに銭湯を堪能したようだから良しとしよう。



「チッ。なんだよ、ここサービススペースだったのか? だったら最初から居りゃ良かったな」


 サイも女性のセクシーボイスを聞き逃したからって悔しそうにしてんじゃないよ。相手は親友の妻と上司の雇い主だぞ。


「どっせいっ! 「ぐふっ」・・・・悪・撲滅。

 んでソーマは?」


 そんなサイを右フック一撃で黙らせたノルンが辺りを探すけどソーマは見当たらない。


 俺達も探すけど居ないし、ここに来るまでも見かけなかった。


 そんなときはヒカリ先生の出番だ。


「先生! お願いします!」


「おおー! ん~・・・・あれ? 建物の外に居るよ? 玄関みたい」


 なんで先に出てんだよ!




「やぁ来たね」


 ヒカリの言う通り出口で待っていたソーマがこちらを振り返って挨拶する。


「来たね、じゃねえよ! お前勝手に居なくなるなよ。探しただろ」


「全くね。自分勝手な行動をするなんて大人とは言えないわよ!」


 割と身勝手代表なサイとアリシア姉が口々に批難している。


 どこかに手鏡は無かったかな? 自分に向かって同じセリフを言わせたい。


「ゴメンゴメン。

 ・・・・サイ。マッサージチェアは見たかい?」


「あぁ、あの振動する椅子な」


 あまり悪びれた様子もなく謝罪したソーマは、何故かヒッソリした声でサイにだけ話しかけた。


 おい、俺は小さいから目に入らないってか? あ?


「・・・・あれはダメだ。艶めかしい声に思わず襲い掛かりそうになった」


 なるほど、だから逃げてきたのか。


 『サイにだけ話しかけた』ってか『女性達に聞こえないように』って方が正解だな。俺に聞こえるのは問題ないらしい。


 って何しようとしてくれてんだよ!


 公共の場で妻と1戦交えようとしたのか? それとも人妻に手を出すつもりか? どっちもアウトだ!



 しかしそんな当然の疑問も持つことなくサイ達は話を続ける。


「・・・・そんなにか?」


「あぁ・・・・きっとオープンしたら女性専用のマッサージチェアが用意されて、その周囲は男性が陣取ることになるだろうね」


 エロボイスを聞くために男達が署名を集めて銭湯に提出すると言う。


「んじゃ俺もその内、聞きに来ようかね。

 あ、ルーク。ここって紙、売ってたっけ?」


 いや売ってねぇよ。土産物しかねぇよ。お前ら本当に何するつもりだ。


 あとソーマ。今日だけでお前を強請るネタは大量にゲットしたから覚悟しろよ。



「「「何の話?」」」


 子供にはまだ早いのです。黙って忘れるのです。


「「私達が何かした(にゃ)?」」


 女性にも一生縁のない話です。誰にも聞かずに忘れるのです。決して身近な男性に聞いてはいけませんよ。


「なぁそんなになら金取れるんじゃねえか?」

「・・・・相手にもよるけど10分銀貨1枚はいけそうだね」


 お前らも、そろそろ下ネタ止めないとフィーネに言いつけるぞ!



 なんだかんだありながらも皆が出口に集合していたので、ネネとミミに挨拶して俺達はそのまま帰宅した。



 そんな誰でも楽しめる銭湯はヨシュアの名物店として繁盛することになる。


 喘ぎ声の件はマッサージチェアの出力を抑えた事で解決した。


 どこからか噂を聞きつけ、期待と欲望に胸を膨らませて来店した男性陣は泣き崩れたらしいけど知らん。




「うわぁぁああああぁーーーーん! 置いて行かれました~。ひどいです~」


 あ、ユキを忘れてた。


 でも今回は本当に居なくても問題ない立場だったぞ。

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