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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十五章 プロジェクトZ~研究者達~Ⅱ

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千百七十八話 神降ろし

 転生する際に特殊五行を含む全属性の世話になった上、神界に行ったり宇宙に行ったり前世に行ったり普通に生きたり、日頃から行使してきたはずなのに、誰よりも理解しているはずなのに、イブ達の専門的な作業についていけなかった。


 まるで神力だ。


 知識や技術はあるが、肝心な部分は神頼み。世界が俺の提案を受け入れてくれただけ。何故そうなったのか、同じことをするためにはどうしたら良いのか、まったくわからないブラックボックス。


 彼女達が何をしているのかはわかるのに理解が出来ない。


 人間が生きるために空気が必要なのはわかるけど、体内に取り込んだり吐き出す理屈はわからない。体が、脳が、世界が勝手にしてくれるから知る必要がない。知ろうとする意志すら拒まれる。どうやってもその領域に足を踏み入れることが出来ない。


 そんな感じだ。


 わかっているのにわからないもどかしさに苛まれながらも、それでもプラズマを生み出せるなら構わないと、俺は傍観者になることを受け入れかけていた。


 でもやっぱり無理だった。


 そんなの主人公じゃない。


 語り部だからとかそういうメタではない。自分の人生で自分が中心になることを諦める必要があるのか、という誰にでも当てはまる疑問だ。


 適性者になれないのならその力をまとめる人間になれば良い。


 それも無理なら支える人間になれば良い。


 それでも無理なら広める人間になれば良い。


 どうしようもないことなんてない。可能性は無限大だ。



 特殊五行発動の器になることを決意した俺は、仲間達に相談し、もはや私有地として扱っても許されるほど度々利用している雪原で、イブ・コーネル・パスカル・ラット・シェリーの5人から力を行使された。


 肉体を構成する物質が生まれたり死んだり、魂が増えたり減ったり、死後の世界を行ったり来たり、力を得たり失ったりして無事なわけがない。


 予想では、良いパターンが『神界に飛ばされて神と対面。新たな理を生み出す許可を貰う』、悪いパターンが『ルーク=オルブライトの魂が代償になる』だった。


 俺が全部の力を自由に使えるようになるチート化は、人生を楽しめなくなる可能性が高いので嬉しくない。今の俺のままで何とかなるのがベスト。もちろん失敗するぐらいならチート化しても構わない。成功は大前提だ。


 正直、神様が依り代に宿るのも想定内だったのだが……。


「オッス、オラ、アルディア! わくわくすっぞ!」


(何の冗談だ?)


 声が出ない。衝撃でではなく声帯がないせい。疑問は本当の意味での魂の叫びとなって俺の心にだけ木霊する。


 その対象にして今の声帯の持ち主は、神の名を冠しながらも神様らしくない言動で、俺の魂を引き剥がした犯人……まぁ仲間達にアピールを始めた。


「ククク……これが人の体か。力が漲る。漲るぞ。ふははは!」


 俺は悪ふざけ好きの神様に慣れているが、普段見せている姿はあくまでもオフの時らしいので、敬虔な信者の前でやるべきことではない。幻滅されるだけだ。


 滑ってるし。極寒の風が吹いてるし。


「滑ってませんよ。何故なら私は神ですからね。私が白と言えば黒も白になるんです。つまり皆さんが今感じている気持ちこそ爆笑なのです」


(暴論やめろ。てか俺の言葉聞こえてんのかい)


 が、神様の言葉は俺ではなく、冷めた目をしているイブ達に向けて放ったものだった。まぁ俺にも向けられてる可能性はあるが。


「はぁ……ルーク、ふざけるのも大概にしろ」


「体はなんともないんですか? 精神がどこかへ行ったりしました?」


(何故気付かない!?)


 コーネルも、パスカルも、もしかしたらその他全員が、中身が入れ替わっていることに気付かず、無事に生還した俺を労うような振る舞いを始めた。


 たしかに肉体こそ俺だが、この短時間に幾度となく俺らしくない言動を取り、自らを神と名乗った人間に対して何の疑問も抱かないのはおかしい。俺は真面目な時にあんなことしない。


 思わず大声でツッコむが当然誰も反応しない。


(いやいやソックリだよ。普段のキミそのものだ)


(イーさん……)


 と思ったら半透明の予言者様が反応してくれた。よく見たら俺の手足も半透明だった。どうやら霊体とはこういうものらしい。



(もしかしてアンタも特殊五行全使用で霊体になったのか?)


 アピールすればするほど本物と見なされることに不満はあるものの、こちらからはどうすることも出来ないし、現世サイドの話は進みそうにないので、一旦話題をイーさんに向けることに。


 今の状況を知っておいて損はないしな。


(私の場合は世界に存在するすべての力を自力で揃えてだけどね。だから現れるのも消えるのも自由自在さ。キミと違ってね)


 流石は元精霊王。


 そしてヒントをありがとう。


(どういたしまして、と言いたいところだが感謝する必要はないよ。これはほんのひと時の形式的なもの。すぐに肉体に戻れるよ)


「と、冗談はこのくらいにして……おめでとうございます。皆さんは見事神の試練に合格しました。世界が始まって三度目の快挙です。ご褒美に何でも1つ願いを叶えてあげましょう」


 タイミングを見計らったかのように真顔になった神様は、それこそ俺らしさの欠片もない威厳と優しさの入り混じった口調で話し始めた。


 試練というのは特殊五行の同時行使および器の使用による神の召喚のことを言っているのだろう。


「プラズマ以外のことを願ったら罰を与えますけど」


 実質でも何でもない。一択だ。


 どこまでも信者を裏切る愚神め。


 まぁそれはそれとして、気になるのは仲間達の反応である。


 何をやっても『ルークの冗談』という最強の言い訳を盾に受け入れてきた連中が、いつ自分の間違いに気付くか。そして気付いた時にどうするか。


「「「……?」」」


(ふむふむ、フィーネとイブ以外の全員がここまで言われても理解出来ないと……前の2人も曖昧と……好感度マイナス3ポイン!)


(フォローしておくと神の擬態を見破るのは不可能に近い。先程彼女も言っていたが、彼女が白と言えば黒も白になる。違和感を感じるなと命じられたら、世界の理を上回るしか気付く方法はないよ)


(あ、やっぱ今の俺って理の外の存在なんスね)


(まぁね。それを含めての『神降ろし』さ)


(……あざす)


(どういたしまして)


 俺の礼の意味を一瞬で悟った、というより俺が生まれる前からわかっていたイーさんは、今度こそ素直に受け取った。


 理とは世界を維持するために必要なもの。


 それを外れた存在があって良いわけがない。どんなに短い時間だろうと意志を持った魂が現世に留まっていて良いわけがない。ましてや戻って良いわけがない。


 それが出来るのは神とイーさん、そしておそらくユキのお陰。


 プラズマを生み出したいという個人的な我がままから始まった一連の出来事、すべて、理を司る人達が陰ながら努力してくれたお陰。


 今の俺は治外法権だ。


「――と、ここに居るルーク=オルブライト君が言っていますね」


 突然、何の脈絡もなく、俺……もとい神様……いや俺がこちらを指差した。


 肉体と精神のどっちに重きを置くかなんて知らんよ。いつ決めんの? 今? たぶん今後使わないよ? 何ならこの1回しか使わないよ?


「この人の言ってることは本当」


「私にもわかります」


 その直後、コーネル達よりはマシだが中身が入れ替わっていることを理解していなかったイブとフィーネが神様の発言を肯定した。こちらの存在も感じ取れているようだ。


「なっ! ま、まさか本当に神アルディアだったのですか!? ルークではなく!?」


「これが……神……!」


 認知するのを許したってことなんだろうけど……なんだかなぁ~。


 日頃のおこないを改めようと思ったけど、わからないならそれはそれで面白いのでやっぱ改めなくて良いやと思った、今日この頃。




 いよいよ神への願いの時。


 なんやかんやあったが俺以外の全員、もしかしたら俺も、神とお別れの時間がやってきた。


 それは夢を叶える時でもある。


「固体・液体・気体に次ぐ物質の第4の状態。気体を構成する分子や龍脈を構成する微精霊が電離することで陽イオンと電子に分かれて運動するようになる『プラズマ』を作って」


 イブが代表して願い事を伝える。


 俺が教えた知識以外に色々加わっているのは、彼女が研究の中で見つけた情報なのだろう。必要と思ったので付け加えたに違いない。


「わかりました。ただし世界に新たな理を追加するためにはとてつもない時間を要します」


「具体的にはどのくらい?」


「早くても1000年」


「無理」


「でしょね。そんな皆さんに朗報です。プラズマ自体は理の外に準備しておきます。あとは皆さんの持つ『天』『無』『時』『冥』『雪』の力で引き出すだけ。未熟な皆さんでは適性を消費し、力は失われていきますが、すぐに使用出来ます」


 イブの言葉遣いや若干横暴な態度も嫌な顔一つ見せない神様は、苦笑しながら代案を提示。決定権をこちらに委ねてきた。


 が、これもやはり一択。


「他の使い道はない。一度だけ使えればそれで良い」


「そうですね。あたしは未知を1つでもなくせたら満足です。あたし達の生み出したものを『未知』と呼ぶのは知りません。解明は1000年後の人達に任せます。自分良ければすべて良しです」


「同じく。それに僕達にはまだまだやりたいことが残っています。それは理を頼らずとも出来るものだと思います。だから力を失うことに後悔はありません」


「俺等はそもそも使わないしな」


「そうよね。それが体に良さそうなら教えて姉さんや母さんや町の人達に使ってあげるから」


 全員が迷うことなく提案を受け入れた。


(他人事のように言ってますけど、ルーク君は14歳で使うはずだった神力を消費しますからね~?)


(ういっす)


 もちろん俺も即答。


 むしろ俺1人じゃダメだったことの方が衝撃だ。


 雪属性習得も、プラズマ生成も、最悪神力を頼ればなんとかなるだろうと思っていただけに、代償にしかならないという事実は、喜びから驚きまで様々な感情が湧き上がってくる。


 しかしただの人間が力を合わせて神力を超える事象を起こしたのだ。ここは喜んでおこう。



(あ、でも会いには来てくださいね~。美味しいお菓子とゲームを用意して待ってますので~)


 どうやら俺の神界ライフはまだまだ続くようだ。

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