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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十五章 プロジェクトZ~研究者達~Ⅱ

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千百七十六話 代行者

 雪原にポツンと佇むカマクラでおこなわれていた、謎メンツによる謎の集会。


 ツッコミ所も手掛かりも満載なそこに俺が猛ダッシュするのは必然だった。


 しかしそこでの事情聴取、さらには仲間達のところへ手土産を取りに戻り、渡し、親睦を深めるまでの間、ずっと硬直していたコーネル達はおかしい。いくら思考停止してもそこまでの長時間動けなくなることはあり得ない。


 彼等は一体何を見たのか。


 原因不明の力によって空に拉致されたパスカルを助けるヒントはそこにあるに違いないと、俺は皆の方針が固まるまでの時間稼……ゲフンゲフン! こ、心の整理がつくまで話を聞くことに。


 すると、ヒカリには惑星誕生or滅亡している場面が、コーネルには過去の記憶が、ラットには死者の姿が見えたため、驚きと好奇心、ワンチャン金縛りで動けなくなっていたことが判明。


 1つ1つは意味不明な情報だが、雪属性の適性を持つラット以外はオクドレイクの姿を見ておらず、ヒカリは発生源、コーネルは集約地点がカマクラのあった場所だったと言われたら、そりゃあ関連付けるなという方が無理だ。


 すべてを見通す予言者から直前にオクドレイクの正体についてほのめかされていたこともあって、俺はそれ等がマンドレイクの神ということ以外何の情報もない謎植物オクドレイク(仮)の仕業と断定し、推理を始めたのだが……。



「せ、生前って……パスカル、お前……まさか」


 俺、いや俺達は、絶賛空に拉致されている友人の硬直理由に震えた。


「あ、いえいえ、あたしは生きていますよ。言葉の綾です」


「どこをどうやったらそんな比喩が出てくるんだよ!?」


 シリアスやホラーな展開になるのではないかと不安になったものの、手をパタパタさせて否定する半裸の友人からは、そのような展開になることは想像出来ない。


 安心はしたが気になり過ぎる。


 説明を続けるよう促すと、パスカル(というより彼女を操っている何者か)はおちょくるように上下左右に体を揺さぶってインフィニティを描きながら口を開いた。


「今ここに居るあたしは本当のあたしではありません。魂の片割れ。研究者としてのパスカルなのです。天の力を得たあたしはあそこに居たもう1人のあたしです」


 拘束されているせいで両手両足はおろか首すら自由に動かせないらしく、パスカルは視線を木と雪以外何もない雪原に送った。


 そこはカマクラのあった場所。


 ヒカリ達と同じく彼女にとっても特異点だったようだ。


「天空で暮らす中であたしがずっと考えていたのは『ここにある力は一体何なのか』そして『この上はどうなっているのだろう』でした。ルークさんはすべてを見てきたようですが、それはあくまでも物理的な話。精霊や天といった目に見えない存在については未知のままです。ですが今のあたしは目先のことで精一杯。試すような力はありません。

 そんな時、サンダークロースさんが現れました。最初は、力を貸してもらうためには上下関係を叩き込まなければならないというアドバイスに従って戦っていたのですが、ある時思ったのです。『今なら上を目指せるのではないか』と。今のあたしなら調査は出来ずとも天の本質を見極められるのではないかと。

 しかし天空はそれを許してはくれませんでした。猛攻もさることながら肉体が耐えられませんでした。天空の城から少しでも上へ行くと体が悲鳴をあげるのです。それはおそらくルークさん達が感じた拒絶と同じもの。

 そこであたしは魂の分離を思いつきました。あたし達の仮説が合っていれば天は魂の行き先です。その力の源と言える天空ならば、自らをギリギリまで追い込むことで魂を肉体から切り離せるのではないか。フィーネさんは高度8kmまで行けるとおっしゃっていましたがそれはあくまでも飛行船での話。個人でならもっと上まで行けるはずです。肉体という呪縛を解き放てば今のあたしでも同じことが出来るはず」


 かつてないほど饒舌に畳みかけるパスカル。もしこれが魂が分かれた影響なのだとしたら、天は相当な根暗ということになる。


 それはそうと、言っていることややっていることは奇天烈だが、研究者なんてこんなもんだ。例え死ぬことになるとしても目の前に可能性が転がっていたら試さずにはいられない。


 逆に片割れがどうするのか見てみたい気もするが、試す手段がないので迷宮入り事件として片付けるとして、


「で、分離には成功したし、上に行ったヤツは天の力を手に入れたけど、融合出来ずに今に至ると?」


 前後の会話から試みに成功したことを悟り、呆れ半分、羨ましさ半分で尋ねた。


「はい。おそらくあたしが落とされた理由は、規約違反をしたからか、適性の大半を失い異物として排除されたかのどちらかでしょう」


 その罰だか試合続行要請だかで空に拘束されているパスカルは、他人事のように言い、「もう1人のあたしの姿を見るまでスッカリ忘れていました」と申し訳なさそうに謝罪した。


 記憶の一部を取り戻せたようだ。


 片割れが上で何を見てきたのかは想像も出来ないし、融合する手段も思いつかないし、融合したところで記憶がすべて戻る確証はないが、彼女の言っていた『生前』の意味はわかった。


「つまり天の適性を中心に置いた際に、失った方が死んでて、持ってる方が生きてるってことだな?」


「はい。今必要なのはあたしではなくあたしの適性ですから」


 力を得るためなら死んでも構わないと言っているようで怖い。


 たしかもそうかもしれないけど……なんかねぇ?




「というわけで全員の事情聴取が終わったんだけど……」


 ラットの段階で俺以外には関係のない話だと察したので、既にコーネルには自分の作業に入ってもらっている。手持無沙汰のヒカリとラットにはイブ達の様子見を頼んだ。言い方は悪いが邪魔者でしかない。


 状況を説明しながら隣でニヤニヤしていたイーさんに視線を向けた瞬間、


 グオンッ――。


「っ!!」


 まとめは制限時間に含まれていたらしく、パスカルの体は、遅れを取り戻すように再び上空を駆け始めた。


 ただ今回は誰も助けない。


 片割れ……わかりやすく『霊体』と呼ばせてもらうが、霊体を己の肉体に戻すことが彼女の最終試練だ。手出し無用。そもそも助ける人間が居ない。


 俺は、弄ばれながらも頑張る友人を尻目に、考察を語り始めた。


「あれはオクドレイクじゃない。俺が『オクドレイクならそういう力を持ってても不思議じゃない』って思ってただけ。言動もそう。俺の意識に反応してそういう言動を取ってただけ。あれは見る者によって形を変える」


「では一体何だというんだい?」


「イーさん……いや、予言者イズラーイール=ヤハウェが見せた『可能性』だ。未来と言っても良いな。努力も成果もすべてはそこから生まれるんだ」


 返答はない。


 俺は構わず続ける。


「アンタ前に言ってたよな。過去や未来を視る以外に見せることも可能だって」


「たしかに可能だよ。しかし世界に干渉しないことに掛けて右に出る者のいないことで有名な私がそんなことをするかな?」


 どの辺りで有名なのか詳しく聞きたいがここはグッと我慢して、


「この山に生息している不思議植物に重ねることで地元民は『へぇ~、この雪草草って外の世界ではオクドレイクって呼ぶんだ』と納得するし、オクドレイクが何なのか知らないコーネル達も騙せる。情報を共有出来る時点で俺の中でアンタの関与の可能性が消える。真っ先に候補に挙ながらも俺自身で否定するんだ。

 唯一オクドレイクを見たことのあるイブもあんな性格だから、他に興味のある事象があれば俺の話そっちのけで食いつくし、チームが分かれてたから一緒に目撃する機会がなかった。

 アリバイのある犯人になることに成功したアンタは、あたかも雪属性の因子のような振舞いで俺を妨害しつつ、皆の適性を刺激し始めた。自ら気付くような絶妙なやり方でな。未来は自分の力で掴み取るしかないからな。

 その結果、イブは妊婦と赤子から時と無の力を、コーネルは錬金術から冥の力を、パスカルは失っていた天の力を得た。すべては特殊五行の上に成り立つアンタだから出来たことだ。ユキやフィーネ、ベーさん、聖獣達じゃこうはいかない。全部をそのままの状態で扱えるアンタにしか出来ない」


「扱えていたらこんな苦労はしていなんだがね……見てくれ、少し山を歩いただけでこの有様だよ」


 イーさんは汗だくをアピールするような仕草で額を見せつけてくるが、そこに汗なんてものは存在していない。綺麗なデコだ。


「これは申し訳ない。間違えた。こっちだった」


「汗はそんな局所的にかかない!!」


 謝りながら髪を持ち上げていない方の手を見せつけてくるが、当然汗などかいていない。


「別に移動や生活が楽になる力なんて一言も言ってないだろ。指示には従ってくれるけど自分には恩恵ゼロの存在。それが特殊五行とアンタの関係だ」


「そちらは正解と言っておこう」


 バレても問題ないことは躊躇なく認めるタイプらしい。


 が、逆を言えばそうでないことは当てられるまで絶対に言わないし、もし当てられても言わないことが多いので、面倒臭かったりする。


 常にボケていて真意のわからない精霊王といい勝負だ。


「だがまだ質問に答えられてもらっていないよ。何故私がそんなことをしなければならないんだい?」


「俺が複数の適性を持っていたからだ」


「複数? それは特殊五行を行使するのが今のメンバーではなかったことや、死んだ経験があったり転生時に使ったことで『雪』や『時』の力を持っているという、飛行船でフィーネ君に伝えた仮説のことかな?」


「今は全部だと思ってるけどな」


 転生者の適性はその時の精霊王に準拠するはずなのに、すべての因子と接触したこと、フィーネやベーさんのような因子と長年過ごしたこと、スイちゃんと宇宙に飛び出したこと、イーさんに再転生させられたこと。


 様々な要因が絡んだ結果、すべての適性を得てしまった。


「それだけならまだしもその力を欲している。だからユキがやるはずだった仕事をアンタが担うことになった。雪特化のユキじゃなくて全部を扱える予言者がな。中途半端に力を得ないように妨害までして。皆とは違う方法で身につけさせるために」


「残念。私はこれ以上何もしない。キミが自分で気付かなければ意味がないからね」


「つまりここまでの話は認めると?」


「ふふふ。さぁどうだろうね」


 イーさんの微笑からは何も理解出来なかった。


 しかし今の俺に必要なのは正否ではない。


 力だ。

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