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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十五章 プロジェクトZ~研究者達~Ⅱ

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千百七十五話 雪原の真実

 存在を拒むほどではないが、スノーバースは人間が生きていくには厳しい気候。存在する生物の大半がもこもこ毛皮の魔獣か動物。


 ケモナーの血が滾るがそれはさて置き、雪かきを必要としないその世界は、木の葉や泥で汚れた雪もなければ喧騒もない、静かで神秘的な空間だ。


 ……そう思っていた時期が僕にもありました。


「っ! っ! た、たすけ……きゃあああああああ!?」


「下ろせ下ろせ! ヤバいって! あのままじゃパスカル死ぬって!」


「わかってるよ! 早過ぎて追いつけないの!」


 冷気と静寂が支配する、慣れた者にとっては鬱陶しく侘しい、初めて体験する者にとっては神秘的な空間だったのは、数分前までのこと。


 今の俺達はとてもホットで騒がしい。



 事の始まりはハッキリしないのでパスカルが空を飛んだところにしておくが、特殊五行の力が覚醒して羨ましいと思ったのも束の間。徐々に飛行速度が増していき、今やヒカリですら追いつけない超高速飛行物体と化していた。


 衣服は半分近く吹き飛んでいる。破けるより先に息が出来なくなるので、友人の全裸を脳裏に焼き付けてしまう心配はないが、魔力強化で辛うじて生きている状態だ。このままではマズイ。


 もしかしたらコーネルのように気絶すれば解放されるのかもしれないが、違っていたらアウト。それに助けを求める友人を放ってはおけない。切っ掛けを作ってしまったかもしれない人間としては余計に。


「ははっ、ルーク君は面白いことを言うね。始まりなんてないさ。キミが硬直している仲間達から贈り物を奪ったところからでも、イブ君達が私とこの子の姿を別人として見てしまったところからでも、コーネル君が気絶したところからでも、パスカル君が天空から落ちてきたところからでも、キミ達が生まれたところからでも、世界が誕生したところからでも、どこから始めても間違いではないよ。だってすべては繋がっているのだからね」


「うるせえ! それっぽいこと言ってないで“アレ”を何とかしやがれ!」


 俺は、完全に他人事のイーさんの態度に怒りながら、自らの意志とは無関係に空を舞うパスカルを指差す。


「照準がズレているね。それはヒカリ君だ。もしかしてキミは彼女を止めろと言っているのかい? だとしたら申し訳ない。そして素晴らしい。私の未来視を超えた人間はキミが初だよ」


「あんな、空気を抜いた時の風船みたいに縦横無尽に飛び回る的に、合うわけないだろ! その自慢の未来視でなんとかしろって言ってんだよ! 身体能力は生身の人間でも出来ることあんだろ!」


「もちろんある。ただしそれにはキミ達の協力が必要だ」


「ならそれを早く言え!」


「では……まずコーネル君はこれから冥の力を引き出してもらおう」


 と、紫アマルガムを返品するイーさん。


「イブ君は無と時の力で別次元からそれに干渉。ルーク君は雪の力に覚醒し、パスカル君は天の力を制御し、全員で立ち向かえばあの暴走は止まる」


「それが出来れば苦労してませんが!? というかあれ天属性の仕業じゃないの!? さらに上なの!?」


 流れ的にもコーネルの力が必要なところまでは納得出来るが、それ以外は過大評価というかそれが出来れば苦労していないことばかり。


 そもそもパスカル風船化が天の力の暴走でないことに驚きを隠せない。


「ノーコメントだ。ああ、あとフィーネ君に頼めば止まるね」


 楽ぅ~。メッチャ楽ぅ~。


 まぁいくら呼んでも来ないんですけどね。あっちはあっちで何かやっている、というか起きているのか、そういう試練なのかは知らんけど。




「――というわけだ。俺はオクドレイクをなんとかする。コーネルはアマルガムの方を頼む。パスカルもその状態で何か感じろ。ヒカリとラットはなんか頑張れ」


 今のはチュートリアルだったと言わんばかりに、イーさんの説明後に速度を落とした原因不明のジェットコースター。


 ヒカリが隙を突いて(?)捕獲しようとしたものの、やはりと言うか華麗に避けられてしまい、情報共有が終わると同時に加速を始めると踏んだ俺は、出来るだけゆっくり説明をおこなった。


 ググッ――。


 案の定、パスカルは緩やかに飛行速度を増していく。


 が、ちょっと待った。


「話はまだ終わってないぞ」


 グググ……。


 俺の言葉に反応した精霊(?)は再び速度をスタート地点に戻した。話のわかる連中で良かった。だからこそムカつく。何がしたいんだコイツは。


「お前等なんで固まった? しかも結構長い時間。一体何を見たんだ? ちなみに俺はやむに已まれぬ事情があって仕方なくだ」


「あたしは――」


「いや、パスカルは最後だ。ヒカリ、コーネル、ラット、パスカルの順で答えてくれ」


 卑怯と言うなかれ。これも立派な戦術だ。時間稼ぎとも言う。


 全員が俺の言動に違和感を抱いていないのはイーさんの特性によるものだろう。存在はしていたが認識はしていない。そんな感じか。体験したことないから『たぶん』としか言えないけどさ。


「じゃあ追い掛けるのは諦めて良いの?」


「ああ」


 空中に魔力で足場を生み出し、その上を駆けることで自由飛行を可能にしていたヒカリは、フォン、と科学的な音と共に無重力着地。思い出したように雪に足跡をつけながらこちらに近づいてきた。


 完全に精霊術を使いこなしている。


「わたしが見たのは世界を壊す光の塊だよ。突然辺りが真っ暗になったかと思うと、その光の塊が生き物のいない……惑星だっけ? を自分に引きつけてるところが見えたの。

 何度も何度もぶつけて、その度に物凄い爆発が起きてたんだよ。衝撃で周りの惑星が吹き飛ぶぐらい。飛んでいった惑星も別の惑星とぶつかって、そこら中で大爆発。

 パスカルちゃんの悲鳴とルークの叫び声で目が覚めたけど、あれって神様なのかな? この世界を作った時の記憶なのかな?」


「ふむふむ……」


 それが過去の出来事なのか、これから起こる未来の出来事なのかは不明だが、千里眼を持つヒカリらしい経験をしていた。


 ただ彼女が神様の仕事を目にした理由はわからない。


 いくらすべてを見通す千里眼とは言え、特殊五行の適性を持たない人間にそんなことが可能なのだろうか? 


 次。


「僕が見たのはかつての自分だ。これまで生きてきた14年間が走馬灯のように周囲を駆け巡った。目覚めたタイミングは同じだ」


「周囲? 脳内とかじゃなくて?」


「ああ。ヒカリさんと違って僕はずっとここに立っていた。他のみんなが固まったことも、ルークが雪原の中を駆けたことも覚えている。

 だからこそ言えるが、おそらく駆け巡った記憶は感情による規則性があった。例えばそこからそこまでは嬉しかった出来事、そこからそこまでは悲しかった出来事、という具合にな。

 さらにそれ等はすべて1ヶ所に吸い込まれていった。試すならそこだな」


 目印となる木々を指差してその時の様子を語ったコーネルは、続けて何の変哲もない真っ白な大地に目を向けて、紫アマルガムの使い道に1人納得した。


 ちなみにコーネルが作業しようとしているのは、数分前までイーさんとオクドレイクがたむろしていたカマクラ。今は何もない場所なのでそう言わせてもらった。


 次。


「あ~、俺は……オクドレイクがカマクラの中で火鉢……じゃなくて火の入ってない氷の器で葉っぱを焼いてる……いや、なんて言えば良いんだ。とにかくなんか変なことをしてるのを見たぞ」


(俺と同じか……)


 流石は雪属性の適性を持つ者。


 しかし衝撃で固まるほどの出来事とは思えない。他に何か要因があるはずだ。


「大昔に死んだ家族や友達と一緒にな。楽しそうにしてた」


 それは固まる。


 そして核心に迫っている。


(あのオクドレイク……特殊五行を全部使いこなしてるな)


 イーさんには無理だ。彼女はあくまでも存在するために力を使うだけ。借りていると言っても良い。干渉はしないが共存関係にあるようなものだ。


 世界の始まりor終わり、死者の魂、力の有無といった『概念』を認知出来る存在とは何か?


 そんなの神しかいない。


(……いや、見せるだけなら出来るのか? 前にイーさんもそんなこと言ってたし。ならアイツは神アルディアじゃない。特殊五行の化身……みたいな?)


「おっ!」


 驚きと感心の入り混じった声をあげるイーさん。


 当たりっぽい。



「あのぉ、そろそろあたしも言って良いですか?」


「あ、ああ、悪い。どうぞ」


 推理に夢中でスッカリ忘れていたが、事情聴取しなければならない相手はまだ1人が残っていた。


 さらなる手掛かりが手に入るかもしれない。かじかむ両手で全身をマッサージしながら待っていたパスカルに発言を許可すると、彼女はおずおずと硬直していた理由を話し始めた。


「あたしが見たのは……生前の自分の姿でした」

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