表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十五章 プロジェクトZ~研究者達~Ⅱ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1424/1659

千百七十三話 融合

「っしょ、っと……」


 謎の鉱物より気絶した友人を背負うことを選んだラットは、周囲に疲労を訴えかけるような声を出しながらゆっくりとコーネルの体を地面に下ろす。


 毎日のように戦闘や素材集めをしている屈強な男が、子供1人、しかも短時間運んだ程度で疲れるわけはないが、普段と違って魔力未使用なので仕方がない。


 今のコーネルには下手に干渉しない方が良いと判断したのだ。


「で、そっちはどうよ? 呼んだってことは終わったんだろ?」


 一足先に洞窟内に入り、放置していた素材や周辺、出来立てホヤホヤの紫アマルガムを調べていた俺・ヒカリ・パスカルの3人に次々に視線を送るラット。


 万が一にも全員がコーネルみたいになったら大変だからな。調べてわかるようなもんでもないだろうけど一応さ。


「特に変わったところはなかった。全部前のまんまだ」


 結果は何も変わらず。そしてわからず。


「てことは、アマルガムの変化条件が数日間雪原に放置するとも考えづらいから、オクドレイクが何かやったか、コーネルの力が暴発したか、あるいはその両方かのどれか、っていうお前等の推理は当たってたってわけか」


 ラットは実験の痕跡を見渡しながら俺達の導き出した結論に納得する。


 スノーバース産の雪で作った雪ダルマに埋めてる各種素材や、ビュウビュウと風の吹き込む場所に放置していたアマルガムは変化していない。


 つまり、コーネルが倒れた原因も、紫アマルガムが誕生した理由も、あの場所だから起きたこと。


 俺が作り出した人工雪が実は天属性で、それに反応したという可能性も無くはないが、だとしたらオクドレイクが興味を示さない理由がわからないし、そもそも天属性だとしたらパスカルが反応するはず。自覚がないとは言え適性者なのだ。


 天以外の属性の可能性はおそらく無い。あれは天候の真似事。化学反応なのだから該当する力は『天』だ。


 というわけで、コーネルが起きるまですることもないので、不確定を確かなものにするべくパスカルには俺と同じやり方で人工雪を作ってもらっているわけだが……。


「どうよ?」


『しゅー、こー』


「クッ、やっぱダメか……」


 俺はパスカルの返答に苦々しく顔を歪める。


 すべての人工雪を試してもダメ。スノーバースの雪を人工雪に作り変えたり、アマルガムやその他の素材を軸にしてもダメ。合成・錬金・エーテル結晶化もダメ。挙句の果てに、パスカルがたった今思いついたという魔法陣や反応に合わせた調合もダメ。


 やはり俺の人工雪は今回の件に一切関係なかったようだ。


「いや色々おかしいだろ。なんで化学反応を起こすだけでそんな仰々しい恰好してんだよ。今までそんなことしてなかっただろ。なんでこの短時間でそんな大量に試せてんだよ。なんで言葉わかってんだよ。絶対そんな長い台詞じゃなかっただろ」


「心じゃよ」


「いや訳わかんねえよ!? 意思疎通はわかるけど物理法則は無視するな!?」


 パスカルのフル装備についてはもうどうでも良いらしい。


 ちなみに理由はない。あえて言うならそういう気分だから。まぁ着替える時間を含めての『この短時間で』なのかもしれないが。


 それはさて置き――。


「法則は破るためにある」


「法律な! それも違うけど! ルールだけど! いやそれもダメだけど!」


「ダメダメダメ、ぜ~んぶダメ。いつから世の中ってこんな生きづらくなっちまったんだろうな……」


「知らねえよッ!!」


 ボケればボケるほどラットのボルテージがあがっていく。


 コーネルが起きるまでの良い時間つぶしが出来そうだ。


『こー、ほー』


「あ、ダメだよ、パスカルちゃん。勝手に紫アマルガムの調査を始めちゃ……え? 人工雪を作ってたらこれの正体に気付いた? 氷晶や温度変化みたいな異世界の物理法則じゃなくてアルディアにある力で再現すれば天属性になるかもしれない?」


 今後の話を左右するようなことを主人公のいないところでやるんじゃないよ。俺も混ぜろよ。むしろ中心に置けよ。報連相以上に大事よ。てか俺に言えば良いじゃん。なんでヒカリに言った? なんで俺が質問した時言わなかった? 実は俺のこと遠ざけようとしてる? 俺のこと嫌い? ねえ?


 俺は、俺達を置いてけぼりにして作業を始めたパスカルとヒカリを眺めながら、いつ声を掛けてもらえるのだろうという寂しさと期待感で胸を一杯にした。


 ……うん、やっぱこういう時は自分から行かなきゃダメだよな。




「なるほど。それでこの有様というわけか」


 作業開始から約1時間。目覚めた……いや覚醒めたコーネルは、洞窟の惨状を目にしても一切動揺することなく、ヒカリから聞いた事実を淡々と受け入れた。


 自身に起きた出来事の説明もまだだ。


「聞こうとしなかったのはお前だろう。僕は目覚めた直後にどちらの話題に触れるか確認したぞ」


「惨状もルーク視点の話でしょ」


「ああ、そうだよ! そこにあるのはコーネルが気絶してから何も変わってない冥属性の宿った紫アマルガムで、そっちにあるのはパスカルが作り出した天属性の宿った人工雪で、ここで横たわってるのは何も手に入れてないどころか邪魔しかしてなかったルーク=オルブライトだよ!!」


 俺は土壁に向かって悲痛な叫びをあげる。


 体勢は横。天属性の理解に成功した際に、パスカルから『異世界の知識が邪魔だったんですね』と言われ、ショックで寝込んだままだ。


「何から何まで拗ねてる子供だよね」


「役には立ちましたよ。その後の情報が邪魔だっただけで」


 ヒカリさん、パスカルさん、それはフォローじゃなくてトドメって言うんですよ。


 っていうフォローすらないってどういうことよ? 拗ねてる人間には優しくしろって習わなかったのか? 構ってやらないと根に持つかもしれないんだぞ?


「で、コーネル、お前なにがあったんだ?」


 まぁ俺は違いますけどね! 自分で立ち直れますけどね!




「ほぉ~それじゃあなにかい? 異世界に行ってたわけでも、超越者に会ってたわけでも、力を手に入れたわけでもなく、ただ気絶してただけだってのかい?」


「ああ」


 一切悪びれることなく頷くコーネル。


 ただ、全員の期待を裏切るのは不味いと思ったのか、言い訳をするように倒れる前後の出来事について独自の視点からの考察および報告を始めた。


「ルークやイブさんほど明確なものではないが、僕もカルラさんに触れた時に言葉に出来ない“何か”を感じたことは言ったな」


「わたしとパスカルちゃんだけ何も無かったアレのことだね」


 カルラさんとの交流後、全員で感想戦をおこなったのだが、不思議な感覚に襲われたのは一部の人間だけだった。


 冥属性を生み出すための協力者という微妙な立場のヒカリはともかく、天属性に片足を突っ込んでいるパスカルが含まれていたことで条件がわからなくなり、結局『イブおめでとう。何かわかったら教えて』に落ち着いた。


 それが特殊五行に関係のある感覚なのは全員がわかっていたので、得た側の俺とコーネルは今日それを活かそうと意気込んでいたところ、あの事件が起きたってわけ。


(てかよくよく考えたらそれってユチを妊娠させたいって欲求じゃね? 性的か子孫を残したいって本能かは知らんけど、そういうことに興味のないヒカリとパスカルだけ何もなかったのってそういう理由じゃね?)


 流石大人は違うわぁ~。


 ……いや、うん、もしこの推測が正解ならイブとエロいことすれば万事解決なんだけど、それはなんか違うっていうかさ。


「どうしたんだ?」


「いや何でもない……それで? 不思議な感覚がどうしたって?」


 言うべきか言わざるべきか、一瞬迷ったが、真実だとしてもどうすることも出来ないので黙っておくことにした。


「あれは誰かとの間に子を成したいという欲求、あるいは生まれたいと思う子の想いを感じ取ったのではないかと思ってな。詳しくは聞いていないがお前達も喜びや心苦しさや意欲を感じたのだろう?」


「自ら言うだとォ!?」


「言えと言ったのはお前だろう。僕だって本当は言いたくなかった」


 心底嫌そうな顔をするコーネル。


 実際、彼は口に出していなかったし、出そうともしなかった。夢に従うか否かの話と同じく確証が得られるまで黙っていることにしたのだろう。


 ちなみに質問の答えはイエスだ。


「しかしどうやらその想いこそが鍵だったらしい。同位体の三種のアマルガム、素材知識、想い、そして最後のピース『切っ掛け』を手に入れた僕は晴れて冥属性を扱えるようになり、この紫アマルガムが生まれたというわけだ」


 と、コーネルは机の上に置いてある謎物質に視線を向ける。


「扱えるようにって……もしかして融合したのお前か、コーネル?」


「ああ」


 コーネルは先程と同じくなんとなしに頷く。


「餌として設置した三種のアマルガムを3人それぞれに回収しただろう。ただ錬金で作ったアマルガムを手にした瞬間、僕の頭の中にそれを混ぜる……というより精霊や微精霊を物質から立ち退かせる術式が浮かんだ。

 さらに幸か不幸か冥の軸になるのは錬金だった。融合するのはここについてからにしようと思っていたんだが、合流するまでの数十秒の間に好奇心と興奮が勝ってしまってな。時間が足りなくて途中までだったんだが、カバンの中で勝手に混ざってしまい、凄まじい量の情報に意識を押し流されてあのような事態になってしまったわけだ」


「あぶねぇな! それでも研究者か! 気を付けろ!」


 好奇心は猫をも殺す。


 どんなに今すぐやりたいことでも仲間に相談なく挑戦するのはいただけない。作業中断などという自分でも何が起こるかわからない状況ならなおのことだ。


「それなんだが、実はこの紫アマルガム、僕の作ろうとしていたものとは違っていてな。どうやら失敗から成功が生まれたらしい」


 反省するどころか嬉しそうに言うコーネル。他の面々もおめでとうムード一色。


 アンタのせいだぞ、運命の神ッ! アンタがそういうことするから反省しない人間が溢れんだ! 不幸中の幸いどころか幸いになってるじゃん! 怪我の功名じゃん!


(知りませんよ~。その人達がポジティブなだけです~)


 この世界では運命の神も同じ神様のようだ。


 当然か。唯一神だし。



 とにもかくにもコーネルは無と時の媒体に触れたことで冥の力に目覚めたと。相変わらず色々足りていないが、これから身に付くか、そういうものなのだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ