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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十五章 プロジェクトZ~研究者達~Ⅱ

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千百七十二話 冥界の旅人

「……じゃ」


「おう。こっちは任せろ」


 母体や胎児との接触によってイブが無と時の力を得た翌日。


 誰に言われるでもなくさらなる特殊五行の解明をおこなうことを宣言したイブは、、朝食後すぐにフィーネとシェリーを連れて宿屋を出て行った。


 行き先はシェリーの実家。


 いくら研究のためとは言えアウェーで作業するのは怖い……などという泣き言を聞いたわけではないが、フィーネなら良い感じの緩衝材になってくれるし、肉体的・精神的に危険なことをやろうとしたら止めてくれるので、全員が頼んで同行してもらった。


 シェリーはもうしばらく間に立っていた方が良いだろうと自らの意志で同行した。誰も反対しなかった。会話するだけなら、家事さえしなければ、邪魔にはならない。黒板に書かれたことを丸写ししているだけの授業のようなこっちの作業よりよっぽど有意義だ。


 俺は、残されたメンバーと朝食の後片付けをしながら、隣で皿を拭いているコーネルに視線を向ける。ちなみに俺は洗う係。ちべたい。


「どうするよ、オイ。俺達だけだぞ。成果出してないの」


「何故焦る必要があるんだ。手掛かりは掴んでいる。あとは根気よく続けるだけ。研究の基本だろう」


「そうですよ。発動条件を見つけられていないあたしも同じ立場ですし、ヒカリさんも冥属性とは言い難いもの。明確な成果を出しているのはイブさんだけです」


 コーネルは受け取った皿を磨きながら淡々と、パスカルは紫色の煙が這い出して来るビーカーを昼食のために用意した食材にぶっかけながら慰めるように、返答する。


 この場に居ないヒカリもだが、俺達全員が力を得る、あるいは手に入れた力を自在に使えるようにするべく、今までやってこなかった様々な作業に手を出している。


 この皿洗いもその一環だ。


 普段から家事をしているヒカリには別の、ラットと共に雪山に行く準備をしてもらっている。


 まぁ準備といっても毎日のことなので必要な器材は一纏めにしている。彼女達がしているのは、町を巡回して山を巡回するついでに叶えられそうな願いを聞くこと。最近は巡回に関係なく頼まれるので、ただの雑用の予約受付だ。


「って流石にそれは違うよ!? 何それ!? 何やってんの!?」


 危うくスルーしかけたがこれは断じて料理ではない。実験だ。


 俺は皿洗いを中断してコーネルの奥にいたパスカルに掴みかかる。


「お肉を柔らかくする液体です」


 謎の液体でビチャビチャになった肉を、防腐手袋をはめて持ち上げたパスカルは、スライムのようにドロドロになったそれを誇らしげに見せつけてくる。


「よく料理は科学って言うけど本当にやるんじゃないよ! 人間が口に入れることを大前提に動いて!? 柔らかくなったら成功じゃないからね!?」


「大丈夫ですよ、ルークさんなら」


「おーれーだーけー! いくら俺が強者に全力で殴られても平然としてたり、上空数百mから生身で落ちてもピンピンしてたり、ココの作った硫酸ジュースやチコの作った謎ジャム食べても平気だったり、ヒカリ・ニーナ姉妹の修行に付き合わされて肉体細胞破壊されたり、イブの実験に付き合わされて脳細胞破壊されたりしてるからって、それを食べても大丈夫ってわけじゃないからな!?」


「安心という言葉以外出てこないな」


 ですよねー。俺もそう思います。よく無事だなって。


 まぁまぁそんな話はさて置き――。



 精霊の生き死に関わる『冥』。


 彼等の心の行方を決める『天』。


 現世でも精霊界でもない場所で、新たな魂の生成だか移植だかをおこなう『無』。


 それを現世に生み出す『時』。


 ここまで仮説通りなら『雪』の精霊以外の生き死に関わるという説も合っていそうだが、今のところ唯一情報らしい情報がないので憶測で語るしかない。


「なんでイブだけあんなハッキリしてたんだろうな。自分1人では行使出来ないだけで媒体を使えば出来るってどんだけ適性あったんだよ。しかも2つも」


「当然なのでは? イブさんの話を聞く限り『無』と『時』は表裏一体の力ですし」


「いやまぁたしかに特殊五行の中でも特にって感じはするけど、独立はしてるけど関連性はあるってのが五行だろ。条件さえ揃えば何にでも成るはずなんだよ。それを2つって、完璧にって、チートじゃん。イブに任せれば全部判明しちゃうじゃん。俺達やる意味ないじゃん」


「と言いつつも、オクドレイクの確保とアマルガム調査を続けるのは、自分も2つ、何なら5つすべて手に入れようという意欲があるからだろう?」


「そりゃそうでしょ。悔しいじゃん。マウント取られないように頑張らなきゃ」


「研究者ですねぇ……」


「ああ。しかも飛びきり負けず嫌いのな」


 研究をやめるって選択肢すら出してこなかった、おまえ等モナー。


『他人には干渉されたくない。でも負けたくもない。あっちがそのやり方で成功したならこっちはこのやり方だ。ふっ、俺の方が凄かったな。ドヤァ』


 研究者なんてこれがしたくて生きている連中だ。


 さ、というわけで俺達も自分の正義を立証するために、今日も頑張りまっしょい!




「ズルい! ズルい! ズルい!」


 手間が掛からない上、山で物資を集めなければならなかったので、リフォーム中も続けていたオクドレイクトラップの様子見。


 5日ぶりに洞窟を訪れる前に立ち寄ったのだが、そこに広がっていたのは普段の景色……だった。


 ここまでは良い。期待させて申し訳ないが時間経過で解決するほど簡単なものではないと思っていたし、どうせなら自分の手でやりたいと思っていた。


 問題はここから。


「なんで三種のアマルガムが勝手に融合するんだよ!? そしてそれと同時にコーネルが気絶するんだよ!? 明らかに精神だけどっか飛ばされてるだろ!?」


 冥の力で生み出されたものならオクドレイクを引き寄せられるのではないかと、トライアングルを作るようにバラバラに設置しておいてたアマルガム。


 数十mしか離れていないが全員で向かう必要もないと、俺・コーネル・パスカルがそれぞれ回収したのだが、合流し、一纏めにしてカバンに詰めた途端、コーネルが倒れた。


 背負っていたカバンから出てきたのは、3つのどれでもない、紫色の塊。


 当然1つ。


「ん~。どういう状態なんだろうね」


 雪の上で数分転がっていた時も、ラットに背負われようとしている今も、絶賛気絶中のコーネルを凝視して幾度となく首を傾げるヒカリ。


「どう!? どうって冥属性を手に入れに行ったんだろ!? 神様だかベーさんだかまだ見ぬ強者のところによ!! 目が覚めたら絶対しみじみと『夢を……見ていた……』とか言うんだぞ!!」


「何を怒っているんですか。手に入るに越したことはないじゃないですか」


「ね」


「怒る理由なんて3つしかないだろ! 1つは心配させたこと! もう1つは一緒にゴールしようねと約束していた俺を置いて力を手に入れようとしてること! しかも他人任せで!」


 倒れた瞬間は流石に心配したが、ヒカリが千里眼で視てもわからないというのは、明らかに異常事態。もちろん俺達が調べても結果は同じ。しかしいくら呼んでもフィーネは現れない。


 つまりこれは必然の異常事態ということ。


 条件を満たして確変に突入し、覚醒秒読み段階に違いない。確定演出を待つだけの他力本願な同僚に悲しみと怒りをぶつけるのは当然だろう。


「他力本願ではありません。努力の成果です。世界が力を認めたのです」


「パスカルちゃん。それって自分がなった時の保険掛けてるよね」


「理不尽に怒鳴られるのは嫌いなので。事実であり信念ですし」


 ……あ、終わった? もう良い? 怒ってる理由の最後の1つに最大の言って良い?


「そして最後に、そこの木の陰でこっちをジッと見てるオクドレイク、お前だあああああああ!!」


(シュッ……シュッ……ズボッ……)


 指を刺された途端、オクドレイクは思い出したように木々の世話(踊り)を始め、それが終わると何も言わずに雪の中へと消えた。


 俺がゴール出来る日はまだまだ遠そうだ。


 いやまぁ俺は自分の力で捕まえるけどね。雪属性手に入れるけどね。というか全属性手に入れるけどね。適性ありそうだし。

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