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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十五章 プロジェクトZ~研究者達~Ⅱ

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千百七十話 チャレンジその11

 生命の神秘を調べさせてもらう代償に、オール電化ならぬオール魔道化住宅にリフォームするよう命じられて、4日。


 山で必要な素材を集めるついでにトラップや洞窟の様子を見たり、1ヶ月の宿代がはした金に思えるほどの大金を足りない物資購入に使ったり、麓の町へ行く時は必ずと言っていいほどついて来る町の連中に頼まれて遊覧飛行で時間を浪費したり、考えることの大半が特殊五行と関係のない自然エネルギーだったり。


 完全に目的を見失っているが、それも今日で終わる。


「……っし、こんなもんだろ」


 庭の片隅に設置した、冷気からエネルギーを生み出す魔道具『冷気コンバータ』の最終調整を終えた俺は、屋根のソーラーパネル、床下の熱&圧力発電(発魔力?)機と共に起動。正常に稼働していることに満足して1人コクコクと頷いた。


「って、なんで俺だけなんだよォォッ!! イブは!? コーネルは!? パスカルは!?」


 そう……ここには俺しかいない。


 最終調整したのも俺。各種魔道具を起動したのも俺。エネルギーの使い道の1つであるセンサーライトが機能しているか確認したのも俺。ぜ~んぶ俺。


 ノータッチだったフィーネやヒカリ、手伝う気はあったが邪魔になるのでこちらから申し出て退席いただいたラットとシェリーはともかく、役立つ3人の不在は認められない。


 忙しいというなら納得もするがそうじゃない。


「叫ぶな。近所迷惑だ」


 目の前の窓が開き、コーネルが鬱陶しそうな顔を覗かせる。


 当然、俺は噛みついた。


「何故お前達だけ家の中でぬくぬく過ごしてるんだ!? こちとら3時間前からずっと1人寒空の下だぞ!?」


「僕達は自分の作業を終わらせていた。冷気コンバータの製作を担当したのはルークで、その回路に問題があったのだろう。完成するまで何をしていようと自由だ。そして声を掛けろ。1人で起動して喚き散らすな」


「たしかに単純な計算ミスのせいで待たせたけど! これも雪属性への理解だとか調子乗って画期的な魔道具生み出しちゃったけど! 本体の回路以外のチェックぐらいしてくれても良くない!?」


「さり気なく自慢したな」


 だからどうした。実際凄い魔道具だと思う。地熱発電は熱で生成した水蒸気でタービンを回してやっと電力を生み出せるけど、こっちは温度だけで生み出せる。手入れも簡単。本体が壊れたら知らん。頑張れ。


「そもそもやりたいと言い出したのは自分だろう。ソーラーパネルと床加工だけでエネルギーは足りていたんだ。僕達の足を引っ張ったようなものじゃないか」


「ぐっ……そ、それを言われると……」


「それに僕達は、お前が開発に難航していた間、家屋の修繕や素材集めを代わってやった。言わばサポートだ。感謝こそすれ批難される謂れはない。今もサボってなどいない。一足早くカルラさんを調べていただけだ。

 わかったらさっさと中に入れ。温かい飲み物も用意してあるぞ」


 コーネルが掲げたマグカップからは出来立てホヤホヤであることを証明する湯気が立ち上る。


 正論と優しさのダブルパンチ喰らって立ち上がれる者など居ない。


 俺は武装解除してトボトボと玄関に向かって歩き始め……る前に一瞬振り返る。


「本当に入って良い? 女だけの方が良かったりしない? セクハラやマタハラにならない? だからお前もそれ作ってたんじゃないの?」


 マグカップを指差す。


 飲み物を温めることぐらい、いつ誰がおこなってもおかしくはないが、未だにコーネル以外が現れないことと合わせれば話は変わってくる。


 忘年会だと思ったら実質女子会で空気に馴染めなかった男のように、男子トイレだと思って入ったところが男女共用でしかも使用中だった時の男のように、試運転という名目でキッチンに逃げ込んでいたのではないだろうか。


「気まずかったのはたしかだな」


「……ちょっと玄関で駄弁るか」


「そうだな」


 俺達は、床暖房になったばかりのぬくぬく空間で、呼ばれるまで待機することにした。


 正直呼ばれなくても全然構わない。


 むしろ呼ばないでくれ。


 成果は女性陣だけで出して、俺はそれを最後にちょっとつまむだけで良い。興味はある。将来妊娠したらイブのとかも見るつもりだし。もちろんエロい意味じゃなくて科学や医療的な目的でね。




「そいや随分積極的になったよな。最初あんなに嫌がってたのに」


 キュッ、キュッ――。


 奴隷根性が身に付いたわけではなく、あくまでも手持無沙汰だったので、靴磨き(というか汚れ落とし&防水加工)をしながら会話スタート。


 世界全体が洋風文化なので、室内でも靴を履くことがほとんどだが、流石に雪でビショビショになった靴は履き替えている。ここに並んでいる7つが終わったら棚の中の靴。それが終わったら壁や天井の掃除。その後は……手の込んだ食事でも作ろうか。


「あれは人に頼む態度ではなかったからな」


 コーネルは俺と同じく靴を磨きながら懐かしむように答える。


 カルラさんにリフォームを頼まれた時、勢いでOKしてしまったが、実はあの後、コーネルが不満を爆発させた。


 流石に本人の前ではなく、現地調査後、ヨシュア組だけになった時だが、


『こんなことに時間を割くぐらいなら洞窟に籠っていた方がマシだ。彼女達がどうなろうと僕達は困らないし、強請られて従うほど弱者でもない』


 と、中々の拒絶っぷりだった。


 例え冗談だろうと、強請るというやり方が気に食わないのは、なんともコーネルらしい。


 胎児に特殊五行の手掛かりを期待するイブやパスカルはそこまでではなかったし、千里眼の新たな可能性を感じたヒカリは前向きだったが、それでもコーネルの言っていることもわかると言っていた。


 つまり全員が『等価交換以上のことはしなくて良いじゃないか』派だった。


 にもかかわらず3人とも翌日には考えをコロッと変えて積極的になっていた。しかも全員が理由教えてくれない。


「…………ハァ」


 作業が終了した今なら良いだろうと辛抱強く待つと、コーネルはやれやれと肩を竦めて話し始めた。


「夢で言われたんだ。『今は研究のことを一旦忘れろ』と」


「誰に?」


「わからない。今となっては声も覚えていない。おそらくイブさんやパスカルさんの心変わりの原因も同じだろう」


 神様か、ユキか、イーさん……かな。


「なんで言わなかったんだ?」


「今の自分を否定するようで言い出しづらくてな」


「あ~、たしかに熱心にやってたことを『夢で言われた気がするから』って理由で諦めるのは勇気いるもんな。自分の本当の気持ちみたいだし、他人には理解してもらえないことだから言っても意味ないし」


 根拠のない自信は良くても、根拠のない行動はネガティブに捉えがち。ましてや失敗したら高確率で後悔してしまう。


 世の摂理だ。


「でも信じたんだろ? なら胸を張れよ。誰になんと言われようとこれが自分の決断だって言い張れよ。それが間違ったことなら俺達が注意するし……ってそれか、みんなして言えなかった原因は」


「理解したか」


「ああ」


 メンバーの過半数が夢に影響されて考えを変えたというのは、明らかに作為的だ。知り合いに強者が多ければ多いほどアドバイスを貰ったと感じるだろう。


「ましてやその夢を見たのが反対派の僕達だけ。自らの正義を捨てて他人の敷いたレールに乗ることが嫌いなメンバーだけなんだ」


「まぁ『正解を教えてもらったぜ、うぇーい』なんて言えるわけがないわな。でも頑張らないと結果が出なそうだからって感じか」


 無言で頷くコーネル。


「だがそれも終わりだ。カルラさんを調べて何も無くても、しばらく放置したあの物質が変化していなくても、騙されたと思って……いや違うな。自ら招いた結果を受け入れて進み続けるしかない。その結果ももう間もなく出る」


「ヒュ~♪ 意識たけぇ~♪ ま、良い結果になることを祈ってるよ」


「……随分と他人事だな。どちらも特殊五行に関係していることだぞ?」


「だって俺頑張ってるもん」


 努力は必ず報われるし悪には罰が下る。


 ここはそういう世界だ。


「運命は自分次第。お前が本当に叶えたいと思ってたら成功するし、思ってなければ失敗する。俺は成功一択。必ず力を手に入れる。コーネルがどうなるかなんてお前しか関係ないことだよ」


「深いようで浅い言葉だな。当たり前じゃないか」


 うっせ。

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