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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十五章 プロジェクトZ~研究者達~Ⅱ

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千百六十七話 チャレンジその8

 あまりにも突然な、そして早過ぎる仲間との再会に、俺達は何の感情も抱くことなく特殊五行習得に取り掛かった。


 パスカルに成長が見られれば盛大に祝い、こちらの作業を中断してでもその力や知識の使い道を調べてただろう。


 しかしそうじゃない。『たぶん』『知らないけど』『出来たらやる』などと宣う状況で、思うこともやることもあるわけがない。俺達は毎日を記念日にするバカップルではないのだ。


 何より合流した本人がそれを望んだ。


「……ま、そうだよな」


 それと同じく、まだ何も成してはいないが一応の説明がてら人工雪トラップを見に行き、いつも通りオクドレイクが居ないことを確認。


「ちなみにこれを見てどう思う?」


「あたしも異世界に行ってみたいです」


 本命である洞窟へ向かう前に人工雪の感想、ワンチャン雪属性獲得のヒントを求めて尋ねると、パスカルの返答は期待していたものとは違う……ある意味期待通りだった。科学に興味津々なお年頃らしい。


 すべてを教えられたら良いんだが、忘れていたり、良い感じの使い道が思いつかなかったり、他に優先すべきことがあったりで、その知識や技術が必要になった時にお披露目することばっかだしな。そもそも又聞きで満足するとは思えないし。



「なるほど……つまり、物質を形成する壁を取り払うことで、通常では起こりえない現象を引き起こすことが可能になるわけですね」


 そんな寄り道の甲斐もあって洞窟に到着する頃には情報共有が完了。パスカルの興味はスッカリ物質の融合およびアマルガムに向いていた。


「しかし疑問が残ります。その作業はコーネルさんがおこなっていたはずでは?」


 強者という存在への理解を諦めているのか、パスカルは雪山にポッカリと空いた縦穴には一切触れず、炭鉱ばりに整地されていて歩きやすい洞窟内を踏みしめながら俺の横を歩くコーネルに視線を向けた。


 講師役の俺とコーネルとイブが左に固まり、唯一の生徒であるパスカルが右を歩き、雑談メインのその他メンバーが前を行くスタイルで移動中だ。


「そこが冥属性の面白いところなんだ」


 手柄を褒められた子供のように笑うコーネル。


 実はこの質問は既に俺がしていたりする。


 当然今から言うことも知っているのだが、普通なら不愉快な顔だったり悔しがることでも、コーネルは気にしないどころか前に進むことに歓喜出来る人間だった。


「たしかに僕は物質の壁を取り除く力を手に入れたし、様々なものを変化させてきた。だがこんな現象は一度たりともおこらなかった。

 壁を人工的に取り払うやり方ではダメなのか、僕の取り除き方や速度……端的に言えば実力不足なのかはわからないが、ヒカリさんにはあって僕にはない“何か”が冥属性の有無を決めているのは間違いない」


 化学反応による『合成』、その他の物質と魔力を加えることによる『錬金』、物理法則に従うわけでもなければ物質を加えるわけでもない『エーテル結晶化』。


 それ等の基となるのはヒカリが千里眼で融合させた物質だ。


 もちろんコーネルに出来てヒカリに出来ないこともあるはずだが、現状は明確な優劣がついている。にもかかわらずコーネルは嬉しそうだった。


 こんなの、他人からの評価なんて気にしない、希望に溢れた未来を目指す人間にしか出来ないことだ。


「この土地の影響ということはないのですか?」


「ないな。実際、別チームだったヒカリさんを呼ぶ前に何度か試したが、同位体のようなものは創り出せなかった」


「私も。ラットさんやシェリーさんと同じ。砕けるかありふれた素材になっただけ」


 発想の天才イブ素材のプロコーネルで出来ないなら誰にも出来ない。


 なお俺を除く。アイム転生者。ベリー有能主人公。


(ノウ!)


 誰だ、今否定しやがったヤツ。神様か? ユキか? どっちかの声真似をした強者か? はたまた心の闇をさらけ出したフィーネか? んん~?


 最下層に到着するまで考えてみたが答えはわからなかった。




「なるほど……合成も、錬金も、エーテル結晶化も、一応の法則性はあるようですが同じであり別の物質であることには変わりありませんね」


「な、スゲーよな。不思議物質だよな」


 例によってヒカリに融合してもらった物質を三種の神器……もとい方法で加工したり、既に加工したことのあるパスカル以外の面々は新しい方法を試したり、昨日作った物質を調べたり、ワチャワチャすること6時間。


 出てきた答えは『わからない』だった。


 ありとあらゆる知識を試しても新しい情報は手に入らない。


 固体から液体にしてみても、液体から気体にしてみても、気体から固体にしてみても、液体から固体にしてみても、精霊術で属性を付与させても取り除いても、魔法陣を刻んでも、化学反応を引き起こしても、エロい妄想しても、普通の物質と何も変わらない。三者三様の反応を示すのに同じ微精霊が宿っている。


 合金アマルガム以外も生み出して試したが結果は同じ。


 合成が上手くいけば自然界に存在する化合物が作れるし、錬金が上手くいけばちょっと特殊な化合物が作れるし、エーテル結晶化が上手くいけば魔石のような化合物が作れるし、失敗すればどれもこれも放射性同位体となり原子核が崩壊して放射線を放出する。


 一番可能性のありそうな天属性を付与してみたが失敗。


 まぁ発動条件がわからない上に、目に見える変化でなければ判断しようがないので、一応という形だが……。


 要するに進展無し。


「鍵はオクドレイクにあり」


「ま、そうだろうな。やっぱあのオクドレイクだよな」


 どうやらイブも俺と同じことを考えていたらしい。


「……? どういうことです? 雪属性の力を持つオクドレイクにはまだ与えていないんですか? 真っ先に試すべき存在でしょう?」


「仕方ないだろ。昨日見つけたばっかだから。時間経過でどうなるか調べたかったし、誰が来るかもわからない山の中に放置するのは怖かったんだよ。この分だと問題なかったみたいだけどさ」


 俺は、一晩放置して何も変わっていない初代アマルガム達に目を向け、同条件で生成した新生アマルガム達を手に取り、外に連れ出す意向を示す。


 オクドレイク用のトラップに設置してみるつもりだ。


 雪属性の力を手に入れたラットとシェリーは、パスカルと同じく行使出来ていないか、相性が悪いか、力が足りないかのいずれかだろうが、自由に操れるとされるヤツなら何かが起こるはず。


 来なければ、来るまで待とう、オクドレイク。


 それでダメなら天・冥・雪について引き続き知識を蓄えつつ、それ以外の『無』と『時』の開拓に入るだけだ。候補はない。なんとかなるさ。



「ルーク君は誰と喋ってるの?」


「え……パ、パスカルだけど……」


 イブからの突然の問いかけ。


 実は俺にしか見えない霊体だったというオチに一抹の不安を感じつつ、パスカルの方を向いて答えると、全員が『何故そんなに怯える?』と不思議がるような顔に。


 が、しかし、ホッとしたのも束の間。質問は続いた。


「その前」


「それはイブじゃん」


「私は何も言ってない」


 ……ホワィ?


 まさかと思いながら、余裕で声帯トランス出来そうなフィーネに視線を向けるも、首を横に振られてしまう。当然他の面々もプルプルプルリ。


 その瞬間、気付いた。


 俺達しかいないはずの洞窟内に、言われなければ気付かないほど自然に、ポッカリと、一畳ほどのスペースが開いていたことに。


「そこに居るのはわかっているぞ!! 出て来い!!」


 そこをビシッと指差して叫ぶ。



「フッフッフ……バレてしまったか」


 すると空間が歪み、1人の女性が現れた。



「……イーさん?」


「やぁ久しぶりだね。地球から戻って以来かな」


 この場に居るべきではないという点においては同じだが、予想していたのとは別の人物(人間かどうかも怪しいが)、予言者イズラーイール=ヤハウェだった。


 彼女は普段通り両目を瞑ったままニヒルな笑みを浮かべる。


「実はキミ達がここへ来る前から居たんだよ。しかし一向に気付いてくれない。悲しかったよ。あんなに親しくした仲だと言うのに」


「じゃあその世界の理から外れる特異体質なんとかしてくださいよ。常時俺にだけ認識出来るようにしててくださいよ」


 よよよ、と古き良き日本人女性のようになよなよするイーさん。どこかで見たことのあるノリに自然と口調も強くなる。


「ああ。気にしなくて良い。声を届かせるも届かせないも自由自在さ。もちろん思考もね。ルーク君が私と会話しようとそれが他の者の記憶に残ることはないよ」


 言い返しながら、この会話が周りにどう映っているのか不安になるも、イーさんは予言者らしく一歩も二歩も先の会話をおこなう。


 安心はしたが説明しないと意味がわからなくなるからやめていただきたい。


「存在感も消えているから……ほら、この通り」


 そう言ってフィーネの肩に手を伸ばすイーさん。


 スッ――。


「この通り」


 ススッ――。


「避けられてんじゃねえか」


 イーさんの存在に気付いている様子はないが、『なんとなくこうしておいた方が良いだろう』という勘のようなもので、ことごとく接触を回避するフィーネ。


「むぅ……どうやら彼女は私が思っている以上に力をつけているようだ。だが安心してくれ。私達の会話は聞こえていないよ。阻害は完璧だ」


 すべてを見通す予言者の理解を超えるとかどんだけぇ~。そしてこれで安心しろとかどんだけぇ~。


 ま、まぁイブ達も、イーさんの存在はもちろんのこと、俺が消えていることに違和感すら感じていないようなので、彼女の言っていることは本当なのだろう。このまま誰にも気付かれなかったら泣く。


「わかってくれて何よりだ」


 当然のように俺が意見を述べる前に理解したイーさんは話を戻し、何故自分がここに居るかについて語り始めた。


「ひとりかくれんぼにも飽きたので、チョッカイを掛けてみようと思ってね。最初に声を掛けたのはパスカル君が降ってきた時。他にも何度かあったんだが今回でようやく気付いてもらえたわけだ」


「オイ、コラ、アンタ今かくれんぼつったな? ただでさえ見つけられないのに積極的に隠れるとかもう無理じゃん。100%認識不可能じゃん」


「特殊五行の力を手に入れた人間なら出来るはずだよ。もちろん私という存在を知っていればの話だが」


「スイマセンね。修めてなくて」


 過大評価だろうと期待を下回るのは心が痛い。それを隠すために思わず拗ねたような口調になってしまう。俺もまだまだ若いな。


「……いや、隠れたら無理だったかな」


「そこはハッキリしとけ!? 大事なとこよ!?」


「ははっ、まぁ細かいことは良いじゃないか。禿るよ」


「やめろよ……予言者が言うとシャレにならないんだよ……」


 男に不能とハゲと体臭の話は禁忌。トラウマ量産機だ。女のパイ垂れや目じりのシワの話と一緒よ。避けられない運命なんだよ。どうしようもないんだよ。


「じゃあ禿ない」


「本当に? 嘘だったらハリセンボン飲めよ?」


「それは無理だ」


 それって将来禿るって言ってるようなもんじゃん……。

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