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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十五章 プロジェクトZ~研究者達~Ⅱ

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千百六十四話 チャレンジその5

「おい、ルーク」


「なんだ」


 神妙な顔をしたコーネルからの呼びかけに、俺はいつも通り、良く言えばフレンドリー、悪く言えば雑に応えた。


 俺達がそういう間柄ということもあるが、それ以上に、優先してリソースを割くべき事象があるのだから仕方がない。


 ズバリ、自然・微自然・不自然で生成された三種のアマルガムの調査だ。


「これは本当に同じ物質として扱っていいのか?」


「なんだよ、話しってそのことだったのかよ。だったら最初からそう言えよ。そしたらもっとちゃんと応えたわ」


 と、責任の所在を曖昧にしたところで、真面目な議論に入ろう。


 暗くもなければ狭くもない丁度良い感じの洞窟内で、衝撃波を起こしたり風火水土の元素を呼び出したり茹・炒・揚などの調理方法を試したり、色々すること約2時間。


 結果は同じでも課程が違うアマルガムは、案の定、それぞれ違う性質を持っていた。


 例えば、自然科学の力で生成した俺のアマルガムは砕ける衝撃でも、コーネルが素材と魔力で錬金したものは砕けず、半ばエネルギー体と化しているイブ先生の作品に至っては衝撃を受け付けない。ただし一瞬の衝撃に強いだけでグッと押し込んだら粉々。コーネルのも捩じりに弱いらしく簡単に砕けた。逆に俺のはそれ等に強い。


 普通ここまで違えば別の物質として扱って然るべきだ。


 それでも俺はコーネルの異論を受け入れることが出来なかった。


「じゃあどう扱うんだよ。化学的には同じなんだぞ。3つとも宿ってる微精霊やその活動内容が一緒なんだぞ」


「それはそうなんだが……」


 このアマルガム、なんと成分がまったく同じだった。


 物質というのは、どれだけ複雑な構成をしていようと、魔力や精霊術といったファンタジー要素を盛り込んだものだろうと、化学反応式で表記した場合、元素記号さえ知っていればどんな物質が使われているか察することが出来る。


 しかしこの合金は中身が一緒。見た目や性質が違うのに、化学的に同じ物質と証明されてしまっているのだ。


 もしこれを『別の物質』としてしまったら、これまで人類が何千年と掛けて築き上げてきた知識の大半を否定することになってしまう。


「たしかに化学反応から魔法陣から何から何まで定義しなおさなければならないが……ここまで違う物質を『同じ』とするのも無理があるだろう」


「気にしなくていいだろ。物質の強制融合なんて千里眼の中でも異例な力。誰も真似出来やしないって。俺達もリニア計画が終わったらもう使わないだろうし、適当で良いんじゃね?」


 これは紛うことなき世界の理を覆す知識だ。これが何の役立つかと言われたら、神に喧嘩を売るぐらいしか思いつかない。


 世の研究者に喧嘩を売る非常識極まりない物質は、見なかったことにして闇に葬り去るに限る。



「なんちゃって~♪」


「またか? またなのか? また僕達に隠している知識があるのか? いい加減にしないと僕もキレるぞ? ん?」


「ひゅ、ひゅいません……」


 両手を頭の上で合わせてハートマークを作る、通称モンキー煽りを炸裂させた瞬間、コーネルが真顔で俺の頬を鷲掴みにした。


 キレる、というか現在進行形でキレている。ingだ。


「知識としてはあったんです。でも精霊が意志を持ってるせいか俺の知ってる理屈が通用しなくて、そういうもんかなって今の今までスッカリ忘れてました」


 これでは話が進まないと目で訴えて解放してもらい、これ以上怒りを買う前に弁解、説明に入ることに。


 コーネルもだがイブもヤバめ。怒らせたらどうなるか見てみたいサドなもう1人の僕も居たりする。クールな子が感情昂らせるのって良いよね。ニチャニチャするよね。




「同位体?」


「そ。同じ元素でも中性子の数が異なる原子のことを指す言葉だ」


 弱者と科学の世界ニッポンで手に入れた知識をひけらかすこと数秒。いつも通りの展開にコーネル達は呆れながら受講生となった。


 元素や中性子といった難しい言葉が出てきた瞬間に3名ほど考えることをやめた顔をしたが、専門分野外のことまで理解を求めるのは酷なので問題ナッシング。


「原子が、正の電荷を帯びた原子核と、負の電荷を帯びた電子から構成されてるのは知ってるよな? 原子核はさらに陽子と中性子に分けられるけど、このうち陽子の数……つまり原子番号が元素としての性質を決める。ま、化学反応の基本だな。

 向こうでは原子核の中の陽子の数や中性子の数が微妙に違っていて、それは光・熱・電場・磁場といった外部の影響でエネルギー量が変化した。その序列として元素記号の前に数字が割り振られていたんだ。

 たださっきも言ったように、この世界ではそれ等が安定していて、その原理そのものがなかった。つまり同位体は存在してなかった。俺が実力不足だったり強者が隠してたりするのかもしれないけど、取り合えず化学反応ってものを発見してから今の今までそれらしきものは見つかってない」


「具体的には?」


「あ~……例えば銀はAgだけど、最も安定しているものは107Agと呼ばれてたな」


 実際にあるかないかよりも、自分の持っていない知識を得たいだけのイブにせっつかれて、俺は少ない知識を捻り出す。


 去年の段階で存在しないものとして扱っていたので、再転生した際にも詳しく調べておらず、もしかしたら間違っているかもしれない。


 まぁそれも含めての研究ってことで。


「安定? つまり安定しない物質もあったの?」


「ああ。『放射性同位体』って言うんだ。107Ag以外の94Agから124Agまでの不安定な同位体は、原子核が崩壊して何らかの放射線を放出するからな。エネルギーの少ないというか軽いのはパラジウム、多くて重いのはカドミウムって物質になる。両方ともこのアマルガムみたいに銀とは似て非なるものだ」


「まさに今の僕達に必要な知識だな」


「ん~、どうだろうな。俺が知ってるのは元素だけ。混合物で起きるなんて聞いたこともないぞ」


 どこの海で獲れたものでもバフンウニはバフンウニだが、プリンに醤油をかけたものまで同列視するのは無理がある。


 もしもそれが高級寿司屋で出てきたら、ましてや法外な値段を請求されたら、激怒待ったなしだ。


「ま、他に同じ成分になってる理由の説明がつかないし、シェリーのとか時間が経つと崩壊する放射性同位体かもしれないし、今後はその方向で調べてみよう。安定同位体から起源や循環を調べるのは難しそうだけどさ」


「情報は後出しするなと言ったはずだが?」


「しゅ、しゅびません……」


 アイアンクローリターンズ。


 ただ今回俺は悪くない。情報を出すまでの流れは自然だった。


 と、言い訳したところで本題――。


 水素・炭素・窒素・酸素・イオウは地球上に存在する数少ない安定同位体で、肉体のみならず吸収・排出される化学成分としても測定することが出来るため、物質の起源や生成機構などの情報を得ることが可能なのだ。


 同位体によっては質量やエネルギー量が増減するタイミングも決まっているので、基点さえ決めれば日時計のように時刻(歴史)を知ることが出来る。


「ってまさにそれか、今俺達に必要なことは。流石にそこまで調べようはないし、化合物だから根本的に違ってくるけど、特殊五行の手掛かりぐらいにはなりそうだな」


「まぁ微精霊の行動理念を数値化するわけだからな。もしそんなことが可能であれば生物の思考すら理解出来るようになる」


 最も近い存在なのでこれまでは微精霊=微生物としていたが、地球のそれと違って記憶やら想いにまで関わってくる存在なので、分析にも限界がある。


 というか基点を見つけるだけでも一苦労だ。


 何せ偶然同じになっただけで、アマルガムは千里眼の力がある限り、無限に作れるのだ。



「……ってどうしたんですか、ヒカリさん? さっきまであんなに元気そうだったじゃないですか」


 話に夢中になっていて気付かなかったが、先程までせっせと物質融合に励んでいたヒカリ先生が、洞窟の壁にもたれかかって休憩していらっしゃる。


 話題にあげられても起き上がる様子もない。


「千里眼使い過ぎて疲れちゃった」


 ご都合主義は嫌いでも自然な流れは仕方ない。


 そう言わんばかりの主張だった。


 実際、俺達の足元にはそれなりの数の失敗作……もとい研究材料が転がっている。この中で何とかしろという運命の神様の指示だろう。


 もしもそこまで計算して洞窟の深さや時間管理、結界の負荷を決めていたとしたら、俺はフィーネさんに恐怖します。はい。


「ふふふ……」


 俺は何も見なかったし聞かなかった。良いね。

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