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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
七章 商店街編
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八十五話 挑戦者たち

 男湯を堪能した俺達は、女湯との境にある壁の上に隙間を見つめて覗きを決意した。


「なんで隙間が空いてるんだよ。あれじゃ覗けって言ってるようなもんだろ?」

「たしかに壁に出っ張りが無いから登りにくいけど、不可能じゃないよ」


 覗きは男のロマンだ。


 それに挑戦しようとする奴らは同士。大切なのは失敗しないための情報収集。


「まずあの隙間の理由だけど、空調の関係で男女で分けるより1つの箱として取り扱った方が何かと都合が良いんだ。

 そして壁にはキングホエールの皮膚を使ってて強度があるからナイフを刺しての壁登りは不可能。当然穴あけも無理。

 1人でなら6mの垂直飛びが最低条件だ」


 設計に携わっていた俺は知っている情報を全て話す。


 そんな説明を聞いたソーマが「くっ、念のために用意しておいた穴あけドリルが無駄になった」と言っていたけど準備よすぎるだろ! 何が念のためだ、このスケベ!!


 間違いなく石鹸工場の風呂場に穴を空けたのはコイツだ。いつかトリーにチクってやろう。


 それより今はこのそびえ立つ壁をどう攻略するか、だ。


「6m・・・・たとえ肩車しても届く距離じゃないな。そこにある椅子を使っても無理か」


「あと使える物は脱衣所の長椅子だけど・・・・それはフェアじゃないよね」


 この2人は本当にわかっている。


 彼らの言う通り、風呂と言う場所には高さを稼ぐための物は椅子ぐらいしか無い。かと言って別の所からハシゴを持ってくるのはもっての外。ルール違反だ。


 それではただの犯罪行為になってしまう。


 あくまでも自力で壁を乗り越えなければ『覗き』に失礼だ。


 これは古来より漢達に伝わる紳士の競技。大人の階段を登るために必要な儀式なのである。



 たしかに1人なら無理かもしれない。でも3人協力すれば可能になることがある。


「6m・・・・1人なら諦めただろう。だけど俺達は3人居る。この意味がわかるな?

 サイ、獣人の身体能力でどこまで飛べる?」


 俺の言葉の意味を理解した2人は実際に己の身体能力を披露していく。


ダンッ。

「・・・・いけて半分か、3mだな」


「ソーマは?」


ダンッ。

「ふっ・・・・1mは飛べないね」


 なんか大の男達が跳ねた瞬間にブルンッ! って音が聞こえたけど、その正体は知りたくない。



 なるほど2人合わせて4m弱か。


 ここで子供の俺が残り2mも飛べるわけがないと思うだろ?


 ところがどっこい。


「俺は今日と言う日のために縮地を特訓してきた。

 もちろん完成には程遠いけど、垂直飛びなら2mはいける」


「「なんだってっ!?」」


 人間の子供としては破格の身体能力を持つ俺に尊敬の眼差しを向けてくるけど気持ち悪いから止めて。


 つまりソーマを踏み台にしたサイが飛び、さらに俺が2段ジャンプの要領でサイを踏んで壁の上に登れば勝ちだ。




「いくぞっ!」


「「おうっ!」」


 壁に張り付いたソーマの上(プラス1m)でサイが跳ねる。


 これで後2m。


 さらに俺がタイミングを合わせてジャンプ。サイに引っ張り上げてもらいつつ、その肩を踏み台にして頂を目指す。


 あと少しで隙間に手が届く。勢いも十分。


「よし! いける!」



バインッ!


「なにっ!?」


 何故か虚空で弾かれた俺は地面に控えていたサイとソーマに受け止められて着地した。



「惜しかったな。やっぱり椅子を積んで少しでも高さを稼ぐか?」


「それより踏み台にするんじゃなくて、投げ飛ばすって言うのはどうだろう?」


 サイ達があれこれ議論をしているけど、そんな問題じゃない・・・・あれはそんな次元の話じゃないんだ!


「・・・・・・結界があった」


「「え?」」


「天井にある隙間の手前に結界があったんだ! この銭湯には俺の知らない覗き対策がしてあるぞ!!」


「「なんて事だ、くそっ!」」


 おそらくフィーネの仕業だ。俺がプレゼントされた腕輪の結界と同じ物に感じた。


 だとすれば常時発動しているはずなので、あの結界を壊さなければ覗くことは不可能。


 しかし壊すと言ってもどうやれば?


 俺が持っているのは同じ結界を生み出す腕輪。相互干渉しても消えないだろうし、ましてや俺達の攻撃で破れるとは到底思えない。


「目の前に楽園が広がっているのに諦めろってのか!? 何か、何か手があるはずだろ!?」


「ダ、ダメだ・・・・いくら考えても結界を突破する方法が思いつかない! くそっ! くそっ!!」


 2人は地団太を踏んで本当に悔しそうにしている。俺だって気持ちは同じなんだ。


 あの結界さえなければ作戦は成功していて、俺がじっくりと堪能した後は同じ手順を踏めば3人とも女湯が覗けるはずだった。



 俺はその忌々しい結界を睨みつけた。


 するとある事に気が付いた。気が付いてしまった。


「いや、結界だけじゃない!? 魔法陣だ、魔法陣があるぞ! 結界を突破しても覗くことは絶対に出来ないようになっているんだ!」


 て、鉄壁だ・・・・女湯は鉄壁の要塞と化している。


「なら当然、反射鏡を投げて間接的に見ることも、外からの遠視も無理か」


「魔術で透視、ってのもダメだろうね」


「あぁ、間違いないな。フィーネが見落とすはずがない」


 八方ふさがりだった。


 その事実を突き付けられて、俺達は敗北した。


「「「クソが!」」」


 せめてもの抵抗で桶を天井に向かって投げつけたら、俺と同じようにバインッ! と跳ね返されて頭に落ちてきた。痛かった。




 うな垂れたまま男湯を出た俺は、風呂上がりで色っぽい女性陣にどうしても尋ねなければならない事があった。


「なぁ天井の隙間は気にならなかったのか? 覗かれるかもしれないだろ」


 普通なら男湯と繋がっていれば警戒するはずである。


 にも関わらず全員が平然と風呂を堪能していたように感じたのだ。


 すると俺の問いかけに対し、母さんが驚愕の事実を話してくれた。



「え? 男湯に説明書きは無かったの?

 脱衣所に入浴の仕方と一緒に『結界が3重に張り巡らされているから覗かれることはありません』って書いてあったわよ」



 さ、さささ3重だと!?


 俺でも気付かない魔法陣が別にあったらしい。元々どう足掻いても突破できなかったのだ。


「私達も石鹸を男湯の方に投げて遊んでたわよ」

「弾かれた」

「バインって音したよ」


 女湯からの歓声が多すぎてわからなかったけど、結界破りに挑戦してたのは俺達だけじゃなかったらしい。


 しかし攻撃特化の3人でも破れなかったのか・・・・そりゃ俺には無理だわな。


「いやいや、ニーナとヒカリちゃんは良い線行ってたじゃん」


 え?


「私が独力で結界を壊そうと思ったんだけど無理で、ユキに頼んで天井まで浮かせてもらったの。それで乱打してたら何とか1層目の結界は壊せたのよ。

 でも2層目は桁違いに硬くてギブアップ」


 どうやら自己修復機能付きらしく、アリシア姉が破壊した1層目も数分で元通りになったと言う。


「わたしとヒカリは2層目も壊した。でも3層目はビクともしなかった」


「硬かったよね~。ユキちゃんが大丈夫って言うから銭湯全壊させる勢いだったんだけど傷1つ付かなかった!」


 ヒカリは大体の人を『ちゃん』付けで呼ぶ。そして呼ばれたフィーネとユキは非常に喜んでいた。年増ほど可愛い呼ばれ方に憧れるのだろうか?


 それより全壊って。


 あの・・・・オープン前に壊さないでくれる?


 いや食堂と同じ素材で作ってるから普通に考えて壊すのは無理か。ヒカリの誇張した表現なのだろう。


「フッフッフ~。フィーネさんの自信作ですからね~。例えヨシュアが滅んでも銭湯だけは無傷ですよ~」


 なんてことだ・・・・俺達は挑戦前から敗北することが決まっていたのか。



 ちなみに3層目が突破されたら攻撃にシフトするらしい。


 ラインを超えるとレーザーが一斉に発射されて覗き魔を殲滅すると言う。もちろん死なない程度に。


 『じゃあ耐えられるか』と言えばNOだ。


 徐々に攻撃力を増すレーザーは覗き魔が落ちるまで攻撃を止めない。最終的には水を一瞬で蒸発させる威力になるらしい。


「この設備を各地に広めて魔獣被害を減らせよ!!」


 なんて無駄な使い方してんだよ。



 まぁそんな覗き対策バッチリな銭湯は来週オープンです。


 みんな来てね!

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