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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十四章 プロジェクトZ~研究者達~

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千百四十八話 時代の変化

 今を変える力を求める俺・イブ・コーネル・パスカルの4人は、時代の転換期について学んでいく。


「1000年前……失礼、約1000年前に起きた資源争いは、どのように終焉を向けたのですか? 嫗さんは争いから技術が生まれると言いましたが、平和を求める者達はどんな時代だろうと存在するはずです。手に入れた技術を使って実現するのは至極当然のこと。しかし歴史にはそのようなことは記されていません」


 尋ねたのはコーネル。


「そりゃ殺し合いは必要悪って言ってるようなもんだからな。どの国も認めたくないに決まってるじゃないか」


 しかし俺は質問相手が口を開く前に反応した。


 なんとなくミナマリアさんが「そこまで教える気はない。お前達で考えろ」と言っているような気がしたのだ。その程度わかれと言い換えても良い。


「そんなことはわかっている。僕が知りたいのは争いの種となった資源や土地、技術が後世に伝わっていない理由だ。『大昔に滅びた文明』の一言で何もかもが片付けられてしまっている。中にはそれすら明らかになっていないものもある」


「だから言ってんだろ。国が認めなかったって」


「……? どういうことだ? 情報規制にも限度があるぞ?」


「人間の尺度ならな。理解している人間や使える人間が居なくなればそれはもう未知だ。限度なんてないさ」


 親が魔道具開発者でも、国から技術の利用を禁止された場合、子には知識を与えられず、孫は昔彼がどんな仕事をしていたかすら知らない人間になる。曾孫に至っては彼の存在すら知らないかもしれない。


 実際問題、曾祖父のことを知っている人間はどのぐらい居るのだろう。ちなみに俺は名前も知らない。何度か聞いたことはあるが秒で忘れてしまった。戦争がどうこういう話が記憶の片隅にある程度だ。


 伝えようと努力してそれだ。言論統制された場合のことなど考えるまでもない。


 さらに時代と種の変化。


「コーネルも、周りの大人から『昔と変わった』って愚痴や喜びの声を聞いたこと、何度かあるだろ? 実感が湧くかどうかすら怪しい数十年でそうなんだ。ン百年前の戦乱の時代を駆け抜けた人とは、身体能力も、意欲も、考え方も、何もかもが違って当然じゃないか」


 言語などはその最たる例だろう。


「今回の主題である世界のバランスが変わったこととかも大きいだろうな。人々の意志がそういう世界にしたのか、世界がそうなったから変わらざるを得なかったのかはわからないけど、体も心も時代に合わせて移り変わるものだし。

 嫗も言ってただろ。冒険者は今とは比べ物にならないほど強くて、世界最高峰の頭脳を誇る俺達に負けないほど優秀な研究者が沢山居たって。

 たぶんだけど古代文明は滅びてない。扱える人間が居なくなっただけだ。便利だったから海中に町を作ったけど息をするように水中呼吸の術を使える人間が減ってきて仕方なく放棄したとか、隣町にある古代兵器ドラグーンは実は自動車だけど昔の人間にとっては簡単な操作や気にも留めない魔力消費でも出来なくなったとか、能力の低下で『未知』になったんじゃないか?

 当時の人達からしたら俺達なんて雑魚乙なだけ。それが平和の代償だ。想いと経験の差はどうやったって埋められない。平和はそういう犠牲の下に成り立ってるんだよ」


 古代兵器ドラグーン、仕組みのわからない転送装置、伝説の武具、その他諸々の解析や真似が出来ないのは実力不足ゆえのこと。


 それがどれほど素晴らしいものだろうが使えなければ廃棄するしかない。


 絶えず争い続ける実力主義の世の中と、平和な年功序列の世の中。


 どちらが正しいのか答えを出せる人間など居ないが、1つ確かなのは俺達は当時の人々より実力で劣っているということ。イブやカイザーといった天才で渡り合えるかどうかのレベルだ。


 これは個々の能力差ではなく世界の差。


 重力が変わったと言えばわかりやすいだろうか。


 とにかく抗いようのない差だ。


 慣れなどもあるのでハッキリとしたことは言えないが、もしかしたらどちらかの世界で競えば勝てるかもしれない。まぁ所詮はifだが。



『正解。資源も同じよ。パワースポットがその名残ね。使い方を忘れた人間達が何百年と放置したせいで固まって、誰も使えなくなってるってわけ』


 一応俺の仮説を肯定した嫗だが、序盤以外は「何をやってるんだ……」と無関係な時代の人類の責任を負わすように呆れてくれやがった。


 責任をたらいまわしにすることも出来ないので大人しく受け入れるが、中々に不愉快だ。


 そして強者が使用しているだけではコリ(?)は解消出来ないらしい。使えてたら魔力は枯渇しなかったかもしれないね。ま、良くも悪くも平和ということで。


 それはそれとして、もしかしたらエーテル結晶が溢れてるのかもしれないから、近い内に行ってみようと思うよ。


『あとは……危険性かしらね』


「あ~、精霊王が動かなくても混沌が自然発生するってことですか?」


「……実はルーク君全部わかってる?」


 先程から話をいち早く理解している俺に強者の面影を見たイブが、羨ましさと面倒臭さを混じらせた顔を向けてきた。コーネルとパスカルも割とそれに近い。


 知ってるならまどろっこしいことしてないで全部話せ。その知識くれ。


 そんな感じの雰囲気だ。


 誤解だがな!


「ただ察しが良いだけだよ。例えば、今当たり前に使ってる化学反応を引き起こすマテリアル結晶。技術が進歩して魔石より効率良くエネルギーを生み出せるようになったら、間違いなく武力として使う連中が現れるだろ? んでドンドン研究が進んでいずれは誰も制御出来ない世界を滅ぼす力になる。その先は混沌。戦乱の時代の幕開けだ。

 つまり時代を作るのは精霊王だけじゃないってこと。人類……てか知的生命体が何かしたら世界はそれに合わせて変化するかもしれないし、何かしないようなら滅びる前に手を出す。そういう可能性の話」


 それは皆の頭の片隅にあった考えだったのか、一同はそれ以上話を広がることなく終了させた。


(ただそうなると結構ヤバいことしようとしてるんだよな、俺達って……)


 もしリニアが完成することで特殊五行が崩れた場合、世界には技術革新と共に混沌が訪れ、次の精霊王が生まれることになる。


 だからこその『知らない』。ミナマリアさんが精霊王の世代交代のタイミングを明言しなかった理由はおそらくそれだ。


 どの程度時代が進めば次の精霊王が生まれるのか。精霊王が完全に居なくなる期間は存在するのか。存在したとしてそれはどのぐらいなのか。そもそもどこまでやれば理が変わるのか。


 彼女はそういった謎をすべて残したまま時代の変化について語った。


(やれやれ……恐ろしく頭の切れる女王様だことで……)




「何故秩序の時代は訪れるの?」


 最後はイブ。相変わらず独特のセンスだ。


「何故って人々が求めてるからだろ」


「手に入れた力を使いたい気持ちはわかる。制御出来ない力を封じたいのもわかる。やましい過去を隠したいのもわかる。世界の変化についていけなくて諦めるのもわかる。でも向上心を失う理由はわからない」


「……つまり進歩と改善を両立させれば良いじゃないと?」


「そう。すべての力を放棄する必要はないし、平和になっても努力し続ける人は居る。継続は力なり。何かしらの成果は残るはず。でもそれが一切ない。

 戦乱の時代の終わりも見えない。結局資源争いはどうなったの? 資源が使えなくなったら別の資源を求めて新たな争いが生まれるんじゃないの?」


『低迷期に入って飽きたらしいわよ』


「低迷期?」


『ええ。見つけた技術を精練するのが世の常でしょ。魔獣や敵国を滅ぼすために貯えていた力を生活向上に使えば良いことに気付いた人類は、争わなくなってしまったのよ。するとしても効率良くね。

 いくら煽っても人間が興味を示さず、世界には魔力が溢れていて、争う理由が何一つなくなったことで精霊王が拗ねたってわけ。俺要らないじゃんって』


 気持ちはわかる。これまで意気揚々と導いてきた人間達が、突然『あれ? このシステム変じゃね?』『こっちの方が便利で楽できんじゃね?』と、自分達が生み出した道具や魔術に浮気したらそりゃあ不愉快だろうよ。


 何なら、エアコンを作った人がオゾン層で地球温暖化がうんぬんと言われるように、批難されたまである。これまで散々お世話になってきた技術だというのに、世間の風潮1つでアッという間に悪役だ。


 事実だろうと嘘だろうと関係ない。可能性を示唆するだけで疑心暗鬼になり、よく考えもせずに新技術・新常識に飛びつくのだ。


 ただ1つ言いたい。


「大人になれよッ!! 仮にも世界を担う偉い存在だろ!?」


『そういう子供っぽいところがあるから世代交代や自分勝手な人類に寛容なんでしょ。自分も自由にやるからお前達も勝手にやれってのがすべての精霊王に共通する意識なのよ。たぶん』


 混沌に勝つには別の混沌。


 混ざり合っていい感じになる……のか? いやまぁ今はなってるけど。過去や未来の連中にとってはこれもまた混沌と思われるのかもしれないけど。


『ちなみに先代の精霊王も「世界に魔力が足りなくなったのは前にいた穏健派のせいだ!」と嘆いてたらしいわよ』


 仲直り……出来ないんだろうなぁ~。どっちも悪くないし。


 常に重量の変わる天秤を安定させろなんて土台無理な話なのだ。己の正義に従って動くしかない。結果なんて後世の連中が決めることだ。


 まぁ先代は先代なりに世界のために頑張ったということで。



『さ、もう十分でしょ。切るわよ』


「ああ、助かったよ」


 俺は心の中にモヤモヤを抱えながら語ってくれた嫗に礼を言った。


 通話はその前に切れていたが一応言った。


(ふん、対人関係のなっていないゴミめ)


 何故か腹がズキズキ痛んだ。

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