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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十四章 プロジェクトZ~研究者達~

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千百四十六話 情報提供者

「――ってことで、顔や本名やその他諸々を隠すことを条件に、1000年前のことを昨日のように覚えているエルフ族の≪おみな≫に出演許可をもらった。この貴重な機会に色々聞こう」


 怒ったフリだったのか、すぐに謝罪したのが功を奏したのか、怒りより喋りたがりが前に出てきたのか、ミナマリアさんは昔話をすることを二つ返事で承諾。


 ただ、こんなダラシナイ恰好で人間の前に出るのは沽券にかかわるというので、しばし身なりを整える時間を取り、その間にヘルガを通して注意事項を確認。呼び方は指定がなかったので『老子』を提案したところ年寄り扱いはやめろと却下されてしまい、話し合いの末、翁の女性バージョンの嫗に決定した。


 女の語源や、敬っている相手を呼ぶ時に使う言葉という説明もさることながら、響きが気に入ったらしい。


 まぁ実際は年を取った女性という意味だが、余計な時間を使うだけなので言わなくても良いだろう。全力で読心術を防いだことも合わせて闇に葬り去ろう。


 そんなこんなと20分ほど過ごし、準備が整ったという嫗には玉座で待機してもらい、一旦通話を切ってイブ達3人にこの朗報を届けたのだが……。


「「ハァァ……」」


 空気を読んで知らないフリをしたイブ以外の2人、コーネルとパスカルが、深々と溜息を漏らした。


 喜びの感情はあまりにも少ない。


「なんだなんだ、どうしたんだ? 何故呆れる? 何故そんな目で俺を見る? フィーネ経由でエルフの里に行く機会があったって話は前にしただろ。その時知り合った人達を辿って昔を知る人に辿り着こうとするのも、その人に迷惑が掛からないように気を遣うのも当然じゃないか。エルフの里って秘密が一杯だし」


「僕達だってそこまで無知じゃない。エルフの平均寿命は300年。それは病や争いで死ぬことがほとんどないエルフ族の肉体の限界だ。超えられるのは始祖に近い存在……王族か、王族によって力を与えられた直属の兵士だ」


「どこ情報だよ。コーネル、お前、自分で確かめたものしか信じないタイプだっただろ。なんで里に行ったわけでもないのに決めつけんだよ。500歳越えのエルフとか普通に居るわ。1000歳近いのも結構居るわ。パワースポット舐めんな」


 コーネルの決めつけを全力で否定する。


 人間界で暮らすエルフから聞いたり、何百年と観察して死亡時の年齢を計算したのかもしれないが、サンプルが少ないので参考程度にしかならない。


 もし前者だとしたら自己申告。サバを読んでいてもおかしくない。本当のことを言っているとしても自分の年齢を覚えているかどうか怪しいものだ。人間界に興味を示すのは過去や規則に縛られないエルフのようだしな。


「それはそれで興味深い話ですが今は置いておきますね」


「調べたければ自身で許可を貰ってください。絶対に俺が発破を掛けたとか情報をくれたとか言わないように」


「善処します」


 こちらも何かあった場合に手を出さないよう善処するとして、


「置いておくってことは別で話したいことがあるんだろ? なんだ?」


「イブさんは御存じありませんでしたよ? 1000歳の平民エルフ」


 たしかに『信頼している人間からの情報は例外』は意識高い系の第二条第四項に記されているルール。


 コーネル達が無条件で受け入れてしまうのは仕方のないこと。


 しかし残念ながら間違いだ。


「なんでコミュ障王女が他人の年齢なんて知ってると思ったんだよ。仲良くしてたエルフにすら1人じゃ話し掛けられないような子だぞ」


「「そ、それは……」」


 その反応だけで充分失礼だが、本人も自覚している上、気にしていないようなので放っておく。


 俺は、この主張が正しいか否かを証明するべく、部屋の隅で棒立ちしていたイブに問いかけた。


「ヘルガやクララの趣味知ってんのか? 好きな食べ物知ってんのか? 家族構成知ってんのか? 答えはイエスかノーでどうぞ」


「知らない」


 そのぐらいは良いだろうと友人達を例に挙げてると、案の定、彼女はプルプルと首を横に振った。


 アイムウイナー。


「ただあの場所では寿命は延びても300年。里を離れたエルフの寿命を200~400年とすると、里のエルフの寿命は誤差を考慮しても500~700歳。1000歳はあり得ない」


(個人には興味無くても土地や生態には興味津々だっただとォ!?)


 遥か昔、精霊について何も知らない頃に手に入れた情報とタカを括っていたが、天才には通用しない理屈だった。


 憶測と推測だけでアールヴの里をここまで解析するなんて……イブ、恐ろしい子……!


「で、でも、親や親の親やそのまた親がそうだったってだけで、本人は違うかもしれないぞ。知ってるか知らないか知らないけど力を継承するのがエルフって種族だ。与えられた力を与えられて寿命が延びることだって当たり前にあるだろうよ」


「それを含めて300年」


 ゲシュタルト崩壊を狙って乱打するも不発に終わる。


「ち、ちなみにその根拠は……?」


「エルフ族の魂に宿っている精霊。これは常に変化する血や肉とは違う。この世であってこの世でない存在。死ぬまで変わらない。魔獣の魔石みたいなもの」


 誰ですか、この子に精霊の在り方を教えた人は。この調子だとそのうち神界にも入れるようになりますよ。良いんですか、天才に丸投げするようになっても。



『別に構わないわよ。里の中では偉い立場って認識で』



 契約違反で取材拒否されかねない状況に動揺していると、通話が自動的に繋がり、画面が映し出され、ミナマリアさん……もとい嫗が妥協案を提示した。


 声には若干モザイクが掛かり、首から上は御簾(偉い人が姿をぼかすために使うカーテンみたいなやつ)で隠れ、全身ゆったりとした服装なので男性か女性かすらわからないようになっている。


 一瞬神様かと思った。なんというか流れ的に。


 まぁそれだと最終回間近っぽくなるので良かったが。第三者が神と邂逅したり世界の真実知っちゃったらそれはもう終わりよ。手に入れた力で凄いことしてチャンチャン♪よ。


「ミナマリアさん。久しぶり」


 おーい、誰か、このKY王女をボッシュートしてくださーい。


『…………アタシは嫗よ』


「? その玉座に座れるのは女王だけって聞いた。お父様やユキさんからも引退したとは聞いてない。つまり貴方はミナマリアさん」


 早めにお願いしまーす。色々駄々洩れでーす。


 イブが居るのに場所に関する情報を一切隠さなかった嫗も同罪でーす。てっきり論破出来る言い訳を用意してあるからだと思ったらそんなこともなかったでーす。


「ミナマリア……? 名前もそうだが雰囲気もどことなくルナマリアさんと似ているな。血縁者か何かか?」


 察しの良いガキも一緒にお願いしまーす。


「たしか、その名前はゼファールに遊びに来たエルフも出していました。『様』をつけていたので偉い立場というのは間違いないでしょう。さらに最近は人間界に興味を示しているとも言っていました。エルフ族がヨシュアに集まっているのも偶然ではないでしょう」


 そして誰もいなくなった……。


 というか何やってんスか、ヘルガさん。遊びに来たエルフって貴方のことですよね。オラトリオ領からの帰りに立ち寄ったとか言ってましたよね。


 身バレしてる上に情報漏洩しまくりじゃないですか。


 さっきの特殊五行と言い、貴方、もしかして反逆者ですか? エルフの秘密を全部バラそうとしてます? ウッカリで許されるレベル越えてると思いますよ?


『…………』


 ほら~、嫗さんメッチャ怒ってるぅ~。


 プルルルルル――。


 その時、イブ・コーネル・パスカルのケータイが一斉に鳴った。隣に立っているイブの手元がチラッと見えたがガウェイン王からだった。


 博覧会で出会っているパスカルはともかく、コーネルは父親が交流あるだけで直接関係があるとは思えない。俺を除いた全員に一斉に掛ける理由もわからない。別の通話グループが出来ていたとしたら泣く。


 どうやら3人とも別の相手から掛かってきたようだ。


『どうぞ』


 大嫌いな人間との対話など一刻も早く終わらせたいはずの嫗だが、気にした様子もなく、通話に出るよう促す。


 もしこれで延長料金を請求されたら無視する。だって向こうが勝手に掛けてきただけだし。まだ始まってないし。


 ここで出ないのは逆に失礼と、各々距離を取り、別の壁を向いて通話開始ボタンを押し、


「「「すいませんでした」」」


 その20秒後、全員が土下座した。


 権力の行使ってこうやるんですね。勉強になります。


 両親とか町の偉い人からヤベェって連絡だったのかな。それとも精霊から謝らないと二度と協力出来ないみたいな連絡かな。知りたくもないけど。

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