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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十四章 プロジェクトZ~研究者達~

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千百四十五話 古参

 天・無・時・冥・雪の5属性は、惑星の誕生と共に生まれたものなのか、それとも時代によって変化するものなのか。


 違和感や謎をそのままにしないのが研究者の……いや、努力家のあるべき姿であり、その積み重ねが自らの力になる。世界の理に干渉するための力になる。


 そう信じている俺達は、ユキという精霊王の存在によって生じた疑問を解消するべく、過去を知る旅に出ることにした。



 プルル……プルル……プルル……。


「あ、もしもし。俺、俺。ちょっとミナマリアさんに聞きたいことがあるから繋いでもらいたいんだけど」


『何故かしら。猛烈にツッコまないといけない気になったわ』


 普段より3倍近い待ち時間を経て画面に姿を見せたのは、エルフの里の中でもそこそこ高齢にもかかわらず幼女と変わらない容姿をしているヘルガ。10歳以上の出場制限がある大会ならダントツだ。精神年齢も込みで。


「気のせいだ」


 相手に不信感を抱かせないのはコミュニケーションにおける基本。


 俺は、話の流れを断ち切ったコミュ力皆無の世間知らずのクソエルフに苛立ちを覚えることなく、優しくわかりやすい説明をおこなう。


『不信感を持たれないようにするって言いなさいよ! もしくは誠実さをアピール! 抱かせないってそれはただの弾圧じゃない! 後半は色々アレ過ぎるから触れないけど!』


「うるさい黙れ。お前は何も考えずに頼まれたことを遂行すれば良いんだ。どうせ特殊五行のことなんて微塵も知らないだろ。人の心を覗いてる暇があったら仕事しろ。そんなんだからいつまで経っても世界を変えられないんだぞ。動け。向上心を持て。何のための力だ」


『~~~っ! 知ってるし! 精霊が存在しない属性のことでしょ! 人間に教えるの禁止され――』


 自身とエルフの地位向上を目指して熱弁を始めたヘルガの姿が消えた。これからツンデレ全開の台詞が飛び出そうというところで忽然と消えた。


 画面がブラックアウトしたわけではない。背景はどこかの森のまま。悲鳴も異音もなく、ロリエルフの姿だけが消滅した。


『まったく……なに? なんの用?』


 代わりに現れたのは目的の人物、ミナマリア女王陛下。


 相変わらず客人が来ないのか、女王らしさの欠片もない小綺麗な農夫のような恰好をしている。おおかた暇を持て余して森の散策でもしていたのだろう。


 俺が知っている中で確定でユキより年上なのは、ベーさん、ミナマリアさん、鳳凰、イズライール=ヤハウェの4名。


 後者2人は連絡を取る手段がなく、ベーさんも(イーさんもだが)人前に姿を見せるのが好きではないのでおそらく呼んでも現れない。


 一応、鳳凰さんと同じく聖獣のスイちゃんや神様も居るが、片方は行方知れずで、もう片方は絶対に教えてくれないので放置安定。軽々しく神に接触出来る事実は知られない方が良いしな。


 消去法でエルフの女王を頼ることを決め、映像通話する時の当然のマナーとして誰も居ない屋上で彼女の従者をしているヘルガのケータイに掛けたのだが……まさかこんなことになろうとは……。


「ヘルガに……ヘルガに何をしたァァァ!!」


『なんで大切な味方を殺されたみたいなリアクションなのよ。何もしてないわよ。エルフ族にとっては常識、他種族にとっては非常識のことをベラベラ喋ろうとしたから飛ばしただけ。頭を冷やしたら帰ってくるわよ』


 ならオッケー。



「ところで『こういうことがあるから他種族と関わるの嫌なのよ』みたいな顔をされていますが、まさか人類との付き合い方を考えてたりしませんよね? それはそちらの教育の問題ですよ?」


 本題に入る前に念押ししておく。


 子供に注意してなかったせいで、子供はそれを秘密や悪いことと思わず、夫婦の夜の営みの詳細や家計事情を周りに喋ってしまった。


 それはもう親の責任だ。善悪や公秘の教育が面倒だからと監禁するのは違う。しかも元々エルフは排他的な種族。その代表にして先導者のミナマリアさんが拗ねて鎖国しても不思議ではない。


『限度ってものがあるでしょうが。あの手この手で聞き出そうとする悪意が存在する以上、対策を講じるのは仕方のないことよ。そっちこそ自分達で考えずに他者を頼るバカをなんとかしなさいよ』


 正論パンチをもって現状維持を希望すると、ミナマリアさんは責任の所在を有耶無耶にすると同時に、その矛先をこちらに向けてきた。


「非常に遺憾に思います」


『思うとかどうでもいいのよ。行動に移しなさい。反省を形にしなさい。無理矢理聞き出そうとしたり、手に入れた知識を無責任に広めたバカを処刑しなさい。知識や技術は自分で身につけてナンボよ。他人から聞いたものなんて何の意味もないわ。関わった人数が多ければ多いほど歪むしね』


「ですよね。俺もそう思います。ところでユキが生まれる前ってどんな世界でした? 属性の強弱とかで例えてもらえたら助かります。数値化キボンヌ」


『話聞いてた!?』


「聞いてましたよ。俺をゴミと一緒にしないでください。俺はただ手掛かりを求めて頭を下げに来たんです。その後の推察や研究はこっちで勝手にやります。広めたりもしません。プラズマを生み出したら手に入れた知識と技術で世界を変えていきます」


『そこは墓場まで持っていきますじゃないの!? 広めてるし!!』


「助言しただけで成果をすべてもらおうなんて虫が良すぎますよ。これは俺達の成果です。広めてるのはプラズマの『現象』であって世界の仕組みじゃないです。

 そもそもプラズマに興味を持った連中が調べ出しても意味ないでしょ。知らないんですから。今の俺達と同じで」


『だから言ってるじゃない。その情報を手っ取り早く手に入れようとする連中が、エルフや精霊に手を出したり身勝手に過去を改変するのが嫌だって。対処が面倒臭いって』


「なんて自分勝手なんだ!! それでも一国の女王ですか!?」


『その言葉、そのまま返すわ』


「俺は一般人ですぅー。身の回りで起こったことには対応しますぅー。バカが居たら注意しますぅー。そもそも教えられただけで何とかなるような問題じゃないですぅー。どれだけ詳細に教えられてもヒントにしかなりませんー。

 さ、これで俺がどれだけ必至か、この件にどれだけ命を懸けているか、理解してもらえましたね。わかったらさっさと語ってください。こんなに老害が喜ばれることないですよ。ほらほら、いつもみたいに『昔は良かった。あの頃は○○が××で~』って、何も知らない若者にドヤ顔で昔語りしてくださいよ」


『…………』


 無言で通話を切られた。


「……(ぴっ)」


 特に気にせず掛け直し、待つこと3分。


『……もしもし』


 大自然の加護をもってしても乾かしきれなかった長い髪を、自らの精霊術でリアルハンドアイロン中のヘルガが、不機嫌な顔で通話に出た。


 こういうオフの時の女性の姿ってドキッとするよね。レア度高いっていうか、ダラシナイとはまた違う感情が芽生えるのって俺だけ? 盗撮の才能あったりする?


「スマン。なんとか特殊五行について教えてもらおうと頑張ったんだけどダメだったわ。お前から頼んでくれないか。どうしても必要なことなんだ」


 まぁそんな脱線話はさて置き、俺は真摯な態度で頭を下げる。


『あれを頑張りと捉える生物は世界中どこを探しても居ないわよ』


「でもアールヴの里から来たっていう風精霊と土精霊が言ってたんだ。『最近ミナマリアさんはツッコミに飢えてるから全力でボケてみろ。気分良くなったら教えてくれるぞ』って」


 勘違いされそうだから言っておく。


 俺は無実だ。


『……ま、まぁ清々しい顔はしてたわね』


 選択肢は間違っていなかったらしい。


 つまり原因は俺。


「くっ、なんということだ……俺としたことが引き際を間違えちまった。あと1歩、あと1歩行けると思ってしまった。ギリギリを責めるべきじゃなかったってのに!」


『1日ぐらい置けば大丈夫じゃない。知らないけど』


「え~。でも逆になんですぐ連絡しないのよってことにもならね?」


『それはそうだけど……』


 なんだろう、この恋人を怒らせてしまった時の対応策を練ってる感じ……。


『あ~っ、もう! 面倒臭い! アンタが決めなさいよ!』


「じゃあ今すぐで」


 さて、と……お遊びはここまでだ。


 本気で行くぜ!

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