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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十三章 勝ち取った日常

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千百三十六話 ヨシュアよ、私は帰ってきた!

 王都を発って49時間。


 睡眠という生命活動に必要な作業を他者の背中でおこなうことで実質不眠不休で移動し続け、調査で犠牲になった時間を取り戻すことに成功した俺達は、暗くもなければ息苦しくもない地下迷宮の終着点……というわけではないが旅の終わりとなる目的地、ヨシュア直下に居た。


 看板があるわけでもなければ、通ったことがあるわけでもなく、どこもかしこも似たような洞窟内で何故そのようなことがわかるのか。


 目の前に“如何にも”な魔法陣があるからだ。


 これはマラソン大会におけるゴールテープ。実は新天地で、トラブルの幕開けとなる可能性もなくはないが、それをしそうな連中の反応から察するにヨシュア到着だ。


「上へまいりま~す」


「ま、そうだよな……」


 魔法陣の上に誰よりも早く移動したユキは、昔は大型デパートなどでよく見かけたが、昨今では展望台などのエレベーターでしか見かけないエレベーターガールの真似を始めた。


 普通なら全員が乗り込んで上昇する直前に言う台詞だが、指示や説明としても使えなくはないので大人しく受け入れることにした俺は、言われるがまま(?)にエレベーターに搭乗。


 イブ達も後に続く。


「それでは出発進行~」


 全員が乗り込んだことを確認したユキは、新たなワードを持ち出して手元にあったレバーを引いた。


(甘い、甘いぞユキ。ここで『上へまいります』を使わないことなんて想定済みよ。あんまり俺を舐めるんじゃねーぞ)


「ふっ……」


 俺が口角を上げるのとほぼ同時にユキもニヒルな笑みを漏らす。


 何事か尋ねようとすると、まるでこれが答えだと言わんばかりに、ズゴゴゴッ、と重々しい音を立てながら隣の壁が下がり、エレベーターは上昇を開始。


「この見た目で重りで上下するタイプだと!?」


「人も物も見た目で判断しているようではまだまだですね~。このサイズのエレベーターをこれだけの距離、しかもメンテンナンス要らずで僅かばかりの魔力で動かすのは明らかにオーバーテクノロジー。作るなら自分達でお願いしま~す。私達は手を貸しませ~ん」


「正論だが、わざわざこんな見た目にしたのは確実にからかう目的だから、俺は今からお前を殴る。これは教育的指導だ。必要なことだ」


「私は必要とは思わないのでそれを防ぎます」


「ダメです」


「じゃあ、今、私に危害を加えると、時空の狭間に放り出されます」


 じゃあって……今じゃあって言った……。


 99%今思いついた嘘だし、フィーネやルナマリアが居れば何とかなるが、0でない以上動くわけにはいかない。ユキという女は『面白いから』で何でもやる。


 後で殴れば良いだけの話だ。




「……そこそこ近いな」


 重りで上下する原始的なエレベーターを昇った先には、何もない平原……かと思いきや1kmほど離れたところに見慣れた町が見えた。


 懐かしの我が故郷。ヨシュアだ。


 現在地としてはヨシュアの北東部。道なりに進んでいたので一直線ではないと思っていたが、予想通り、王都とヨシュアを繋ぐ道から大分北へ逸れていた。


 以前、マリーさんと共に農業について学んでいる時にひと悶着あった場所の横と言えばわかりやすいだろうか。結構離れているが、まぁ大体あの辺だ。


「質問。なんで出口を町中にしなかったの?」


「権利関係が色々面倒なので~」


 地上に出て状況を確認した直後飛び掛かったのだが、ユキはマウントを取られながらもニーナからの質問に平然と答える。


 某バトル漫画に登場した肩甲骨を腕の形に変化させる技『四妖拳』を繰り出し、俺の両手を封じるどころか逆に逃げられなくしてくすぐってやがるので不利なのはこちらだったりするが……まぁ語り部として支障の出ないレベルなので大丈夫だ。


 それはそうと今の発言は絶対嘘だ。土地の権利どころか法律すら鼻で笑い飛ばすヤツがそんなこと気にするわけがない。何か理由があるはず。


「今あるものをどうこうするよりこっちで一から作った方が楽だからでしょ」


「そうですね。他にも、地下に得体の知れないものを走らせると住民を不安がらせてしまう、という理由もあります」


 ルナマリアとフィーネのフォローが光る。


「そ、そそそ、そうですよ~。そうなんですよ~。私もそう言おうと思ってたんですよ~。ちょっと言葉が出なかっただけで~」


 そしてユキは慌てた様子で両手をバタつかせながら同意する。


 何故わざわざ怪しまれるような言動を取るのか……。


 たぶん気にしたら負けなんだろう。ユキの思う壺なんだろう。でもツッコんじゃう。だって主人公だもの。


「一応聞いておくけどあの洞窟、ベルダンには繋がってないんだよな? どれだけ調べてもベーさんの生態とかわからないんだよな?」


「あれ!? 私のことを気にする流れは!?」


「とっくの昔に終わってるよ。今のフェイバリットはベルダンの方向に延びてた洞窟についてだ。で、どうなんだ? ただの偶然か?」


 冒頭で言った終着点はあくまでも『俺達の旅の』で、道自体は遥か彼方まで続いていた。


 個人的には、迷宮になる前……ただのトンネル状態だった頃に見かけた横穴はベーさんが私生活で同高度を使用したことで生まれたもので、いつか暇があれば調べてみようと思っていたので残念ではあるが、これから始まる地下鉄工事のことを考えれば無関係になってくれている方が助かる。


「ご安心を。あの道は水の都アクアに続いているだけで、我々が林業をおこなっている山々には掠りもしませんし、農場は通りますが農業に支障はありません」


 そう言ってフィーネは北の空を指差した。おそらくその下を洞窟が通っている。もしくはうねっているので整備しろという指示。


「なら良し」


 感覚で覚えている横穴もいくつかあったのだが、この様子からしてそれも埋められてしまっているだろう。


 なにはともあれ、ただいまだ!




「じゃあアタシはここで」


 何の変哲もない町中よりもこのまま町の外を歩いて駅の計画を立てた方が建設的という俺の意見が採用され、町を覆う壁のさらに外側を歩くこと十数分。


 ロア農場と北部の門の分岐道に到着する直前、ルナマリアが輪を離れたかと思うと、やる気なく手をヒラヒラさせ、別れの言葉を告げて農場へと歩き出した。


「おう、ありがとな。助かった。何かあったらまた頼むわ」


「ふんっ。フィーネのために仕方なく手を貸しただけよ。次もあるなんて思わないでよね」


 最後の最後までツンデレったハイエルフは、全員のニヤケ顔に見送られて、ロアレンジャー+αパーティを一時脱退した。


「……あ、そう言えばわたしも、帰ってきたらベルダンに来るようにヒカリに言われてたんだった。じゃ」


 さらに用事(妹のストレス発散の相手or腕試しor新たなトラブルorそれ等すべて)を思い出したニーナも、ルナマリアの後を追って一時脱退。


 残された俺達、リニアモーター特化の面々は、


「「「…………」」」


 無言でルナマリアとニーナの後をついていった。


「なんでついて来るのよ!?」


「しゃーないだろ。ベルダンにエーテル結晶預けてんだから。回収しに行くだけだ」


 噛みついてきた狂犬に俺は淡々と事実を告げる。


 マテリアル結晶の上位互換『エーテル結晶』は、例えるなら核爆弾。


 安定してはいるが何が切っ掛けで暴走するかわからず、万が一にも暴走した時に対処出来る人間もおらず、誰もこんな危険物預かりたくないというので、俺はヨシュアを発つ前にベルダンメンバーに預けていた。


 主なメンバーはゴーレムさんとジョセフィーヌさん。毎日のようにボランティアで町の警備をしているゴーレムさんは帰宅時に。それ以外の時間はジョセフィーヌさんに管理をお願いしている。


 実際どうなってるかは知らん。頼んだだけだ。


「カッコよく別れられるなんて思うなよ! 現実は非情だ! 車の窓から身を乗り出して手を振ってたら赤信号で止められたり物を落としたり、関係ない第三者が割り込んできて2人きりの空間を作れなかったり、号泣した数時間後に再会したり、色々あるんだ!」


「知らないわよ! 同行するなら前もって言いなさいよ!」


「いや、もしもルナマリアがリニアモーターカーの研究に付き合うつもりで、研究所に向かおうとしてたら面白いかなって」


「鬼かッ!」


 デレたツンデレをさらに弄る。


 人によっては酷いと言うかもしれないが、俺はそこで顔を真っ赤にして再びツンに転じるツンデレを見るのが好きだ。誰も悪くないのが素晴らしい。完全に本人の勘違いorそうなってくれるだろう思考のせいだ。


「もちろん良いよな? 用事があるっていうニーナはOKなんだ。俺達の同行を断るわけないよな?」


「~~~っ! 勝手にしなさい!!」


 その後、農場に到着するまで、俺とユキがルナマリアに関するもしもトークを繰り広げたのは言うまでもないだろう。もちろん本当にやりそうなデレ方については一切語らずに。


(くくく……いつ裏切られるかわからない恐怖に震えるがいい……)

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