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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十三章 勝ち取った日常

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外伝33 レギオン連合国1

「女性が男性器を刺激する行為を『奉仕』と呼ぶのに、男性が女性におこなう場合だと『攻める』はおかしいと思うんです。完全に男視点じゃないですか。這いつくばるのは同じでしょう?

 結局のところ男性は『女は性交を含めて男に奉仕するもの』『自分の方が上』と考えていて、優越感に浸っているだけだと思うんですけど、2人はどう思います?」


 世界一ダンジョンの多い国にして世界最難関のダンジョンがある、冒険者の聖地【レギオン連合国】に足を踏み入れたアリシア一行の最初の話題は、夜の営みにおけるワードチョイスついて。


「ねえ、ちょっと聞きたいんだけど、レギオン洞窟ってどこにあるのかしら?」


 当然のようにピンキーからのキラーパスを無視したアリシアは、近くにあった雑貨店へと歩いていき、店主に声を掛けた。


 無視どころか、冒険譚の新章が汚れないよう、無かったことにしようとしているまである。


「移動手段は……竜か。ならこっから東にまっすぐ行けば1日もあれば着くよ。1日に3本、朝昼晩の便があるから不安なら一緒に行っても良い。もうすぐ出発するからね。マップで言うとこのルートだ」


 駅の売店と同じぐらい様々なものが取り揃えられた棚の中から、3人分の弁当を手に取り代金を差し出すと、店主は人だかりが出来ている馬車乗り場を指差し、慣れた様子で説明を開始した。


 さり気なく近隣マップも買えと言っているが、生憎と装備を新調したばかりのアリシア達には金がなかった。


「そ、ありがと」


 金の切れ目が縁の切れ目。


 弁当3つで出せる情報はここまでだとばかりに無言になる店主と、必要な情報はすべて揃ったとばかりに気にせずその場を離れるアリシア。


「はい、これ、皆の分」


「あれあれ? おかしいですね。私の分がありませんよ。皆って言ったのに私の分だけありませんよ。もしかしてこの近距離で無くしちゃいました?」


 手にしたレギオン名物『魔獣弁当(魔獣の肉や骨だけで構成された天然素材ゼロの弁当)』をクロ達に渡すと、いつまで経っても渡されないことに違和感を抱いたピンキーが辺りをキョロキョロ。


「あ、なるほど、アリシアはダイエットを始めたんですね。言われてみれば身動きを素早くする方法についてあれこれ考えていましたね。ではでは……」


 バシッ!


 アリシアの手の中にある弁当へと飛んでいくも、割と強めに弾かれてしまう。空中で急ブレーキを掛けなければ3mほど離れた売店の食品棚に突っ込んでいたことだろう。


「あー、そういう感じですかー。セクシャルハラスメントにはフードハラスメントで対抗する。アリシアはそれが戦争の引き金になりかねないことを理解してますか? やったらやり返すなんて蛮族のすることですよ?」


 自分で払えという指示ではないことを理解しているピンキーは、アリシアの子供じみた嫌がらせに苦言を呈し、


「だから大人しくセクハラを受けてください」


 暴論を重ねた。


「言わなくてもわかってるだろうけどすぐに出発するわよ。それは移動しながら食べなさい。観光客だの、自前の移動手段を持たない冒険者だの、持っていても危険を冒すつもりのない冒険者だの、公共交通機関の護衛団と一緒に行動しても良いことなんて何もないわ。冒険の楽しみを奪われない内に行くのよ」


「よろしい! ならば戦争だ! 淫夢に溺れろ、ピンキストドリィィムッ!!」


「聖なる炎に焼かれて眠れ! ブレイブハートッ!!」


 頑なに無視され続けた妖精はピンクの靄を立ち昇らせてレーザーを放ち、頑なに無視し続けた魔法剣士は背中の大剣を抜くと同時に輝く炎の鳥を生み出す。


「グル~」


「おわああああ!?」


 ドーーーン!!!


 激突すれば大惨事は避けられないが、お互いの攻撃がぶつかる『点』に別の何かが投げ込まれれば話は別だ。


 化学反応と連鎖反応と反発反応を起こすはずだったそれは、パックという英雄の肉体によって、ほぼすべての衝撃を吸収・無効化された。


「な……ぜ……」


「グルグルル」

(やり返したアリシアさんももちろん悪いですけど、切っ掛けはピンキーさんの下ネタです。これは幼馴染として改善すべきところをしなかったパックさんの責任でもあるんですよ)


「理不尽……だ……ガクッ」


 陰と陽、力と力、仲間の争いを一身を賭して浄化した英雄の尊い犠牲に献杯。



「あ、お弁当余りましたね」


 そして同胞の安否より自身の空腹を優先する非情なる妖精ピンキー。


 地に伏した英雄の周りに水溜まりが出来る。それは大地に染みこみ、いずれ木々を育てることだろう。まぁこんな人通りの多い場所に生えられても迷惑だが。


「そもそもアンタ達そんな食べないでしょ。1つで2人分なんて最初からわかってたはずでしょ」


「パックと間接キスなんて断固拒否です。無理です。嫌です。気持ち悪いです」


 水溜まりが大きくなる。


「別に直接食べろなんて言ってないでしょ。精霊術で切り分ければ良いじゃない」


「え~? 知らないんですかぁ~? 魔力の接触って体液を交換するのと同じぐらい色々アレなんですよぉ~?」


「…………」


 精霊術を使えない上、魔力や魔術の性質について詳しいわけでもなく、さらにはピンキーの言う『体液』を下ネタでしか聞いたことのないアリシアは、どうせ今回もそれだろうと無視することにした。


「あ、それ、拾っておいて」


 そして、いつまで経っても起きようとしないパックの回収を、最も近くに居たクロに命じる。


「グル」

(僕もこんなビショビショのパックさんを咥えるのはちょっと……)


「ったく……」


 若干苛立ちながら歩み寄ったアリシアに、汚いモノでも拾うように指先で抓まれたパックが、最後の涙を絞り出したのは言うまでもない。


「……え? あ~、はいはい。アリシア、パックから伝言です。『復活までしばらく掛かります。保管場所はタンスの下から2段目の右側でお願いします』だそうです」


「私の下着スペースじゃないッ!!」


 時間的な意味でも、速度的な意味でも、早めのキャッチ&リリースがおこなわれたのも言うまでもない。




 警備兵に見つかる前に国境付近を離れることに成功した一行は、店主に教えてもらった通り東へ向かっていた。


 そこら中に実力者が居るというのも間違いなく要因の1つだろうが、レギオンはこれまで見てきたどの土地よりも魔獣が少なく(ただしヨシュアは除く)、代わりに凶悪な魔獣が居るということもない。


 荒くれ者が多く、家や道路の下には必ずと言っていいほど魔獣の巣があるので一般人にとっては永住したくない国だが、取り合えず街道は整備されていた。


 迷いようのない道を進んでいる最中、ピンキーが何となしに尋ねた。


「なんでこの国ってこんなにダンジョンが多いんでしょうね。そういう精霊でも居るんでしょうか?」


 彼女達の目的は世界最難関ダンジョン。道中にあるダンジョンらしき洞窟や塔には目もくれず真っすぐ突き進んでいたのだが、あまりの多さに話題に出したくなったようだ。都会のとは言わずとも田舎のコンビニぐらいの感覚で点々とあった。


「原因はわかってないみたいよ。人間の精霊術師や研究者はもちろん、エルフや魔族も調べてるらしいけど難しいんだって。あ、これは知り合いに聞いた話ね」


「ま、しゃーなしだな。精霊とダンジョンの関係って世界七不思議の1つだぞ。あれって1つわかれば他の6つもわかるって言われてるほどな~んもわかってないんだ。たぶん未来永劫わからないだろうよ。神のみぞ知るって感じなんじゃね?」


 アリシアの話にすぐさま同意および補足するパック。


 しかしピンキーの疑問は他にもあった。


「それはそうですが……珍しいですね、アリシアが冒険に関することで興味を示さないなんて。性欲にでも目覚めましたか? 男子は有名ですが女子も中々――」


「別におかしくないでしょ。だってこれって冒険者じゃなくて研究者の分野じゃない。秘密を知る鍵は隠しダンジョンの奥にあるとかならともかく、単純な知識と技術の問題なんだから私が張り切ってもどうしようもないわよ。もしダンジョンマスターになれるとしてもなる気はないし」


 下ネタを断ち切って答える。


「でもライバル作り放題ですよ? 若人を育てるも良し、魔獣に力を与えるも良し、空間に干渉して負荷をかけるも良し、色々便利だと思いますけどね」


「世界最強になったら考えるわよ。しばらくは世界を見て回るわ。まだ見ぬ強敵は絶対居るし、知ってる中にも倒すべき敵は結構居るしね」


「グルル~」

(たしかにそれもありますけど、アリシアさんは弟のルークさんが何とかしてくれると思ってますからね~。今はまだその時ではないんですよ~)


 仲間達の『はは~ん』というニヤケ顔に、アリシアは本日何度目かのスルースキルを発動させた。

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