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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
七章 商店街編
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八十三話 銭湯

 忘れてる人も多いだろうけどアルディアには入浴文化がほとんど無い。


 アクアの温泉などの例外でもなければ一部の貴族以外は風呂に入らないし、それどころか風呂という存在すら知らない人も多いのである。


 それでも石鹸が売れる理由は身体を洗う以外に使ってるから。特に洗濯と食器洗いには欠かせない品になっているんだけど、製作者としてはこれが不満だったりする。


 しかし誰でも好きな時に入浴出来るような場所さえあれば、身体を洗うという石鹸本来の使い方をしてくれるはずだ。


 元々石鹸は『身体を綺麗にしてもらう』という病気予防を目的で作ったんだし、風呂の素晴らしさを皆にも知ってもらいたいからな!

 


「と、言うわけで銭湯にやってきました~」


「「いえーい!」」


 テンション高めの俺、母さん、ユキ。

 露店の方も落ち着いて平穏な日々を過ごしているサイ・ソーマ・ノルンの販売員トリオ。

 アリシア姉・ヒカリ・ニーナ・ユチの少女カルテット。


 それにトリーを加えた総勢11名と言う大所帯で商店街にある銭湯を訪れている。


 フィーネなら必ず参加すると思ってたけど、用事があると言って今日は来ていない。なんか氷の箱を持ってどこかへ行ってしまった。



 そして今回なんとヒカリがイベント初参加!!



 今までも参加する機会が無いわけじゃなかった。


 でも俺達と出会うまで病気で寝たきりだったヒカリにはアクアまでの遠征は無理だったし、ヨシュア内の食堂なら、と誘ってみたら「なんか恥ずかしい」と言い出して来なかった。


 たぶん家族の職場って事で緊張したんだろう。


 人見知りしないヒカリだけど、流石に母の手料理を食べて、姉に接客されて、知り合いに評価されるなんて恥ずかしいよな?


 さらに言えば店員も客も全員が初体験だったから失敗をしたり、よくわからない行動をするかもしれないんだ。そんな右も左もわからない状態の家族が働く職場に行って、仕事ミスする母親とか怒られる姉とか見てしまった日には目も当てられない。

 

 だから今日がヒカリの初イベントなのである!


 なんちゃってアイドルなユキと違い、本物の我らがアイドル『ヒカリたん』は喜びのあまり満面の笑みで終始ニコニコしている。癒しと猫成分を司る俺の天使だ。



 それにしても、これだけの大人数にも関わらずノリノリなのは母さんとユキの2人だけ・・・・いや、ユキは普段通りなので実質母さんだけだ。


 どうしたよ? 楽しみじゃないのか?



 これは銭湯に入る前に、1人1人事情聴取する必要があるな。


「正直ウチの風呂で満足してるから、今さら凄いお風呂って言われてもね~?」

「俺らは風呂が好きってわけでもないし、な?」

「だね。トリーさんと混浴ならテンション上がっただろうけど」


 工場勤務の3人は銭湯の素晴らしさを何もわかっていないようで、退屈そうにしている。ならなんで来たんだよ・・・・。


 これだから心の荒んだ大人は嫌なんだ! もっと純粋に知らない物に興味を示せ!


 次!



「私はアクアの温泉入ってるから大体わかるのよね」

「同じく」

「・・・・わかんない。置いて行かれたから」

「ん~。お金が絡まないと、どうもね~」


 楽しいイベントを想像してずっと笑顔だったヒカリが、アリシア姉の何気ない一言を聞いた途端に落ち込んだ。


 なるほど、笑顔だったけどちょっと寂しそうだった原因はそれか。


 ゴ、ゴメンよヒカリ。そうだよな、風呂なんて家のやつしか知らないよな・・・・拗ねている彼女にはこの後たっぷりとサービスしてあげよう。


 しかしなんと言うことだ! 子供達ですら楽しむ心を忘れてしまっている。


「もっと母さんを見習えよ! お肌の曲がり角を曲がり切ってしまって、日々衰える自分の肉体を維持しようと必死なんだぞ! 今の内に手入れしないとあんな風になるんだぞ!」


「・・・・ルーク。死にたいの?」


 い、いえ・・・・あの、言葉の綾です。


 母さんに続きトリーまで殺気立っていたから思い出したけど、この場の最年長は母さんではなくトリーだったな。もちろんユキは除く。


(やはりお肌の曲がり角・・・・ゾクッ! な、なんでもありません)


 ご婦人方に睨まれた気がした。いや、きっと気のせいじゃない。


 でも振り返らない。




 とにかく俺が言いたいのは『銭湯は素晴らしい』って事。


 まぁ再びこの場所に戻って来る頃には俺への感謝で一杯になっているだろう。


 いざ入店!




「いらっしゃ~い。待ってたよぉ~」

「準備できてるわよ」


 俺達を出迎えてくれたのは双子のネネとミミ。


 誰も覚えていないと思うけど、石鹸工場で働いていたノルンの同僚だ。


 銭湯を開くにあたり従業員を募集したところ、2人揃って「やってみたい」と名乗り出たので古参2人の部門移動を許可した。


 どうやらよほど風呂が気に入ったらしく、何も知らなかった2人だけど現在各種メンテナンスの仕方を必死に勉強している。


 もちろん彼女達だけで経営するのは無理があるので新たに6人を採用したんだけど、今日は裏方に回ってるのか彼らの姿は見ていない。


「念入りにチェックするから覚悟しとけよ」


 胸以外全く同じ容姿をしている2人を脅して俺はカウンターへと向かう。


 ちなみにいつも眠たげでのんびり口調がネネ、同じタレ目だけど活気に溢れていて胸の大きい方がミミだ。




 脅迫を真に受けたのか、すぐさまカウンターに入ったミミに金を払って番号付きのカギを貰う。


 入浴料金は大人が銅貨5枚、子供3枚、幼児は無料だ。


 視察だから本来は全員無料なんだけど、銭湯の使い方を教えるために支払っている。貴重な小遣いなので後から返してもらうぞ。


 俺はカギを全員に配りながら一通りの流れを説明し始める。


「なんだ? 金払って入るだけじゃないのか?」


 チッチッチ。サイ君、銭湯は入浴するだけじゃないのだよ。公衆浴場として訪れた皆が触れ合う交流場所なのだ。


 詳しい説明は風呂上がりになるけど、ここの休憩所は凄いぞ~。



 とは言え、サイの言っている事は間違いじゃない。


 まずは基本の入浴からだ。



 ミミから受け取ったカギで脱衣所にあるロッカーが開くようになってるから、無銭入浴は出来ない仕組み。


 まぁ人目を気にしないって言うのならロッカーを使わず入浴できるけど、たぶん誰かに通報されて怖い上司による粛清が行われることになる。


「私5番!」

「わたし2番!」

「わたしは4番」

「私1番・・・・やっぱり何でもトップになってしまう定めなんだよね~」

「っ!?」


 番号あるあるだけど、ユチの1番を羨ましがったアリシア姉が「変えて! 変えて!」と強請り始めた。それ全部同じだから!


 女風呂が1から40番、男風呂が41から80番と40人ずつ入れるようになっているけど、これは入店可能人数で風呂場だけで言ったらもっと少ない。男女20人ずつぐらいだな。



 俺はもちろん女風呂に入るので40番までのカギを貰う。


 何故かミミから「えっ?」って顔をされたけど知らん。さっさと女風呂用を渡せ。


ガシッ!

「男同士、楽しい話をしようぜ」


ガシッ!

「入り方を教えてくれるんだよね」


 しかしカギを受け取る前に左右からサイとソーマに掴まれ、無理矢理43番を押し付けられた俺は男湯の方へと連行されていく。


「くっ! は、放せ! 俺は猫人族と一緒に入浴するんだ! そのためにユチとトリーを呼んだんだ!! 放せぇーーーーっっ!!」


 わかりきっていた事だけど5歳児の俺が大の男2人に抵抗出来る訳もなく、両脇を抱えられたまま男湯の敷居を跨いでしまった。



「わざわざ食堂の休日を狙った理由はそれだったのね」

「どんだけ好きなのよ」


 男湯のドアを通り抜けて皆の姿が見えなくなる瞬間、母さんとアリシア姉からそんな言葉が聞こえたけど、そんなことより俺の猫耳がぁ~。


 くそ、フィーネはこれを予想して来なかったんだな!



「ねぇお母さん、これはソーマさんの嫉妬と見ていいんじゃない? 相変わらずラブラブだね~」

「照れるにゃ」


 そう言ってユチは新婚の母親をからかい始めた。


 満更でもない様子のトリーが自慢話を始めたので聞き流していると、ユチはふと何か思いついたらしくノルンの方を向く。


「となるとサイさんは・・・・きゃー!」

「え? いや無い無い。単純にエロガキのルークさんがアタシ達と一緒に風呂に入るのが気に食わなかったんでしょ」


 ユチは『好きな女の裸をルークに見られるのが嫌で連れ去ったのだ』と予想するが、そんな少女の妄想を察したノルンが全力で否定する。


「・・・・ルーク。アナタは従業員の女性達に一体何をしたの?

 ねぇノルン、お風呂に入りながら色々聞かせてもらえる?」



 俺の連れ去られたロビーでそんな会話がされていることなど当然知る由も無かった。




 ところ変わって男湯。


 俺は無言だった。


 だってやっと実現したパラダイスから、むさっっっ苦しい男だらけの空間に叩きこまれたんだぞ? そりゃ機嫌も悪くなるってもんだろ。


 この日のためにどれだけ必死にシフト調整したかわかるか!?

 日程が決まった時からどれだけ楽しみにしてきたかわかるってのかっ!!


「・・・・・・ムスッ」


「おい。いつまで拗ねてんだよ。良いじゃねぇか男同士でも」


「大体新婚の妻の裸を見ようって方がおかしいのさ」


 さっきから不機嫌な俺を2人が説得している。


 忙しい食堂メンバーの裸を見る機会なんてそうそう無い・・・・お前らが邪魔さえしなければ今頃は! 今頃はっ!!


「・・・・・・・・はぁ・・・・仕方ない諦めるか。

 あとソーマ、俺はトリーの裸に興味は無い。尻尾の生え際を見れればそれだけで良かったんだ。できれば触ってみたい」


「「・・・・」」


 なんで黙る?


 いい機会だから詳しく語っておこう。


「ぶっちゃけ言うけど女の裸なんて見放題なんだぞ? そもそもフィーネやユキので見飽きてるわ。容姿であの2人に勝てるってか? そんなヤツが居るなら連れて来い」


 あくまでも未知のモノに興味があるだけで、別に裸が見たい訳じゃない。5歳児に性欲を求めるな。


「いや・・・・将来を心配しただけだよ。性欲を持ったルークがどうなるのか、ね」


 ちょっと何を言ってるかわからないです。


「ルーク、お前どんだけだよ」


 え? フェチってそういうもんじゃないの? 『それさえ見れたら満足!』みたいな。


 俺が『ちょっと信じられない』って顔で2人を見ると、逆に2人の方が信じられないって呆れた顔をしていた。


 俺の方が変なのか?


「否定はしないけど、その部分を含めて全部好きって言うのが普通だと思う」

「丁度いいから風呂入りながら語り合おうぜ!」


 まぁたまにはこんな男だらけの空間も良いか。




 さて気を取り直して脱衣所だ。


 番号が割り当てられたロッカーにカギを接触させると簡易結界が解けて小タオルと大タオルが入ったカゴを使えるようになる。


 まぁ基本は小タオルは風呂で、大タオルは脱衣所で濡れた体を拭くのに使ってもらう事になるかな。


 床はアクアの温泉を参考にして速乾性のタイル。


 フィーネが前に言ってた密林が残っていたので伐採してきてもらった。たぶん誰の山でもないはずだ。


 姿見にはドライヤーを完備しているし、扇風機や体脂肪も測れる体重計もある。



 折角なのでまず最初に扇風機で「あ゛あ゛あ゛ぁぁぁ~」って言う遊びをやってみた。


「これ、変な声になるな。あ゛あ゛あ゛あ゛~」

「なんでこんな風になるんだろうね。あ゛あ゛あ゛あ゛~~」

「振動が原因らしいよ。あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁ~」


 ・・・・割と楽しかった。


 魔術で風を起こせたんだけど、この遊びのために羽根付きの扇風機をわざわざ作ったのだ。ぶっちゃけ邪魔な部分。




「ねぇ、獣人がそんなに好きならサイはどうなんだい?」


 扇風機を満喫した俺達が服を脱いで入浴の準備をしていると、突然ソーマが妙な事を言い出した。


「どう、とは?」


「あぁ~。なるほど、俺も獣人だから尻尾や耳があるだろ? それなのに興味を示さないなって事だ」


 あぁ、それね。フィーネ達からも前に聞かれたことがある。


 理由は簡単。


「んじゃ脇が好きなソーマ君。俺やサイの脇を触りたいと思うか?

 胸が好きなサイ君。少年少女の胸はどうだ?」


「「無いな」」


 考える間もなく即答する2人。即答し過ぎて俺が話してる途中で否定してきた。


 ここでありだなって言われても困るし、今後の付き合い方を考えるけど。


「だろ? それも未知のモノだけど、どうせなら見目麗しい方々が良い」


 百歩譲って男を調べるんなら人型はダメだ。完全な獣でないと。



 そんな他愛ない話をしている内に準備完了!


 お次はいよいよ風呂だ!

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