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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十三章 勝ち取った日常

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千百三十一話 四賢者(仮)

 すべての出版社がその場面で一面を飾ること間違いなしの素晴らしい告白で婚約発表会見を締めくくった俺は、盛大な拍手と茶化すような口笛や声に見送られて会場を後にした。


 その昔、トイレで用を足した直後に股間丸出し、しかも片手間に頼み事をするように顔だけ向けて同じことをしたのだが、それを言うと別の記事を書かれかねない(というか間違いなく書かれる)ので黙っておくことにして、


「てれてれ……」


 俺と共に会場を出たイブは、好きだった男子から告白された女子のような照れ笑いを浮かべ、頭を掻きをながら隣を歩く。


 常日頃から感謝の気持ちは伝えているが、やはり決めるところではビシッと決めた方が好感度は高くなるらしい。時には直球で勝負するのも大切だってことだ。


「ただ単にトイレでの一件では満足しきれてなかったんじゃないですか~。無かったことにしてるまでありますよ~」


 ……断定しないのがせめてもの優しさかな。


 もしかしたらイブは俺が思っている以上に乙女なのかもしれない。


 告白の仕方の是非を問うなど、夫婦の営みの満足度を尋ねるのと同じぐらい難易度が高いので、永遠の謎としておくが。


 改善を求めるだけならまだしも過去の男と比べられたら死ぬ。創作物でこれでもかというほど様々なシチュエーションを見てきた彼女なら平気で「あの作品の方が良かった。リテイク」とか言いそうだし。


「大丈夫ですよ~。イブさんは二次元と三次元をキッチリ分けるタイプですから~」


「やれってか? 聞けってか? ザケんなよ。この世には気持ちを伝えるレベルってもんが存在するのはお前だってわかってるだろ? 日常でするもの。数ヶ月に一度ある記念日にするもの。一生に一度しかしないもの。

 さっきのは一生に一度のやつだ。再放送はしない。満足しようがしまいが納得してもらうしかない。どうしてもって言うなら数ヶ月レベルの方でやってやるよ」


 謎のフォローをしてくるユキと、乙女回路を内蔵しつつあるイブに、宣戦布告にも似た牽制をおこなう。


 羞恥心やプライドの問題ではない。それが俺のポリシーなのだ。


 俺だって本当なら天下一武闘大会でやりたかったさ。フラフラになりながらもカイザーに勝利して、司会が高らかに俺の名前を呼んだ直後、「イブぅー、俺と結婚してくれー!」と叫びたかったさ。


 しかしそんな余裕はなく、近々デートに行った時にやろうと思っていた分が、ここに来ただけ。


 これ以上希少価値を奪うな。じゃないと一年中閉店セールやってる店みたいになるぞ。店側も客側もどうしていいかわからなくなるぞ。


「くぅ~っ、その例え話は卑怯ですよ~」


「大丈夫。満足した」


 そんな俺の主張はアッサリ受け入れられ、主役2人が口を閉ざしたからか、俺達は黙々とイブの私室へと歩みを進めることとな……らなかった。


「イブは嫁。家に居る女と書く。

 わたしは愛人。愛される人」


「ニーナさん、その席はすでに私で埋まっていますよ」


「戦って勝ち取る」


「フフフ、面白いことを言いますね。ルーク様に愛されるのは私1人で十分なのですよ」


 色々と間違っているが、1つ確かなのはロリコン勇者の時より激しい戦闘が始まりそうということ。


「ったく……ルナマリア、なんとかしてくれ」


「ハ、ハアァッ!? ア、アアア、アンタまさかアタシに乗り換えるつもり!? フィーネに頼まれたから仕方なく来てやっただけで、別にアンタのことなんか好きじゃないんだから! 勘違いしないでよね!」


「めんどくせぇなッ!!」


 こちらは普通のやり取りを望んでいるのに、勘違い女が変な解釈をするのを面倒臭いと言わずしてなんとする。


 これは場所や空気を読まない悪いツンデレだ。


「ルークさん、ルークさん。私なら何とか出来ますよ~? そう……騒ぎを大きくする方向でね!」


 芸能人は歯とスマイルが命。


 そう言わんばかりに満面の笑みでサムズアップするユキをガンスルーして歩みを早めた。他の面々も俺に倣った。だだっ広い廊下に1人ポツンと取り残されるユキ。


「ヒュ~♪ この冷めた空気、嫌いじゃないですよ~♪」


 ただ冷たくあしらわれることに喜びを感じる雪精霊は強かった。


 まぁこれも1つの大団円ってことで。



 とにもかくにもこうして俺とイブの交際は正式にスタートした。


 侯爵家次男(実質平民)と王族の婚約に反対する連中が、良からぬ噂を流したり、粗を探そうと必死になるあまり犯罪を犯しそうだが、各所に圧力を掛ければある程度は抑えられるだろう。


 魔獣アンチのジャーナリストと同じだ。自分なりの正義を持っての不平不満は好きにすれば良い。俺達も俺達の正義を貫かせてもらう。


 やり過ぎないように権力を使うのも正義だ。


 それが権力者の生き方。


 この圧倒的な力にみんな惑わされてしまうのだろう。


「大精霊スノーの件に触れない出版社は倒産させますけどね~」


「愛人に銀髪エルフがいることも重要ですよ」


「猫の手食堂に通ってポイントカードを一杯にして、わたしに勝ったらルークの秘密を教える。宣伝にもなる素晴らしい作戦」


 そんな権力者も強者の前では無意味な存在。


 所詮世の中は弱肉強食だ。




 さて、忘れている者も多いかもしれないが、元々俺達が王都にやってきたのは力を手に入れたイブを各国の変態……もとい婚約者候補から守るため。


 晴れて自由の身となったイブをヨシュアに連れて帰るのは当然のこと。


 誰が言ったか四賢者、ルークとイブとコーネルとパスカルによる、超文明リニアモーター製作の始まりだ。


「ん? 何故だ?」


「ああ。作業ならここですれば良いだろう?」


「何度も言ってるだろ。絡んで来るな。俺達は知り合いであって友人じゃない。会釈だけしておけば良いんだよ」


 王女様のお泊りセットを持ち、お世話になった人達への挨拶を済ませ、王都を旅立とうとしていた俺達の前に天下一武闘会の参加者達……というか各国の王子および研究者達が立ちはだかった。


 どうやら作業を王都でやると思っていたらしい。


 そして手伝うつもりだったらしい。


「ふっ、甘く見られたものだな……技術でも実力でも負けた俺達が役に立てるわけないだろう。見学させてもらうだけだ」


 へりくだりながら見下す、新しいが絶対に流行らないジャンルを開拓してくれやがったが、ツッコむのすら面倒臭いのでスルー。


 語りに反応されたのは読心術ではなく顔に出ていただけだと思っておこう。


「そんなことはどっちでも良いんだよ。問題は俺達に関わろうとしてることだ。身を引け、足を洗え、首を洗って待ってろと言えるようになれと、口を酸っぱくして言ったはずだが? そのためには身の丈に合ったことからコツコツやれともな」


「そ、そっちは聞いてない気が……」


「ああ、言われてないな。絶対今考えたぞ。教えるのが面倒だからって『今のお前等じゃ見ても理解出来ない』の一言で片付けたんだぞ」


 黙れ。先生の言うことは絶対だ。間違ったことは言っていない。文句があるなら別のヤツに教えてもらえば良いんだ。


 というか引き留めるな。


「第一、ここでやるとなったらヨシュアから研究者を呼び寄せる必要があるだろうが。結局労力は同じなんだよ。なら俺達は慣れた場所でやる」


「それに王都じゃ出来ないことがある」


(ナイスだ、イブ)


 機密情報なので詳細は語れない。バレない嘘は真実となる。


 これで俺達がヨシュアで作業することに反対出来るヤツは居なくなる。


「それはどのような?」


「王都は精霊の影響が大きくて新しい物質を生み出すのに向いてない。町全体がお祭りムードで作業に支障が出る。それは知らない人が居ても同じ」


 完璧だ。見事なまでの陰キャムーブによって完璧な建前が構築された。


「人口が多いから被害が出たら大惨事」


 ギリギリセーフ。


「それを抑えられるのも作業について来れるのも、私とルーク君、それにロア商会で同期のコーネル君と、魔道都市ゼファールからの留学生のパスカルさんだけ」


 アウトォォーーーー!! イブ1人でこの騒ぎなのに、コーネルやパスカルまで巻き込んだら、もう色々アウトォォーー!!


「「「ほほぉ~。それはそれは……」」」


 ほらぁ、絶対こいつ等ヨシュアに来るじゃん。邪魔しなければ良いみたいな流れじゃん。第二回天下一武闘大会開こうとしてるじゃん。


(って、そうなっても同じことすれば良いだけの話か)


 既に武でも知でも技でも世界一になっているのだ。参加条件を俺に合わせれば不戦敗で優勝確定じゃないか。


 しかも今回の相手は2人とも高貴な血族ではなくパンピー。一応コーネルが大貴族だが、バルダルという国は世襲制ではないので、婚約などという先約は不可能。正妻ユチも居る。


 俺はホッと安堵の溜息を漏らす。


「仕方ないな。こうなったら何としてでも我が国の賢人を引っ張り出すしか……」


「やれやれ……俺達だけで何とかなれば良かったんだがな……」


「まだ未完成だが頼るしかあるまい、あの力を……」


 は~い、全部嘘で~す。ただの冗談で~す。だからそんな隠し玉があるみたいな空気出してもぜ~んぜん意味ありませ~ん。


 良いから黙って見送れや。もしも俺のテリトリーに足を踏み入れたら命の保証はしないから気を付けろ。


 所詮お前等は王都編にチョロッと出てくるだけの名も無きモブなんだよ。

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