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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十三章 勝ち取った日常

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千百三十話 紡ぎ出す想い

 過去のおこないを決して許さず、その理由を知ろうともせず、ふとした拍子に知ったとしても理解を示さず、親兄弟のしたことだろうと本人がしたように罵り続ける。


 それは自分を絶対的正義とし、相手を下に見ている者によくあることだが、イチャモンをつけてきた自称正義のジャーナリストはジャーナリズムと自身の気持ちを混同しているただのバカ野郎。


 人類の脅威である魔獣を討伐せず和平を望んだら敵。


 加担して脅威になろうとしたり悪事を働くならともかく、人類にとっても魔獣にとっても世界にとっても良い方向に動いている、あるいは動こうとしている俺達にそんな暴論は通用しない。


 倫理観・現実・将来設計など、ありとあらゆる方向からボッコボコにすると同時に世界の在り方について疑問を投げかけた俺は、それ以上の追撃がないことを確認した後、何事もなかったかのように司会に指示を出して婚約発表会見を進めさせた。



(黙らせて終わりで良いんですか~?)


 次のフェイズは国王にしてイブの父親であるガウェインさんの質疑応答。記者達の標的が俺とイブから離れることを知っていたようなタイミングでユキから念話が届く。


 内容は『これまでのように徹底的にやらなくて良いのか?』という疑問。


(ああ。アイツの話を受け入れないだけで否定するつもりもないからな)


 畏まった場でないことは最初に伝えているが、変顔をしたり上の空だったりはまた別の話なので気を付けつつ、心の中で質問に答える。


 魔獣は恐ろしい存在。たくさんの人間を殺している。数えきれない生物を傷つけている。弱肉強食の体現者。


 それは紛れもない事実だ。


 しかし、声を上げるものが居ないor上げていることに気付いていないだけで、俺達も同じことをやっている。何なら生存とは無関係の欲求を満たすためにやっている。


 俺達はそういった自覚していないことを自覚させたり魔獣の良いところを主張し、男は魔獣の悪いところを主張して、どうしたいかの判断は世界の人達に委ねたい。


 男1人の意識改革など容易いが今回はそれでは意味がない。


 良い面だけを見せるなんて気持ち悪い。悪い面だけ見るのも気持ち悪い。善悪なんてどこにでもあるし誰にでもある。


 必要なのは知識。正しさは各々で持つべきだ。


(どんな報道をしようとアイツの自由だ。俺達は俺達の正義を貫くだけ。責められれば説明するし、称賛されれば男のような連中が立ち上がる。

 それを延々繰り返して人々の意識改革をしていくことが、人類と魔獣が共存する社会への一番の近道だと、俺は思う)


(お主も悪よのぉ~)


 ユキは最後に悪代官のように笑って念話を切った。


 流石だ。俺にはわかる。ユキのこの発言は話を理解していないから出たのではない。真の目的が世間の目を集めることだと知っているからだ。


 盛り上がればそれだけ注目が集まる。どうしたいか考えるようになる。魔獣にも良いヤツや賢いヤツがいることを知ってもらえる。


 せいぜい俺の思い描く未来ために働いてくれ。


 まぁその前に悪意に染まった考えは捨ててもらう必要はありそうだが……。


(なんだよ、情報源が不特定多数の人間が書き込めるにーちゃんねるって……自分の足で調べろや。ここに入り込める報道関係者なら協力者の10人や100人ぐらい居るだろ)


 今回はたまたま意見が食い違っただけで、あの男にも正義があるはず。それすら他者の考えに染まるようならそれはもうただの悪意だ。


(フッフッフ~。甘い、甘いですよ、ルークさん)


 と思ったら秒で戻ってきた。


(……何が甘いんだ?)


 相手にしないとユキは絶対絡み続ける。


 俺はウンザリしながら応じる。おそらく顔に出ているが仕方がない。正義のジャーナリスト(笑)が大人しくなったので安堵したことにしておこう。


(その全員がにーちゃんねるを情報源にしていると言ったらどうしますか?)


(今すぐニーナに言って閉鎖してもらう)


 あそこは雑談する場であって、噂の真偽を確かめる場でも、情報を収集する場でもない。噂はあくまでも噂。書き込まれた情報が正しい前提で調査するバカが組織単位で居るなら閉鎖するしかない。


(はは~ん。都合が悪いから情報操作と隠蔽工作ですか~)


 出てくるわ~。絶対そういうヤツ出てくるわ~。


 聞きたいことがあるなら本人に直接聞けよ。もしくは内部事情に詳しい人間にコンタクト取れよ。ウチなんかは包み隠さず……とはいかないけど、ほぼ機密ないからバンバン明かすし調べてもらって構わない。


 批難して良いのは、そういう当たり前のことをしないorさせない、明らかに怪しい場合のみだぞ。


 まぁそういう場合、調べる方も「あ、あれ? 見つからない? ふ、ふん、上手く隠しやがって!」と結果がどうなろうと批難するんだろうけど。


 所詮はマスゴミよ。罵倒や謝罪よりも感謝する人生の方が幸せという基本的な思想を失っている。


 「お前のせいだ」ではなく「ありがとう」。


 「ごめん」ではなく「ありがとう」。


 隠す方も暴く方も幸せスパイラルをどうやったら生み出せるか知らないのだ。



 ま、それはともかく、この会見が終わったら何故王女の婚約発表という重大な場を、にーちゃんねると同じぐらい不特定多数の人間が参加出来るシステムにしたのか、セイルーン王家に確認だな。


(それはやめましょう。私達があの記者を潜り込ませるために画策したことだとバレるので)


 自白。自分の秘密や犯した罪などを包み隠さずに言うこと。民事訴訟法上、当事者が相手方の主張する自己に不利な事実を認めること。また、その旨の陳述。刑事訴訟法上、自己の犯罪事実を認める被疑者・被告人の供述。


 刑が軽くなるかどうかはその後の対応次第。


 逃亡は死刑。


(か、かかってこいやー!)


 頭の中に、冷や汗を垂らしながら拳を構えるユキの姿が浮かんだ。やけっぱちとも言う。


 だが残念だったな。抵抗は来世でマヨネーズと水属性が嫌いになる罰則付きだ。


(フ、フィーネさん! フィーネさーん! ヘルプミー!!)


(悪いことをしていると思うことがそもそも間違っています。正義は我々にあります。いつも通り胸を張っていれば良いのです)


(そ、そそ、そうですね……ふふーん! ドヤ~!)


 ではお言葉に甘えて感謝という名の拳を贈るとしよう。


 罪状は、婚約発表という一生に一度あるかないかの大舞台で、主役の思考を邪魔したこと。そして記者達に『コイツ結婚する気なくね? 真剣じゃなくね? これだから最近の若者は……』と思わせたこと。



「フッフッフ~! 我が名は大精霊スノー!」



 突然会場に吹雪が巻き起こる。


「貴様だな、古の力を宿す王女イブと契りを結ばんとする人間は! 人類の基準では決定したようだが我々に話を通さないとは何事か! 貴様が本当に正しき心を持っているか確かめさせてらもらう! 覚悟しろー!」


 約3秒。記者やら机やらを吹き飛ばした後、嵐の中心にして俺の目の前に立っていた白い鬼の仮面をつけたラスボスは、こちらをビシッと指さして口上を述べる。


「お前、ユキだろ」


 顔を隠して声は変えているが風貌や雰囲気は間違いなくユキだ。ここまでの流れすら彼女のシナリオ通りだとしたら納得がいく。


 他愛のない話に見せかけたフリ。強者がよくすることだ。ユキ以外のヤツがやっていたら驚いただろうが、コイツだと『だから?』という感想しか出てこない。


「我が名はスノー!! 断じて『ずっと味方だったキャラが最後に裏切る』という誰にも予測不可能な衝撃的展開を迎えたわけではない!」


 つまり最後の最後に立ちはだかる強者という定番ポジをやりたいと。


「凄まじい力を感じます」

「強い……」

「くっ、いったい何属性の精霊王なの!?」


 出入り口近くで会見を見守っていたロアレンジャーの面々も、謎の強敵出現に動揺していた。当然ユキの姿はない。


(そりゃ凄い力を持ってるし、強いけど、なに『終わりだ、世界の終わりだぁ……』って顔してんだよ。ルナマリアに至っては正体わかってんじゃん。属性もなにも精霊王って1人だろ)


 ツッコミたかったが堂々巡りになることは目に見えているので、


「覚悟しろって言われてもなぁ……まさか戦うつもりじゃないだろうな? 精霊に認められた存在ってのをウリにしてる俺に、天下の大精霊様を攻撃なんて出来るわけないだろ」


 言いながら腕輪の結界を展開。


 取り合えずビールぐらいの感覚だ。戦場において重要なのは何よりも生き残ること。勝敗についてはその後で考えれば良い。


「結界消滅レ~ザ~!」


「てめ、このやろッ!」


 ユk……もといスノーが、全身でペケ字をつくって凄まじい魔力を放出すると、俺の結界は呆気なく吹き飛んだ。


「フッフッフ~。強者に立ち向かうために他者を頼るなど笑止千万! 貴様1人の力で戦うのだ~」


「いや、別にそれは良いんだけど、会場の結界も消えてるぞ?」


「え……?」


 俺の後ろの結界は巨大化したペケ字マークで綺麗にくり抜かれていた。


 そりゃあフィーネが丹精込めて作ってくれた上に強い連中の力を授かった結界が壊れるんだから、いくら精霊王といっても簡易的に作り出した結界も壊れる。


「このまま戦って良いのか? 周りの連中にも被害が出るぞ?」


「え~、あ~……こ、この結界を修復しながら意志の力を示すのだー。我が測るのは想いの強さ。そして知識。さあ、認めさせてみろー」


 あたかも必要なことだったように語ったスノーは、大精霊のノリで戦闘方法を指定。


「ルーク様。おそらくスノーは精神生命体。イブさんへの想いを口に出せば弱らせる事が出来るはずです」


「言霊……」


「王都中に聞こえるぐらい大きな声で叫びなさい」


 シナリオ(で良いと思う)通りに進行したことにホッと胸を撫でおろしたフィーネ達も、真剣な様子でアドバイスをくれる。


 俺寄りの精霊がこっそり教えてくれたのだが、実は小声で「手伝おうか?」とか聞いていたらしい。ユキも「だ、大丈夫です。なんとかします」と素で答えていたらしい。完全に仲良しだった。


(まぁ要するに盛り上がり的に告白シーンが欲しいわけね……意思表明みたいな事務的なものとは別の、物語的見せ場が)


「はい、今、10ポイント減りました~」


 ……そう言えばそういう話でしたね。


 というわけで、


「あ~……イブ、これからも2人で魔道具を作っていこう」


「「「声が小さい!!」」」


 仲間達どころか会場中から怒られた。もはや全員が完全に理解した上で面白がってやっているとしか思えないが、このままだと俺が悪いことにされるので、


「一緒に魔道具を作り続けましょう!!」


「やれやれ……やる気がないようだ。仕方あるまい。我がやる気を出させてやろう」


 声を大にしてみたが、どうやらそれは求めていた告白ではなかったらしく、スノーはそう言って上空(窓の外)に巨大な水の塊を出現させた。


「こ、これは……なんということでしょう……あれが落ちれば王都はおしまいです」


「ルーク、頑張って」


「そうよ! 王都を、イブを救えるのは貴方しか居ないのよ!」


 相変わらず皆さんはノリノリです。


 あ、ちなみに、ルナマリアだけはギブアップしたのでマリーさんが代役をしています。台本なんて読む暇なかったはずなのに余裕でついていけてます。たぶん素です。



「口下手なくせに頑張って喋りかけようとして、魔道具開発にしか興味のない女子力皆無な、イブが!! 大好きだぁぁぁあぁああああああぁあぁああああああぁぁあああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっ!!!!!!!!!」


 喉が潰れるぐらい全力で叫んでみた。


「ぐわぁぁぁーーっ」


 そしたら何故かスノーさんは苦しんで光と共に消えていった。認めたら満足して去るみたいな感じだと思ってたら、命を賭して自覚させるパターンだったらしい。


「いい告白だった」


「やるじゃない」


「いや~感動しました~」


 いつの間にかユキも何食わぬ顔で戻って来てるし、何故か会場中から拍手されるし……なんなんコレ?

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