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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十三章 勝ち取った日常

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千百二十七話 地下迷宮

『小規模でも良いから……いや、むしろ小規模が良い。なんとしても今日中に1000年祭を一通り体験したい!』


 というバリューパックを求める俺のような存在でない限り、最高とは呼べない20分足らずの花火大会終了後。


「ハァァ……」


 お祭り参加組+αと王都の地下へとやってきた俺は、目の前に広がる迷宮に深い溜息をついて一同に尋ねた。


「一応聞いておくけど誰も触ってないんだよな? ベーさんがこっそり王都に来たとかいうこともないんだよな?」


 ここを訪れた目的は言うまでもなくリニアモーターカーの線路の下見。


 超次元の移動手段を実現するためには精霊が多い場所でなければならないことや、邪魔者が居ない場所でなければならないこと。今の俺達ならレールに魔除け効果を付与することはそこまで難しくないが、下手に土地を分断すると生態系が崩れかねないので、上記の理由と合わせて地下鉄を採用した。


 が、しかし、そこは俺の知っている地下ではなかった。


 基本的にヨシュア‐王都間を移動する時は地上だが、急ぎの時やひと目につきたくない時はベーさんが掘った地下道を使う。


 そして前回使用した時は3m弱の洞穴だった。


 圧迫感を感じないギリギリのサイズ、さらに視界を埋め尽くす土はずっと見ていても飽きない温かみと新鮮さを与えてくれた。土マスターの名は伊達ではないと感心したのも記憶に新しい。


 しかし今俺達の目の前にあるのはそのどちらでもない。


 壁面と天井を構成するのは茶・黒・赤・青・金と色彩鮮やかな天然の物質達で、自然の温かみは感じるが昔ほどのエネルギーは感じない。本当は居たくないけど仕事だから仕方なく居る。ただそこにあるだけの存在。事務的だ。


 サイズや形は園児達にリレー形式で好き勝手やらせたように統一性がない。入り組んでいると見せかけて全部繋がっていたり、緩やかな下り坂の先に突然そり立つ壁があったり、道のド真ん中に造形物らしきものが置かれていたり。


 唯一……もとい唯二の統一感は、ドラゴンの巣と言われても納得する巨大な道がどこかでも途切れることなく四方八方に続いていることと、地面の中にある素材で構成されていること。


 何故こんなことになったのか?


 ここに入ることが出来る者は限られている。


 結界を張っているわけではないので地下を掘れば誰でも辿り着くことは出来るが、硬い地層のせいで普通の方法では無理だ。精霊も「ベルフェゴールさんの掘った穴に侵入するなんてふてぇ野郎だ」と拒む……って、まぁそれが天然の結界みたいなものか。とにかく難しい。


 そもそもそこまでして入ってこんなことをする意味がわからない。


 要するに何が言いたいかというと、


「犯人はこの中に居る」


「誰も触っていないか尋ねた意味ぃ~」


 無言で首を振ったり、肩を竦めたり、首を傾げたり、手にした書類を高速でめくった後にホッと安堵してNOと言ったり、それぞれの方法で否定する一同。


 仲間達の対応を見てもなお犯人扱いをやめない俺に、精霊王から怒りのツッコミがなされた。


「この程度のことを怒りと思っているようでは社会でやっていけませんよ。こんなの普通です。いいえ、それどころか優しいです」


「ブラック企業の定例文やめろ。本当のことでも嘘に聞こえるだろ。俺のはただのジョーク……いいやジョークですらない。心の中にふと浮かんだボケだ。表に出してないことを無理矢理引っ張り出された挙句、注意された俺の気持ちを考えろ」


「いつものことじゃないですか~。そして私のもジョークですよ~。ブラックジョークです~」


 いつものこと。当たり前。みんなやってる。誰にも迷惑を掛けていない。怒られていない。


 そうやって投げ掛けられた疑問を、浮き彫りになった問題を、知らぬ存ぜぬで片付けてきたブラック企業は腐るほどあるだろう。


 口で言って聞かないなら俺は力を頼る。


 変わろうとしないことも悪だが変えられない力も悪だ。何故ならそれはただの暴力だから。その対象が変わるまで続ける根気と責任と労力が必要になる。諦めるぐらいなら最初からするな。足りないなら力を手に入れる努力をしろ。


「というわけで、俺にはお前のブラックな考えを変えるだけの力があるので、今からお前を教育する。具体的には精霊と一緒に地下を荒らした上、聞かれたことに対して嘘を述べて隠した罰を与える」


「なっ、なんですとー!? 何故……何故わかったんですか!? 私がかかわった痕跡は完全に消しました! アリバイもあります!

 無邪気な精霊達がベストプレイスを見つけたことに歓喜して住みやすいように作り変えた。そういう建前でここがベーさんが掘った洞窟であることを隠すと同時に、主犯であっても実行犯ではないのでノーと言える立場を手に入れる。

 私の計画は完璧だったはずです! なのに何故!?」


「自白御苦労。詳しい話は聞かなくて良いから署に連行せずに即処刑で」


「くぅぅ~~! ま、まぁ良いでしょう……すべての地層に話をつけて開拓しやすくしたことや、リニアモーターカーの運行に必要なエネルギーを集めていること。完成後に世界への影響が出ないように手を尽くしていることはバレていないようですし、大人しく罰を受け入れますよ。本当に隠すべきは悪意ではなく善意。それが私のモットーです」


 おめでとう。釈放です。




「お待たせしました。特に異変は見つけられませんでした。結局は強者の気分次第ですけど、今のところ計画進行に支障はなさそうなので、渡した資料通りに地下道づくりお願いします」


 10分ほど辺りを軽く調べた後。何もせずにボーっと眺めていたガウェインさんをはじめとしたセイルーン王国の大臣達に言うと、一同はホッと胸を撫でおろして安堵した。


「しかし驚きましたな。まさかこのような迷宮が王都の下に出来上がっていたとは。噂には聞いておりましたが精霊とはすさまじい力を持っているようで」


「だ、大丈夫なのですか? 自然災害で地盤沈下が起きたり、申請無く事業をおこなった者が見つけでもしたら大変なことになるのでは……特に地下鉄が完成するまでは。この計画は極秘に進めるのでしょう?」


 触らぬ神に祟りなしで疑問を無理矢理飲み込む者もいれば、別の不安を抱く者もいる。


 ただそちらに関しては俺はノータッチ。頼られても困る。


 惑星が人類のものなんて思い上がった考えだ。少なくとも地下に関しては俺達は侵略者。どうなっていようと文句を言える立場ではない。問題があるならそうならないように努めれば良いだけの話だ。


 そしてその対策を決めるのは国であり貴族達。


 見つからないように法律を厳しくするなり監視を厳しくするなり、強者を頼って結界を張ってもらうなり、見つかった時の言い訳を用意しておくなり、勝手にすれば良い。


 俺には他人の仕事に口出しするより先にやるべきことがある。


「最後にもう一度確認しておきます。リニアモーターカーの件。本当に好きにやって良いんですね?」


「もちろんだとも。法律や権利など可能なら事前確認を頼みたいが、どうしても必要であれば事後報告でも構わない。好きにしてくれたまえ。他にも必要なことがあれば何でも言ってくれ。こちらも要望に応えられるよう全力を尽くすつもりだ」


 尋ねられたガウェインさんは大きく頷いて握手を求めてきた。セイルーン王国の、さらには世界の発展のために協力し合おうという意志の表れだ。


 俺は物理的に地べたを這いずり回って汚れた手をズボンで拭い、それに応じる。


「助かります。リニアの動力は王都を消し飛ばすほどのエネルギー。絶対失敗しないとわかっていても、危機意識とかいう訳のわからないもので危険と判断されて、計画中止に追い込まれちゃいますからね。ハハッ」


「ちょぉーーっっと待ってくれるかなぁぁぁ~~!?」


 繋いだ手は一瞬で離されてしまった。


 手汗が酷くて気持ち悪がられてもここまでではない。目隠しされた状態で自分の彼氏を当てるゲームで選んだ相手がキモオタだったぐらい過剰反応だ。正直メッチャ傷付いた。


「どういうことだい!? そんな話は聞いていないが!?」


「あれ? イブから聞いてません?」


「聞いてなーい。なーんにも聞いてなーい」


 あまりの衝撃で王様の口調とリアクションがエセアメリカ人みたいに……ま、いいや。


「詳しい話は避けますけど、精霊の本質を知ったイブは本来なら融合出来ない原子を合わせられるようになったんです。新しい属性を見つけたとでも思ってくれればわかりやすいと思います。それ等の精霊を分裂させた時に発生する力がリニアモーターカーを動かすのに必要なんですけど……もしかして気付いてませんでした? 各国の話とか聞いても?」


「ルーク様。何やら誤解が生じているようなので、この辺りで一度話をまとめてもよろしいでしょうか?」


 ガウェインさんが答えるより早くフィーネが小さく手を挙げて主張した。


 動悸と息切れと混乱によってまともな思考が出来なくなった王様もさることながら、精神が安定している俺も知らない情報があるようなので、大人しく従おう。


「まず、イブさんが手に入れた力の内、セイルーン王家が知っているものは氷山の一角です。『精霊術師の中でも異質な存在になった』程度の感覚ですね」


「自分の娘のことも知らないなんてゴミね。もっと会話しなさいよ。そんなんだから齟齬が生まれるのよ。知ろうとする心があれば調べなくたって理解出来るわよ。精霊ってそういうものだから」


「す、すいません……」


 ただでさえフラフラのガウェインさんは、ルナマリアが放った精神的デンプシーロールにノックダウン寸前に追い込まれるも、なんとか持ちこたえて謝罪。


「次にその力を手に入れようとした各国ですが、当初はセイルーン王家と同等でしたが、その中にエルフや魔族など人間より精霊に詳しい者達が居たことですぐにセイルーン王家より詳しく知ることとなりました。しかしそれでもなおルーク様のおっしゃる原子爆弾には至っていません。『もしかしたらそういったことが出来るかもしれない』程度の感覚です」


「たしかにイブの説明でもその辺のことは曖昧だったもんな。俺は理解出来たけど、知らない連中からすれば『出力を上げられる力』ぐらいに思ってても不思議はないわな」


「わかる人にだけわかってもらえば良い」


 対人関係にするべき努力をすべて仕事に注ぐ人間は、褒めるべきなのか注意するべきなのか……。


「最後に実際にイブさんが手に入れた力ですが、天熱……化学で言うところの太陽を生み出せるほど強大です」


「……ほわい?」


「まぁ理論的に可能というだけで実際に出来るかどうかは別の問題ですよ~。やる必要性も感じませんし~。古代に開発された転移装置を簡略化する気があるなら話は別ですけど~」


 惑星と自由自在のテレポート。


 天秤にかける必要などあるわけがなかった――。


「ユキさん。その話詳しく」


「あ~、え~」


 こっち見んな! あるわけがないの!!

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