千百二十六話 1000年祭4
「ん~。未知を知るのも良いけど、知っていることを教えるのも良いな。そんな当たり前のことを実感させてくれたこのメンバーに感謝。今日という日にも感謝。世界に感謝」
婚約発表会見で記者達から国や王都について質問された時のためだけの薄っぺら~い視察のはずが、気が付いたらガッツリ1000年祭を楽しんでいた。
締めの花火大会にも参加することにした俺は、ヒップホップ調で仲間達に感謝を伝えながら、ベストスポットを探してお祭り会場と化した町を歩く。
「それをルークにわかってもらうために無知でいたといっても過言じゃない」
「それは過言だろ……」
ニーナの放った自己正当化の後出しジャンケンを無効化し、改めて辺りに目を向ける。
オモチャの屋台の前で親に「これ買って!」とねだる子供や、友人とナンパの計画を立てる野郎共。ひと目もはばからずアーンをするバカップル。少し前までおこなわれていた盆踊りで大活躍(?)したお年寄り達の感想戦。
交通整備されていない町を挙げての祭りを知らない俺にとって、日常に溶け込んだ祭りというのは少し違和感があるが、お祭りムード満載ではある。
そして民度が高い。
神社や公園など限られた土地でやる縁日とは違うのでどうなることかと心配していたが、客達は道路に飛び出したり家屋に浸入したりすることなく催しを楽しんでいる。
もちろん0ではない。俺も何度か交通事故の場面に出くわしたが、サッカーで顔面にボールがぶつかったかの如く「ははっ、馬鹿でぇ~」と失笑しながら助けられるのだ。轢いた方もそれを確認したら何もせずに去って行く。何なら飛び出してきたことを罵倒するほど。
ファンタジーならではの光景だと思う。
まぁ力を持った連中が集まっている世紀の大イベントという条件付きだが……もし今ここにドラゴンの群れが現れても秒殺するに違いない。フィーネ達抜きで。
「しっかしホント訳わからないことしてるよな。今月の、もしかしたら年間通しての目玉イベントの後にも盛大にやったってのに、なんでその2日後にもやるんだよ。しかも平日に。そんな頻繁にやっても飽きるし集まらないだろ」
まもなく始まる打ち上げを前にする話と言えば、もちろん花火大会について。
見れていないが天下一武闘大会の後におこなったという話は聞いている。そして本日それと同等の大イベントもおこなわれていない。
要するに花火大会をする意味がわからない。
「……? ルークからしたらこれでもまだ集まってないの?」
「いんや、メッチャ集まってるよ。でも大会後はもっと凄かったんじゃないかと思って。1000年祭に初めて参加するから比較出来ないけど普通そうかなって」
ニーナの言う通り花火目当ての客はウジャウジャ居る。昔の俺ならこの数の虫を見かけたら裸足で逃げ出していた。放り込まれようものなら発狂すること間違いなしだ。
しかし分散していた連中が集まったにしては少ない。
光源や経営戦略の関係で夜になればなるほど催しが少なくなるのは言うまでもないこと。門限のある子供や別の目的or用事がある大人も参加しないだろうが、その辺のことを考慮しても夕方まで居た客達が全員集まっている感じはしない。
「着替えに手間取ってるとか? わたし達みたいに」
言いながらニーナがその場でクルリと回る。漆黒の長い振袖と、同じく漆黒の尻尾が少し遅れて回る。
何を隠そう、今、俺達5人は浴衣姿だ。
俺達は全員用意されたものを楽しむだけの受け身体質……というわけでもないが、盆踊りやクイズ大会のような人前に出るイベントに積極的に参加するほどでもない。少なくとも仲間を置いて1人で参加したりはしない。
かと言って祭りを楽しみたくないわけでもない。
運の悪いこと(?)に、俺は注意散漫な子供にフランクフルトを、ルナマリアは全身ローブに覆われた如何にもな輩にフルーツジュースを、ニーナはイカ焼きのタレを自分で服に垂らしてしまった。
その間、およそ10秒。
事件が起きたのが浴衣販売店の目の前ということも含めて作為的なものを感じなくもないが、とにかく折角なのでフィーネとイブも着替えようということになり、俺達は装い新たに祭りに乗り出した。
「いや、それはないだろ。男連中は大体普段着だし、店もそんな混んでるって感じじゃなかったし、道中で花火楽しみにしてるみたいな話全然聞かなかったし」
俺は、結んだ髪に毛先を入れ込む大人和装コーデにしているニーナから、背伸びした幼女成分のみを感じつつ、彼女の発言を否定する。
祭りあるある、その1122『浴衣は女子のみ』だ。
(1122個も絶対無いです~。ただ良いニャンニャンって言ったかっただけですよね~。1122で~。違うというなら言ってみて下さいよぉ、プププ~)
(ファイアーボール! エクスプロージョン! オーバーヒート! フェニックス! サラマンダー! イフリートォォォ!!)
(ギャアアアアアアアアアアッ!!!)
想いを力に変えて相手の弱点属性で攻撃することで邪念を追い払うことに成功。皆さんも精霊王にお困りの際は是非。
閑話休題――。
それなりにこの文化が広まったとは言え、未だに男子で袴を着ている者はそこまで多くない。逆に女子は普段着の方が少ないぐらいだ。
道中でも彼女から袴を着て欲しいとねだられている男を何度か見た。それと同じぐらい着てきたことを後悔している男に姿を見た。
自分が少数派だからか、着心地が悪いからなのか、目立ってしまうからなのか、はたまた別の理由なのかは知らん。心を読もうとも思わない。
取り合えず俺は楽しんでいる。
「みんな、花火前に着替えるつもりで、被って、お店が大混雑してる可能性もある」
「んじゃああそこで閑古鳥が鳴いてる和服店は、王都民のみならず外部の連中にもボッタクリって知れ渡ってるってことか?」
道路を挟んだところに見える店舗を指差して尋ねると、
「そう」
皆さん、これが自分の非を認めない若者です。もしくは間違っていることにすら気付いていない若者です。
その理由を知るべくフィーネに目を向ける。
「ルーク様のおっしゃる通り参加者は減っていますよ。何度もおこなえば特別感が失われて集客効果が無くなるのは必然。協賛する側としては是が非でもおこないたいところでしょうが、本末転倒になってしまうので我慢するべきなのです」
「つまり、貴族やら企業やらが宣伝をするために花火を作ったり買ったりしていて、その結果がこの連日花火大会だと……バカだな」
苦笑するフィーネと、呆れたように肩を竦めるルナマリアと、ボーっと佇むその他2名。
「キミ達はもうちょっと外のことに興味を持とう」
「むっ……わたしは話に乗った」
「だとしても興味失うの早いんだよ。ぶっちゃけ最初から無関心のイブより酷いよ」
努力を認めてもらいたければ認めてもらうまで努力しろ。諦めたら試合終了って某名監督も言ってただろ。
「ほぼ同じ髪型をしてるイブは大人っぽく見えるのに……なんでだろうな? 髪色か? それとも体格か?」
俺は、不貞腐れるニャンコの機嫌取りと、花火を魔術で再現するための方法を思案する王女にトークに参加してもらうべく、一人二役、一石二鳥を開始した。
……なに? 機嫌取りになってない? 煽ってる? いやいやそれは違うぞ。お前等ニーナのこと全然わかってない。
「おかしいのは今のわたしを大人に見れないルークの方」
ほらな。自己評価が高い人間はこうすれば食いついて来るんだよ。自分の間違いを認めず、他者の方を変えようとして来るんだよ。
「答えは雰囲気ですね」
「――っ!?」
フィーネさ~ん。答えを出したらニーナが『可能性』という名の希望を見出せないからやめたげて。なんのために僕が触れなかったと思ってるんですか。
「ル、ルナマリアよりは大人。雰囲気たっぷり。胸もある」
「ハァァ!?」
ほらぁ~。その結果、被害が拡大していくんですよ。俺の知り合いの女性陣は大体常時フルスロットルなので、どこかで衝突事故が起きたら二次災害に発展するんですよ。そのまま突っ込んでいくから。
「どっちにしても私が大人という事実は変わらない。それに今回の件でハッキリした。ルーク君に選ばれたのは私。あいあむナンバーワン」
そして無自覚に挑発する子とかも居たりするから止まらなくなるんですよぉぉ~~。トラブルが発生するんですよぉぉ~~。
ひゅぅ~~、ドーン!
乾いた音が夜空に響き渡る。見上げると真っ赤な花が咲いていた。
花火始まりましたね。皆さん楽しく眺めませんか? あ、無理ですか。そうですか。仕方ないので僕は1人で楽しむことにします。地面に咲くであろう赤い花を片付けたら声を掛けてください。




