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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
七章 商店街編
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八十二話 焼き鳥とギャンブラー

「いらっしゃいませ~、猫の手食堂へようこそにゃ」


 私は今日もウェイトレスとして働く。


 ロア商会の経営する食堂に勤めて半年が過ぎ、私の懐には毎日大金が転がり込むようになっていた。


 自己紹介が遅れた。私はユチ。


 金を愛し、金から愛される魔性の女だ。


 店の客達は私の手の中で踊り、私に貢ぐことを喜びにしている。


 フフフ・・・・将来、ヨシュア1の金持ちになってみせる!



「ユチ、なに笑ってるの?」


 おっと。目の前に積み上げられた銅貨や銀貨に、つい笑みがこぼれていたらしい。


 呆れた顔をしている彼女は私の1番の親友にして同僚のニーナ。


 スラム出身で学校に通っていなかったらしく、勉強面が苦手でコミュニケーション能力も低い。でもその分、戦闘に特化しているので賭け試合で稼ぐ私には欠かせないパートナーだ。


 頭脳担当の私と、肉体労働担当のニーナ。実にバランスの取れた組み合わせだと思っている。


 そんな公私ともに仲の良いニーナが仕事中にも関わらずニタニタしている私を不審に思ったらしく声を掛けて来た。


「いやいや、今日も稼いだな~って」


 昼は健全な食堂、夜はカードゲームやボードゲーム等の賭けと飲みを楽しむ客で賑わっている。


 そして元締めである私はこの賑わいによって笑いが止まらないと言うだけの話だ。


 全てはフィーネ様とユキ様が作り出した品々らしいけど、ルークさんが非常に詳しいので間違いなく彼が関与していると私は見ている。


 もちろん誰にも言わないし、隠しているんだとすれば秘密を知った私がどんな目に遭うかわかったもんじゃないから知らんぷり。



 ギャンブルを思いついた時のことは今でもはっきり覚えている。



 あれは私がウェイトレスとして雇われてから3日目の昼だった。


 料理に必要な魔獣を店の裏手で捌いていた私とニーナ。


「あ~。腕がダルい~。なんで魔獣ってこんな硬いかな~」


「疲れた?」


 朝から切ったり、砕いたり、剥がしたりで私の腕はパンパン。


 でもニーナはまだまだ余裕そうだ。


「体力あるな~。将来は冒険者志望だったりした?」


 ロア商会で働いてなれば冒険者か兵士にでもなりたかったのかもしれない。


 絶対こっちの方が楽でいい生活できるけど、ニーナの身体能力は明らかに戦闘向きだ。



「きゃーっ!」


 私の問いかけにニーナが答えようと口を開いた時、スラム街の方から悲鳴が聞こえた。


 食堂の目の前がスラムなのでここは割と治安は悪い場所なのだ。窃盗とか暴漢とか日常茶飯事なので私は気にせず作業に戻る。


「や!」


 そんな私と違い、正義感溢れるニーナが突然近くの石を拾ってスラムの方に凄まじい速度で投げた。


 ここからスラムまでは20mは離れてるし、私からは犯人が見えないけど、遠くでギャーって悲鳴が響いたので命中したらしい。


「流石・・・・稼ぐだけならやっぱり冒険者の方がいいかもね」


 私より年下のニーナは8歳でこのレベルなので、絶対に将来一流冒険者になるだろう。まぁウェイトレスがやりたくてここで働いてるんだから、この戦闘能力は宝の持ち腐れになるけど。


「わたしはまだまだ、母さんの方が強い」


 なんと! 厨房で包丁を振るうリリさんは元冒険者でさらに強いらしい。そう言えば同じウェイトレス仲間のアールさんも元冒険者とかって聞いた気がする。


(・・・・あれ? これ儲かるんじゃね?)



 独自に調査した結果、私以外の全員がそれなりの身体能力を持っていることが判明。


(私も一般的な獣人ぐらいは動けるんだけどな~。なんで元冒険者とか戦闘特化のメンバーが集まってるかな~?)


 大衆向け食堂にしては過剰戦力にもほどがあるけど、理由なんてどうでもよかったし、私としてはむしろありがたい。



 早速フィーネ様にギャンブルする許可を貰うべく相談してみた。


「つまり賭けをすることで合法的に食堂への被害を防ぐことができるんです。名物になると思いますよ」


 治安の悪い場所では荒くれ者たちがのさばり、店内を無茶苦茶にする等の被害が多発している事例を話し、その対策として武力介入を提言する。


 唯一の懸念は従業員が負けないかってことだ。


 話が広まれば腕自慢の人達が集まるだろうから、いくら戦えると言っても専門職の人には勝てないかもしれない。


 ちなみにウェイトレスをやっていない時は語尾に『ニャ』を付けていない。なんかイヤらしいお店のプレイみたいだから出来れば遠慮したいのだ。


「そうですね、許可しましょう。負けることはありませんから存分に戦ってください」


 私の話を聞いたフィーネ様が許可を出し、アダマンタイト製の武具を使えと言ってくれた。刺さっても結界があるから大怪我はしないらしい。


(こ、これなら・・・・やれる! 確実に私の下に大金が舞い込んでくる! グフッ! グフフフフ!)


 ニーナ達の投てき技術と防御不可能な武器が合わされば鬼に金棒、必勝にして常勝、必ず儲かるシステムの完成だ。


 食堂メンバーに話すと全員が非常に乗り気で、合法的に客を殴れることを喜び合っていた。


(この食堂大丈夫か? 私が唯一の良心にならなくては・・・・)




 念密な計画を立てて早速実践。


 試食会にやってきた人を訓練相手にしてみたら・・・・負けた。


 って言うかユキ様は反則だと思う。


 たぶん防壁無しでアダマンタイトの包丁が刺さっても無傷な人だ。せめてマリクさん辺りじゃないと。


 その後、ちゃんと普通の冒険者レベルの相手と戦ってみたけど全戦全勝だった。



 まぁとにかく、そんなこんなとニーナ達のお陰で私は儲かっている。



 あ、ちなみに私は単純にお金が好きなだけ。


 別に借金があるとか、小さい頃に金で苦労したとかじゃないし、将来やりたい事があるわけでもない。


 こう、努力の成果が目に見えるのが嬉しいのだ。ギルド通帳の金額が増える度に笑みがこぼれる。



 もちろんウェイトレスとしての仕事をサボっているわけじゃない。


 この前も調理指導に来ていたルークさんと共に新メニューの『焼き鳥』を作り出した。


 ギャンブルに熱中する客達だけど、熱中し過ぎて食堂に落とす金が減るのを懸念した私が「ゲームをしながらでも食べられる料理が必要にゃ」と提案して、ルークさんの串料理の中から焼き鳥を選出したのだ。


 もちろん仕事中なので語尾に『ニャ』を付けている。


 これもたぶんルークさんが原因。


 たまに付け忘れると怒られる。そしてその時の彼はとても気持ち悪い。


 え? 私は何もしてない? いやいや、ウェイトレスとしてお客様に満足していただけるように改善案を提示したじゃないの。



 製作者のルークさん曰く「決め手は秘伝のタレ」らしい。


 実際に作りながら説明してくれたけど「創業以来つぎ足し続けた秘伝のタレ。そのタレをつけた焼き鳥をじっくりと焼きあげることで、香ばしさとクセになる一品に進化する」って言ってた。


「創業したの、この前だよね?」


 創業数ヶ月ですけど。


「良いんだよ、今から歴史を作っていけば」


 私の指摘を素晴らしい速度で返してくれた。彼は間違いなくツッコミ体質。


 たぶんユキさんやニーナにもツッコんでいるから、日々進化し続けてる最強のツッコミ職人だ。


 このテンポの良いやり取りが癖になるので、私はルークさんの前では大体ボケるようにしている。


 焼き鳥に夢中で、つい語尾を付け忘れたら「語尾には『ニャ』を付けろ! ウェイトレスだろっ!!」って怒られた・・・・彼は間違いなく変態だ。




「ねぇ、ニーナはルークさんの事が好きなの?」


ガタガタガタっ!

「っ! っ!!」


 仕事終わりにお風呂に入りながら何気なく聞いた質問に、出会ってから全く成長してないロリボディなニーナが面白いぐらい動揺した。


 若いな~、色んな意味で。


「今日さ、新作料理を一緒に考えたんだけどその時に語尾を注意されたんだ。

 ニーナがニャって言えば一発で落ちるんじゃない?」


 猫人族は『ニャ』と言うべきだと力説されたけど、ニーナだって付けてないじゃん。


「それはイヤ」


 一応食堂の決まり事として語尾は『ニャ』って言うのがあるんだけど、ニーナは頑なに付けようとしない。


 彼女なりの恋愛の駆け引きなのかもしれないけど、告白する時には言うんだろうな~。


 一撃必殺の最終奥義なのかな? 言ったら最後、ルークさんは発狂して襲い掛かってくる的な。


「そんなこと言ってると私が取っちゃうぞ~。彼の周りでニャーニャー言ってメロメロにするぞ~」


 実際ルークさんは優良物件だと思う。


 フィーネ様の主ってだけで将来安泰なのに、ロア商会の商品作りにも深く関わっている人物で、ツッコミ気質なので夫婦漫才でもしたら明るい家庭になるだろうし。


 しかも一緒に居ても疲れない。ギャンブル賛成派なのも素晴らしい。ゲームを賭けの対象にする際に詳細を決めたのは彼だ。


 実に私と気が合う人物なのである。


「そうなったら・・・・ごめん」


 ニーナは悲しそうな表情をしながら謝った。


「な・・・・なんで謝る・・・・の?

 っ!? ま、ままま魔力! 魔力が溢れてますけど!? 私、今から何されるの!?」


 悪びれる様子のニーナからは、賭け試合をする時よりも膨大な魔力が立ち上り、猫人族特有の武器である爪が伸びている。


 即行で訂正した。


 魅力的だけど、親友と争ってまで手に入れたい人物じゃない。


 私の恋人は既に居るのだ。



 硬貨という唯一無二の恋人が。



 そんな私は今日も稼ぐために『ニャ』を語尾に付けて元気に働く。


「いらっしゃいませ、猫の手食堂へようこそにゃ! 3名様にゃ?」

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