千百十八話 会場への道
手の内を隠して牽制し合う、前夜祭。
手の内を晒して勝利を目指す、本番。
互いの力量や目標を把握しているので親睦を深めやすくなる、後夜祭。
観客達にとっては間違いなく本番がメインだし、当事者も今後どのような付き合い方をしたいかにもよるがおそらく本番がメインになる。
『同志を増やしたいと思ってたけど、なんか魅力的なヤツ居ないし、やることやったら帰るわ』
『アイツには一生勝てる気がしない。自分の限界思い知らされた。もう研究者(戦士)やめる。別の仕事に就く』
『俺は勝つために来たんだ。なんでパーティに参加しなきゃならない。自分より弱いヤツと話す気なんて無いし、自分より強いヤツに教えを乞うなんて御免だね。次は負けねえ。今から山籠もりだ!』
どれを選択するかは自由だ。
ただし、勝者と敗者が生まれた後、本番で見せた度肝を抜く『未知』を説明してくれるとなれば大抵の者は後夜祭を心待ちにするはず。
何故ならそれは、やることの中に入っていることであり、失意を払拭してくれるかもしれない希望の糸であり、最強になるための力でもあるから。
重要なのは自分達が理解出来るかどうかではなく、知識として本国(?)に持ち帰れるかどうか。
俺は説明するなんて一言も言っていないし、自分達が理解しきれていないことを教えるなど恐怖でしかないのでするつもりもないのだが、集まった連中は何故かそういう場だと思っているらしい。
(バカ言うなっての。俺・イブ・コーネル・パスカルの4人で力を合わせてリニアモーターカーを形にしてからに決まってんだろうが)
と溜息を漏らさずにはいられない状況だが、求められている以上は何かしら知識や技術を与えてやりたいし、与えてもらいたい。
王城で開かれるパーティに参加することを決意した俺は、ロアレンジャーの中で唯一参加するニーナと共に、おめかしした姿で会場へと向かっていた。
フィーネとルナマリアはお留守番……かどうかは知らないが、少なくとも俺の感覚で捉えられる領域には居ない。
「世界の真理に最も近づいた4人。つまりルークさん達は四賢者ですね~」
「かっけー! でも『人間』っていう枠の中だけのことだと理解してるから、ただただダセェ!」
「しかも『現在は』っていう条件付き~」
過去を超えられないクセに賢者とか草しか生えない。
日の目を浴びていないだけで世界に貢献した人間はごまんといる。
そんなの考えるまでもないことだ。
「ところでお前参加すんの?」
何食わぬ顔で同行者に加わり、当然のように俺の心の中を読み、勝手に話題を広げたユキに尋ねる。
恰好はいつもの全身真っ白なワンピース。一応ドレスコードには引っ掛からない程度ではある。仮に引っ掛かっていたとしてもコイツは構わず参加する。注意されたら暴力団も真っ青な実力行使に出る。
つまり俺が聞くべきは参加する意思があるかどうか。出来るかどうかじゃない。そこに意味があるかどうかでもない。
「自分勝手は悪いことじゃありませんよ~。私にしてみれば周りに気を遣う人達の方がどうかと思いますね~。本当に楽しいんですか、その人生?」
「生きていくためには『仕方ない』ことだからな。楽しいかどうかじゃない。したいかどうかでも、出来るかどうかでもない。自分のために他人を尊重する。それが社会ってもんだ」
突然展開されたユキワールドに辛うじてついていく。
ニーナは完全に置いてけぼりだが……まぁ良いだろう。初めて訪れた王城に感動しててくれ。もしくは緊張しててくれ。覇亜手威の会場はこんなもんじゃない。やらかす可能性を少しでも減らしていただきたい。
「自分の思う『仕方ない』は、他人にとっての『あり得ない』ですよ~。一番の理解者が妥協していることを他人に理解してもらおうなんて甘いですし、全員で尊重し合えば幸せになれるとか気持ち悪いです~。
そのせいでどれだけの非効率を生んでると思ってるんですか。自転車で道を譲り合うより面倒なことを繰り返してるだけってことに気付いてないんですか?
もっと自分を押し付けていけ~。全員が自分勝手になればみんな幸せになれるぞ~」
「無茶言うな。成功した時のメリットより失敗した時のデメリットをまず考えるのが人間だぞ。責任を取れない事象には挑まない。例えそっちの方が早いとわかっていても積み上げてきたものを崩して一から作るなんて出来ない。安定重視のことなかれ主義だからな。やるとしても何百年も掛けてゆっくりとだろうな」
前世がそうだった俺にとっては耳の痛い話だが、やりたいことを実現するだけの力がない人間達にとってはそれが普通。
ユキの言っているのは強者の理屈だ。
「やれやれ……そんなことだからいつまで経っても弱者なんですよ~。我がままを実現するだけの力を身に付けるために努力するという当たり前の行動理念がないから」
「ないわけじゃないと思うけどな。他人を巻き込んでまでしたいと思ってないんだろ。どうやったって『迷惑を掛ける』ことになるからさ」
「まずは自己犠牲が素晴らしいという考え方を変える必要がありますね~。それと好きなことを好き、嫌なことを嫌と言える環境づくり。
自分を殺して他人に尽くすことが幸せとか誰得なんですか。尽くされた人もまた別の誰かに尽くして自分を殺すんですよ。犠牲の無限ループです。
神はそんなことをさせるために命を与えたわけじゃないですよ。一度きりの人生を謳歌させるために与えたんです。一緒に幸せになれば良いじゃないですか。それを努力や失敗してるところを見られるのが恥ずかしいからしないとか、現実逃避してるだけじゃないですか~。『面倒臭い』を言い訳にするんじゃありません!」
珍しくまともな意見だ。
そして俺の質問に答える気がまったく感じられない。
「「止まってください」」
「お、お前等は……モンパ! ディアン!」
参加の是非をハッキリさせることなくなあなあのまま歩は進み、来客用の建物を出て、手入れの行き届いた庭を抜け、本殿に足を踏み入れようとした俺達の前に、2人の門番が現れた。
「光栄ですね。我々のような下っ端の名前を憶えていてくださったとは。それも1週間も共にしていない僅かな期間だと言うのに」
如何にもな演技でへりくだるモンパ。そんな相方の様子を見たディアンも、さもありなんと言わんばかりにコクコク頷く。
「な~にが下っ端だ。エリートの暇つぶしだろ。それに重要なのは時間じゃない、回数だ」
腐っても神獣なのでニーナはこの2人の実力に気付いているだろうが、一応、念のために勘違いしないよう即座に否定。
彼等は、俺がここを訪れる度にこうして立ちふさがり、王城への出入りから各部屋、果てはトイレまで、何かにつけて邪魔する厄介者だ。
その正体は第五師団まである王国騎士団とは別の王家直属の親衛隊。
つまり超エリートが俺で遊んでいるだけ……と見せかけて俺のことを調査していたと思っている。
もし本当に暇つぶしにおちょくっていたのだとしたら実力に関係なくクビにするべきだ。数えたわけではないのであくまでも体感だが、俺の人生における王族関係者との接触回数ランキングで2人はトップ5に入る。何ならイブに次いでツースリーフィニッシュだ。
こんな人間をのさばらせていてはセイルーン王国の沽券に関わる。
「自分勝手に生きたがっている人を邪魔しようというなら容赦しませんよ~」
「割り込んでくんな。これが俺の自分勝手だ」
「ならオッケ~」
良いんかい……。
ま、まぁ人生の8割がネタで出来ている精霊王は置いておいて、もう何年振りか忘れたが彼等の遊びはまだ続いているようだ。
(くっ……強くなったからわかる。こいつ等ヤベェ。まったく隙がない。俺に合わせて手加減してやがったな)
行く手を阻む2人を睨みつけながら、どうやって突破しようか思考を巡らせる。前回は辛うじて勝利したがあれは不意打ち。もう通用しない。
「すべての試合を拝見しました。いやはやお見事でしたよ」
「ですがまだまだです。貴方は精霊術の一端に触れたに過ぎません」
「やめろ。その今後も死闘が続くみたいな言い方。俺はもう戦わん」
続編では手の平を返して当たり前のように戦闘してたMッパゲとは違う。ガチだ。
「というか決勝戦で使ったあの力はもう二度と出せないぞ。今後は出力の量じゃなくて質。武力じゃなくて知力の方で頑張って行くつもりだ。あの最強クンと一戦交えたかったみたいだけど残念だったな」
「「ふっ、それを確かめるために我々はここに居るのだああああ!!」」
テレレレレレレ~~♪ テッテッテ~、テレッテ~♪
エリートトレー……エリート戦士が勝負を仕掛けてきた。エリート戦士はボールを地面に叩きつけた。辺りに結界が展開される。逃走ボタンは見当たらない。
「あ~。少しでも衝撃を与えられたら皆に伝えようと思ってたこと忘れそうだな~。時間が経っても忘れそうだな~。今すぐ無傷で会場入りしないとダメそうだな~」
「「――っ!?」」
「(ぼそっ)ど、どうするでござる、ディアン氏? ルーク殿はやると言ったらやる男でござるよ?」
「(ぼそっ)こ、ここ、ここは一旦引いておくとしましょうか」
想定外の事態に動揺したのか2人は素の調子でヒソヒソ話を始めた。そして秒で結論を導き出し、何事もなかったかのように道を譲ってくれた。
(ふっ、雑魚め)
優勝チームの一員としてではなく俺の友人として参加しているニーナを出すわけにもいかず、力を貸してほしい時にだけ無視するユキもないとタカを括っていたのだろうが残念だったな。
言っただろう、俺には知力があると。
っぱ時代は武力より知力よ。問題は話し合いで解決。実力行使とかあり得ないって。ペンは剣より強し。よ~く覚えておけ。




