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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十二章 王女争奪戦

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千百十七話 復活の呪文

 最優先にして最重要視していたのは我がままだったが、カイザーとの殺し合いは最愛の人を守るための戦いでもあった。


 どちらも譲らないために手に入れた最初で最後の『最強』を最後の一滴まで絞り出した俺は、勝敗もわからぬまま魂の行きつく最終地点へと飛ばされ、最高神から最大級の褒め言葉をいただき、現世に舞い戻ってきた。


 最初に感じたのは『最強』の喪失感。


 次に感じたのは、ある意味最愛の己の肉体の爽快感と標準感。


 最後に感じたのは、戦いの最盛を最大限楽しんだ人々の興奮冷めあらぬ熱と、それに負けないぐらいの温かさを持った仲間達の存在感。


「前世の分まで青春した気がするよ……」


 何が失われていたとしても最早なんの悔いもなかったが、無事&あるに越したことはないので、俺は最良最善の策を講じてくれた仲間達への感謝の気持ちを心の最深部から取り出すと共に、世界最高峰の殺し合いをした感想を述べた。


 それは人生最大の秘密で、今、俺の傍にはそのことを知らない人間も大勢居るが、冗談っぽく言えばすべて詩的表現と受け取ってもらえそうな雰囲気だ。


「たしかにあの試合はそのぐらい凄かった。今回の大会で私の探求心は来世の分まで満たされた。あとは実行するだけ。最近身の回りで起きてたゴタゴタも片付いた。全部ルーク君のお陰。ありがとう」


「ま、人間にしては良くやったんじゃない。最小の力で最大の火力を出せてたわよ」


 実際、友人達は会話の最中だったにもかかわらず不快感や違和感を一切見せず、ただただ俺の帰還を喜び、試合を褒めてくれた。


 最終回はまだまだ先。最果ての地で最高位の人物と邂逅して、最古を学び、最新を得て、世界最小の粒子について後世に伝えてからになる。


 俺の最高の人生はまだまだ続く。


「まったく……ルークさんのせいでロア商会の二つ名に『最恐』が追加されちゃったじゃないですか~。私達はこうならないように細心の注意を払ってたんですよ~。それを最速で台無しにしてくれちゃって。暴力なんて最低です~。今後は皆さんの抱いた猜疑心を払拭する努力をしてくださいね~」


 周りの人々のみならず精霊達の気遣いで会場中の喜びの気持ちが伝わってくる。ここまでの賛辞は間違いなく人生最大最長だと感動で震える中、ユキだけが空気を読まずに最悪とも言える罵倒を繰り出してきた。


「うるせえ。あれが最善策だ。口で言っても聞かない相手にはああするしかないだろ。俺は最大限頑張ったよ。んでもって最高の戦いをしたよ。すべてにおいて最適解を導き出したよ」


「さいですか~」


 最初から深く掘り下げるつもりもなかったのか、それだけ言うとユキは出口とは反対、救護室の最奥部へとゆっくり歩を進め、最早見慣れたと言っても過言ではない転移でどこかへワープした。


「表彰式は結構前に終わった。でも観客はルークを称えたいって言って誰も帰ろうとしない。他チームも使った術について知りたいって言ってる」


「はい、『さい』使ってない~。ニーナの負け~」


「斜めに並んだ7つの鍋」


 それを言えば勝ちなんてルール無いから。全然凄くないから。


 ちょっと『なな』を増やしたからって良い気にならないでよね。ドヤるなら『斜め77度の並びで泣く泣くいななくナナハン7台難なく並べて長眺め』を全部『ニャ』で言えるようになってからにしてよね。


 ……で、なんだって? 会場に顔見せれば良いの?



「その前に1つ質問よろしいですか。最愛の人というのはイブさんのことだけではありませんよね? ちっぽけなプライドを捨てたことによる強者との疎遠、さらにはそこから続く劣等感に満ちた人生を危惧したのですよね? 実質私のことですよね?」


「ア、ハイ」


 確認とは何なのか問いたくなる速度と揺るぎない意志を見せつけてくるフィーネに、俺は一瞬振り向いて無表情で答え、そそくさと部屋を後にした。


 もちろん嘘ではない。それを口に出すのが恥ずかしいわけでもない。


 ただ、そう答えなければ今すぐ第2回天下一武闘大会が始まっていたし、そこには絶対に勝てない覇王が出場するので、どちらの方が優先度が高いか尋ねられる……いや探られる前に逃げなければならないのだ。


「大丈夫ですよ、ルーク様。私は大人です。誰よりもルーク様のことを考え、誰よりも理解のある大人な女です。2番だろうと3番だろうと愛してさえいただければ気にしません」


 そう言って本当に納得したハーレム要員を俺は数えるほどしか知らない。それも創作物の中だけの話で現実世界ではまったく知らない。


 でも目に見えている地雷に触れるなんて嫌なのでスルーさせていただきます。




「で、やっぱり最後はパーティなんだな……」


 俺が気絶している間に今回参加した各チーム(研究対象になり得るアピールをした連中)との話し合いは終わったとのことなので、残ってくれている観客達への挨拶と説明と宣伝をして、王城へ。


 手配してもらった宿屋は今日まで使えるらしいのだが、名実共に王女との婚約を認められた者が一緒に居ないでどうすると言われてしまっては断るわけにはいかない。


 そして、裏取引の心配がなくなったからか最初から予定されていたのか、そこではいつぞやのように選手同士による交流会が開かれることに。


「~~♪」


 当然のように宴には参加しないと言い出したフィーネとルナマリアは、暇つぶしというわけでもないだろうが、俺達参加組の手伝いを始めた。


 別に必要ないが手伝うと言ってきかないフィーネが俺を、耳をすませば衣擦れが聞こえそうな薄い扉1つで隔てられた隣の部屋でニーナの着替えをルナマリアが担当する。


「説明って……アンタがまともにしなかったでしょ。仮にこのパーティが最初から予定されてたとしても現状の最優先目標はそれよ。間違いなく」


 フィーネの鼻歌をかき消すようにツンデレの言葉が俺の耳に届く。


 こちらが精霊術でニャンコ様のお着換えを盗聴&サーモグラフィばりに透視していたように、あちらも俺の心を読みながら作業していたらしい。


 クソッ! なんてヤツだ! 心の中では何をしても自由だというのに、それを覗き見て、あまつさえ晒すなんて! 覗きなんて最低で卑怯なおこないだよ!


「黙れ。話を脱線させようとするんじゃないわよ。今すぐ本題に戻らないとフィーネがアンタを最果ての地に拉致するわよ」


「他力本願ッ!?」


 自分では何もしていない。ただ可能性を示唆しただけだ。しかも何気に捨てネタを再利用している。


 まぁ実際に起こり……起こしそうなんですけどね。


 怖い。絶対に振り向いちゃダメだ。満面の笑みのメイドさんと目が合ってしまう。目が合った瞬間に拉致開始。どこぞのモンスターの究極verだ。いやまぁ出会い頭に見ず知らずの人間と金銭を賭けて戦うというのも中々な気がするが。あれ絶対持ってる金でモンボ買って手持ち増やすべきだよな。


「仕方ないだろ。出来ないんだから」


 チッ、という舌打ちを幻聴だったことにして、俺はルナマリアとのトークを続行させる。


 会場で説明出来なかった理由は色々ある。


 ただでさえ押している時間を取り続けるのが難しかったこと。


 いくら包み隠さず伝えることがモットーだとしても、世界を破滅させかねない知識を誰彼構わず与えるわけにはいかないこと。


 力を失って現物を見せられなくなったので、口頭の説明だけだと伝えられないor時間が掛かり過ぎること。


 体感数分前まで殺し合いをしていた場で、相手の命を奪うために使っていた技を放ったり、詳細に説明したりする気にはなれなかったこと。


 精神的にも肉体的にも疲れて……はいないが、なんとなく休みたかったこと。


 戦いの最中に使った技に関しては、後で資料にまとめて一部研究者、それこそ今回知り合った各国の有識者達に教えるつもりだった。


(まぁ今言ったのと同じことを言えば納得してもらえ……たらいいなぁ~)


「ルーク君、説明する準備出来た?」


 うわぉ! パーティ開始前から全否定されましたよ!? そんなの最初の村から旅立とうと思ったら家の階段下りた瞬間に魔王居たみたいなもんですよ!? 完全に目的がパーティじゃなくて術や技の説明だし!!


 何より教えた途端に実践してしまいそうな相手ってのが怖い!


 精霊術を修めたって話だけど実際程度なのか知らんし。雷属性とか自力で生み出して、これまで俺達がやってたリニアモーターカー関係のあれやこれやを全部無駄にする可能性も微レ存。


 まさに最初からクライマックスだぜぇ~。

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