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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十二章 王女争奪戦

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閑話 世界会議

 セイルーン、アルフヘイム、レギオン連合、ゼファール、バルダル、ルマット、ザッコスなどなど、世界有数の大国の王から発展途上の小国の大貴族まで様々な権力者がとある会議室に集まっていた。


「「「…………」」」


 1人を除いて全員が厳めしい面で黙りこくっている。顔色も優れない。


 対して朗らかな顔をしているセイルーン王国の国王ガウェインは、ここ数週間ずっと頭を悩ませていた国家間の問題を一挙に解決することに成功した一国の王の顔と、娘の幸せを喜ぶ父親の顔と、面白い悪戯を思いついた少年の顔の3つを混同させている。隠す気も無さそうだ。


「では、我が国の第4王女イブ=オラトリオ=セイルーンと結婚するのは、ルーク=オルブライトということで」


 悪戯っ子の割合を高めて、画面の向こう側にいる国あるいは守るべき民を抱えている統治者に喜びを抑えきれない様子で告げるガウェイン。


 集会の目的は、天下一武闘大会の結果報告および今後のための話し合い。


 集まっているメンツが都合良く我等が主人公ルーク=オルブライトと絡んだことのある連中の親玉だったわけではなく、イブにすり寄ってきた者達を裏で操っていたのが彼等だったというだけ。


 砕けた表現を用いるなら『これでわかっただろ。仲良くはしてやるから二度とイチャモンつけてくんじゃねーぞ』を言うための集会である。


 言う側と言われる側のリアクションが違うのは当然と言えた。


『ふん、フルーツがやられたようだな』

『フッ、当然の結果ですね』

『まったくだ。売上不振とは……牛乳の面汚しよ』

『ククク、これが奴の実力』

『果汁に頼っているようでは生き残れませんよ……』


 ガウェインの勝利宣言を苦々しい顔で受け止め、黙りこくる権力者達の前に、何の脈絡もなく普通牛乳・珈琲牛乳・苺牛乳・甜瓜牛乳・檸檬牛乳という各種牛乳シリーズの名前と謎の台詞の入ったプラカードが次々と映し出される。


「何がしたいんですか、貴方は……」


 通話を一時ミュートにしたガウェインは、正面でガムを伸ばすような仕草をしているユキをハッキング(?)の犯人と断定し、尋ねた。


 もう何もかもが理解不能だ。


「フルーツ牛乳が販売終了したので~」


「訳がわかりません……いいからさっさと画面を戻してください。今大事な会議中なんです」


「まるで私が邪魔したような言い方ですけどそれは違いますよ~」


「これでその主張は無理ありません!?」


 1人5役の牛乳ロールプレイが続く画面を指さして吠える。


 ちなみに今は、学校給食の文化を一遍させるパック牛乳の登場を匂わせている最中。ビンとパック。普通牛乳の中に存在する2つの人格が争っていたりする。


 おそらくこのまま放置していたら、白黒の砂嵐のような画面が映し出されているルマット辺りに現れるのだろう。そしてそれは誰かが止めない限り無限に続く。


 俺がやらねば誰がやる。


 この場で出来るのは自分しかいない。


 ガウェイン勇気をもって立ち上がった……わけではなく、これ以上邪魔されないよう注意と改善を求めただけ。そもそもユキのことを呼んですらいない。いつの間にか傍にいただけだ。


「本当ですって。皆さん、ルークさんとイブさんという超優良物件を諦めきれなくて少しでも譲歩してもらうための脅し要員を用意してるんです。『そんなこと言っちゃって良いのかな~。俺んとこの先輩マジヤベェぞぉ~。怒らせたら何すっかわかんねーぞぉ』をやろうとしてるんです~」


「……本当ですか?」


「リアリィです~。自分達が強者と繋がりがあったことを知らしめれば譲歩、あわよくば奪い取れるというイヤらしい作戦です~」


 自分達が表立ってやり合うわけにもいかないので穏便にカタを付けるために全員で話し合って決めた他力本願……もとい代理戦争だったのだが、最初から大人しく引き下がる気など微塵もなかったらしい。


「あ、言っておきますけど被害者面はダメですからね~。イブさんがルークさんを選ぶとわかっていた上で応じたガウェインさんも人のことは言えませんし~」


 事前にリニアモーターカーと関係者の成長の情報を手に入れていたのは、他国に知られればレギュレーション違反として訴えられても文句は言えない反則技だ。


 いや、だってそれは向こうの諜報員の実力の問題でしょ?


 自己正当化を図る手段はあったが、娘達を通じて仕入れた情報が大きかったことに罪悪感を覚えたガウェインは、万が一訴えられてもその訴えを受け入れるつもりだった。


 そんな王の心の内を把握しているユキもそれ以上責めたりはしない。


 ……この件に関しては。


「ガウェインさんが私やみっちゃんの存在を牛乳さん達より盛大に匂わせたせいですよ~。抑止力には抑止力で対抗する。強者には強者で対抗する。やられる前にやる」


「そ、それは……」


 訴えを受け入れてもなお余裕があるのは強者が味方だから。


 ぐうの音も出ないユキの言い分にガウェインはただただ狼狽えた。


「愚かな人間達の道具にされる私達、可哀想!!」


「え、なんで被害者面? 普通に断れば良くないですか? 出来るでしょ。余裕でしょ。面白がってるだけでしょ」


「今から画面戻しますけどビビらないでくださいね~」


(無視ですか……)


 ツッコミを入れる前にミュートを解除されたガウェインは、王としての顔を前面に押し出して会議を再開させた。



『あまりに一方的になると思い参加させなかったが、実は我がアルフヘイム王国にはエルフの加護があり、要求すればいつでも力を貸してもらえる状態に――』


「それミナマリアさんの許可取りました~?」


『……え?』


「いえ、だから、エルフがそちらに協力してること言って良いのか、ちゃんと許可取りました? 『いつでも』という部分にも異議ありです~。誇張表現もやり過ぎると虚偽と見なされますけど大丈夫ですか~?」


 元普通牛乳、現アルフヘイム王国の王が映っている画面で、王は黙りこくり、奥に控えていたエルフらしき人物が画面に現れることはなかった。


『カカッ! その程度の関係でよく虚勢を張れたものだな! ウチは違うぞ! 力・知識共に優れた強者がちゃ~んと――』


「あれあれ~。大王さんじゃないですか~。お久しぶりですね~。元気でしたか~。私のこと覚えてます? 前に学園祭で貴方を部下諸共ボコボコにしたユキです~」


『ひぃぃぃ!!』


 元珈琲牛乳、現ルマット王国の画面で異世界からの侵略者が震えあがり、それを見た王は無言で通話終了ボタンを押した。


『まったく……』


『ふん、これだから貧弱な人間は困る。敵は己の力で威圧するものという根本的な弱肉強食の原理を忘れている』


「どうもどうも。レギオン連合と魔界を繋ぐ黒海を支配している海底王さんは元気ですか~。昔、『親の自分がいくらブチのめしても一向に更生する気配がなくて……ユキ様からも言ってやってくれませんか?』と先代に頼まれて叱ってから大人しくなったと聞いてるんですけど、自分の目では確かめてないんですよ~。大丈夫ですか? 暴れてませんか~? 何かあったら言ってくださいね~。大体私セイルーン王国に居るので~」


 元苺牛乳と元甜瓜牛乳の画面がスッとブラックアウト。


『……あ、はい、大丈夫です。何でもありません』


 ラスト、元檸檬牛乳がヘコヘコお辞儀して画面を閉じたことで、王女争奪戦に参加した統治者グループの会合は終了となった。



「いや~、危なかったですね~。私が居なければ圧倒されて搾取されていたこと間違いなしですよ~」


「~~~っ! 何が匂わせですか! バリバリ自己主張してるじゃないですか! 自分最強ってアピールしまくりじゃないですか! 世界を威圧して楽しいですか!? もういっそ治めろよ! 唯一王として豊かな国づくり始めろよ!」


「自分がやるのは良いですぅー。他人に利用されるのが嫌なだけですぅー」


 口を尖らせて意見した精霊王は、激情のあまりタメ口になっているガウェインなど気にも留めず、さらに続ける。


「統治はお断り~。今回みたいな権力者同士のいざこざに首を突っ込むのが楽しみの1つなので~。

 見て良し、関わって良し、どっちに転んでも面白いエンターテインメンツ! 過去も現在も未来も関われる究極の素材! どこまで加担するかで無限の選択肢がある夢のゲーム!

 これからも皆さんには一生懸命生きていただきたいものです~。応援してますよ。そしてたまに手を出しますよ。もちろん勝手に」


 世界は彼女のあそび場――。


 ガウェインの頭の中に、自分によく似たチェスの駒をルールを無視して好き勝手に動かすユキの姿がありありと浮かんだ。


「私だけじゃないですけどね、遊んでるのは~」


「我々で遊んでいるという部分を否定してください……」


「それは無理だー。力があるかどうかの違いだけで強者も弱者もやっていることは変わりませんしぃー。経営戦略、バトルの戦術、恋愛の駆け引き、学力争い。世界にはありとあらゆる争いと遊びと選択肢が存在しているんですよ~」


「……良いこと言っているように聞こえますけど、実際はただ自分を正当化してるだけですよね?」


「そうとも言うー」


 娘の結婚騒動のゴタゴタが片付いたことに安堵し、次なるトラブルを予感して絶望し、結局は強者達がどう動くかで決まるのでなるようにしかならないと達観したガウェインは、平常心で会議室を後にした。

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