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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十二章 王女争奪戦

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閑話 戦士の休息

「例え話ってわかりにくいことが多いですよね~」


 死闘を繰り広げていたはずなのに気が付いたら神様と対面していた。


 普通に考えれば死後の世界ということになるが、常日頃から訪れていたor拉致されていた俺にとっては慌てるようなことではなく、しかも神様が『神様』ではないので連れて来られた説が濃厚……ってこれだと何を言っているかわからないな。


 今、俺が対面しているのは、唯一神として死者の魂を導く力と威厳を持った女神『アルディア様』ではなく、ゲームと漫画とアニメと他愛のない話が好きなヒキニート『あるでぃあ』だ。


 使い古されてペラペラになった汎発性皆無の安物ソファーにもたれかかり天上を眺める、グータラの極みのような恰好で化●語を読んでいる。


 毎週のように会っている親友であっても仮にも職場なのだからもっとちゃんとする。


 つまりプライベートタイム。俺は生きている。


 戦いの最中だか後だかに気絶して、意識だけ神界に転送されたのだ。肉体は闘技場だか王城だかのベッドに横たわっているはず。


 勝ったか負けたかは戻った時の楽しみにとっておくとして、


「それは何か? 俺に対する説教か?」


 投げ出された彼女の下半身の内側(上半身寄りの斜め右側)に腰を下ろし、テーブルの上にあったコンソメパンチを頬張りながらトーク開始。


 前に似たような状況で対面に座ったらパンツを見ようとしている変態扱いされたので、それ以降ここか隣に座るようにしている。ちなみにその時は上下スウェットだった。まぁ見れたとしても母親のパンツと同じぐらい興味のないものだが。


「違いますよ~。ネット用語だろうとキャラクターの名言だろうと世代を問わず伝わる超メジャーなものなら良いですけど、格ゲーのコマンド説明がスト2基準だったり、覇権かどうかをまったく関係ないコンテンツと比較して語ったり、自分が知っているからと専門知識や伝わらない表現を用いるのはどうなんでしょうって話です~。すればするほど本題から遠ざかってる感じしません?」


 俺への皮肉かと思いきや、絶妙な例え話ばかりの名作に感化されたことによる社会批判だった。


 喧嘩腰を少し緩める。


「わかります」


 そしてそれは俺も常々思っていたこと。


「前にどこかでスト2が好きって話をしてたならともかく、その世代じゃない人に2で語っても伝わるわけないですし、ゲーム初心者に餓狼とかKOFとか混ぜて言ったりしますよね。ヨガフレ●ム+Bとか、バーンナッ●ル+強キックとか、方向キーとボタンで言えって感じですよね」


「おやおや、5ヶ月前に同じことをした人間とは思えない発言ですね~」


「にわかのクセに話を合わせて知ったかぶりした神に言われたくないです」


「詳しいですぅー。開発段階の秘話まで詳細に知ってますぅー。あれはルーク君の指導力を試すためにワザと知らないフリをしたんですぅー」


 出たァァーー! 最終兵器『お前を試していた』!!


 真偽がわからないのでやりたい放題になる禁忌の台詞だ。その主張が本当だったとしても使った瞬間に悪になると思っているのは俺だけではないはず。


「まぁルーク君の例え話も同じぐらいわかりにくいんですけどね~」


 結局そこに行きつくんかい。


「頑張ってる方でしょ。自分の人生を客観的に語るとか神様が思ってるより難しいんですよ。前世と現世、大人と子供、現実と非現実の狭間で悩む若人に随分辛辣なこと言ってくれますね」


「頑張って? これで? まぁ貴方がそう思っているならそうなんでしょ、貴方の中ではね」


 自分を認めてやれないヤツは鬱病だ。


 そして誰に言われるでもなく前に進もうとするヤツはそれだけで成功者だ。


 だから俺は神様の言葉を流すことにした。




「何とは言いませんけど全国民から受信料を取る方向で行くらしいですね」


 まだ復帰する時ではないらしく、神様は仕切り直すように俺のスルーを受け入れて、他愛のない雑談を続けた。


 次なるテーマは英語3文字のアレについて。


「携帯やスマホをワンセグに対応させた頃から怪しいと思ってましたよ。このご時世に無料で受けられるサービスなんてあるわけないですもん。インターネットで24時間配信すれば全員を対象にすることが出来ますしね」


「一応、自宅にテレビがあって、その受信料を払っていれば追加料金なしで番組を見れるらしいですけどね~」


「当たり前でしょ……もしそれでスマホやパソコンの分まで個別で徴収してたら暴動起きてますよ。そもそもどうやって調べるんだって話ですし」


 ワンセグ機能が搭載されていないスマホは対象外と言われても、果たしてその条件を満たす人間がどれだけ居るというのか。


 やるなとは言わん。せめて搭載の有無を決めさせろ。搭載しないスマホを売り出せ。じゃないと一方的に搾取されていると思われても仕方がないぞ。


「ただし、世帯単位になるのは一般家庭だけで、事業所は対象が設置してある部屋などの場所ごとに受信料が必要になりますけどね~」


「ハァ!? それってつまりパソコンがある部屋全部じゃないですか!?」


「醤油~こと~」


 いや、そんな軽いノリで流して良い問題じゃないから……。


「いっそ国営にしたらいいんじゃないですかね。国会でどんな番組にするか決めて、否決されたり視聴率が低かったら凍結で」


「ふざけたこと言わないでください! そんなことをしたら利益が減るでしょう! 利権が減るでしょう! これからもウチはウチのやり方でやらせてもらいますよ!」


 ふざけてんのはどっちだ……。




「続きまして今の話に関連しているようでしていない話~。サービスって今後どうなると思います?」


 そこは関連していると言ってくれ。頼むから。あの企業だってサービス精神はあるはずなんだよ。経営が厳しいから仕方なくやってるだけのはずなんだよ。


「げっへっへ……それ相応の対価を頂けるなら考えますよ」


「それはサービスとは言わん。あと考えるな。やれ。ハッキリ明言しろ」


「まぁそんなあり得ない話は置いといて、どうですか~? ルーク君はサービスについてどう思います~?」


 神が断言してしまった。


 まぁ神と言っても異世界の神、しかもプライベートの何気ない雑談の最中のことなので信用に足らないが、世話になった世界への否定的な意見は喜ばしいことではない。


 しかしだからと言って何か出来るわけではないし、何かするわけにもいかない立場なので、自分はそうならないようにしようという決意を抱いて閑話休題。


「ん~、個人的には元に戻ってもらいたいですけど、現実的に考えるなら消滅待ったなしでしょうね。同じ第三次産業『無形財』の小売業をやっていた立場からの意見ですけど」


 第一次産業は自然界に働きかけて直接富を取得する農業・林業・鉱業・漁業のことを指し、第二次産業は第一次産業で生み出した原材料を加工して富を作り出す製造業・建設業・電気・ガス業のことを指す。


 そして第三次産業はそれ以外の形を持たないサービス。


 最初は商品を売買するだけだったが、他社との差別化を図るために様々なサービスを始め、そのサービスが揃ったので安さと確実性を取るようになったのが今の小売業だ。


 そのための方法は機械化による自動化。


 昔は人間性を求められたが今は非人間性が求められている。コミュニケーションは必要ない、むしろ邪魔だという考えだ。


 たしかにそれなら新人教育は必要ないし差異も生まれない。どこも一緒というのはチェーン店が人気になった大きな要因の1つだ。否定するつもりはない。


 しかし行きつく先はどこなのだろう?


 機械が人より劣るわけではないが、人であることが必要な場合はあるはずだ。思いやりが大切になることがあるはずだ。


 現代人はそう思う心すら無くしている気がする。


「最近じゃ家のことすら自動化ですからね~。自動で床を綺麗にしてくれる掃除機に、空気を綺麗にしてくれるエアコンに、快適な温度を保ってくれる床暖房。クリック1つで届けてくれる通販に、ボタン1つで準備完了の自動湯沸かしや清掃完了の食器洗い機。食事も作るより買う方が多いですし、何なら追加料金払って配達ってなもんですよ」


「洗濯機や自動車も自動っちゃ自動ですしね」


「それは『補助』なのでノーカンですよ~。洗濯後の乾燥からたたみまでやってくれたり、タクシーのように目的地を指定するだけで到着したりするなら話は別ですけど。私が言っているサービスは皆が等しく受けられるものです」


 技能が関係する内はサービスや自動化とは言わないというわけか。


「その内『家事手伝い』って言葉も無くなりそうですよね~。無職であることを認めないために作られた便利な言葉だったんですけどね~」


 まったくもってその通りだ。


 仕事を記載する欄があった時、主婦なら専業、フリーターならその仕事内容を書けばいい。連載終了した漫画家も、半年以上アフレコしてない声優も、月1しか仕事のないモデルも、どれだけ金に困っていようが無職ではない。


 しかし家事手伝いは完全に無職。今の時代『就職活動中』と同じぐらい無理のある言葉だ。もしも本気で仕事を探していなかったとしたら、努力していると己を肯定し周囲を騙している分、ニートより質が悪い。


「その理屈だと『家族サービス』も無くなりそうですよね」


「あ~、あれも不思議ワードですよね~。家族のために何かをするのは当たり前ですし、無料どころかお金を使ってでも得るべき時間なのに、何をもってサービスとしているんでしょうね~」


 わざわざそんな単語を作るということは、つまり――。


「それを使わないといけない世界ってわけですね」


「当たり前のことを当たり前に出来ないのは悲しいですね~」



 結論。


 歪んだのは便利な世の中に染まった人々の心。


 どこかで歯止めをかけないと、堕落した人間達によって、世界は滅びの一途をたどるだろう。


 ――と、元地球人、現異世界人が意見してみたり。

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