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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十二章 王女争奪戦

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千百十六話 王女争奪戦・完

 日本はただでさえ闘争本能を持ちづらい環境だと言うのに、神様曰く世界一の自己犠牲の塊だった俺は、生まれた時から『牙』を持ち合わせていなかった。


 しかしそれでは敵を倒すことが出来ない。


 現れた略奪者が格上でも、どれだけ絶望的な状況でも、自分1人の力で勝ち取らなければ守れないというなら、失いたくないと思うなら、抗うしかない。


 世の中は弱肉強食だ。やらなければやられる。


 それは生き抜くための常套句だが、これから始まるのはちっぽけなプライドを守るための殺し合い。


 攫われた姫を助ける英雄譚でも、ライバル達とのラブウォーでも、人生を賭けて仕事に向き合っている者の奮闘でもなく、ただなんとなくイヤなだけ。


 他の連中からしたら大したことのないものだし、俺自身大したことのないものとしか言いようがないが、それでも守りたいと思ったのだから仕方がない。


 そのために必要な牙を、前世と今世、2つの人生を合わせて初めて手に入れた俺は、この牙を敵の首筋に突き立てて命と心を奪う。


 二度と略奪しに来ないように力を示す。




『泣いても笑ってもこれで最後! セイルーン王国第4王女イブ=オラトリオ=セイルーンのハートを掴むのはどちらの選手か! それでは入場していただきましょう! ロアレンジャーより、ルゥゥ~ク、オルブライトォォ!!』


 もはや多くは語らない。ある意味最終戦らしい紹介文だ。


 勝敗とイブの結婚は無関係だし、どちらもなにも俺達以外から選ばれる可能性があるのがこの大会の趣旨のはずだが……。


「ま、盛り上げるためにはあのぐらいの誇張表現も必要か。俺が勝てば良いだけの話だしな」


「とか油断してると~」


 どこぞの達観系主人公のような雰囲気で立ち上がると、ユキが絡んできた。


 俺がベンチに戻ってきたタイミングで、コンマ数秒も狂わず試合終了宣言を引き出したのは凄いし偉いと思うが、それとこれとは話が別だ。


「油断なんかするわけないだろ。そんな余裕はない。勝つよ。勝って名実共に誰にも文句言われることなく王女と結婚してやるよ」


「とか油断してるとぉ~?」


「今の台詞のどこに油断する要素があった!?」


「フッフッフ~。精霊王の目は誤魔化せませんよ~」


「それを『体調不良』や『友達の兄ちゃん』や『これは○○の権威が言っていたことだが』と同じ万能ワードとして使うのはお前の勝手だが、1回でも嘘で使うとこれまでの信用も全部失うことになるってことを覚えておけよ?」


「??? 何か勘違いしてませんか~? 私は『シェイレーうおのメェはゴマカスでは増しませんよ』と言ったんですよ~?」


 そんな魚は居ないし、メェなんて部位は無いし、ゴマカスなる調理方法も加工技術も存在しないし、この流れでそれの増減について語る意味がわからない。そもそもこれだけ集中している状態で、活舌の良い人間の発言を聞き間違えるわけがない。


 が、司会者の進行を無視してまで指摘するようなことでもないので、俺は心底不思議そうに首を捻るユキを無視して、戦いの舞台に立った。


『対するはエクシードクルセイダーズのリーダー、カイザァァァーー!!』


「この短時間で何があったかは知らないが、随分と雄々しい目になったじゃないか。そうでなくては張り合いがない。威勢だけでないことを祈ろう」


「言ってろ」


 上から目線で獰猛な笑みを浮かべるカイザーに、俺は先程と同じく達観系主人公の佇まいで応じる。


 恐れはない。


 一生に一度ぐらい信念……いや、そんなものはないな。ただの自己満足だ。まぁ何でも良い。守りたいものを守るために命懸けで戦ってみようじゃないか。


 さあ、我がままを始めよう――。




「おおおおおおおおおおおおおおッ!!!」


 俺の力試しはまず最大火力で殴ってみる。


 戦いの前に宣言した通り、カイザーは対峙する者の戦意をいともたやすく挫く咆哮と共に、恐ろしい速度で舞台中央を突っ切り、俺との間合いを埋めた。


 目では追えても反応は出来ない。


 ジュッ――。


「ッ!!」


 純粋な暴力でこちらのテリトリーを強引に突破したカイザーが、俺の体に触れる直前、魔力で強化された拳を包むグローブが消滅。


 即座に冒険者の勘で危険を察したカイザーが意識を回避に切り替えるより早く、俺は右腕を突き出し、叫んだ。


「サンダーボルトォオオオオオオ!!!」


「ガアッ!?」


 纏っていた魔力がレーザーとなってカイザーの体を貫く。第2回戦で使用したものとは違い、物理的な力を伴った『攻撃』だ。


「な、めるな!」


 辛うじて耐えきったカイザーが背負っていた大剣を振りかぶる。


 遅い。相当効いている。


「そっちがな!」


 それだけの時間があれば次の術式を構築することなど容易い。俺は、五行の壁を超えた際に発生する『力』と『物質が生まれる前の状態』を融合させずに維持したまま、迫りくるミスリル剣にぶつけた。


 パキン――。


「な!?」


 世界一強固な物質はガラス細工より呆気なく砕け散った。


 原子崩壊。どの属性でもない精霊はすべてと親和性を持つと同時に排他性を持つ。変化させるも破壊するも自由自在。抗う術はない。


 一応、再構築すれば破壊されずに済むが、初見のカイザーがあの一瞬で対応出来るはずがない。というかわかっていても技術的に無理だ。そんなことが出来るのは俺達『リニアモーターズ』ぐらいだろう。


「んでもって返すぜ、その破壊力!」


 世界は循環する。巡り巡って海へと帰ってくる水のように、破壊によって生まれた力は次なる破壊を生む。


 寄せては返す波ならどこかしらで発散されるが、俺が作り出した力場に逃げ道はない。ただただ増幅するだけ。


 ギシッ、という耳障りな音と共に、俺とカイザーの間で衝撃が爆ぜた。


「~~~~っ!!」


 体内から空気を引きずり出されたカイザーは、状況を理解しないまま、悲鳴にならない声をあげて吹き飛ぶ。


 どちらもエーテル結晶を生み出すための力だが、今の俺なら別の用途でも使いこなせると思ったのだ。



「くははっ、やるじゃないか」


「あれだけの攻撃を喰らってピンピンしてるとかバケモンかよ……」


 何事もなかったように起き上がり、こちらを称賛するカイザーに対して、呆れ以外の感情は出てこない。


「あれだけの攻撃を放ったお前に言われたくないな。そして俺が言うのはなんだが手加減は良くない。武器破壊に使った魔術。あれを俺自身に叩き込んでおけばカタはついていたはずだ。何故しなかった? この期に及んで命を奪いたくないなどと甘えたことを言うつもりか?」


 お互い様の雰囲気を醸し出して肩を竦めるカイザーは、仕切り直しだと言わんばかりに試合開始時の指定された立ち位置に立ち、纏っていた鎧を脱ぎ捨てて第二形態に。


 装備品のパージ。防具の排除。使い慣れていない武器に手を出す。運動靴を脱いで裸足で走る。


 普通に考えれば弱体化するはずなのに、何故か封印術式が解かれたように動きが良くなる例のアレだ。どうやらお試し期間は終了したらしい。


「ああそうだよ。覚えとけ。世界最強の精霊術師は何だって出来るんだ。まぁ善処するって感じになりそうだけどな」


「それはこちらも同じこと。もちろん両方の意味でな。世界最高のロリコンに不可能はない」


 そこは冒険者なり戦士なりにしておけ。なんというか情緒的に。




 何をしたかと言われたら覚悟をしただけ。


 何がしたいかと言われたら勝ちたいだけ。


 それだけのことと思うかもしれないが、本当にその2つを胸に抱いただけで俺はすべての精霊から力を借りる……いや、支配することが出来た。


 貧弱な俺の体では負荷に耐えられないので、強化は視覚と思考のみ。


 たったそれだけのことで俺は世界最強になれた。誰も知らない術式を構築し、誰も見たことがない魔法を使い、誰も理解出来ない超常現象を引き起こす存在になれた。


 あとは目の前の敵を倒して証明するだけ。


「おらあああああああああッッ!!」


 柔軟性を持たせたダイヤモンドの壁を信じて、すべての意識を攻撃に集中させた俺の絶対零度の剣が、『敵』の腹を薙ぐ。


 切れ味よりも凍傷と炎症の状態異常に特化させたせいだろう。ぐにゅっ、と生理的不快感を伴う感覚が手に残ったが、そんなことを気にしている余裕などない。


「ガぁアアあああァアあァアアア!!!」


 自らの傷のことより俺を破壊することに集中する敵は、苦悶に満ちた声をあげながら大木のような足を振り上げてくる。


 骨の折れる感覚を味わいながら俺は宙を舞った。


 傷は着地する前に修復出来てもダメージは残る。だが勝つためには攻撃を続けるしかない。


 どちらの震える手が先に動かなくなるか。どちらのボロボロの足が先に止まるか。どちらの意志が先に失われるか。


 俺と敵、どちらかの命が尽きるまで攻撃の手を緩めてはならない。


 例え手が引きちぎれようと攻撃。


 例え足が砕けようと攻撃。


 例え魔力がなくなろうと攻撃。


 例え思考が出来なくなろうと攻撃。


 勝ったのか、負けたのか、生きたのか、死んだのかは後で考えれば良いこと。今はただひたすらに攻撃するだけだ。


「「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!」」


 そして相手の正義を否定するために叫ぶだけだ。



 後になって思い返してみれば、この時、俺は戦いを楽しんでいたのかもしれない。


 二度と御免だけどな。痛いのはやっぱり嫌です。


『そこまで! 勝者、ルーク=オルブライト!!』


 どちらが勝利したのか、いつ戦いが終わったのか、どのような終わりだったのか、俺が知るのは表彰式が終わって1時間以上経ってからのことである。

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