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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五十二章 王女争奪戦

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千百十三話 王女争奪戦XVIII

「くっ……!」


「遅いわよ」


 ビビアンが歯ぎしりする中、ルナマリアは躊躇なく右手を振って風精霊達に命令を下す。


 ドドドドッ――。


 数百の風精霊が、敵と敵の周りの空間を塗りつぶす弾をファン●ルによるオールレンジ攻撃のように至る所から放つ。


 1つ1つは大したことのないものでも喰らい続ければ致命傷になりかねない。


 喰らうまでもなくそのことを理解しているビビアンは、相棒達と共に片っ端から弾き落としていく。


「……ッ、今!」


 さらに一瞬の隙を見つけて攻撃に打って出る。


 地面を滑るように高速でルナマリアの下へ駆け、置いてきた精霊達との間にカタパルト術式を構築。俺の緻密に組み上げた術式とは比べものにならない、雑で、力任せの荷電粒子砲を放つ。


 が、標的を敵から荷電粒子砲に変えた弾丸の雨は統率のとれた動きで術式を書き換えていき、荷電粒子砲はルナマリアの下に届く前に魔力の波に分解される。


「ウソ!?」


「数より質で勝負するなら戦い方も身につけておきなさい。その程度の実力で相手の土俵で戦おうとするなんて100年早いわよ」


「い、言ってくれるじゃない。じゃあ要望に応えて、そろそろ切り札を出しちゃおうかしら……アンタ達!」


 人間よりは長寿だがエルフよりは短命なハーフエルフにとって100年がどの程度の挑発になるのかは不明だが、その他の部分が格上宣言であることはたしか。


 自分でも最初の攻防以外一方的な展開になっていたことを自覚していたビビアンは、少年心をくすぐってやまない第二形態or隠し持っていた力の解放によって戦いに終止符を打つことを宣言した。


「そこまでは言ってないと思いますよ~」


「うるさい。黙れ。俺がそういうシチュエーションだと思ってるから良いんだよ。他人の楽しみ方に口を出すな。そんなことより三次元で構築される魔法陣に集中させろ。興奮させろ。あれが解ける瞬間を見逃させようとするんじゃない」


 俺はツッコミという名の邪魔をしてきたユキの方を見向きもせずに、舞台中央に立つ……いや、立っていたビビアンに注目する。


 2人の精霊がビビアンの周りを縦横無尽に駆け回り、繭のように編み上がった巨大魔法陣。それは大気中、そしてルナマリアが操っていた風精霊達を取り込んで巨大化していく。最初は2mもなかったが今では3m近くになっている。


 中から現れるのは間違いなく姿の変わったビビアンだ。精霊を取り込んだ超ハーフエルフだ。『スーパー』と読むか『ちょう』と読むかは人それぞれ。


「ドレスの色がより深みを増して、胸元が開いて、魔力と精霊術を混ぜ合わせた時の伝導率を高めるための刺繍とビラビラが増えて、ドレス本体に宿る精霊が増えるので常時宙を浮くようになるんですよ~。

 とあるエルフが創った物のオマージュのレプリカの切れ端を基に生成した、彼女オリジナルの戦闘服ですね。それでも十分精霊を従える力を持ってますけど、ルナマリアさんには敵いません。ようやくイヨさんの支配力と互角といったところですかね~」


 ネタバレ、ダメ、絶対。


「あ、じゃあ、そのエルフが若かりし頃のミナマリアさんで、親から力を受け継いだ際に調子に乗って作ってしまったものということも黙っておいた方が良いですか~? 制御も破壊も出来ないので世界樹の地下深くに封印されてることや、フィーネさんにアッサリ着こなされた上に趣味が悪いと言われたショックで1週間寝込んだことも~?」


 暴露、良い、たぶん。


 2人の対格差は気にするだけ無駄だ。着た人間に合わせて変化するのがファンタジーの服ってもんだからな。



「へえ……噂には聞いてたけど本当にあるのね」


「マダウエカラッ!!」


 最強状態の自分を前に余裕しゃくしゃくのルナマリア。


 思っていたリアクションと違ったことにブチギレたビビアンは、唾を飛び散らせて喚く。変身した影響で言語が変化したわけではなくただの嫉妬MAX%だ。


 それは口だけに留まらない。


「お返しよ!!」


 支配を取り戻した(ように見えているだけの)一部風精霊をルナマリアへと撃ち込む。数こそ少ないがサイズは比べものにならない。


 ちなみに質ではない。大きいだけだ。バトル漫画で良くある水氷理論だ。たぶん当たっても全然痛くない。なお強者に限る。


「折角褒めてあげたのにこの仕打ちは酷いんじゃない?」


 ただそこまですると彼女のプライドを傷つけてしまうので、ルナマリアはステップを踏むように避けて、再び茶化す。


 ハーフエルフのプライドを傷つけないように手加減しながらもエルフの威厳は保てる戦いを強いられた彼女だが、俺の心配を他所に戦い……というより初めて交流するハーフエルフとの拳での語らいを楽しんでいた。


 茶化している時点で失敗しているような気がするが、たぶん、きっと、おそらく俺の気のせいだ。何か考えがあるに違いない。


「くぬっ、くぬっ、くぬっ!」


「ほらほら、どうしたのよ。当ててみなさいよ。かすりもしないじゃない。ハーフエルフの本気ってその程度? さっきからアタシは精霊術使ってないのよ?」


「くぬぅぅ~~~ッ!!」


 ……普段弄られている憂さ晴らしをしているわけではないと思う。だってMだし。弄られて輝くタイプだし。ツッコミだし。




「中々に見事でした。ですが攻めを封じたからといって相手が無力になったと思わないことです。手は常に二手三手先があると思いなさい。今後もエルフと戦う気があるのなら、精霊を頼らない戦い方を身につけるか、完全に支配下に置いてからにするべきですね。

 戦い方にもムラがあります。術式が練られた際の捌きや胆力は驚愕に値しますが、そこに至るまでに時間が掛かり過ぎです。あれでは実践で使い物になりません。数よりも質を取るのであれば――」


 なんだかんだ言ったものの、力の差とその埋め方を自覚させる方向で戦っていた……いわゆる『指導』をおこなっていたルナマリアは、指導者としての役割を十分果たしていた。


 碁でいうところの指導碁。探偵モノでいうところの「お前今なんて言った!?」「え、○○だけど……」「違う、その前だよ!」とすべてを理解した上でさり気なくヒントを出す人だ。


 そして、ルナマリアが実力の1割も出さないまま倒した後に始まったのは、フィーネ先生による世界一受けたい授業。


「……あれ? フィーネはどこ行った?」


 数秒前までビビアンをアホ顔で頷かせていたフィーネの姿がどこにもない。


 口頭による説明が終わったので当然と言えば当然なのだが、次の出番の人間が居なくなっているというのは指摘せざるを得ない状況だ。


「何故真っすぐに私を見るのか~」


「お前が知ってるからに決まってんだろ。いいから吐け。フィーネはどうした」


「それなんですけど~、ロアシルバーさんは『犯人を見つけた』と言ってどこかへ行ってしまったので、次の試合は棄権ということでお願いします~」


 ユキは俺への回答を運営への業務連絡とした。


『いや~ロア商会に喧嘩を売る者がまだ存在したんですね~。本日中に倒産・消滅する企業か団体がありそうです。明日のニュースを楽しみにしておきましょう』


『最近は戦闘面において活躍が見られませんでしたからね。彼等の恐ろしさを忘れてしまった人間が多いのでしょう』


 盛り上がりや進行を妨げる勝手な言い分に不服を申し立てるかと思いきや、司会と解説はアッサリと受け入れた。


 おそらく良からぬ噂を流されていることも知っているはずだが、あえて深く触れない気の遣いよう。ナイスです。


「ちょっと待て。まだこちらの準備が整っていない。もうしばらく時間をもらいたい」


 ただ選手の方はそうはいかない。


 紹介文を変更するだけの司会者達と違い、出番を飛ばされた選手も、しばらく先だと思っていた出番が急に来た選手も、心と体の準備が出来ていなかった。


 リーダーのカイザーからタイム要請が入る。


「ウチは構わないけど……」


 もっともな意見だ。こちらの身勝手な事情を受け入れてくれたのだから、俺達も受け入れなければ不公平というもの。


「フッフッフ~。またまた私の出番が来たようですね~。そちらの不戦勝した剣士さんも一緒にどうですか? 観客の皆さんを楽しませるパフォーマンスでもパーッと派手にやりません?」


「ハッ、上等だぜ。俺の神速にビビんなよ」


「そちらこそ私の芸術的な魔術の数々にチビらないでくださいね~」


 当然というかなんというか、イベントを盛り上げるための提案をしたユキを止める者は誰も居なかった。


 一応、次、出番なんだけどな……しかも負けたら終わりの……まぁ疲れてても勝つんだろうけど。指先一つでダウンさせるんだろうけど。




「……ん? なんだ? ケータイ?」


 観客と共に2人の見事なパフォーマンスに見とれていると、虚空から誰のものかわからないケータイが現れた。通話中だ。


『よう。カイザーだ。それはソルドを通じて渡してもらった。まさか転移魔術でとは思わなかったがな』


 通話の相手にして裏工作の犯人は、俺の対戦相手にして婚約者争いをしている最強冒険者様。ケータイの持ち主はおそらくパフォーマンス中の剣士。


 どさくさに紛れて隠し持っていたケータイをユキに渡し、それが渡ってきたようだ。


『ちょっと話でもしないか? 試合中はそんな暇などないだろう?』


 試合中の選手同士のやり取りは、パフォーマンスの一種として互いのベンチから会場を通してのみ認められている。


 ルール違反の汚名を着せられ、婚約権利を剥奪されるかもしれないというのに、そこまでの覚悟をもって話たいこととは一体……。


 俺はカイザーの情報収集も兼ねて応じることにした。


『お前ロリコンだな?』


「切るぞ」


 秒で気が変わった。


『待て待て。正直俺達が戦えば十中八九俺が勝つ。そして第4王女と結婚も俺がすることになる』


「ほざけ。俺が勝つに決まってんだろ。てか勝利イコール結婚じゃねえよ。2回戦のレーザー見てなかったのか。あれで俺の技術力は世界に認められたんだよ。王女のプリティハートをキャッチしたんだよ。2人はキュアキュアだ。

 あと味方が負ける前提で話すな。こっちは次負けたら終わりなんだ。回って来ない可能性もあるだろ」


『ハッハッハ、信用と理解は違うぞ。ウォルターの実力をわかっているからこそ彼女に勝てないと判断したに過ぎない。決着をつけるのは俺とお前だよ』


 チッ、流石はユキに世界一と言われるだけある。冷静な上に慢心していない。ただのロリコンではないということか。


『しかし世間では自分の半分ほどしか生きていない人間との結婚は嫌悪されがちだ。愛より優先すべきものなど無いというのにな。

 人間は成長するにつれて劣化する。幼い頃に持っていた純真な心を失い、肌の張りを失い、年を取ったら垂れるだけの脂肪や肉を手に入れて喜んでいる。鼻が高い? シュっとしている? ボンキュボン? そんなものに何の意味がある? 迷いのない瞳! シミ1つないプニプニの肌! それこそが至高ではないか! 俺は幼い頃から見てきた人間がそうなることが許せない! いや許せなかった!

 俺がこれまで抱いていた価値観は、イブ=オラトリオ=セイルーンによって粉々にされた。彼女は幼い頃からの夢を忘れず、まるで子供がそのまま大きくなったような女性だ。体の美しさも保っている。『子供だから』で人気になっている連中とは違う。

 俺は初めて成人女性に興奮した……彼女なら例え20歳になろうと30歳になろうと性的興奮の対象に出来る。そう思ったんだ。もう二次元に頼らなくても良い。その喜びは貴様にもわかるだろう? 手伸ばせば触れる場所に理想の尻が、乳が、●●●があるんだ! 人生バラ色だ!』


 やっぱただのロリコンだったわ。しかも知り合って数分の相手に自分のオカズを赤裸々に語る変態だ。押し付けてすらいる。


『俺はどんな手を使ってでも彼女を手に入れる。彼女と、彼女の産む子供と風呂に入って、イチャイチャしている時に「あ~パパのおっきっくなった~」と言われる人生を送るんだ!』


 気持ち悪い。ただただ気持ち悪い。結婚相手だけならまだしも、自分の子供すら性的欲求を満たす要素にしている。


「エリーナから聞いた。ルークは昔、イブとユウナと一緒にお風呂に入った時に似たようなことしたって」


『な~~ん~~だ~~とぉ~~!!』


 少年時代に幼馴染と風呂に入ったという強めのカードが、灰色の青春を送った(と思う。この感じからして)カイザーの胸に突き刺さる。


『な、な、何歳の頃だ!?』


 あ、違ったわ。ロリイブへの興味が限界突破しただけだったわ。絶対このあと彼女の外見について事細かに聞かれるわ。


(あれ? 似たようなヤツをどっかで見たような……って実兄だわ。第一王子だわ。コイツ倒してもまだボス残ってるわ)


 俺はイブの周りに存在する男共に辟易しながら、戦いに勝つための戦略を練っていった。

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